異世界での行動(加畠編)
少し長めです
神に言われ瞼を閉じた後、一瞬の浮遊感を感じたが1分にもみたない時間だった。どうやら転移したようだ、近くで人が動いている気配と音がした。俺はゆっくりと瞼を上げっていった。最初に目に入ってきたのは高い天井とシャンデリアらしきもの、そして目の前に跪く男たちだった。信じなくてもいい、嫌でも理解するようになる。こちらに飛ばされる前に神が言っていた言葉が俺の脳裏に浮かんでいた。
(正直半信半疑だったがこうなると異世界に転移したことを認めなきゃならんな。転移する前に神が言ったことを信じるならここは俺が統治するはずの国のどこっかって事になる。まあ、神が間違えた場所に飛ばしてなければの場合だがな。そして、この目の前に跪いてる男たちの高そうな服と装飾、居る場所の豪華さを合わせって考えるとさしずめこの国の貴族ってとこかな。商人って線もなくはないがこの場合は貴族って考える方が自然だろうな。とりあえず話をしたいが一向に顔を上げないし、だからってどう声を掛けていいかもわからんしな~)
そう悩んでいると男たちの中の1人が声を上げた。どうやらこちらが躊躇していることを感じたようだ。目を向けると男たちの中でもかなり良い身なりをしている初老の男だった。
「貴方様が神より我が国に遣わされた統治者の方でございますか?」
俺はどうこたえるか迷ったがとりあえず頷くことにした。こちらが頷いたのを見ると男は嬉しそうに微笑んだ。
「お名前をお伺いいたします」
「加畠 嶺」
「嶺様でございますね。それでは嶺様、我等一同新しき国王陛下に心からの忠誠を誓います」
「「「「「誓います」」」」
初老の男性に続いて後ろに居並ぶ男たちが誓いを口にした。
(これで俺はこの国の国王、統治者として認められたわけだ。これからは統治者らしい振る舞いをしなきゃいけないな。言動もきおつけなきゃな。次はどうするか、まずはこの国の現状を確認することが先決だな)
「皆の忠誠、心から嬉しく思う。私も皆の忠誠に答えられるよう精一杯努力しよう。しかし、私は今しがたここに来たばかりでこの国の現状も分からぬ。明日、今までこの国で政務を行った者たちに話を聞くこととする」
「では、ひとまずこれで終了といたしましょう。陛下もお疲れでしょうから今日はお休みください」
俺はそれに頷いた。それを見た貴族たちは一人ひとり俺に挨拶をした後、部屋の扉からでって行った。最後に残ったのは色々と取り仕切ってくれた男性だった。
「それでは陛下、わたくしも失礼いたします。寝室へはそこにいる侍女が案内いたします。明日の会議は昼からとなりますが陛下はそれまで御ゆるりとお休みくださいませ。」
そう言って出ていこうとする男性に俺は名前を尋ねた。
「これは私としたことが失礼いたしました。わたくしの名はアルマン・ジャン・ド・プレシード。この国で侯爵の地位についております」
俺は名前を聞くと頷き、下がっていい事を伝えた。その後、侍女に案内され寝室へといった。部屋は豪華だったが広すぎて落ち着かなかった。侍女に寝間着を渡されそれに着替えると俺は侍女を下がらせベットえと入った。ベットはふかふかで温かかったがやはりおちつかなかった。俺はそのまま眠りについた。
後日、朝食を食べ終えた俺は侯爵のアルマンを呼び出すよう近くにいた侍従に言った。侍従は呼びに行ったのち一時間ほどでアルマンが此処に来ることを俺に伝えた。俺はアルマンが来るまで侍女が出してきたお茶を飲みながら待つことにした。この世界のお茶は前にいた世界の紅茶と酷似していた。
お茶の二杯目を飲み終わるころアルマンが到着したことを侍従が伝えに来た。俺はここに通すよう伝えた。
「遅くなって申し訳ございません陛下。城に近い場所に居を構えているとはいえなにぶん急な呼び出しでしたので。」
