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エルフの森

ヴィクトリア歴3年10月30日


 モンターニュ王国内にある森。どうやら、エルフの王国が存在すると予想される森の前に俺は来ていた。

 二週間ほど前に外務卿補佐官であるアルマンに下した命令は、早くも実を結んでいた。執念、というよりも嫌がらせに近い量の矢文を森の中に毎日送り続けたのである。矢文にした理由は、森の中に使()()を出せばそのまま()()となる可能性があったためである。そんな事を続けて一週間。熱意が伝わったのか、エルフたちが狂気を感じたのかは分からないが、ようやくエルフ側から返答があったのだ。曰く、正式に話したいのであれば森に来られたし。威圧的かつ高位的に書かれてあった。そのため、コケにされていると感じた外務省内で、今度はこれに応じるかが問題となったが、俺はこのチャンスを逃したくはなかったため久しぶりに独断で事を決定し、外務省には黙認させた。そして、誰が森に行くかという話になったが、これも俺の独断により俺自身が行くことになった。これについては、外務省と軍務省が黙認とはいかず大反発が起きたが、俺の知的好奇心を満たすために黙らせた。また、告げてはいないが、俺であればいざとなれば変身スキルで逃げ出すことも可能ということも、俺自身が行くことを決めた要因である。


「まさか、これ程に巨大とは・・・・・」


 森の木々は俺が予想していたよりも巨大だった。まだ、樹齢の若いであろう森の入り口部分に生えている木々ですら、一般的な森に生えている木々よりも立派だった。


「この木々が手に入れば、更に巨大な艦の建造も出来るでしょう」


 木造帆船を建造するのは容易ではない。まず、竜骨とする木を用意しなければならない。この竜骨と言うのは、船底を船首から船尾にかけて通すように配置された構造材であり、木材を一本そのまま使う。そのため、この木材の大きさによって、船の大きさも変わるわけだが、大きな木と言うのはなかなか無い物で、オーケアニス型戦闘ガレオン船の建艦もなかなか容易ではなく、数を揃えるのも段々と難しくなってきている。それ以上に巨大な艦となる更に難しくなる。しかし、この森の木々を使えるのであれば、それも解消するだろう。


「まずは、交渉ですね。それで成立すれば良し。さもなくば、脅してでも奪いましょうか」


「陛下。あちらを」


 思考を切り上げアーニャが指さす方を見れば、森から此方へと向かってくる一団があった。緑色の生地の布に一本の木が描かれた旗が掲げられており、実にエルフらしいと言える物だった。


「貴様らが代表か?」


 近くまで来た集団の先頭に立っていた、男性エルフが高圧的に問いかけてきた。俺は気にしなかったが、アーニャやリーナ等の侍女と護衛に連れてきた兵士達が顔を歪めた。


「控えなさい。他国とは言え、一介の使者が女王陛下を前に無礼が過ぎます。まずは、跪くべきです」


 アーニャが俺の横からエルフ達を威圧する。俺はそれを止めることもなく、エルフ達を見ていた。別に、相手を不機嫌にさせたいわけでは無いが、此方も下と見られてはならない。第一、他の目があるところで俺が下手に出るわけにはいかないのだ。


「ふむ。それは失礼したが、我々が人ごときに跪くことは無い」


 エルフ達は謝罪とも呼べない言葉を述べた。高圧的な態度と瞳に宿る侮蔑の色は変わらない。


「構いません。それで、貴方達が交渉を?」


「違う。我々は貴様等を迎えに来ただけだ。交渉は、貴様等には勿体なくも我らが女王陛下が行われる。付いて来い」


 エルフ達は踵を返すとそのまま森へと向かってゆく。


「アーニャとイライザ、セレーナは護衛の半数と共にここで待機していなさい」


「陛下?」


 アーニャが怪訝な顔をする。


「万が一があります。その場合、強行突破になるでしょうが、あまり多いと守りきれません」


「・・・・・承知いたしました。我々はここで待機いたします」


「ええ。お願いします。それと、この様子ではおそらく無理でしょう。鳩を飛ばして第一軍に至急連絡をとってください。森ですが、攻城戦用の装備で来るように伝えてください。あとは、研究開発局に連絡。セリノと新兵器を送るように要請してください」


