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深紅に染まる森

大変遅れましたが、ようやく投稿です。今回も申し訳ありません

ヴィクトリア歴3年11月13日


「歩兵部隊の展開完了!」


「左翼、右翼共に騎兵部隊、配置に着きました!」


「弓兵も準備完了!」


「砲の配置も完了。トレビュシェットも射撃可能です!」


「そのまま待機だ!」


 太陽が上がっているにも関わらず薄暗い曇天の早朝。ヴィクトリア王国国防軍第一軍の陣地は熱気に包まれていた。兵士達は整然と整列して武器を構えて一様に森を睨み、伝令の兵士達が巧みに馬を走らせる。


「陛下。良いのですか? 敵の王子を囮に使うなど」


「良いのですよ。交渉にも身代金交渉にも使えないのであれば、囮にでもなってもらいましょう」


 レオンシオ将軍の疑問に答える陛下の言葉に耳を傾けながら視線を森の方向へとむければ、歩兵の位置部隊がエルフの王子を森の方へと連れて行くのが見えていた。歩兵達はエルフの弓の射程ぎりぎりに杭を立てると、その杭へと王子を縛り付けた。王子は必死にもがいていたが、きつく縛られた縄は解けることが無く、ただただ体力を浪費するだけとなっていた。


「出てくるでしょうか?」


「出てきますよ。自身の息子が手の届くところへと居るのです。敵陣の只中ではなくです。ここで救いに来なければ、統治者としては合格ですが母親失格ですよ」


「もし、エルフの女王が彼を切り捨てた場合は・・・・・」


「お手上げですね。ですが、彼女ならばそれは無いでしょう」


 陛下は確信されているかのように、じっと森を見つめていた。

 一時間、二時間。大軍がいるとは思えない様な静けさの中でゆっくりと時間が過ぎていく。そして、太陽がやや高くなり、世界が少しだけ明るくなった時、森から緑があふれ出した。


「出ましたね。なかなか綺麗ではないですか」


 陛下は口元に笑みを浮かべ、エルフ達が森から出てくるのを眺めていた。彼等は森に溶け込むような緑色の服を身にまとい、弓で武装していた。


「将軍。攻撃のタイミングは任せます。一人も逃してはなりません」


「承知いたしました。王子は如何いたしますか?」


「生きたままが望ましいですが、やむを得ない場合は殺してしまっても構いません」


 レオンシオ将軍は陛下の言葉に頷くと、部隊に命令を伝えるべく伝令を飛ばした。エルフの軍はやや乱れた隊列で密集しながら、王子の元へと近づいていく。


「両翼騎兵突撃用意。重騎兵は正面より突撃。軽騎兵は敵軍の側面を通過後に背面から突撃せよ。殲滅するのだ」


「了解。敵軍はまもなく捕虜へと到達します」


「砲兵。先制攻撃開始。捕虜には当てるな。敵軍の端を吹き飛ばせ」


「撃ち方始め!」


「カノン砲! 榴弾砲! 撃ち方始め!」


 轟音。発射から直ぐに敵軍の両翼が吹き飛び土煙が巻き起こる。エルフ達は、まるで木の葉のように空中へと飛び上がり、時折紅葉した木の葉が地面へと落下する。


「陛下。あの砲身が短い大砲はいったい・・・・・」


「榴弾砲ですか? あれは、カノン砲とは違い、爆発する弾を打ち出すんですよ。砲身が短く、砲門を上方向へと仰角をつけて撃てるので、障害物越しの曲射もできて、使い勝手が良い様ですよ。まぁ、水平方向には直射できないので、場面によりますが」


 最初の斉射時には土煙で分からなかったが、確かに榴弾砲から放たれた弾は炎と破片を撒き散らして爆発していた。


「騎兵隊。突撃開始。蹂躙せよ」


 砲弾が敵軍の両翼を足止めしている間にも、砲弾が降り注がなかった中央は前進を続けており、杭に縛り付けられた王子の下へと辿り着いていた。そのタイミングで、将軍は騎兵への突撃を命じる。


「総員抜刀。突撃ぃぃい!」


「「「「王国万歳! 女王陛下に勝利を!」」」」


 両翼の騎兵隊が煌めく剣を抜き放ち、エルフの集団に向けて突撃していく。彼らはようやく王子を解放したようだったが、ここから森へと逃げるのは困難だろう。重騎兵の突撃で集団は蹂躙され、逃げ出そうとした者達は軽騎兵に草でも刈るように殺されるだろう。


