荒波からの救出
今回も大分遅れてしまいすみません……(´TωT`)
ヴィクトリア歴5年10月22日 セルブラント王国上空
星が瞬き月が浮かぶ夜空を俺は月島と小松、芳賀の三人を背に乗せて羽ばたいていた。
『まだ付かないのかな? 寒さで凍えそうなんだけど』
『もう少しのはずです。それにしても、便利ですね。これなら会話に支障がないですから』
龍になって空を飛ぶとかなりの速度が出る。本来ならば話しても風の音で聞こえず、会話もままならないのだが、それでも意思疎通が出来るのは小松の能力のおかげだ。これがある事で、俺も龍の姿のままでも意思疎通する事が可能になっていた。
『もう少し低く飛びましょうか。それなら、高度的な気温の低下も防げるでしょう』
『そうしてくれると、俺達としても助かる』
防寒はしているだろうが、それでもこの季節と夜という事、更には高度による寒さは耐え難いのだろう。俺はゆっくりと滑空しながら高度を落としていく。そうして10分ほどすると、地上に明かりが見えてきた。どうやら、ようやく王都へと到着したようだった。
『まさかとは思いますが、矢が飛んでくる可能性があります。身を低くして、私の身体に伏せて下さい』
『臭いから嫌だって言ったら?』
『来る前にちゃんとお風呂に入ったから大丈夫なはずですよ? 柑橘系のいい香りがしません?』
『ほんのりとな!』
『なら、問題ありませんね。・・・・・行きます!』
軽い冗談で緊張を解すと滑空しつつ王都上空へと侵入する。
上空から見下ろすセルブラントの王都は荒れ果てた状態であった。暴徒によって打ち壊されたであろう家々は瓦礫になり、そこから家財が路上へと引き出されては暖を取るために燃やされ、集団がそれを取り囲んでいた。貴族のものと思われる大型家屋の焼け跡後からは未だに燻る煙が上がっており、その匂いが上空まで漂ってきていた。暗闇に溶け込んだ俺の姿はまだ見えていないのだろう。暴徒達に焦りはなく、休むか仲間たちと談笑に興じている。
『街の様子はどうだ? 中央区はまだ無事か?』
小松に言われ、ようやく中央区へと目を向ける。中心に建つ王宮は威厳に満ち溢れていたが、その周辺には人の波が蠢いていおり、大使館も取り囲まれていた。どうやら、暴徒達は中央区に繋がる道に築かれていたバリケードを突破した様だ。よく見れば、バリケードの残骸と思わしきものの近くに暴徒の一団がおり、残骸は薪代わりの燃料として使われていた。そして、その周辺には火に照らされた赤黒いシミが広範囲に及んでいた。
暴徒達は何処から引っ張って来たのか角材や丸太を手に持ち、それを王宮の正門と大使館の門へと打ち付けていた。それを止める為に王宮と大使館の上階にある窓からそれぞれに向けて、矢やボルトが飛ぶが今度は窓に向けて暴徒達が矢を放つ。どちらも何とか持ちこたえている様子だった。
『中央区には既に暴徒達が流れ込んでいます。ですが、大使館は未だ健在です』
『それじゃあ、着陸しようか。脱出は手筈通り、大使館職員は芳賀が転移で逃がす。兵士は加畠に付いて徒歩で脱出。いいね?』
『了解。それじゃあ、行くか。わざわざてるてる坊主になって来たんだ。一人でも多く連れて行ってやるぜ』
『よし。じゃあ、まずは人を散らすことからだな。やってくれ!』
『了解です』
手筈の確認を終えると、俺はゆっくりと高度を落としていき、地上の松明がぼんやりと俺を照らし出す。上空からの風に何人かが不思議そうに空を見上げた俺の姿を見つけると一様に目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。俺は追い打ちとばかりに、地上へ向けて吼える。
「キシャアアアァァァアアァ!!」
喧騒をかき消すほどの強烈な咆哮に人々は一斉に耳を覆い、手にもつ武器を取り落とした。そして、いったい何が起こったのかと辺りを見回し、そこでようやく俺の姿を見つけると半ば恐慌状態に陥りながら逃げ散っていく。
