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報告会は踊らずⅡ

戦後会談から一月が経とうという頃、国内外の状況確認と北方遠征の報告の為、俺たち四人は、王宮の庭園に集まることになった。


「この茶会、恒例になりつつあるよな?」


「いいじゃないですか。堅苦しい会議室でやるよりも、美しい景色が眺められる庭園の方が」


「確かにな」


まだ来ない二人を待ちながら、俺と芳賀は雑談をしていた。普段は仕事が忙しく、会う事もない俺達は、久し振りの雑談に盛り上がった。


「ところで、トスカナ王国では派手にやったらしいな」


そんな中、芳賀が北方戦争での作戦を話題に挙げてきた。


「作戦でしたし、仕方の無いことです」


「お前のせいで、農務省は大忙しだよ」


「普段暇なようですし、丁度いいのではないですか?」


「言ってろ」


内容こそ険悪だが、俺達は二人共笑みを浮かべていた。お互い冗談だということを分かっているからだ。


「ところで、大型船の設計は順調ですか?」


「以前は言ってた奴だな?」


「ええ、その通りです」


俺がそう言うと、芳賀はニヤリと笑い、足元に置いてあった筒を手に取った。


「既に建造が始まってる。来年の春には、現在建造中の5隻が進水予定だ・・・・・これがその設計図だ」


芳賀は筒から設計図を取り出すと、俺に見えるように机へと広げた。


「これはっ!」


俺はその図面を見て驚愕した。


「オーケアニス型戦闘ガレオン船だ。全長56メートル、全幅14メートル。片舷12門、両舷合わせて24門の大砲を搭載している。また、艦首方向にも2門搭載している」


「これ程のもの既に建造中ですか・・・・・」


「研究開発局には、世界中の優秀な頭脳が集まっているからな。これ位の設計は雑作も無い」


芳賀は自慢げな顔をして、研究開発局の事を話し始めた。


「設置当時は、こちらから各分野の有名な奴らの所を訪れてスカウトを行っていたが、今ではあちらから雇ってくれって押しかけてきてる」


「大陸一設備が整った所ですからね。研究に没頭したい方達が殺到するのも頷けます」


「今じゃあ、元他国のお抱え研究者から、山里で隠遁してた研究者まで訪れる」


「人材確保は順調ですね・・・・・他に何か、問題は発生していませんか?」


「いや、今のところは何も無い。しかし、このまま行けば予算が足りなくなる可能性がある」


「そうですか。それなら、私から月島に言っておきましょう。なんなら、軍務省の方から幾分か予算を回しても良いですよ」


俺の提案に、芳賀が驚く。


「良いのか?」


「ええ。当分、大きな戦争は予定していませんから」


「そうか」


彼の表情が驚きから喜びの物へと変化した。それは、予算を回してもらえることだけでなく、当分の間戦争が起きない事を知ったからだろう。


「遅れたね」


「すまんな」


そんな時、遅れていた月島と小松がやって来た。二人は遅れたことを謝りつつ、自分の席へと腰掛ける。


「それじゃあ、報告会を始めようか。まずは、戦後の会談の結果から聞こう」


月島の言葉に他の二人も頷く。俺は、用意していた資料を配ってから、今回の成果を話し始めた。


「我が国が得たのは三つ。一つ、トスカナ王国の全領土。二つ、セルブラント王国、ダリア王国におけるヴィクトリア王国商人の活動の自由。三つ、セルブラント王国、ダリア王国におけるヴィクトリア王国商人への関税撤廃。以上です」


「ふむ、なかなかの成果ではないか?」


「そうだね。特に、市場の拡大と関税の免除は、財務省としても嬉しいよ」


満足のいく結果だったようで、二人は笑みを浮かべていた。


「それで、トスカナ王国はどう管理する?」


「そうですね。当分は軍を配置して治安維持を任せます」


「警務省も動き出してる。二週間後には、警備隊を送り込めるだろう」


「出来れば、警備はトスカナ王国の民自身に任せたいのですが・・・・・」


「それはなぜだ?」


俺の発言に小松が不満げな表情で質問してくる。


「考えてみてください。自分たちの村を焼き、困窮させた国の民が、我が物顔で町を歩き、自分たちを取り締まる」


どんなに取り繕おうとも、トスカナ人から見れば侵略者なのだ。たとえ、法に則った正しい逮捕だとしても、ヴィクトリア人が不当にトスカナ人を虐げているという間違った認識が芽生える可能性は捨てきれない。


