祭り準備2
「遅いぞ! 2班」
指揮官の叱責に、2班全員が動かす手を早める。現在、王都の壁の外では、第一軍が総出で除雪作業をしていた。
「除雪作業は今日中に終わります」
「そうですか。急な命令でしたが、良くやってくれました」
俺は休憩所で休みながら、レオンシオ将軍と話していた。俺と将軍はいつものドレスと専用軍服ではなく、一般兵用の軍服を着用していた。理由は、先程まで一緒に除雪作業を行っていたからだ。
「やってみると、除雪はなかなか重労働ですな」
「ええ。体力作りの一環としては、なかなかのものですよ」
除雪をする兵士たちは、全員汗を流しながら作業していた。中には、上着を脱いで除雪している者までいる。
「剣を振り、槍を突き、矢を射り、陣形を組む普段の訓練も良いですが、時には単純な体力作りも良いものです」
「ええ。しかし、これを単純と言えるかは疑問ですが」
レオンシオ将軍がそう言って目をやった先には、競い合うように雪をスコップで寄せる者達と、寄せた雪を台車に寄せて運搬する者たちの姿があった。
「それぞれを少数の班分け、どの班が効率よく作業をできるか競わせる。そうする事で、自然に指揮能力と思考力が鍛えられる」
「考えすぎですよ」
将軍の穿ち過ぎた考えに俺は口を僅かに歪めて笑った。班を作ったのは競争意識を刺激し、作業スピードを上げるためだ。他の思惑などありはしなかった。
何時の間に将軍たちの好感度をMaxにしてしまったのか、彼等は俺がやる事に対して良い方に深読みし、ベタ褒めしてくるのだ。
「陛下。将軍閣下。こちらをどうぞ」
そんな中、リーナが飲み物を持ってやって来た。どちらかと言えば非力な部類に入るリーナは作業には加わらず、休憩所で飲み物や布の準備などの雑事を行っていた。ついでに、イライザは兵士たちに交じって作業をし、アーニャはさぼっている者がいないかの監視役に収まっていた。
「ありがとう。リーナ」
リーナは上品な礼をした後、作業へと戻っていった。
疲れた体に、リーナの淹れてくれたお茶は非常に美味しく感じられた。何時もの物とは違うのか、飲んだのちにじんわりと身体が温かくなる。
「ふむ。流石は陛下の侍女ですな。我が家の侍女が淹れるお茶よりも美味しい」
「将軍にそう言ってもらえるとは、リーナも喜ぶでしょう」
最近はリーナの腕も上がって来たのか、その時々によって、最適なお茶を淹れてくれるようになった。そして、そのどれもが大変美味しいのだ。
しばらく、俺と将軍は仕事の話から他愛無い雑談までを交えながら、作業を眺めていた。
「それでは、私はそろそろ王宮へ戻ります。後の事は任せましたよ」
「はい。万事お任せください」
お茶を飲み終わった後、俺は全てを将軍へと任せ、アーニャ達を連れて王宮への帰路へと着いた。
王宮までの大通りはしっかりと除雪され、高景気という事もあり、例年にないほど人々が行きかっていた。今までならば、冬の貯えを減らさぬために家に引きこもる人が多く、その為に露店なども閉まっていた。
「今年は賑わっていますね」
王宮までの馬車の中、窓から街の様子を眺めていた俺は、呟いた。
「領土は広がり、経済は良くなり、民の生活も向上している。たった一年と数か月でここまで来れるとは、思いもしませんでした」
異世界に来てから二年も経っていない。しかし、その間に国土は六倍に広がり、経済は活性化かし、産業は数十年分先に進んだ。初期の事にあったスラムはその規模を縮小し、失業者は激減、農耕地は日々広がり続け、扶養人口は未だ余裕がある。
「本当に、ここまで来れるとは思っていませんでした」
「これも、陛下の存在あってこそです」
アーニャは何時もの無表情で賛辞を送ってきた。彼女の顔からは、本音か建前かの判別は難しかった。
「アーニャさんの言う通り、陛下の存在あってこその反映だと思います」
アーニャに続き、リーナも賛辞を送ってきた。彼女は満面の笑顔だったので、こちらは本音だろう。
そんな中。イライザだけが、やや落ち込んでいた。最近話題になっていたリトシア王国の財政不安と我が国の差を考えているのだろう。
「同じ戦争で轡を並べた国同士なのに、こんなにも違いが出るのか・・・・・」
俺が思っていたよりも、イライザは思い詰めていたようだった。
「イライザ。そんな顔をしないでください。一度とは言え、共に戦った友好国を見捨てたりしませんよ」
俺がそう言った瞬間、イライザの目が輝いた。
「経済支援も行いますし、多少の融資もしましょう」
「それは、本当か?」
「ええ。勿論本当です」
俺が微笑みながら言うと、イライザは深々と礼をしてきた。
紆余曲折と言うか、ほぼ俺の陰謀まがいの事で此方へと身柄を移したイライザだが、やはり生まれ育った祖国は大事なようだ。いや、この場合は生まれ育った生家だろうか。
「まぁ、まずは目前の祭りを成功させましょう」