『周辺の脅威は排除しました。降下の準備はできていますか?』
『高度をもう少し落としてくれ。ロープはしっかり結んだから、後は下りるだけだ』
『了解。芳賀は落ちないように気を付けて下さいね。一番身動きのしずらい格好をしているんですから』
『あいよ』
芳賀は身体から大きくはみ出した布の部分を体に巻き付け、それを縄で縛って固定していた。最初に見た時は、ボンレスハムみたいだったがそれは御愛嬌という事で言わなかった。
『それじゃあ、降下するぞ』
高度を下げ、ロープの端が大使館の中庭へと落ちると、小松を先頭に三人がロープを伝って下りていった。すぐさま中庭へと兵士達が集まってくるが、三人の正体が分かると武器を収めていた。
『状況開始。芳賀は広間で待機。月島と俺で大使館職員を誘導する。兵士達は正門の防衛に向かわせるぞ。以後、お互いの呼称はコードネームで行う様に』
『キング1。了解』
『キング2。了解』
『クイーン。了解。クイーンはこのまま監視を継続します』
『コマンドポスト。了解』
『このやり取り。一度やってみたかったんですよね』
コードネームでのやり取りは何となくで決まった。まぁ、救出作戦と言うなら、まずは形からという事で誰も反対はしなかった。俺がクイーンで、全体のやり取りを中継している小松がコマンドポスト。月島がキング1で芳賀がキング2だ。
『こちらキング1。親ヴィクトリアのセルブラント王国貴族も大使館に逃げ込んでたみたいだけど、どうする? どうやら、王宮まで避難できずに身を寄せたみたいだが』
『コマンドポストよりキング1。見殺しするわけにもいかんし、連れて行くぞ』
『クイーンよりキング1。後々の外交に仕えるので、出来れば保護してください』
『キング1。了解。キング1よりキング2へ。転移での脱出には、まだ余裕があるかな?』
『こちらキング2。正直言うと、大使館職員でギリギリだ。貴族の数は?』
『家族合わせて40だね』
『コマンドポストよりキング1へ。爵位の高いに人間と跡継ぎ。女性を優先しろ。次男とその他の家族、爵位の低い者はクイーンの方へと回せ』
『キング1了解。選定した後に、キング2へ回すよ。大使館職員達はどうかな? 全員広間へ集まったかい?』
『こちらキング2。今集計中だ。追って連絡する』
大使館内の作戦は順調に推移している様だった。暴徒達も恐怖で逃げだしてからは戻ってくる気配もなく、静かな物だった。
『クイーンから全員へ。大使館周辺は異常なし。安全に脱出できそうです』
『こちらキング2。大使館職員とセルブラント王国の貴族の集合を確認。これから、コマンドポスト、キング1と一緒に脱出するぜ』
『兵士と共に脱出するのは30人だね。よろしく頼むよ?』
『了解です。では、後で会いましょ――』
三人と職員、貴族たちを送り出そうとした時だった。中央通りから真っすぐに大使館へと向かってくる人の波が見えた。その数は逃げ散った暴徒達の比ではなく、手には松明や武器、角材などを持ち武装していた。
『クイーンより警報! 暴徒達が集結して此方に向かってきています!』
『そんな馬鹿な! 龍にビビってないのかよ』
『分かりません。もの凄い数です。目算で3000から3500!』
『どうするんだ? クイーンだけならともかく、兵士達や貴族を連れてでは脱出は難しいだろう?』
当初の脱出は、地下を掘り進んで龍状態になっても問題ない広さのある王都郊外へ脱出。そこから、また龍へと変身し、全員を背に乗せてヴィクトリア王国へと帰還する計画だった。しかし、暴徒達が向かってくるのならば話は別だ。地下道を掘る事により、自然と背後は無防備になる。そんな状態に追撃を受ければ、被害が出るのは目に見えていた。彼等の行動は完全に予想外だった。