「第一列、放て!」


しかし、思い描いたようにはならなかった。


「ぐあっ!?」


「ぐふっ!」


「と、止まれぇぇぇえ! ぎゃぁぁああ!」


 かろうじて統制された一斉射で、重騎兵の先頭が転倒した。そして、後続がそれに躓いて転倒し、さらに後続がそれを踏みにじり、そしてまた、転倒する。ただの一回の斉射で、重騎兵たちの突進は勢いを削がれた。


「そんな馬鹿な。ただの一斉射で重騎兵が!?」


 参謀の誰かが言葉を零したように、私も目を見開いて驚いていた。軽騎兵ならばともかく、全身を鎧で覆い、その上で盾まで装備した重騎兵がたったの一度の射撃で斃れるなど、信じられる事では無かった。


「第二列、放て!」


「続いて第三列、放て!」


 エルフ達から矢が放たれる度に、重騎兵が斃れ、後続に踏みにじられていく。


「将軍! 軽騎兵が!」


 兵士が指差した方向を見れば、こちらは砲弾で統制も取れていないまばらな射撃を受けているのも関わらずにバタバタと馬が、人が斃れていき、背後にまで回り込めていなかった。


「まさか、これ程とは思いませんでした」


 顔はそのままに、しかし、拳を握りしめた状態で陛下は小さな声で呻いた。


「将軍。騎兵は即時退かせなさい。これ以上やっても結果は変わらないでしょう」


「承知いたしました。直ぐに退かせるとしましょう」


 将軍は信号と伝令で騎兵へと撤退を伝える。しかし、被害拡大を恐れた撤退命令は敵へと背面を晒すことになり、追撃の射撃でさらに多くの騎兵が斃れた。たったの数分で、騎兵は手痛い被害を被った。


「トレビュシェットに攻撃準備を命じなさい」


「しかし、陛下。石弾では殲滅は不可能では?」


「投射するものは油樽と火薬樽の二種類。エルフ達が森に入ったタイミングで、最大射程で投射開始」


「森を焼くおつもりですか?」


 引き金はリーナが怪我を負った事であるが、目的は報復ではなく森の木々を手に入れることだと思っていた。だから、陛下の発言には驚かされた。手に入れようとしている物を自ら燃やすなど・・・・・。それこそ、目的が報復になってしまう。


「彼等がいては手に入らないのです。ならば、無いも同然ではないですか。焼いてしまいましょう。雨も降るようですし、運が良ければ、今エルフ達がいる一部を焼いただけで済むかもしれません」


「ですが、他の方法もあるのでは?」


「森の中では此方が圧倒的に不利です。そんなフィールドに踏み込むことは自殺と変わりません。だからと言って、今さら交渉は不可能です」


「森から引っ張り出すことは?」


「餌がありません。彼らは森の中で自給しています。出てくる必要はないでしょう」


「陛下。トレビュシェットの準備が整いました」


 報告の兵士の声にそちらを見てみれば、油樽や火薬樽がセットされ、準備が整っていた。


「将軍。森を焼きなさい。森の木々ごとエルフを焼き殺すのです」


「承知いたしました」


「火付けは、例の新型砲弾で行いましょう。セリノも試したがっていましたから」


「カーカス弾を使用するのですか? あれはまだ最終試験が終わっていないと記憶していましたが?」


「では、この場で最終試験を行いましょう。目標、訓練された砲兵、監察官。すべて揃っていますよ」


「直ちに指示を出します」


 準備が着々と進む中で、エルフ達が森へと消えていく。静かに、しかし、ここからでも分かるほどに士気は高まっている様だった。彼らは何も恐れぬとばかりに悠々と歩き、森へと入っていく。運ばれる王子も、もう安心とばかりに脱力していた。


「全ての準備が整いました」


「砲兵とトレビュシェットに攻撃開始命令。 目標は前方の森。トレビュシェットの最大射程にて開始せよ」


「攻撃開始! エルフ共を焼き殺せ!」


「放てぇぇえ!」


「撃てぇぇえ!」


 吊り上げられた重りが落下し、その勢いで油と火薬の詰まった樽が空中へと放り投げられる。十数機のトレビュシェットから放たれた複数の樽は放物線を描いて森へと消える。


「準備よし!」


「放てぇぇえ!」


 再装填。投射。再装填。その行為が数十機のトレビュシェットから行われ、ある程度の範囲へと油と火薬が巻かれる。その範囲は広く、エルフ達の退路を断つかの様に広がっていた。


