軍備増強と外交
結局遅れた上に8月中のもう1話は無理でした(´TωT`)
すみません<(_ _)>〈 ゴン!〕
ヴィクトリア歴4年8月6日
王宮近くの軍務省の会議室。俺とそれ以外に20人が入れる会議室の椅子は、アルマン外務卿補佐官を含む外務省幹部10人とエーリヒ軍務卿補佐官を含む軍務省幹部10人とで全ての席が埋まっていた。
盗聴器が発明されていない現在。会議内容を盗むには、盗み聞きするか、相手の唇の動きを読むしかない。夏の暑さの中にあって、機密保持の為に軍務省でも最奥に作られた部屋は、当たり前の事だが風が通らず、まさに地獄だった。
「それでは、軍務省と外務省の合同報告会を行います」
今回の報告会は機密の高いものとなり、同席するのはアーニャだけに留め、リーナ、イライザ、セレーナの3人は軍務省の別室で待機となっていた。俺はアーニャを隣に侍らせ、左右に別れて見合う形で座る両省の幹部達を眺めていた。
「まず、外務省からです。同盟国各国の大使館からの情報によれば、各国共に併合地域の安定化は完了。レジスタンス等の反政府組織は撲滅したとの事です。また、税収も順調に増えており、それ等は貴族達のパーティーや王宮の晩餐会で顕著に現れているそうです」
「なるほど。思いの外、早かったですね」
「併合から1年。手段はなかなかに苛烈だったとの情報もあります」
報告書の情報によれば、レジスタンスの殲滅。疑いのある村の焼き討ち。見せしめの処刑なども行われたようだった。
「苛烈ですね」
「はい。その成果もあって、今では併合地で不穏な動きはないとのことです」
「しかし、国境警備を任せた各軍と警備隊からは、越境してくる少数のグループを捕縛したとの報告もあります。おそらく、一時的に国外へと逃れるために脱出したレジスタンスの残党かと・・・・・」
国防軍からの報告には、関所以外の場所から越境して入国しようとしたグループの詳細が書かれていた。全てがレジスタンス残党では無いだろうが、何割かは確実にいるだろう。
「なるほど。いざとなれば使えますね。その者達はそのまま国内に難民として迎え入れなさい。しかし、監視は行う様に」
「承知いたしました。では、警務省に協力を?」
小松に相談するべきか。その考えが一瞬頭をよぎった。彼の所には組織犯罪専門の部署があるからだ。しかし、法を遵守する警務省では明確な証拠がなければ動けない。それでは、遅いのだ。とち狂って、気づいた時には我が国で革命が起きていたというのは御免だ。ならば、その前から動ける部署を創るのもいいだろ。
「・・・・・いえ。今回は国外の問題も絡みます。外務省とすぐに協力できる軍務省で行いましょう」
「では、すぐにでも部署を立ち上げ、監視体制を整えます」
「もし、国内で騒ぎを起こす様な事があれば、我々で対処します。警務省には、事後報告のみを行う事にします」
「承知致しました」
使える駒は多い方が良いだろう。それが、少しでも使用法を間違えれば毒になる薬だとしても、間違えるまでは薬なのだから。
「続いて、北方3ヶ国についてです。セルブラント王国では災害による収穫量の激減、インフラの破壊。また、住民にも被害が出た様です。これにより、セルブラント王国では隣国からの小麦の輸入が開始されました」
「被害者及びその家族に対して、お悔やみを申し上げると伝えましょう。まずは、それが先です。隣国の不幸に対して、同情する余裕があると示す事が出来るでしょう」
災害の犠牲者すら自国のポーズに利用する。些細な事だが、政治とはそういうモノだと考えてしまう。
「承知致しました。セルブラント王国大使に伝えます。他にはどの様な?」
「必要であれば、食料の輸出を行う準備がある事も内々に伝えておきなさい。まだ、蓄えには余裕があります。輸出することが決定したならば、近隣国に回していた分を減らしてセルブラント王国に回せば、我が国の懐も痛まないでしょう」
「内務卿への通達は如何致しますか?」
「私から説得します。外務省は事が決定した時に速やかに動けるように手配しておきなさい」
税として集まった小麦をどれだけ輸出に回し、他を有事の際の蓄えにするかは、内務省が決めている。
災害はそこまででは無いが、戦争は頻繁に起こる世の中だ。未だに一部の税を金ではなく小麦で納めさせているのも、何かあった時に備えて、食糧を蓄えておくのに便利だからだ。現状はそれで問題もないし、俺達は月島の好きな様にやらせていた。
「次いでリトシア王国ですが、ようやく戦後の停滞から抜け出しそうです。破壊された街や村の復興はようやく完了し、地域に定着しつつあった盗賊の討伐も完了。ようやく、併合地の税収が安定的に入り始めたとの事です」
