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憂鬱な北の君主

あけましておめでとうございます。今年もゆっくりですが、書いていきます。今後とも、よろしくお願いします。

ヴィクトリア王国の周辺国が一斉に戦争を行う中、ヴィクトリア王国は今までになく潤っていた。戦争という物資を限りなく消費する泥沼が多数同時に出来たことにより、商人たちは公共事業という名のインフラ整備によって整備された街道を使い、周辺国へと出かけて行った。武器や防具といった物資は作れば作るだけ売れ、食料や医薬品は自国で売るよりも何倍も高く売れた。傭兵や娼婦達は今が稼ぎ時とばかりに荷物を持ち、一番金を出してくれる国に出向いた。


国内には周辺国から流れ込んだ金が溢れ、景気は一気に良くなった。


「戦争に乾杯だ!」


町々では昼間から男達が酒場に入って酒を飲み、夜になればそれ以上に酒を飲む。女性たちは今まで手を出せなかった装飾品に手を伸ばし、子供たちは新しいおもちゃを手に入れた。


戦時特需という言葉があるが、この状況はまさにそれだった。


ヴィクトリア王国の財務省関係者は一時的にでも増えた税収と書類の束に、嬉しい絶叫(ひめい)を挙げていた。


そんな財務省関係者を傍目に、俺は軍務省で各国の戦況を聞いていた。


「カステル王国軍は、既にフラクト王国の王都を包囲しました。戦力比は5対1と、カステル王国軍優位ですが、フラクト王国軍は交戦する構えを見せています」


「ミネルバ王国とザイリッツ王国の戦争ですが、ミネルバ王国軍がザイリッツ王国軍の逆襲に会い被害甚大。ザイリッツ王国軍は国境まで撤退しました」


各国の戦況は概ね予想通りのものだったが、中には全くの予想外となった戦闘もあり、それらの戦闘は軍務省で徹底的に分析され、新たな力となった。


「・・・・・以上ですべての報告を終わります」


「ご苦労様です」


報告を終えた職員が下がると、軍務省に作られた俺専用の執務室には、俺と軍務卿補佐官のエーリヒ、アーニャ、リーナ、イライザが残った。


「カステル王国とフラクト王国の戦争は、雪が降る前に終わりそうですな」


「ええ。しかし、他の戦争は終わらないでしょう。このまま無理やりにでも雪の中で戦うか。もしくは、春までの休戦でしょう」


「どちらにしても、我が国は潤います」


冬季攻勢となれば、防寒用の毛皮や薪等が大量に売れ、春まで延期となれば、維持するための食料が売れる。どちらにしろ、我が国に金が入ってくる。


俺とエーリヒは外部と隔絶されたら空間で、ゆったりとお茶を呑みながら、この後の情勢について話し合った。







リトシア王国 王宮


ヴィクトリア王国が好景気によって湧き、国民も政府関係者も喜びに沸いているとき、リトシア王国の貴族達が集まった王宮の会議室では、重苦しい空気が漂い、国王である高田 智也(たかだ ともや)は憂鬱な面持ちで席に腰かけていた。


「――以上で、税収報告を終わります」


紙の束を持って報告を行った貴族が口を閉じると同時に、今までおとなしく報告を聞いていた貴族たちがざわざわと騒ぎ出す。


「静まれ」


しかし、智也の声でざわめきはピタリと止んだ。


「ヴァーデン伯爵。財務大臣であるお前の意見が聞きたい。どうして、我が国の税収はここまで落ち込んでいる?」


貴族たちが騒いでいた理由は税収の低下。それも、戦前の3分の1に一気に低下したのだ。これは、併合した領地からの税収も合わせたものであり、貴族達はこの急降下ともいうべき低下具合の理由が気になって仕方なかったのだ。


ヴァーデン伯爵と呼ばれた貴族は、席から立ちあがると、厳かに説明を始めた。


「税収の急激な低下ですが、これは先の戦の傷が深いという理由がございます。皆さまご存知の通り、先の戦で、我が国は深く侵攻され、多くの町や村が略奪にあいました」


そこまで言うと、会議室の貴族たちの目線が軍務に就く貴族たちの向く。向けられた多数の目線に、軍務貴族たちは居心地の悪そうに俯いた。


「村そのものがなくなった地域からの税収は言うまでもなくゼロです。また、我が国では未だに元の場所に戻れぬ農民たちが町の周辺に留まり、治安は悪化の一途を辿っております。これにより、町での商業が悪化、町からの税収も減少しました」


