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北方遠征

遅れてすみません。次回は遅れない様に頑張ります

大陸北方、トスカナ王国国境地帯の街。


「くそ!また負けた」


テーブルに載せられた硬貨が、あちら側に回収される。


「また俺の勝ちだな。もう一度やるか?」


俺から金を巻き上げた張本人である同僚が、ニヤニヤしながら言ってきた。


「いや、やめておく。これ以上とられたら、今夜の酒代が消えちまう」


「そうか・・・・・ところで、あの話聞いたか?」


同僚が賭け事の道具を片付けながら、唐突に聞いてきた。あの話。いったい何のことだろうか?


「聞いてないのか。もうすぐ、戦争が終結するって話だ」


「ああ、その話か。その話なら俺も聞いたよ」


「ようやく終戦だぜ。長かったよな」


「まったくだ。三ヶ国のやつら、予想以上に粘ったって上司が愚痴ってたぜ」


 現在俺たちの国が行っている北方戦争。長引いた戦争も、ようやく勝利を収められるようだ。そう思っていたとき、部屋の扉が開き、上司が怒鳴り込んできた。


「貴様ら何をしている!さっさと警備につかんか!」


「「申し訳ございません。今すぐ警備の任につきます!」」


 俺と同僚は飛び跳ねるように直立し、敬礼をすると、あわてて身支度を整え、警備の場所へと向かった。外壁に上がった俺たちは、街の外に目を向け、異常がないか探した。しかし、見えるのは人と畑と道のみ。何も異常は見られなかった。


「異常なしだな」


「こんな僻地で異常が起こるほうが珍しいぜ」


 確かにそうだ。ここ数年、街を騒がすことは起きていない。戦争が始まった、といわれたときは騒いだが、勝利を重ね、前線が遠くなるにしたがって、騒ぎは沈静化した。盗賊だって、このような壁を持った街には攻めてこない。


「平和だな」


「戦争してるのに平和とは、皮肉か?」


「ちげぇよ。こんなに何もないと、自然と口から漏れちまうんだよ」


「確かに、こんなに何もないと、戦争してるのを忘れて、そう言っちまうのも無理ないわな」


俺の言ったことに同意した同僚は、そのまま大きな欠伸をした。


「早く終わらせて、酒でも飲みたいぜ」


 まったく持って、その通りだと思った。こんな退屈な任務など、早々に終わらせて、街の酒場で飲みたいものだ。しかし、決められた時間まで持ち場を離れることはできない。俺と同僚は、うんざりしながら街の外を見張り続けた。


「なぁ、向こうから一騎走ってくるんだけど、見えるか?」


俺がぼんやりと見張りをしていると、同僚がそんなことを言った。


「どこだよ?」


「あそこだよ。まっすぐ向かってくるだろ」


俺は同僚の指差す方向に目を凝らした。確かに、一騎こちらに向かってくる。見たところ兵士のようだ。


「どうせ、連絡用の兵士だろ」


「出迎えるか?」


「ああ、そうした方がいいだろ」


 俺達は外壁から下りようと、階段に向かった。しかし、その一騎は街まで来ず、街が確認できる位置で止まった。不思議に思ってそのまましばらく見ていると、騎馬は少しの間その場にとどまった後、踵を返して戻っていった。不思議に思ったが、なにか理由があるのだろうと思った俺達は気にせず、外壁からの警備に戻った。

警備交代の時刻になって、ようやく仕事が終わった俺達は、兵舎で酒を飲んでいた。


「それにしても、昼間の騎馬は何だったんだ?途中で引き返していきやがって」


同僚が愚痴るように言った。正直俺も愚痴りたい気分だった。


「確かに、いったい何だっ――」


「貴様ら!警備が終わったのなら報告に来んか!」


 突然扉が開き、昼間と同じように隊長が怒鳴り込んで来た。一瞬で酔いが覚めた俺達は再び、飛び上がるように直立し、敬礼した。


「「ハッ!申し訳ありません」」


「うむ。それでは報告を聞こう」


 隊長は俺達が座っていた椅子に腰掛けると、グラスに酒を注ぎ、一気に空けた。それを見た俺は、文句を言いそうになったが、隊長に睨まれてので、しぶしぶ諦めた。


「本日も何も異常ありませんでした。」


「敵兵はもちろん、盗賊の影すら見えません」


「よろしい。ご苦労だった。次の警備交代は早朝だ。それまで休むがいい」


報告を聞いた隊長は俺達に労いの言葉をかけると、もう一杯酒を飲み、部屋を出ていこうとした。


「隊長。聞きたいことがございます」


「何だ?」


しかし、同僚が呼び止めたことで、隊長は再びこちらを向いた。聞きたいこととはいったいなんだろうか?