『龍のブレスでは街に火が付きます。最悪、そのまま火にまかれることもあり得ます。だからと言って、この巨体で攻撃すれば家の倒壊で道が通れなくなります。人間サイズの何かに変身し、戦うしかないでしょうか?』
兵士達と共に脱出するならば、暴徒達を蹴散らして活路を開くしかないだろう。しかし、それはかなり困難な道のりだった。兵力差は圧倒的であるし、此方のアドバンテージである変身スキルも制限を受ける。
『そういう事なら、僕が残ろうか?』
『危険です! 万が一があります。そのまま脱出を』
まさかの申し出に俺は迷わず否と答える。自分が傷つく分には何ともないが、身内が傷つくとなれば話は別だ。
『それはそちらも同じだろう? それに、幻術で混乱を起こせれば脱出も楽になる』
『それはそうですが・・・・・』
月島の幻術ならば暴徒達を混乱させるのに持って来いだろう。上手く分断できれば、脱出の難易度はかなり下がり、兵士達の犠牲を少なく脱出できる。しかし、その代償に月島が傷つくリスクがつく。
『時間がないよ? まぁ、僕はもう残る気だけどね』
激しい葛藤が俺の胸の内を渦巻いていた。戦争では兵士を切り捨てる。仕方のない犠牲だと納得した。しかし、目の前で門の防衛につきながら、僅かな不安の色を顔に滲ませた兵士達を見てしまっては、仕方が無いとは割り切れ無くなていた。
『・・・・・。申し訳ありませんが、よろしくお願いします』
他人の命と身内の危険を天秤にかけた。国王であり友人である月島の危険と兵士達と貴族たちの命90個を天秤にかけた。普通ならば、ここは90の命を軽んじても月島を芳賀達と共に脱出させるべきだ。国王である彼の価値は命90個分よりもずっと重い。しかし、俺は90の命を助ける選択をしてしまった。たった90個。人としては立派であっても、指導者としては失格もいい所だ。
現実としては最善が見えていても、理想を追い求めてしまう。そんな自分に自嘲の笑みが浮かんでしまう。
『任されたよ。それじゃあ、門に行くよ。二人は先に脱出しなよ?』
『分かった。無事に戻って来いよ』
『先に待ってるぜ』
『ええ。後で会いましょう』
不安と感傷を胸にそれぞれの仕事を遂行していく。芳賀と小松が職員と貴族達を連れて転移すると、小松が中継していた通信は切れる。俺は高度をギリギリまで下げると龍の姿から人狼の姿へと一旦姿を変え、中庭へと着地する。そして、部屋へと入ると月島から荷物を受け取り、アナスタシアの姿となる。アーニャが急ぎ作らせた白の軍服は身体になじみ、動きやすかった。
「準備は出来たかい?」
「問題はありませんよ。状況はどうですか?」
俺は部屋を出ると待っていた月島と合流して正門へと歩き出す。
「何とか持ちこたえているけど、長くはもたないね」
「そうですか。でしたら、まずは大使館を出ることからですね」
「策はあるのかい?」
「平凡な策で良いのなら」
道中に簡単に月島に作戦を話しながら正門へと向かう。大使館の扉を潜り正門を見れば、そこには格子状の門へと押し掛け、角材をぶつけて何とか門を破ろうとする暴徒達の姿があった。暴徒達は口を大きく開けて喚き、怒りに顔を醜く歪ませ門の格子から手を伸ばし、兵士達に掴みかかろうともする。その様子は、まるで水門へ押し寄せる濁流のようだった。
「されじゃあ、やろうか」
「ええ。私も準備します」
俺は兵士に持ってきてもらった剣を腰にさげ、盾を手に持つ。そして、ナイフを月島へと渡し、アーニャに詫びながら軍服の背をナイフである程度切って貰うと指を鳴らしてスキルを使う。
「うわ~。近くで見ると、結構キモいね」
月島の心無い言葉を聞き流している間も、俺の身体はゆっくりと変化していく。身長は変わらないが、髪の色は白銀から雪の様な真っ白へと変わり、顔立ちもやや細く釣り目へと変化する。体つきは引き締まり筋肉量が増え、アーニャのものよりしなやかな物へと変わった。そして、セレーナの物よりも大きく白い翼が背中より生え、広がる。