ヴァーデン伯爵が戦争の爪痕を解説する度、貴族たちの目線は鋭くなり、軍務貴族たちはますます委縮した。


「併合地からの税収も滞り始めています。彼らは侵略者である我々に対し、激しい憎悪の感情を持っており、村々の反乱は日に日に多くなっています。主要な町には軍が治安維持として残っていますので抑えられていますが、不満は爆発寸前です」


「しかし、それだけでここまで落ち込むものなのか?」


鋭い視線の中、軍務貴族の一人が果敢にも反論した。


「どういうことでしょうか?」


「村や町からの税の回収が不可能になったことで低下したのはわかった。しかし、村や町からの税収が占める割合は、戦前でも半分以下ほどだった筈だ。それらがさら低下したからと言って、占領地を含めても、そこまで低下するとは考えられない」


その意見に、何人かの貴族は頷き、今度はヴァーデン伯に疑惑の目を向けた。


「そ、それは・・・・・」


ヴァーデン伯はその視線にたじろぎ、それによって、さらに多くの貴族たちが疑惑の目を向けた。


「ヴァーデン伯爵。正直に話せ。私は、税収が減少した理由は漏らさず知りたい」


躊躇う伯爵は国王である智也に言われて逆らえず、静かに話し始めた。


「戦前は我が国を訪れていたヴィクトリア商人の殆どが、戦後は我が国に訪れなくなりました」


ヴァーデン伯爵は税収が激減した本当の理由を話し始めた。


「理由はなんだ。ヴィクトリア王国の商人たちが、我が国に来なくなった理由は?」


「理由は、我が国の両側に立地する二国が関税を免除した状況で、我が国だけが関税をかけているからです」


ヴァーデン伯がそう言うと、殆どの帰属が渋い顔をした。ヴィクトリア王国が戦後会談で公平性を保つ為に行った事が、完全に裏目に出たからである。


「我が国との取引を中止した商人達は、自分たちに有利な商売が出来る二国へ流れ、我が国には訪れなくなりました」


「それでは、我が国も関税を免除すれば良いのではないか?」


智也の意見に何人かの貴族達は賛同した。関税を免除すれば、商人達が訪れ、物を買い、金を落としてくれるからだ。関税分が無くなるので、戦前に戻るとは言わないが、今よりは遥かにマシになると思われた。しかし、ヴァーデン伯は渋い顔をしたままであった。


「セルブラント王国に流れた商人達はそれで戻ってくるでしょう。しかし、ダリア王国へ流れた商人達は戻ってくるかどうか・・・・・」


「何故だ? 問題となっている関税を免除したのだから、戻ってくるだろう。彼等も、今までリトシアから買っっていた物を自国で再び売りたいはずだ」


「陛下。もう少し前であればそれも通用したでしょう。しかし、今となっては遅すぎたとしか言いようがありません」


「どういうことだ? 分かるように説明しろ」


智也の疑問に、ヴァ―デン伯は詳しい説明を始めた。


「陛下。我が国にヴィクトリア王国商人が訪れなくなったことで、買い手のつかなくなった商品は一気に値が下がりました。それらは、隣国のダリア王国の商人たちに買い叩かれ、ダリア王国でヴィクトリア王国商人達の手に渡り、船で大量にヴィクトリア王国で売られています」


ヴァ―デン伯爵が説明した様に、ヴィクトリア王国商人からの需要が無くなった商品は一気に値下がりした。そこに目をつけたヴィクトリア商人たちは、ダリア王国商人達へ依頼し、値下がりした商品を買い叩かせた。そうして、ダリア王国内に入ってきたリトシア王国の商品を大量に船に積み込み、ヴィクトリア王国に今までの値段で、直接卸すことにした。


値段が変わっていないため、商品は今まで通りに売れ、しかし、今までかかっていた経由国を合わせた数か国分の関税が無くなっているため、利益は二倍から三倍程に増しているらしい。


「それでは、関税を免除しても無駄ではないか」


智也ががっくりと肩を落とすのに、貴族たちも落胆のため息を吐いた。


「陛下。このままでは、我が国は復興すらままならなくなります」


「軍の再編成も出来ていません。今の状態では、事が起きた時に対処できたとしても、難しくなるでしょう」


金がなければ復興は進まず、復興が進まなければ金が入ってこない。自力ではどうにもならない状況に、智也と貴族達は頭を抱えるのだった。


「ともかく、商人の呼び戻しが先決だ。何とかして、彼等を呼び戻すのだ」


その後の会議では、いくつもの案が出されたが、どれもそれほどの効果は見込めず、会議は深夜遅くまで続き、朝日が昇る直前になって、ようやく閉会となった。


しかし、そこまでしても、良き案は出なかった

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