 俺はアーニャにそれらを伝えると、リーナと護衛の半分を引き連れてエルフたちの後を追う。

 森の中は思っていたよりも歩きやすかった。何度も通ったのか、踏み固められた道は草が生えておらず平坦で、思っていた草生したデコボコの道とは乖離していた。


「陛下。頭上をご覧ください」


 護衛の一人が耳打ちしてきたので、それと無く視線を上へと向ける。すると、枝を伝って木々の間を移動する複数の影があった。


「なるほど。監視ですか」


 彼らも此方が気づいた事を察知しているだろうが、意に反した様子もなく文字通り見下してきていた。


「此処からは、これに乗って移動してもらう」


 二時間ほど歩いた頃だろうか。今までの未整備の道から一転して、舗装された道が現れる。もっとも、舗装に使われているのは石やレンガではなく木であり、見た目は国立自然公園にある木道であった。そこに、二頭立ての馬車が用意されていた。もっとも、物を詰め込む荷馬車を人が両側に座れるように改良したような雑なものであった。


「エルフも馬に乗るのですか?」


「馬鹿にしているのか?」


 思わず口にした疑問に、エルフの一人が反応する。


「いえ。ただ、木々を移動するエルフに馬が必要とは思えないので」


 俺は失礼にならない様に、かつ卑屈にならないように説明する。


「ふん。木々を移動するのは民衆や兵士のみだ。高貴な我々貴族や王族の方々は移動に馬も使う」


 つまり、一般に馬を使えるものは皆無であり、森というフィールドがなければ命中率が異常な弓兵と成り果てるということである。騎兵は無く、歩兵としてもおそらく貧弱であろう。森というフィールドあってこそ、彼らは強いのだ。

 リーナや護衛たちは顔を顰めていたが、俺は気にせずに馬車に乗り込むと早々に腰掛けた。当の本人が早々に乗ってしまったためにエルフ達に文句を言うわけにもいかず、リーナと護衛達はしぶしぶ馬車へと乗り込んだ。

 そこからはひたすら走り続けた。エルフ達はこちらと話す気がないのか俺達とは別の馬車へと乗り込み、御者を務めるエルフも黙々と馬を走らせるだけでこちらには目もくれない。俺達は森の中の景色を眺めながら、ただただ黙って運ばれていた。

 それから五時間程。森のかなり深い場所まで来たのだろう。木々はかなり巨大なものとなっており、ただただ圧倒されるばかりである。そんな中、ツリーハウスと言うのだろうか。木の上に家がある光景がちらほらと見え始める。それは、だんだんと数を増やし始め、木々の上で生活するエルフ達の姿も増えていった。皆一様にこちらを珍しそうに見ていた。


「ついたぞ」


 初めて聞いた御者の声に視線を前に向ければ、そこには巨大な、巨大すぎる木が生えていた。木の周りは擂り鉢状に陥没しており、直径はおよそ200m程で深さは50mはあるだろう。そこから周りの木々と同じくらいの高さであるから、木の高さはだいたい130m程だろう。幹の所々には窓のような穴が開いており、木々の中が生活の場として活用されていることが窺えた。

 馬車はすり鉢の底へと向けて螺旋状に作られた道を進み、やがて幹に開けられた門へと到着した。


「ここからは、この者が案内する」


 そう言って、ここまで案内してきたエルフ達は俺たちを侍女の格好をした女性のエルフに押し付けると、さっさと門を潜り中へと入っていった。


「サラと申します。皆様が滞在されている間、身の回りのお世話をさせていただきます。では、此方へ」


 軽い自己紹介をしたサラに従って、俺たちは巨木の王宮へと足を踏み入れた。

 エルフの王宮は、正直に言えばそこまで豪華な物ではなかった。我が国の王宮とは比べるべくもなく、他の王宮と比較しても質素な部類に入るだろう。壁は細かな装飾などなく木の壁であり、ランプや蝋燭の代わりによくわからない発光植物が壁に生えていた。絵画もなく、彫像や骨董品等も置かれていない。ファンタジックではあるし、エルフの王宮と言われても納得できるが、所詮は森と言う狭い世界で生活するエルフの王族、井の中の蛙、という印象を強く抱かせるには十分な有様だった。案内された部屋も同様であり、ベットが2つと机、椅子が置かれているだけであり、他には水差しや木製のカップ、タオルが数枚といった有様であった。