「なるほど。出処は?」
「この情報は、リトシア王国の財務省に務める貴族の祝宴の席で漏らしたとの事です。他にも断片的ながら、漏らした者達が数人居るようです」
酒宴の席で1人が漏らした情報ならば信憑性はそこまで高くないが、数人が断片的に漏らしたとなれば、より合わせた情報の信憑性はそこそこ高いだろう。
「あの国もようやく立ち直りましたか」
「セルブラント王国が輸送コストを考えてリトシア王国から輸入した事も追い風となったのでしょう」
「輸送コストを考えても、利益はそこまで出そうにありませんし、リトシアに全て押し付けてしまうのも良いでしょうね。横から割り込んでも、精々、恩を売る程度で輸送コストの差し引きで利益はそこまで出そうにありません。我々は現状、北方3ヶ国に多大な恩を売っています。これ以上押し売りする必要もないでしょう・・・・・しつこいと嫌われてしまいますからね」
軽く微笑みながら言うと、周りの者達も同調するように軽く笑う。真剣な話にも、僅かなユーモアは必要なのだから。
「しかし、リトシアに隣国の食糧を支えるだけの余力があるでしょうか?」
「人口が減ったとは言え、農地も荒らされ、生活基盤も復興したばかりの国です。余力はあまりないかと思いますが?」
「そこまでは知った事ではありません。北方の国々と協力したのは、将来の不安の芽を摘む為です。同盟を結んだ訳でもない国にそこまで心配してやる必要もないでしょう。今は復興の追い風となっていますが、セルブラントの不幸が続けば耐えられないでしょう。その時、共に窮するかは彼等次第です」
北方3カ国とは、友好的な関係ではあるが、何かしらの同盟を結んだ訳ではない。何かしらの対価を払うから助けてくれと言われれば助けるが、対価以上の事をしてやる義理もないだろう。
「まぁ、そうであったとしても、助けるポーズだけは見せねばなりません」
「把握しております。リトシアが耐えられているうちに、少量を無償で送る事に致します。その後、要請があれば本格的な援助を行うという事でよろしいでしょうか?」
「それで良いでしょう。セルブラントの民と周辺国の民に分かりやすい形で示さねばなりません。ヴィクトリア王国は弱者に手を差し伸べる、寛大な国であると」
印象操作と言うのは、なかなか馬鹿にできない。特にメディア等は新聞以外に無く、その新聞も印刷技術が拙い現在は部数も少なく、手間のかかる関係上で価格も高い為に購読者は少ない。新聞を読む年齢層の識字率が良くはない事も拍車をかけ、プロパガンダがそれほど出来ない。そうともなれば尚更印象操作は大事だ。今のところ、情報を取得する手段の主が自分で見るか噂話を聞くかしかない今では、他人の主観や感想が多分に含まれた噂話が大きな影響力を持っている。ヴィクトリア王国に対していい印象を持つ者が話せば、それは美談となって世間に広まってくれるだろう。
「最後にダリア王国についてです。ダリアではこれと言った問題はなく、順調な成長を続けている様です。海上交易は軌道にのり、国庫に莫大な貢献をしている様です。その関係上で、現在は海軍の増強に努めているとの情報もあります」
海上交易は我が国に置いても重要な位置を占めている。もし、このまま権益の奪い合いが激化するならば、あの国とはいずれぶつかるだろう。
「注意すべきではありますが、そう身構える事もないでしょう。海上交易の拡大と警護は続けるとして、海軍の増強もこのまま続ける事で十分対処出来るでしょう」
「では、これで外務省からの報告を終わります」
外務省の幹部が報告を終え、次いで軍務省からの報告が始まった。
「まずは、国防軍の配置からご報告致します。まず、現在の総兵力は72000人。一個軍団は、歩兵7200人、弓兵3600人、軽騎兵720人、重騎兵480人の計12000人で構成されております」
この編成は元々あった軍の編成を俺が弄ったものだ。元々は戦場の主力たる騎兵の数がもっと多かったが、将来的にマスケットを配備するために歩兵の比重を多くし、弓兵と騎兵にそれを援護させる形へと変えた。マスケットの配備まで一個軍団で比べた時に劣る騎兵戦力は、歩兵にパイクを持たせて騎兵突撃を緩和する事で補っている。
「今後はこれに、現在訓練中の砲兵隊を組み込む予定です」
「ふむ。あの煩い兵器か。だが、1万もの敵に打撃を与えるとなると、どれだけの数が必要なだ?」
大砲の威力は未だ認知されていない。外務部は当然として、実際に目撃した第1軍以外の兵士や士官、幹部の中にも大砲に懐疑的な意見は目立つ。
「現状ですが、一個軍団に対して最新の12ポンド砲を40門配備する予定です。1門の操作に必要な兵士の数は4名ですので、補充を合わせて180名を追加し、一個軍団12180名での編成となります」