「本日、連絡用の騎兵が到着する予定はありましたでしょうか?」


「いや、無かったはずだ。それがどうした。」


「はい。実は、警備中に・・・・・」


 同僚は昼間見た騎馬のことを話し出した。同僚の話が進むにつれて隊長の表情がにこやかなものに変化していく。


「・・・・・・、という事です。不思議に思いまして、隊長が何か知っておられるならお聞かせ願いたいのですが」


同僚が話し終わると、隊長は一つ頷き、にこやかな笑顔で同僚を褒めた。


「素晴らしい。些細なことだが、疑問に思い質問する。その行動が、後に起こるかもしれない事件を未然に防ぐのだ。貴様には感心したぞ」


「ハッ!有難うございます。それで、騎馬のことですが・・・・・」


「おお!そうだったな。私も詳しくは知らんが、恐らく貴様の言ったような連絡用のものだろう。一応、私の方から上に言って、今夜の警備を増やしてもらう」


 隊長はそう言うと、上機嫌のまま部屋を出ていった。俺達はその後、酒場に行って安酒を飲み、そのまま兵舎に戻って眠りに着いた。

その夜は何も起きず、静かに過ぎ去った。


翌日の早朝。まだ朝日も上りきらぬ内から、俺達は街壁に登った。


「交代の時間だ。昨夜は何も起きなかったか?」


俺は、夜の間に警備をしていた仲間に声をかけた。同僚は眠そうな顔をしながらも、しっかりとした声で異常が無かったことを告げてきた。


「そうか。後の事は俺達に任せて、ゆっくりと休んでくれ」


仲間が階段を下りていくのを見送った俺達は、街に視線を向けた。早朝という事もあって街に人気は少ない。


「気持ちがいいな」


同僚の口から言葉がこぼれた。俺は一つ伸びをすると、同僚の言葉に頷き、同意した。


「まったくだ。いい一日になりそうだな」


「そうなるといいな」


「さて、そろそろ警備をしないとな」


 俺はそういうと。壁の外に目を向けた。外の世界は静かだった。動く物はなく、全てが静止していた。昇る朝日に照らされた野原は煌めき、一枚の名画を見ているようだった。


「ん~~?」


そんな美しい風景に見とれていた時、隣に居る同僚が声を上げた。


「どうした?昨日に引き続き、また何か見つけたか?」


「いや、地平線が揺らいだ気がして」


 同僚が目をこすりながら、指をさして、その方向を伝えてきた。俺は、何を馬鹿な事をと思い、同僚が指さす方向を見た。眼を凝らすと、僅かに地平線が揺らめいている。俺は自分の眼をこすった。揺らめきは消えない。

暫くすると、その揺らめきは、大勢の人の集団だという事が分かった。


「おい、何だあの集団は!?」


 俺は同僚に尋ねた。しかし、同僚も分からないらしく、首を横に振った。さらにしばらく経つと、彼等の姿がはっきり見えるようになった。彼等は鎧を着ており、剣や槍、弓などで武装していた。ここまでくれば、彼等が野盗の集団ではなく、兵隊であることが分かった。何故なら、野盗にしては数が多いし、装備も整っているからだ。問題は、彼等が敵か味方かだ。

 俺が判断に迷っていると、集団の中に旗が見えた。旗は、朝風に吹かれ、垂れることなく翻っていた。そして、それを見た俺達は凍り付いた。


「ヴィ、ヴィクトリア王国」


 同僚のかすれた声が、俺の耳に聞こえた。旗に描かれていたのは、多頭の黒蛇。そして、同じく旗に描かれた三つの大陸の上に、どっしりととぐろを巻いていた。まるで、大陸は自分のものだと主張するかの様に。

そうこうしている間にも、敵軍は徐々に、街へと押し寄せてきていた。


「おい、しっかりしろ。鐘を鳴らすんだ」


 俺は肩を揺さぶられ、呆然とした状態から覚醒した。そして、急いで鐘のところまで駆けていくと、敵襲を知らせる鐘を鳴らした。

街は一気に騒がしくなった。住民達は家に戻り、兵士達が逆に飛び出してきた。街の門は固く閉ざされ、防衛のために兵士が待機する。街壁の上にも仲間達が駆けつけ、弓を持ち矢をつがえた。敵軍は最早目前であった。俺は流れる冷や汗を拭うと、仲間達と同じように弓を持ち矢をつがえた。

