燻る火種
一日遅れましたが、何とか更新です!(´TωT`)
今回は繋ぎ的な話なのでちょっと短いです。
すみません……<(_ _)>〈 ゴン!〕
ヴィクトリア歴5年5月16日 セルブラント王国のとある農村
「今年も駄目だな」
家の軒下で雨宿りをしていた農民の男が苦々しく言う。その言葉に一緒に雨宿りしていた人達も口にはしないが、苦々しい表情で同意していた。畑では冬前に植えた小麦が実をつけ収穫を待っていたが、昨年と同じ猛烈な勢いの長雨が邪魔をしていた。
「昨年の春小麦の不作で種蒔きは少ししか出来なかった・・・・・。それなのに、こうも雨が降ったら昨年と同じく麦が駄目になっちまう」
「貯えは冬の内に食いつくしちまった。今は山や森の恵みで何とか凌いでるが、このままじゃ・・・・・」
ただでさえ母数が例年よりも少ない小麦は、昨年と同じく降り続く雨で駄目になろうとしていた。
「娘は今日も教会でお祈りしてるよ。雨が止みます様にってな」
「昨年までは、健やかに過ごせるようにだったか? あの頃は自慢の娘だって話してたな」
教会での祈りの言葉は、日常の平和を願うものから天気の回復を願うものへと自然と変化していた。たかが天気。しかし、その天気がセルブラント王国に住む全ての民衆の生命に直結しようとしていた。
セルブラント王国では、昨年の春から不作続きだった。冬小麦の収穫も例年ならば問題にならない落ち込み具合だったが、昨年に限っては大きな問題であり、続く今年の春小麦も駄目になろうとしていた。国家予算を使っての食料の輸出も既に限界が来ており、国は稼いだ外貨と税金を丸ごと使って食料を買い付けていた。
「冬までは、あの国が食料を持ってきてくれてたのにな」
「期待するだけ無駄さ。今じゃあ、首都へと持っていかれちまってる。都市部はもう余裕がないとか言ってな」
「どうだかな。この前来た行商人が言っていたぜ? 首都のお貴族様に大量の酒が売れたってな」
「俺達は山に分け入って必死で食料を採ってるって時に首都の貴族様方は、俺達が食うパンになる筈だった小麦で焼いたパンを食って優雅に踊ってんだ。あいつ等が俺達に何してくれた? 俺たちが育てた小麦を持って行って、広い部屋で酒飲みながら話してるだけだろ?」
村人達は知らなかった。食料生産能力がなく農村よりも人口が密集した都市部では既に配給が足りなくなっており、その配給を巡って奪い合いやリンチが横行してた。道端には体力のない老人や子供たちが細くなった体で動くこともできずに倒れていることを知らなかった。そして、ヴィクトリア王国が居もしない野盗の危険性と護衛費用の出費を理由に援助を打ち切ったこと、先行きの見えない不安から享楽に走ったのは貴族の一部であり、残りは餓死者を減らすために必死で奔走していた事を知らなかった。
結果、彼らの不安や悲しみは憎悪として政府へと向いた。何もしてくれない政府などいらないという思いが、密かに、だが確実に人々の心へと根付いていた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
ヴィクトリア王国 王都
「姉ちゃん! こっちにビール! それと、串焼き追加で!」
「は~い。ただいまお持ちします!」
「こっちにはミードをくれ!」
「ミードなんて女の飲みもんだろ? ビールを飲めよ。このオカマ野郎!」
「べつにいいだろうが」
王都の大通りにある冒険者組合に併設された酒場に俺とアーニャとリーナ、それにイライザとセレーナはいた。昼間だと言うのに酒場はほぼ満席で、屈強な男たちが酒と料理を楽しみながら大声で笑っていた。
「上手く機能しているようですね」
俺は安い葡萄酒と焼いた兎肉を注文しながら施設の様子を見ていた。