「御用がありましたら、隣の部屋に私が控えておりますので、お呼びください。では、護衛の方は此方へ」


「失礼。女王陛下との謁見は何時になるでしょうか?」


 護衛を伴って出て行こうとしたサラを呼び止め、俺は何時になったら女王へと会えるのかを聞いた。


「正確には聞いておりませんが、陛下はお忙しい方でございますので、早くても3日後になるかと・・・・」


「三日後ですか。では、その間は散策してもよろしいでしょうか?」


「それは、私個人には判断しかねます。許可が下りましたらお知らせいたしますので、それまでは部屋でお待ちくださいますよう、お願い申し上げます」


「理解しました」


 サラは護衛達を伴って別の部屋へと向かい、部屋には俺とリーナの二人だけとなった。


「何ですか~!? あの態度は?」


 部屋に2人きりになった途端、リーナは憤る。俺は彼女を宥めつつ、部屋に置かれた簡素な椅子に腰かける。


「リーナ。そんなに声を荒げてははしたないですよ?」


「ですが、陛下~」


「別に、気にしませんよ・・・・・。あと、久し振りに出ましたね。その、間延びした話し方」


「陛下が気にしなくても、私が気にするんですよ~。あと~、イライザさん達にとっては私は先輩ですから、彼女たちの目のある所ではきちんと話してるんですよ~」


「あらあら、別に見栄を張らなくても」


「張りたいんです~」


 リーナが可愛らしい顔をむくれさせるのに、俺は思わず笑ってしまう。エルフ族は寿命が長く、精神年齢が外見と見合っていることは少ないが、リーナは見た目通りのようだった。


「とりあえず、リーナも座りなさい。ここからの眺めも素晴らしいですよ」


 部屋の窓からら外を眺めれば、実にファンタジックな景色があった。木々の上にはツリーハウスが建ち並び、木々は太い枝の通路か吊り橋で行き来が可能になっおり、そこをエルフたちが楽し気に会話しながら歩いている。


「私もああいう場所を歩いてみたいですね」


「そこまで良いものでもないですよ~。王都の方が利便性の面でも断然いいですよ~」


 隣に腰かけたリーナの話に耳を傾ける。


「そうですか?」


「はい。狩った動物を上に運ぶのも大変ですし~、雨が降れば滑りやすくなりますから注意が必要ですし~」


 エルフの村と人間の王都の二つを経験したリーナだから分かるのだろう。


「外出できれば良いのですが・・・・・」


「そうですね~。せっかくですから、陛下にはエルフの生活を見てもらいたいです~。大変なんですよ~」


「あら。そんなにですか?」


「そんなにですよ~」


 俺は微笑むと、再び窓の外へと目を向けた。


「箱庭の様ですね」


楽しそうに笑うエルフの子供達。会話に花を咲かせる女性達。弓を片手に狩りに出かける男達。飢えも無く、争いも無い。賊に襲われる心配もない平和な世界。まるで綺麗に作られた箱庭の様な世界が窓の外には広がっていた。


「平和を壊すのは何時でも人の悪意ですか・・・・・」


自身の目的の為には壊さなくてはいけない他人の平和。美しき日常。その罪深さを考えながら、俺は美しき箱庭を目に焼き付けていった。

いつの間にか10000pv超えてる( ゜д゜)ポカーン。今まで読んでくださりありがとうございます。これからもなんとか続けて参りますので、温かく見守ってください((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

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