「いや、こちらこそ急に呼び出してすまない」
此方も詫びるとアルマンは恐縮しながら言った。
「いえ、陛下が謝るようなことは何もございません。陛下の呼び出しに応じるのも臣下の勤めにございます。ところで、このたびのお呼び出しはいったいどのような用件で御座いましょう?」
俺は侍女にアルマンと俺にお茶を入れるよう言ってから用件を話はじめた。
「いや、昼からの会議の前にお前から少しこの国について説明してもらおうと思ってな。もちろん詳しい事は会議でそれぞれの担当に聞くので大まかなことを説明してほしいのだ」
俺が用件を告げるとアルマンは理解したようにうなずき、お茶でのどを潤してから説明を始めた。
「まずはこの国の今までについてお話いたします。陛下が昨日就任されるまでこの国は私を含めた貴族たちの手によって運営されてきました。その中でも法の制定や予算の割り当て、外交などは私を含む4人の侯爵家当主の合議により決定しておりました。また、法務、財務、軍務、内務のトップはこの4侯爵家が代々大臣を務め他の伯爵や子爵がこれを補佐しておりました。しかし、陛下が就任なされたことでこれからは変わる可能性もございます」
「外交などの外務を務める大臣はいないのか?」
「おりません。国と国との関係性がいままで薄かった為必要となりませんでした」
俺はそうかと頷き次の質問をした。
「次に、この国の貴族とはどのようなものかをおしえてくれ」
「貴族とは平民にはない知識と力を持ち国王に仕え支える者達で御座います。また、領地はなく王都に居を構え国からの給金で暮らしております。唯一例外的に領を所持出来る辺境伯と言う位もございます」
「その辺境伯とはどのような貴族なのだ?」
「辺境伯とは名の通り辺境、今回の場合は国境近くになりますが、そこに領地を有し他国が攻めてきた場合には私軍を率い国軍が到着するまでの時間を稼ぐ責務を負った貴族でございます」
「辺境伯の私軍はどうやって維持されているのだ?」
「国からの予算と経営している領地の税収からでございます」
「とりあえずの事はわかた。そろそろ会議の時間だ。行くとしようか」
俺とアルマンは初めて会った部屋、つまりは玉座の間に行くことにした。玉座の間に入るとすでに3人の男が座っていた。先程のアルマンの話に合った侯爵たちだと分かった。侯爵たちは俺が入ってくるのが分かると席を立ちこちらにお辞儀をした。俺は玉座に腰を掛けると侯爵たちに告げた。
「席に座り楽にせよ。これより会議を始める。」
会議はまずそれぞれの侯爵が名乗り何の大臣を務めているかの紹介から始まった。最初に席を立ち紹介を始めたのは眼鏡をかけた長身痩躯の男だった。
「わたくしの名はアンドレイ・オルド・ナイア。法務大臣を務めております。位は侯爵で御座います」
次に席を立ち紹介を始めたのはアンドレイとは対照的で背が低く肥満体だった。
「わたくしの名はジャン・バティスト・ランベールと申します。財務大臣を務めております。位は侯爵の位を賜っております。」
次に席を立ち紹介を始めたのは如何にも騎士と言った風体の男だった。
「私の名はエーリヒ・フリードリヒ・ルーデンドルフ。軍務大臣であります。位は侯爵であります」
最後に席を立ったのはアルマンであった。
「わたくしは昨日名乗らせっていただきましたが改めて、名はアルマン・ジャン・ド・プレシード。内務大臣を務めております。位は侯爵の位を賜っております。」
全員が名乗ったので俺は会議を進めることにした。まず俺が知りたいのは財務に関しての事だった。なので、ジャンに質問することにした。
「今現在この国の税収はどれくらいで、毎年どのようなことにいくらくらい使っているのだ?あと、国庫にはどれだけの貯えがある?」
「お答えいたします陛下、現在我が国の税収は金貨30万ほどで御座います。使う項目は多岐にわたりますので後ほど資料を作成しお持ちいたします。国庫には金貨90万枚ほど貯えがございます。」