「射撃開始!」


「目標! 前方の森! カーカス弾! 撃てぇぇぇえ!」


 轟音と共に新型の砲弾が放たれる。


「「「「おぉ!」」」」


 砲弾が燃えながら虚空を飛ぶ様は、まるで流れ星の様であり、戦場にありながらもその美しさに兵士達が声を漏らす。流れ星の様なカーカス弾は綺麗な軌跡と放物線を描いて飛び、森へと落下した。そして、森が爆ぜた。


「「「「うわぁぁ!」」」」


 眩い閃光と轟音。森へと落ちたカーカス弾は撒き散らされていた油と火薬へと火をつけ、木々を吹き飛ばし、燃やし、その衝撃は第一軍をも揺るがした。予想以上の衝撃に私は体制を崩し、閃光から目を背けた。そして、倒れそうになる体を横に立つ陛下に受け止められた。


「大丈夫ですか?」


 体に触れる手から視線を上げていけば、私の顔を見つめる陛下と目が合う。


「はい。もう離して頂いても大丈夫です・・・・」


「気をつけて下さいね? 敵の矢も届かない距離に居ながら戦傷なんて、格好がつきませんよ?」


 陛下は悪戯げに笑うと私の両肩を離して、元の位置へと戻った。私はなんとか平静を装いながら、森へと視線を戻し、目を見開いた。

 空からは爆発で吹き上げられた木片や葉、土砂が落下し、地上に広がる紅蓮の炎の海へと飲み込まれていく。まるで、地上に煉獄が顕現したかのように、木を葉を森をエルフを焼いていく。火の粉が舞い踊り、煙が空をさらに曇らせ、光を遮っていく。まるで、悪夢の世界に迷い込んだ気分になるが、僅かに肌を焼く熱が、これが現実だと嫌でも認識させる。

 燃え上がる森の教会から燃え上がる物体が飛び出してくる。炎の眩しさに目を細めてよく見れば、それは体を燃やして炎から逃げるエルフだと気付いた。


「陛下・・・・・」


 思いもしなかった光景。予想以上の惨劇。私は思わず森から目を背け、この光景を作り出した陛下へと視線を移した。移してしまった。そして、見てしまった。先程と同じ様で全く違う種類の笑みを浮かべ、静かに森を見つめる陛下を見てしまった。


「陛・・・下・・?」


 この方は、戦闘が好きなのだ。美しい花も、美しい歌も、微笑み溢れる光景も、どれも好きだが、それと同等かそれ以上に戦闘が好きなのだろう。勿論、死者が出れば悲しむ。傷者が出れば憐れむ。だが、それでも戦闘が好きなのだろう。敵から憎まれ、恐れられ、味方から敬われ、畏れられ、そうして望んだものを手にするのが好きなのだろう。それが分かるような、思い知らされる様な笑みだった。


「どうしましたか? アーニャ?」


 私に気が付き、此方を向いた顔は何時もの微笑み。私達に向ける柔らかい優しさあふれる微笑み。だからこそ怖い。さっきまで、あんな恐ろしい笑みを浮かべていたのに、瞬時に全く違う優しい微笑みを私に向けられる陛下が、今は何故かとても恐ろしく感じた。


「申し訳ございません。少し気分が悪く・・・・・」


 私は咄嗟に嘘をついてしまった。しかし、陛下はそれに気づかず、とても心配そうな顔をする。


「それは大変ですね。ここは大丈夫ですから、直ぐに治療所にいて診てもらってください。たしか、セレーナが手伝いをしていた筈です」


「そうさせて頂きます」


 私は礼をしてから、陛下の傍を足早に離れた。この感情は何だろうか。父を殺した陛下。私たちに微笑みを向ける陛下。子供を慈しむ陛下。敵兵を殺戮する陛下。軍を操る陛下。どの陛下も全く同じ、1人の陛下だと言うのに、私には陛下が何人も居るように思えてしまう。