この世界に飛ばされて内政を始めたが、ほとんどは元居た世界に似せて行けば何とかなった。時代的な違いもあり、技術的な不可能もあったが、そこは歴史の知識と話し合いと研究開発局員達を馬車馬の如く働かせて知恵を拝借したことで何とかなった。しかし、時にはゼロからのスタートもあった。その最たる物が冒険者組合の組織造りだった。元の世界に居なかったゴブリンやトロール等がこの世界には存在した。最初は警務省の警備隊が行っていたが、それでは被害と費用が大きかった。そこで、元からあった冒険者ギルドを国が運営する機関として取り込み、モンスターの討伐を国からの正式な依頼とした。これによって、警備隊はモンスター退治をすることが極端に減り、費用も減った。分かりやすいところでは、村への派遣費用に遺族手当と遺族年金がカットできた。
冒険者がクエストを受けるかは自己判断であり、そのために万が一が起きても彼らの責任ということで保険はおりない。しかし、危険な依頼は一ヶ月は遊んで暮らせるほどの高額な報酬が提示されており、一発逆転を狙ったチャレンジャーな冒険者グループが後を絶たない。そのためか、冒険者は地道に働くことが嫌な者か夢見がちな者か腕に自信のある者がなる危険な仕事と言った評判だった。
「案外、現実はロマンが欠けていますよね」
危険とロマンにあふれ、誰もが夢見るような立派な存在。そんなものは、元の世界の小説やアニメの中だけの話だったようだ。
「陛下。視察というのであれば、ここの管理者に会うのでは?」
頼んだ料理と葡萄酒に手を付けずに周りに気を配っていたアーニャが口を開く。相変わらず何の感情も読み取れない澄まし顔だったが、他人に聞かれないように潜められた声音から察するにあまり居心地は良くないようだった。
「あ! これ美味しいですね~」
「この肉料理もなかなかだな」
対照的にリーナは注文した香草酒を美味しそうに飲み干しながらニコニコと笑っていた。匂いから察するに度数は高そうだが、そんなこと感じさせずに飲み干していた。その横に座るイライザもビールを飲みほし、肉料理をつついていた。
「陛下。こちらの料理も如何ですか?」
そんな二人とはまた違い、セレーナは席に着いてから仲間の世話ばかりしていた。イライザがビールを飲み干せば料理とともに注文し、自分の注文した料理まで勧めていた。
「大丈夫ですよ。セレーナ。ありがとうございます」
俺はセレーナが勧めてくる料理をやんわりと断ると冒険者用の依頼が張り出された掲示板に目を向ける。元々の視力は悪いが、アーニャの身体となっている今の視力ならばそこそこ離れていても文字を読むことが出来た。それと同時にアーニャの問いに答えるべく口を開く。
「ここの組合長に会う必要はありませんよ。視察と言っても様子見が主ですし、詳しい内情は内務省が確認しているでしょうから、私が何か問題を見つけて口出しすることもないでしょう。ただ、自分も少しは関わった物が上手く機能しているか気になっただけですよ」
別に口出ししようとは思わない。ただ、自身も関わった組織作りだ。上手く回っているか気になるのが普通だろう。
「では、今日は1日ここで飲み食いという訳ですか?」
「あら? どこか毒があるような言い方ですが?」
最初の頃は、もっと直接的に不満や怒りをぶつけて来ていた。しかし、侍女の姿が板につくにつれて、感情の起伏は隠れ、言葉にほぼ毒を潜ませるようになっていた。正直、今の方が心に刺さるのでタチが悪い。
「それが陛下の意思であるなら、私は従います。しかし、陛下には仕事があるのでは?」
「書類は全て終わらせているはずですよ?」
「陛下は外務と軍務の長です。今この時も陛下の認可を必要とする書類が溜まっているのですよ?」
「分かっていますよ。ならば、もう少し様子を見てから帰りましょう」