「流石に変身中にキモイは無いと思いますけど?」
「いやいや。目の前で別人になられたら、いくら美人でもちょっと引くよ? さっきより凛々しくなったね」
「ええ。兵士を鼓舞するなら、これ位の方がよいでしょう?」
体の具合を確かめながら、羽や腕を動かしてみる。ほっそりとした見た目とは裏腹に筋量の増えた四肢の動きは軽快であり、先程まで重量を感じていた盾も難なく動かせた。羽は龍の姿の時と動かし方はあまり変わらず、何とか飛べそうであった。
「それで、その姿は天使かな?」
「ヴァルキュリアですよ。軍勢の守りてヘルヴォル」
特に何か意図があってこの姿を選んだわけでは無いが、なんとなく今回は適当である気がした。
「へ~。それじゃあ、今度はこっちの番かな」
月島が納得したように頷くと、無造作に手を下から上へと振りぬく。その途端、正門前の地面から石壁が勢いよく生え、暴徒達を自分達の視界から分け隔ててしまった。目の前から突如として壁が生えた兵士達は唖然としていたが状況が呑み込めると安心したようで、構えていた剣を下ろした。
「これで少しは時間が稼げるかな?」
「集団幻術の持続時間はどれほどでしたか?」
「一人や少数で良いなら僕が解くか対象が死ぬまでかな? これだけの数だと後方にいる人は精度に粗が出るからね。10分かな」
「分かりました。では、行動するとしましょうか」
俺は頷くと、剣を振り上げて大声で兵士達に指示を出す。
「総員に告ぐ! これより大使館を放棄。暴徒達の包囲を突破し、王都を脱出する! 兵士達は外壁に集結。大使館外壁を乗り越え、王都東門へと向かう!」
透き通るような声は良く響き、よく訓練された兵士達は手持ちの武器を確認すると分隊指揮官の指示に従って分隊ごとに外壁の下へと集まっていく。
「陛下。機密書類などは焼却済みです。食料は如何いたしますか?」
大使館防衛の指揮を執っていた指揮官が俺の元へとやってくる。包囲された時点で大使館へと保存されていた対象国の集積情報や作戦指示書などの機密書類は破棄される手筈となっていた。
「残していくしかないでしょう。暴徒達の手に渡るのは不満ですが、いちいち破棄する時間もありません。セルブラント王国の貴族たちを護衛しながら脱出となります。足手まといですが、見殺しにするのも寝覚めが悪いですから」
「了解致しました。王宮の兵士達と合流いたしますか?」
指揮官の提案に一瞬考えるが、直ぐに首を横に振って否定する。それが出来れば楽だったが、大使館から見て王宮は西側にある。向かう方向は東であり、大したリターンもなしに危険な方に突っ込む必要もないだろう。
「では、我々も向かいましょう」
「了解。ところで、どうして東門なんだい?」
「上空から見て、東の方が明かりが少なかったからですよ」
王都に侵入したとき、一番明かりが多かったのは中央区であり、次が南区。一番少なかったのは東区だったからだ。
「航空偵察は偉大だね。それで、どうやって壁を超えるんだい。普通にやったら鴨打だよ?」
「そこは、貴方の能力にお願いします。こういう感じで・・・・・」
「なるほど。それなら、簡単だね」
外壁近くへと到着すると、兵士達は終結を終え、それぞれの装備を確認していた。彼等は、部隊の友人達と肩をたたき、励まし、軽く冗談を言い合いながら俺達の到着を待っていた。彼らの表情には不安も滲むが、それ以上に決意が表れていた。それとは対照的に、脱出を共にする貴族達の顔には不安と恐怖がありありと表れ、涙を流している者までいた。
「では、やりましょうか」
俺は翼を動かして外壁から少しだけ高く飛ぶと、外を確認する。当然のように、外は暴徒たちで溢れており、一瞬だが突破できるのかと不安に駆られる。だが、そんな不安を首を振って振り払うと月島へと合図を出す。