「いい気はしないか・・・・・」


「下手をすれば暴動が起きます」


「それならば、元トスカナ王国軍の者たちを警備隊として流用しよう」


「それが良いでしょう。同じ国の者同士ならば、不満も幾分か和らぐでしょう」


不満を押さえつけながら治安維持をするよりも、ずっと良い方法である。


「しかし、乗ってくると思うかい?」


「流石に、自分たちの国の治安が悪化するのは嫌だろう」


「そうですね。嫌々でしょうが、やるでしょう」


侵略者に使われるのは気に食わないだろうが、彼等も治安が悪化し続けるのを望みはしないだろう。


「治安維持以外だけど、そこのところはどうしますか?」


治安維持の問題が一段落したことで、話はその他の事へと移った。


「そうだね。同化させて行く方針で良いんじゃないかな?」


「同化ですか?」


「法律、経済から初めて、文化、風習までゆっくりと同化させていこう」


同化政策。使い古されている手だが、古くから使われているのは、その手段が有効であるからだ。それに、一度完全に同化させてしまえば、将来起こり得る独立運動なども防ぐことができる。なぜなら、独立しようにも、独自の文化、風習、言語、その他諸々が無くなっているのだから。


「良いでしょう」


「そうなると、子供の教育にも手を入れるか?」


「そうですね」


「農業形態も同化させなきゃな」


「そこの細かいところは、各省で検討しよう。固まったものを次回話せば良いさ」


「それでは、次の話に移りましょう」


トスカナ王国の今後については、次の報告会に持ち越しとなった。次いで、国内状況の報告へと移った。


「初めに内務省からの報告だよ。カルディナ地方のインフラは順調に整いつつあるよ。それに加えて、港の整備、拡大も進めてる。次に財務省からの報告だけど、収入は年々向上してるってことくらいかな」


月島からの報告は、特に可も無く不可も無く、順調であるということが伺えるものだった。


「次に法務省からだが・・・・・何もない」


「「「は?」」」


小松の発言と同時に、俺達三人はズルッよいう表現がぴったりな勢いで態勢を崩した。一度貯めて、重要な発表でもあるかのような雰囲気を出した後の、何もない発言だ。気勢をそがれても仕方がない。そんな俺達に対し、小松は手を上げ、宥める様にしながら話を続けた。


「まぁ、聞いてくれ。最初の法整備の時点で、我が国の法律はかなり洗練された。その結果、やる事がなくなったんだ」


確かに我が国の法律は、統合後の整備によってかなり整えられていた。貴族たちが民を苦しめることがない様に――しかし、民が貴族たちを侮らない程度の塩梅で――整えている。その結果、我が国は他の国よりも住みよい国となっていた。


「そういう事なら、良いのでは無いですか?」


「そうだね。怠慢ではなかった訳だしね」


「それじゃあ、次に移ろうぜ」


小松がさぼっていた訳ではないことが分かり、俺達は次の話へと移行した。


「農務省からの報告だが、農村が増加していることだけだな」


芳賀の話では、去年から開拓民を募集し、未開の土地に送る事を始めたらしい。街で仕事に就けない者、畑を継げなかった農家の次男三男等、そういう者達が主になっているらしい。彼等は未開の土地を開拓し、新しい村を作り、新たな生活を築いているという。


「素晴らしい事ですね。今後の税収増加も期待できるでしょうし、食料生産率の増加も期待できます」


「そうだな。それで、研究開発局の方は、何かないのか?」


小松の質問に、芳賀は困ったような顔をした。


「あるにはあるんだが・・・・・」


「どうしたのかな?」


芳賀の態度を不審に思った月島が問いかける。


「多すぎて報告できない。渡した資料に纏めたから、各自で目を通してくれ」


そう言うと、芳賀は手元に置いてある資料を配布した。各自に渡された資料は十枚ほどあり、そのどれもが文字で埋め尽くされていた。


「オーケアニネス型戦闘ガレオン船に大砲。火薬にパイク」


「石鹸、植物油、ガラスに絵の具」


「新型農耕具、数学理論、科学理論、戦術理論?」


ものすごい数の発明品であった。説明や詳細等は一切書かれておらず、ただ品名だけが書かれた状態の十枚である。いったい、どれだけの数の発明品が記載されているのか、想像もつかなかった。