俺達が言い合う様子を不安そうに見つめるリーナ、イライザ、セレーナの存在に気付いた俺は、すぐさま折れた。アーニャの言っている事は正論であるし、これ以上3人を不安にさせる理由もないからだ。
それから1時間程。俺達は賑やかな冒険者組合の酒場で飲み食いをし、依頼を受ける冒険者や依頼の完了報告をする冒険者達を見ていた。
「では、そろそろ帰りましょうか」
「はい。陛下」
「分かりました〜」
「ん? もうそんな時間か」
「承知致しました」
そろそろ良いだろうと切り上げる事を告げた俺にアーニャはハッキリとした口調で、リーナはお酒の影響かいつも以上にふわふわした口調で、イライザは名残惜しそうな様子で、セレーナは全てを肯定しそうな優しい笑みを浮かべて、それぞれの反応を返した。
「すみません。この、北部辺境の魔物討伐を受けたいのですが」
「はい。では、手続き致します。クエストは他の冒険者との合同クエストで、3日後に出発となります。3日後の早朝に王都の北門に集合してください」
受付も事務的な返答を聞きながら俺達は冒険者組合を後にし、王宮へと戻った。王宮へと戻った俺は、早速アーニャに連行されて執務室の机へと座らされ、目の前に書類の束を置かれた。報告書に奏上、内務省や農務省からの協力依頼等の書類が俺の前に置かれ、早く認可のサインをしろとばかりにアーニャが羽根ペンにインクを付け、手に握らせてくる。
「北方の第二軍団と第七軍団への物資輸送と野砲の運搬計画書。それに、こっちは内務省に以前要請していた街道の報告書ですか」
俺は目の前に積まれた書類に次々とペンを走らせ、名前を書き入れていく。王政の良い所は権力のトップである国王や女王の意志一つで決まり、議論などでだらだらと時間を消費しない事だが、その反面で何かと下が指示を求めてくることが面倒くさい。幾分かアルマンやエーリヒの裁量に任せているとはいえ、それでも書類の量は多くなる。この世界に来てから筆記速度が目に見えて上がった気がするが、木のせいではないだろう。
「陛下。エーリヒ外務卿補佐官から、戦力の拡充はいらぬ摩擦を回避するために、同時期に一斉に行う方が良いのではないかと意見が奏上されてきております」
エーリヒは、一時的にでも一ヶ所だけ戦力を増強しては周辺国に要らぬ憶測を招くと考えているのだろう。以前は武人の様な気質だったが、参謀部の設立や外務省と関わることで外交面も気にする政治家的な気質への変化が見られるようになってきた。
「エーリヒには、周辺国に構う必要はないと伝えなさい。どうせ周りは同盟国です。それ以外の国々に情報が伝わる頃には戦力は四方で均等になっているでしょうし、問題はありません。今はなにより、セルブラントがきな臭い状況ですから、何があっても対処できるように北部の準備を万端にするべきでしょう」
外務省には、セルブラントにある大使館から鳩が飛んできており、既に何日も雨が降り続いている事は分かっていた。弱者救済のイメージが固まったので食料を送る必要もなくなり、支援は既に打ち切った。後は静観を決め込む予定だが、どうやら暴発しそうだ。
「まぁ、いいでしょう。どうなっても、ありがたく利用させて頂きましょう」
国が貧しくなればどうなるのか。単なる知的好奇心と今後への備えとしてだったが、運よくその一例を見れそうだった。
「陛下。口を動かす暇があるなら手を動かしてください」
「はぁ~」
後ろに控えると言うよりも、後ろからさぼらない様に見張ってくるアーニャの声にうんざりしながら、俺はより一層ペンのスピードを上げるのだった。
評価とブックマークありがとうございます! ただ思いついた事を垂れ流していたら、いつも間にかここまで来てました笑。少しでも面白い話を書こうと努力しますので、生温い目で見守って頂けますと幸いです!