月島が手を前のほうへと突き出していく。それは、何かを押しのけるような動きであり、それと同時に大使館を囲んでいた外壁に鋭い棘が突出し始め、ゆっくりと暴徒達の方へと壁が膨らんでいく。暴徒達は驚いたように後ずさると、大声で後ろに続く仲間たちに注意を叫び、人混みが後退していく。
俺は暴徒達が下がるのを確認すると、壁の中へと着地する。壁は動いておらず、飛び上がる前と変わらずに聳え立っていた。
「範囲指定だからね。ぶっつけ本番だけど、上手くいってるみたいだね」
「ええ。私も騙されましたから。梯子をかけなさい! 今すぐ脱出します!」
兵士達が梯子を変け、天辺近くで数人の仲間たちと協力して向こう側へと梯子を下す。
「急ぎなさい。正門もそろそろ限界です」
兵士達は次々と壁を乗り越えていくが、貴族達が遅れていた。特に、ドレスを纏った娘や婦人は遅々として登れていなかった。そんな彼女等を夫や兄弟がせかし、兵士達が励ますが、これでは間に合わないだろう。
「月島も急ぎ向こう側へ。私は彼女等を抱えて向こう側へおります」
俺は未だに怯えて梯子を上れていない少女の一人を一声かけて抱きかかえると、そのまま空へと飛び上がって壁を超える。
壁の向こう側では兵士達が武器を構えて隊形を組み、後続の安全を確保していた。そこへ着地すると驚きと浮遊感で無意識にしがみ付いていた少女を下ろし、また壁の中へと戻る。五人の少女を輸送したところで全員が壁を越え、俺は暴徒達が梯子を使って追ってこられない様に装備した剣で梯子を打ち壊す。そして、すぐさま壁を飛び越えて全員と合流する。
壁は越えたが、まだ人の海が広がっている。ここを突破するのが最大の難関だ。
「さてと。じゃあ、やりますか」
月島がそう言うと、今度は人の海に壁が生える。一枚の壁はゆっくりと中央から分かれて二枚となり、左右へと移動すると門まで続く道となった。
「モーセにでもなった気分だね」
「まさに救世主では? 決死の覚悟が馬鹿馬鹿しくなります」
俺は笑いながらそう言うと、兵士達に進む様に指示を出す。兵士達は歓声を上げると、貴族を中段に挟んで護衛しながら門までの道を進んで行く。
「それにしても、万能ですね。私がいる必要ありました?」
「まぁ、僕の方も予想外だよ。だって、ここまで上手くいくなんて思わなかったからね」
道を進むが暴徒達は壁に押しのけられて誰一人としていない。電車が敷かれたレールの上を走る様に、俺達は楽々と壁に囲われた安全な道を進んでいく。しかし、門まであと50メートルという所で、壁から人が生える。本当ならば一歩踏み出したと言う所だろうが、幻術がかかっている身からすれば、無機質な壁から人がニュっと生えてきたようにしか見えない。それを証明するかのように、兵士達は驚いて急ぎ武器を構え、貴族達はその異様な光景に息をのむ。
暴徒の一人だろう男は、特に混乱した様子もなく此方を見ると手に持った棍棒を構える。すると、次々と壁から暴徒達が流れ込む様に壁から出て来ては、此方へと武器を向けた。
「ちょっと想定外だね」
「そう簡単にはいきませんか」
俺は首を横に振ってため息を吐くと剣を抜いて飛び上がり、兵士達の頭上を抜けて先頭に立っていた暴徒へと切りかかる。半神の腕力のおかげか、剣は男の肩のあたりから腹までを斜めに両断し、男からは鮮血が噴き上がる。
「さて。道を切り開きましょうか。前衛突撃! 道を切り開け!」
怒鳴る様に声を挙げながら二人目に切りかかると、続いて兵士達も突撃して暴徒の集団と切り結ぶ。腕力と剣の切れ味のおかげか、人を切っていると言うよりは熱したナイフでバターを切っているよな感触であり、視覚からの情報以外では大して気持ち悪くはならなかった。俺は文字通りに暴徒達を切り飛ばし、兵士達と共に道を開いていく。それを見た暴徒達は死の恐怖に負けたのか、背を無けて逃げていく。しかし、中にはそれでも尚向かって来る者もおり、50メートルがいやに長かった。相手の武器は棍棒や包丁、ナイフなどで幸運にも元正規兵は交っていないようで、優位に戦えていたが、それでも疲労からくる隙で負傷者が何人か出る。