「今渡したのは正式採用されて、生産が始まっているものだけだ。不採用を含めたら、紙束を運ぶのにカバンが必要になる」


もはや言葉が出なかった。俺たち三人は、研究開発局の働きに、口を開いたまま唖然とした。


「素晴らしい働きだね」


そんな中、いち早く復帰した月島が、研究開発局の働きを褒めた。


「ええ、これだけの働きをしてくれるのであれば、予算を回す甲斐もあるというものです」


「予算を回す?」


「ええ。研究費が不足しているとの事でしたので、軍務省から幾らかの予算を回そうかと・・・・・当分は戦争をする予定もないですから」


月島が聞いてきた為に、俺は後で話そうと思っていた話した。


「そうか。此方も反対する理由もないし、調整しておくよ」


「助かります」


思った通りの快諾であった。


「それで、どれくらいの予算を回す?」


「そうですね・・・・・現在の規模の国軍を維持できる予算を残して、残りは回してください」


「本当にいいのかい?」


「構いません」


俺と月島の対話はこれで終わった。


「終わったか。それなら、次は軍務省からの報告を頼む」


俺は小松の言葉に頷くと、用意していた資料を配り、話を始めた。


「まずは国軍の規模ですが、歩兵、弓兵、騎兵、砲兵の各兵種を合わせて15,000で一軍団を構成しています。そして、我が国はこの軍団を六つ編成しています」


「もう砲兵を編成したのかい?」


「はい。大砲の有用性は、先の遠征で実証されましたから。ただし、車輪付砲架が発明されていないので、運用方法と運搬手段を変えています」


今の所、車輪付砲架は発明されていない。そのため、現在は大砲を馬車に乗せて運び、戦場で土台を作り、それに設置して使用している。


「次に各軍団の配置ですが、第二軍は北、第三軍は南、第四軍は西、第五軍は東の国境に配備しています」


「第一軍と第六軍は何処に?」


「第一軍は王都近郊に配置しています。第六軍は、北方遠征軍が引き上げた旧トスカナ王国領に配置し、治安維持に従事しています」


「旧トスカナ王国領で警備隊が活動を開始した後、第六軍はどうするんだ?」


「私の判断で、どこかに配置します」


「その時の状況によりけり、って事だね?」


「そうなります」


他に質問がない様だったので、俺は次の話へと移る。


「次に外務省からの報告です。大使館からの情報によれば、周辺国の間で緊張が高まりつつあるとのことです」


「つまり、周辺で戦争が起こる可能性があると?」


「そういう事になります。わが国の拡大に焦りを覚えたのか、各国も領土拡大を狙っているようです」


「こちらに来る可能性は?」


「無いとは言い切れませんが、可能性は比較的低いかと」


「それは何故だい?」


「我が国を狙うよりも、その他の小国を狙った方がリスクが少ないからです」


「連合を組んで、襲ってくる可能性はないのか?」


「現在は、その可能性は低いでしょう。我が国は広大ですし、それに見合う軍も保持しています。我が国に攻め込めば、連合を組んだ国に甚大な被害が出ますし、それを第三国に狙われる可能性も出てきますから」


「北方三国も黙っちゃいないだろうしな」


「ええ。それに、貿易によって生み出される利益の方が、戦争で獲得できる利益より大きい現在、利に聡い者なら手出しはしてこないでしょう」


「それだけ理由があれば、攻めてくる可能性も低いね」


北方遠征は、3カ国とのパイプ構築にも役立っていた。


「それじゃあ、周辺で戦争が起こったときは、どうするんだい?」


「大使館を通じて、関係各国に中立を通達することになっています」


「介入はしないと?」


「今やるべきなのは国内の安定化と発展です。飛び地の管理もしなくてはならない今、他の国の揉め事に介入する暇はありません」


「それもそうだね」


「周辺国の諍いには介入しないとして、他に報告はないか?」


「そう言えば、各国から同盟の話が続々と来ています」


小松に質問され、俺は最近各国からもたらされる同盟要請について思い出した。


「乗るのかい?」


「幾つかは受けても良いかと?」


「理由は?」


「今までの侵略で、我が国は他国から危険視されています。北方三カ国以外にも、幾つか味方を増やしておいたほうがいいでしょう。このままでは将来、対ヴィクトリア連合なるものが出来てしまいかねませんから」


事実として、各国は我が国に対してかなりの警戒をしている。今はこちらに攻めて来れないからと言って、将来も来れないとは限らない。いや、寧ろ将来的には攻めてくる可能性が高いだろう。それを防ぐためにも、味方は幾つか作っておいた方が良い。


「そうか。俺に異存はないから、そちらで適当にやってくれ」


「同じくかな」


「こちらも同じだ」


「分かりました。それでは、同盟国の選定は、外務省の独断で選ばせて頂きます」


三人の賛同を得られた俺は、頭の中にいくつかの国をリストアップする。既に選定は済んでいる。後は、外務省を通じて通達するだけであった。


「これで報告は終わりですが、他に何かありませんか?」


俺は三人に対して、言い忘れた事や付け足しがないかを確認した。


「無いね」


「無い」


「無いぜ」


しかし、三人は首を振りながら、何も無い事を告げた。


「そうですか。それでは、報告会はこれで終了です」


俺の言葉で、報告会は終了となった。その後、俺達は茶を飲み、お菓子をつまみながら、雑談を楽しんだ。





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