初めての決断
二日後、法務、財務、内務からの資料が届いたので俺は朝からそれに目を通していた。
(内務は問題ない。言われた町や村の数、街道や橋などの整備の具合が事細かに書かれている。問題は法務と財務だ。)
法務大臣から届けられた資料には定められた法の数々が乗っていたがその内容は国王である俺にとって都合の悪いものが大半だった。
(特にこの{国王であっても新たな法を定めるときには法務大臣、または法務に携わる貴族の半数の賛成が無ければ定めることは出来ぬ}ってのがまずい。これじゃあ貴族たちに不利な法案が全て蹴られる。それに貴族たちに有利な法案も幾つかあるせいでパワーバランスが完全に貴族に傾いてる。)
財務大臣からの資料には王国各地からの税収の集計と予算項目に対する内訳であった。はた目から見れば何の問題もないが付随する計算書などもあをせてみると少なくない額が消えていることが分かった。
(横領の噂はホントだったってことか。部下を親類縁者で固めてるから下からの告発もない。おかげでやりたい放題だな。今まで誰も発見できなかったのはこの書類を財務の部署の奴ら以外見なかったからか?だが俺に誤魔化さず出してきたのは何でだ?見た目が学生で若いから計算ができないと思われたか?それとも、ばれても手出しは出来ないと甘く見てるかだな。これは早めに手を打たないとヤバいかもしれないな)
後日、俺はアルマンとルーデンドルフを呼び出し昨日の資料の結果と俺の考えを話した。2人は俺が話し終わるまで静かにしていたが聞き終わるとアルマンが質問をしてきた。
「財務大臣の横領や法が陛下に対して都合が悪いのは分かりました。しかし、これに対して陛下はどうなされるおつもりですか?」
俺はアルマンの質問に対し簡潔な答えを出した。
「処刑する。2人纏めて処刑する」
直後、俺の答えを聞いた二人の顔が引きつった。
「陛下、それはあまりにもやり過ぎではありませんか?財務大臣の方は分かりますが法務大臣に関しては明らかな悪事は何一つないのですぞ」
アルマンとルーデンドルフ言ってきた。俺は2人に説明しようとしたが、俺が言う前にルーデンドルフが口を開いた。
「陛下、彼等を同時に処刑した場合反乱が起きるやもしれませんぞ」
俺は誰が反乱を起こすかルーデンドルフに聞いた。
「貴族たちです。陛下はつい最近国王に就任したばかりです。そのため貴族たちの中にはまだ陛下を国王とすることを認めていない者達もいます。今処刑を敢行すればこれらの貴族たちは陛下をのぞこうと反乱に及ぶかもしれません」
アルマンも同じ意見なのかしきりに頷いていた。しかし、俺の意志は変わらなかった。そこで彼等にも納得してもらう為2人を処刑する理由を伝えることにした。
「この処刑を行う理由は大きく分けて2つある。1つ目は2人を引退などの通常手段では除けないからだ。彼等の職は代々のものなのだろ。ならば彼等の後継は自然と息子や娘になってしまう。そうなれば引退させたとしても裏から息子、娘を使って政治に介入される恐れが残る。2つ目はルーデンドルフも言っていたが反乱の誘発だ。これにより俺に不満を持つ貴族たちを処断し貴族たちが持つ権力の大部分を俺に集める」
2人は俺が話し終えると静かに考え始めた。幾分か経ったとき考えがまとまったのかアルマンが口を開いた。
「陛下のお考えは理解しました。そこまで考えておられるなら私は止めは致しません」
アルマンが納得したのを確認した俺はルーデンドルフに視線を移し問いかけた。
「お前はどうするルーデンドルフ。俺に賛同するか?」
ルーデンドルフは何かを決意したように一度頷くと口を開いた。
「私は陛下の御考えに賛同いたします」
俺は満足そうに頷くと2人に退室するように伝えた。
後日、俺の命令を受けたルーデンドルフが国軍を使い法務大臣アンドレイ・オルド・ナイア侯爵、財務大臣ジャン・バティスト・ランベール侯爵両名を自宅で逮捕した。その1週間後、両大臣は国庫の横領と国王に対する叛逆の罪で王国の中央広場にて公開処刑となった。両侯爵家はその後爵位剝奪。親戚関係にある貴族家は一階級の降格処分なった。
刑執行から数日、俺はアルマンとルーデンドルフを呼び話を聞いていた。
「現在貴族たちの間からは陛下の予想通り不満の声が上がっております。しかし、不満の声は貴族のみならず王都及びその周辺の民からも上がっております。法務大臣は我々が予想していたより民に好かれていたようです」
アルマンの話はおおむね俺の予想していたものだった。
「民の一部には陛下の除こうとする考えを持つもの出ております」
「その一部とは?」
「主に元法務大臣ナイア侯爵家の家臣や使用人だったもので御座います」
「理解した。ルーデンドルフ。反乱の発生に備えて王宮の警備と城下の巡視を強化しろ」
「了解致しました陛下」
「今日はもう退室してくれ」
2人が退室した部屋で俺は此方の世界で協力を約束した3人の事を考えていた。
(そろそろ手紙でも出して一度集まって話し合いをした方がいいだろう。月島に関しては何も心配はしていない。あいつは俺よりも内政が得意だったから上手くやっているだろう。問題は芳賀と小松の2人の方だ。あいつ等に関してはまったくもって予想できん。ただ失敗をしていたりあくどい貴族に利用されてないかが心配だ。とりあえず手紙を書くか。)
俺は侍女に羊皮紙を持ってきてもらうと書きなれないながらもなんとか近況の報告と集まりたい旨を記し隣国で頑張っているであろう友人に手紙を出した。
次回は隣国で頑張る友人たちのお話になります