我が国では重さの単位はキログラムで換算するが、大砲の製造に関して無駄知識を活用して丸々模倣したので、そのまま12ポンド砲と命名した。まぁ、製作した場所が違うので、正式名称となるとヴィクトリア軍需工場製12ポンド野砲となる。
「現在、内務省直轄の軍需工場をフル稼働させ、大砲を生産しております。数は揃い次第、各地の軍団へと輸送する予定です」
大砲の製作には、俺の知識と技術開発局員達の努力。そして、内務省直轄の軍需工場が役立っていた。この軍需工場は、軽犯罪者達の更生の為の労働をする場所としても一役買っており、職人でもない軽犯罪者達に武器を作らせる為にライン生産方式を採用している。いずれは、この工場でマスケットも生産される事になるだろう。
「次いで、国防軍の拡充計画についてご説明致します。予定としましては、現在の六個軍団から十個軍団への拡大を予定しております。東西南北の防衛戦力を一個軍団から二個軍団へと拡大し、さらなら国境の守りを固める方針です」
「なるほど。しかし、東を守るのは現在の第四軍だけで事足りるのではないですか? カルディナ地方は海に面しており、進行は海上からの上陸しか有り得ません。海軍の増強と主要な港の要塞化が完了すれば、常時の防衛は第四軍に任せ、有事の際に中央から戦略予備の第六軍を派遣しては如何でしょうか?」
外務省でも軍事に明るい者が声を上げる。
「ですが、二正面作戦となれば戦略予備の第六軍は拘束され、東部の守りは第四軍のみとなります」
「ふむ。しかし、そうなる可能性は万が一にも低いのでは?」
外務省の意見はもっともであり、軍務省でも散々検討された事だった。
「その万が一に備えるのが国防軍の仕事です。可能性があるのであれば、東の守りは予定通りに第四軍団の一個軍団から第九軍団を含めた二個軍団に増強すべきでしょう」
だが、結局俺の一声で増強することが決定された。予算に余裕があるのであれば、それを使うべきだろう。
「女王陛下が仰るならば異論はございません」
素直に賛同したことから彼等もそこまで反対する気は初めから無かったのだろう。ただ、一案として提示した。それだけのことだろう。その姿勢はかなり好ましい。ただ追従するのではなく自身の意志を述べ、その上で検討しそれが合理的であれば追従する。必要なのは全てを肯定する奴隷ではなく、意見を述べる大臣なのだから。
「最後に海軍の状況についてです。海軍では現在の主力であるガレー船からオーケアニス型戦闘ガレオン船へと置き換えを行っています。建造費と維持費の面から保有艦艇数を維持しての更新は不可能な為、保有数は減少しますが戦闘力の面では大きく増加する事となります。現時点で30隻が就役しており、退役した30隻のガレー船は同盟国へと払い下げしております」
オーケアニス型戦闘ガレオン船は我が国が有するアドバンテージだ。旧型のガレー船を同盟国に払い下げた所で問題ない。さらに、研究開発局ではさらなる巨艦の研究が進んでいる。属国としたエルフの国からも順調に木材が届いており、海軍の増強と主力艦艇の更新も順調に進んでいた。
「そう言えば、内務省から属国であるエルフの国に派遣する特別顧問官の護衛が欲しいと言われていましたね」
「はい。それに関しては、300名ほどの歩兵と弓兵を選抜する予定です。現在建設中の大使館も万が一に備え400人程度は収容できるように設計しています」
名目としては領地防衛のためだが、本来の目的はエルフ達が反乱を起こした際に特別顧問官と大使館職員、親ヴィクトリア王国派のエルフ達を保護する事だ。
「秘密裏に大砲も送り込みましょう。エルフ達にとって大砲は森を焼いた恐怖の象徴でもありますからね」
あの時試したカーカス弾は、あの後にセリノによって問題点が洗い出され、改良が加えられている。今開発中の榴弾砲が出来る頃には完成するだろう。もし、エルフ達が反乱を起こしたら、その時に目にするのはあの時よりも恐ろしく進化した大砲だろう。
「承知いたしました。要塞砲として稼働できるように、大使館の設計を見直します」
「大使館職員の命に関わります。万全の防備を備える様に手配しなさい」
会議はその後も報告や調整が行われ、二時間後に終了となった。この会議の結果、軍務省には新たに国内の不穏分子を監視し、場合によっては逮捕する国家保安局が設置された。
俺は、次の報告会で月島に予算を強請り、小松に法の制定を頼まないといけないな等と思いながら、王宮へ向かう馬車へと乗り込んだ。
個人的な身辺状況が落ち着き始めたので、これから頑張って書いていきます!