話している間に王宮へと到着した馬車から降りた俺達は、最初に会議室へと向かった。前回の会議から三日と経っていないが、祭りの準備は急ピッチで進んでいるのだ。今回はそれらの報告会だ。
「今回も最後は私ですか」
「まぁ、そんなに待っていないから構わないよ」
「その通りだ」
「そうだな。俺は二十秒ほど前に着いたばかりだ」
俺は扉をくぐると席へと向かい、アーニャ達は壁際の所定の位置に控えた。
「それでは、各自報告といこうか」
「いいぜ」
「賛成だ」
「良いでしょう。時間は有限です」
俺達は用意されたお茶と菓子を口にしながら、たった数日での進み具合を話し出した。
「前回の会議の後、早速祭りの開催を布告したけど、早くも参加者が殺到しているよ。一流店は少ないけど、一般の食堂なんかは凄い数だよ」
参加者の応募と選定は内務省で担当してもらっていた。
「ほとんどの店舗は許可してるよ。まぁ、流石に出どころ不明の食材なんかを取り扱っていた店は撥ねたけどね」
「出どころ不明の食材って、なんの料理出してたんだよ?」
「肉料理だったはずだよ」
「うわぁ~。聞かなきゃ良かったぜ」
興味深々で突っ込んだ芳賀がドン引きしていた。
「除雪作業は順調で、今日中に終わる予定です。まっとも、出店希望が多いようなら、少し拡張しますが」
「そうしてくれるかな。正直、予定していた面積だと足りないかもしれないんだ」
初の試みという事で、参加者が集まるか不安だったが、杞憂だったようだ。応募基準を緩くしたことも一因だろう。
「来年からは、少し応募基準を上げるか?」
「いえ。このままで良いでしょう。今回の催しは人気取りの一面がありますから、知名度のない料理店からは、緩い方が感謝されるでしょう」
「選定は慎重にするよ。緩い分、悪いものが入ってくることが多いからね」
「当日に振舞う料理の内容は聞いていますか?」
「勿論だよ」
「それなら、リストにして俺に渡してくれ。更に複製して、当日の巡回を行う兵士達に配っておく」
当日の警備は、もちろん警務省の担当だ。
「当日は様々な問題が起きるでしょうから、警備は厳重にお願いします」
「任せておけ」
「それで、研究開発局の方はどうだい?」
「まぁ、大体終わった。職員達も、将来の同僚が増えるかもしれないと知って、大いに張り切ってる」
当初、仕事が無いという事だったが、それなら当日の催し物でもと、無理やり作った。彼等が当日にやるのは、軽い科学教室だ。水の色を変えたり、物を宙に浮かせたりと様々だが、子供たちは喜ぶだろう。そこから興味を持ってもらい、将来の研究家が生まれれば喜ばしいことだ。
「正月には間に合いそうですね」
「そうだな」
「食材の買い付けはどうだ?」
「問題ないよ。この寒さで、輸送に苦労してるけど、鮮度は保たれるし、海魚なんかも確保しているよ」
「いいねぇ~。久しぶりに、生の魚が食べたいぜ」
「川魚を生では無理だからな」
「生魚自体が苦手ですので、私はあまり・・・・・」
「それ、人生損してるぜ」
「自分でもそう思いますが、実際口にするとどうにも」
「まぁ、好き嫌いはあるよね」
会議はいつも通り、雑談を交えながら進められ、二時間ほどで終わった。
「それじゃあ、何か問題があれば報告するように」
「了解です」
「わかった」
「それでいいだろう」
報告することを報告し、確認することを確認し、適度に息抜きをした俺達は、それぞれの仕事へと戻った。
俺はアーニャ達を引き連れ、執務室に向かい、今日の分の書類と格闘を開始し、除雪範囲の拡大を知らせる使者を将軍の元へと走らせた。
暫くペンを走らせると、使者が将軍の返答を持って帰ってきた。将軍は、承知した、と一言だけ返事をし、作業へと戻っていったらしい。忠実な将軍らしかった。
使者が退室する頃には、書類との格闘は終わっていた。
「さて、除雪作業は問題なく終了しそうですし、後は当日を待つのみですね」
俺は姿勢を崩し、体の凝りを解した。
「祭りが終わればすぐに春です。戦争がまた始まります。ですが、我が国にとって問題が起こるのは、その後。夏ごろでしょう」
俺は椅子から立ち上がり、窓の傍へと移動する。
「嫌な時間帯です」
窓からは沈みゆく夕日が空を赤く染めていた。人々は家への帰路へと着き、家々からは夕飯の支度をする煙が上がっていた。
一日の終わりを告げる夕日を見ると、何故だが物悲しい思いをする。しかし、その物悲しさが、俺は大嫌いだった。
俺は夕日を遮る為、静かにカーテンを下ろした。
「陛下。御夕食のお時間です」
カーテンを下ろしたタイミングで、リーナが夕食の時間を告げてくる。
今日は外務省の高官たちと会食がった。俺は身だしなみを確認すると、薄暗くなった部屋を後にした。
創作意欲はあるのに、なかなか時間が割けない(´・ω・`)
次の投稿は三月の予定です。
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