(金貨30万枚とか言われても分かりずらいな、そもそも此方の通貨と価値が分からんから予想も何も出来んし、これは後でアルマン辺りに聞くとして、年の税収3年分が国庫にあったのはありがたいな。これで最初に失敗知ってもすぐに国が傾くことはないだろうし)
「とりあえずの事は分かった。資料に関してはよろしく頼むぞ」
「ハハッ、承りました」
次に俺は軍務について聞くことにした。
「軍務大臣、わが国にはどれくらいの兵が居るのだ。」
「陛下、現在わが国には常備軍が約8000名ほどおります。また王都には3000名が駐留しております」
「残りはどうしておるのだ?」
「各都市に駐留し警備や訓練を行っております」
「辺境伯たちが持つ私兵の規模は分かるか?」
「正確には把握しておりませんが、1人につき約1000名程になるかとおもわれます」
「理解した。次に法務についてだが、それについては後でまとめて私に届けてくれ。ここで口頭で言われてもすべて覚える自信がないのでな。内務についても同じように頼む。王国の都市と村の数、街道や橋などどれだけ整備されているかなどを記し届けてくれ」
「「承りました」」
法務と内務の両大臣が了承したのを確認すると俺は会議を終わらせることにした。
「質問や意見はあるか?なければこれにて会議を終了するが?」
誰も何も言わない。
「では、これにて会議を終了する。アルマンにはこの後聞きたいことがあるので残ってくれ」
アルマン以外が退出すると俺は今の会議で知ることになった三侯爵について尋ねた。
「あの3人について詳しく知りたい。人柄や能力についてだ」
アルマンは頷いて話し始めた。
「法務大臣のアンドレイ・オルド・ナイア侯爵は計算高いお方です。自分の利益と損を計算し行動しま
す。忠誠心という面では信用はなりませんが自分に利益があるうちは決して裏切らないでしょう。また、民に対し善政を敷く法案も彼が立案したものが多く民からの支持もあります」
(裏を返せば利益が無ければすぐに裏切るというこただな)
「財務大臣のジャン・バティスト・ランベール侯爵は、言い方が悪いですが汚いお方です。国の財政を全て握っている方なのでその発言力はかなり大きいと言えます。また、部下を親類縁者で固めているため、私を含め他の二侯爵も予算に口出しできません。過去には税収の横領などの噂もございましたが証拠もなく、財務大臣ご本人がすぐに噂を静められておりました」
財務大臣は随分腹黒い人物の様だ。
「最後に軍務大臣のエーリヒ・フリードリヒ・ルーデンドルフ侯爵。あのお方はとても実直な方です。国王に忠誠を持って仕え、有事の際には国王の臣民の盾となり守護すると、陛下がおられなかった時からも常日頃はなしておりました」
「ありがとうアルマン、とても役に立つ話だったよ」
「陛下のお役に立てて幸いでございます。それでは私は失礼いたします。これから先程の会議で陛下が所望された資料を作らねばなりませんので」
アルマンが部屋から退室したのち俺は寝室に戻り先程の話を考えていた。
(法務と財務は忠誠心に欠け軍務は実直で忠誠心に厚い。アルマンも今は俺に良くしてくれているから忠誠心ありとしてもいいだろう。問題は忠誠心の欠けている2人だ。どうするか?このまま使い続けるか?いや、法務大臣はいいとしても財務大臣は横領の疑いがある。噂だけとはいえ火のないところに煙は立たないというしな。なら王の強権で引退させ首を挿げ替えるか?いや、それも駄目だな。一方は部下からの信頼がある、もう一方は親類縁者で固めている。変えたとしても表だけで裏から指示を出される可能性もある。なら残る手段は一つだが・・・・まぁ、後日には資料が届く、その内容を見てから決めても遅くはないだろう)