「しゃがめ! 陛下!」
後ろから飛んできた指揮官の声に兵士達は指示通りにしゃがみ、俺は呼ばれて後ろを確認してから瞬時に翼をはためかせて飛び上がる。
「射て!」
しゃがんだ兵士達の頭上をクロスボウのボルトが飛びぬけ、暴徒達に突き刺さる。数人が地面へと倒れ、数人が刺さったボルトの痛みに呻く。
「総員立て! 突撃!」
「抜剣! 突撃せよ!」
乱れた人波へと兵士達が再び突っ込み、血染めの道を作っていく。あと数メートル。それで門へと辿り着く距離まで切り開いた。しかし、その数メートルが遠かった。兵士達の中に運悪く首を切りつけられて死んだ者や重傷者も出始めていた。
俺は再び飛び上がると兵士と門の中間へと落ちる。人を踏み、そのまま押しつぶし、骨や内臓を潰す感触を足から感じたが、それを無視して剣を薙ぎ払うように動かす。暴徒のど真ん中で横薙ぎに振るわれた剣は周りの暴徒達の上半身と下半身を泣き別れさせ、ぽっかりと空間を作る。そして、その空間めがけて兵士達が我武者羅に突っ込んできてあっけにとられる暴徒達を切りすてていく。そうして門へと辿り着くころには全員が返り血で赤く染まり、死傷者は15人程出ていた。全体でこれだけで済んだならば喜ぶべきなのだろうが、本来であれば生きていた命なだけに無念がつのる。
後衛の兵士達に暴徒達を食い止めてもらいながら、俺達は門を抜けて王都から脱出した。俺はすぐに変身スキルを使って龍へと姿を変えると、門の方へと長い首を振り向ける。貴族達はぎょっとしていた様だが、そんな事に構っている余裕はなく、未だ未練がましく襲ってくる暴徒の集団に向けて口を開くと、口から炎を吐き出す。白熱する白い炎は前から少し離れた暴徒達を焼き殺し、溶かし、兵士と戦っていた最前列の暴徒の背に余波で火傷を負わせる。
炎の壁は続く暴徒達の波を妨げた。安全を確保した俺は兵士と貴族に背に乗る様に示す。
「ちょっと汗臭い?」
背に乗るなりそんな事を言って笑う月島に振り返り軽く唸ると、全員が乗った事を確認してゆっくりと飛び上がる。速度はださず、振り落とさぬようにゆっくりと飛ぶが、月島以外の全員がしがみ付いていた。
来るときの倍の時間をかけて王宮へと着くと、尻尾やら首やらを何とか曲げて王宮の中庭へと着陸し、警備や侍従、侍女達に載せてきた兵士と貴族達の世話を任せる。
一方の俺はアーニャに相変わらずの無表情で迎えられると、セレーナに傷の心配をされ、無傷だと宥める。リーナからは風呂の準備をしてきますと言われ、イライザからはどうして自分も連れて行ってくれなかったのかと軽く泣きながら怒られてしまった。万事予定通りに丸くとはいかなかったが、何とか無事に収める事が出来た。
「陛下。セルブラント王国の貴族達から面会したいとの要望が出ておりますが?」
「明日に会うと伝えて下さい。さすがに、今日は疲れました」
人間の姿へと戻った途端に押し寄せてきた疲労によって、俺の足は鉛の様に重くなる。だが、その場に倒れて周りに心配される訳にもいかず、仕方なく思い四肢を動かして城内へと入る。そして、リーナに世話されながら入った湯船の中で、瞼が重くなり、抗う間もなく俺の意識は闇へと飲み込まれた。
最近は毎日1桁でもpvがついており、こんな駄文駄作に興味をもって下さる方々がいることを大変嬉しく感じております。そんな中で、多少文章力も上がった(0.1Lv程度の微々たる物)と思いますので、1話など最初期の方を少しづつ読みやすく改めたり盛ったりしたいと思います。合間合間でゆっくりではありますので、投稿頻度はこれ以上遅くはならないと思います。最初期から長らく読んでくださった方々には本当に感謝の念が耐えません。まだ半分も終わっていない本作ですが、完結まで長い目で見守ってくださると嬉しいです!