「アーニャさん? 如何しましたか? 何処かお怪我でも?」


 物思いに耽っていた私は随分と深刻な顔をしていたのだろう。治療所に着いた途端にセレーナから心配されてしまった。


「とりあえず、そこの椅子に座ってください」


「いえ。診てもらう程のものでは・・・・・」


「ここに来たという事は、何処かしか悪いということでしょう。それなら、私の指示には従ってもらいます」


 私はセレーナに促されるままに渋々椅子へと座った。少し離れた所には、傷つき呻く騎兵隊の兵士達が横たわっていたが、どの兵士も清潔な包帯を巻かれ、戦場の治療所と言うには清潔すぎるような気もした。


「それで、何処が悪いのですか?」


「いえ。身体は問題ありません」


「つまり、()には問題があると・・・・・」


「それはっ・・・・・」


 揚げ足をとられた感じではあるが、今は間違いでも無いので反論出来なかった。私は思わず言葉に詰まってしまい、セレーナが納得した様に頷く。


「たがら、入ってきた時にあんなに深刻な顔だったんですね。良ければ、話して見てください。助言等は出来ないかもしれませんが、話すだけでも楽になるんですよ?」


 そう言って私の手に重ねられたセレーナの手はとても温かかった。


「私は分からないのです。どの陛下が本当の陛下なのか、分からないのです。城にいる陛下と戦場にいる陛下が違い過ぎて・・・・・。私には、陛下が何人もいる様に見えてしまうのです」


 むしろ、何人もいてくれた方が良かったかもしれない。私は、私達に笑みを向ける陛下を最近憎めなくなってしまった。父を殺された時の光景は頭にこびり付いて離れない。それを思い出すたびに、私の手は剣を抜こうと動き、それを抑える為に震える。しかし、リーナやイライザ、ルナやセレーナに向ける笑みを見るたびに、この方を殺すのは正しいのだろうかと悩む。


「陛下が何人もいるならば、私はここまで悩むことも無かったのでしょうか?」


 私の父を殺した陛下と私達に優しい笑みを向ける陛下が全くの別人だったならばどれ程良かっただろうか。あの時。王宮に押し入った時に何も聞かずに殺していれば、こんな思いもしなくても済んだのではないだろうか。


「私は、どうすれば・・・・・」


「アーニャさん」


 私の手に重ねられていたセレーナの手に力が籠められ、私の手が握られる。


「アーニャさんと陛下にどんな過去があるか、どれ程複雑な事情があるかは分かりません。深く聞いて、そこに踏み込む立場でも無いです。アーニャさんと陛下の間にある問題は二人だけの問題です。どの様な決断を下すかはお二人次第です」


 手が持ちあげられ、セレーナの両手に包まれる。


「ですが、一度決めたならば後悔はしない様に。もし、後悔したならば、それは一生消えない傷になると思いますから」


「後悔しない様にですか?」


「はい。時間が少ないという事は無いのでしょう? なら、じっくり悩んで、悩んで、そして後悔しない決断を下してください」


「悩んで、悩んで、後悔しない様に・・・・・」


「ええ。じっくり悩んでください。今すぐに決断を下さなければならないと言う訳でもないのでしょう?」


「そうですね・・・・・」


 じっくり悩むとしよう。陛下を見極めよう。そして、陛下が約束を違えたならば、その時はその胸に剣を突き立てよう。その為に、護衛兼侍女をやっているのだから。


「セレーナ。ありがとうございました。もう大丈夫です」


「そうですか? もう少し休んでいてもいいのですよ?」


「いいえ。私は大丈夫です。それに、そろそろ陛下の元へと戻らねばなりませんので」


「では、お気をつけて」


 私とセレーナはそれぞれに礼をすると、別れた。私は天幕を出て陛下の元へと急いだ。


「アーニャ? もう大丈夫なのですか?」


 私に気付いた陛下は私が離れた時と変わらずに森を眺めていた。私は陛下の傍らへと立つと、しっかりと頷いた。


「はい。ご心配をおかけして申し訳ございません」


「気にしませんよ。また気分が悪くなったらすぐに離れて大丈夫ですからね?」


「お気遣い感謝いたします。ですが、もう離れませんので」


「そうですか」


「はい」


 陛下は私に優しく微笑むと、森へと視線を戻した。

 私は陛下を直ぐに庇えるように傍へと控えながら森へと視線を向けた。森は相変わらず炎で紅蓮に染められていた。

出来れば今月中にもう一話投降する。投稿したい。投稿できたらいいなぁ・・・・・

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