遂に敵軍が矢の射程に入るという時、敵軍が停止した。そして、一騎の騎馬が進み出てきた。


「降伏せよ。貴様らに勝ち目はない。大人しく武装を解除し、街を明け渡すといのなら命は保証しよう。返答はいかに?」


 全員が降伏勧告に騒ぎ出す。見たところ敵の数は6,000程。こちらの数は300にも満たない。ここで降伏すれば命は助かる。全員が迷っていた。そんな時、一本の矢が街壁の上から飛び、騎馬の足元に突き刺さった。


「降伏なんかするか!俺は断固として戦うぞ!」


 仲間のひとりが矢を放ち、全員に聞こえる声で言った。そして、それに続く形で周りからも、俺達も戦うぞ、という声が上がった。


「よろしい。ならば戦うのみ」


騎馬はそう言い残して、自軍の方へと戻っていった。そして、敵軍が再び前身を開始する。


「目標、敵前列。弓構えーー!」


指揮官の言葉で、俺達は一斉に弓を構える。


「放てーー!」


放たれた矢は、狙い通り敵軍の前列に突き刺さり、敵兵が何人か倒れた。


「こうなったら、一人でも多く道連れにしてやる」


 俺はそう言って同僚の方に笑った。同僚も同じ気持ちらしく、ふてぶてしい笑顔でこちらに答えてくれた。今日は最悪の一日になりそうだった。







降伏勧告をしに行った使者が戻ってきた。どうやら降伏はしないようだ。


「リーナ。お茶を淹れてください」


「畏まりました」


これからするであろう鉄錆の香りに、俺の気分は重くなった。


「素直に降伏すれば死なずに済んだのですが・・・・・」


 俺がそう呟いたその時、我が軍の戦列が全身を再開する。歩兵が盾を構え、その後ろに隠れる様に、弓兵が前進する。


「放てーー!」


 敵の街壁から矢が飛んできた。矢は放物線を描き、我が軍の前列にパラパラと降り注ぐ。盾を構えていたおかげで、殆どが倒れなかった。弓隊が射撃位置に付く。今度はこちらの番である。


「狙えーーーー!」


一糸乱れぬ動きで弓が構えられる。


「放てーーーー!!」


 指揮官の号令で、構えられた弓から一斉に矢が飛んで行った。空が一瞬陰るほどの量が放物線を描き、敵の頭上に降り注いだ。


「第二射よーい!放てーーーーー!」


 そして、間髪おかず、第二射が放たれる。この、たった二回の攻撃によって、街壁の上からの攻撃は沈黙した。あっけないものである。


「梯子を掛けろ!破城槌は待機」


街壁に梯子が取り付けられ、歩兵が次々と突入していく。そして響く怒号と悲鳴。


「まったく、これでは弱い者いじめですね」


 俺は誰に言うでもなく呟く。しかし、戦争とはそういうものだ。敵よりも多勢で攻め、踏みつぶす。弱者や少数が勝つなど極々稀でしかない。


「お茶が入りました~」


リーナがお茶を運んできた。カップに注がれたものを一口飲むと、柑橘系の香りが鼻を抜ける。


「いい香りですね」


俺はそういうと、もう一口飲もうとした。しかし、その行動は突然やって来た兵士によって妨害された。


「陛下。戦闘が終了しましたので、これより報告と軍議を行います。司令部用の天幕までお越しください」


「分かりました。直ぐにいくと、将軍たちに伝えなさい」


「ハッ!失礼いたします」








「我が軍の損害は軽微、今後の行動にも支障ありません」


「街の中の敵は全て掃討。何人かは捕縛いたしました」


俺は司令部用の天幕で、遠征軍の指揮官たちと一緒に報告を聞いていた。


「了解した。下がっていいぞ」


「ハッ!失礼いたします」


 報告を終えた兵士は一礼して、天幕から出て行った。それを見届けた俺は、今回の遠征軍を指揮する将軍の方を向き、今回の戦闘を称えた。


「クレイグ将軍。先程の戦い、お見事でした」


「ハッ!これからも陛下の為、祖国の為、一層努力いたします」


「期待しています」


クレイグ・ローランド。北方遠征第一軍を指揮する将軍である。


「それでは、今後の作戦について説明いたします」


クレイグ将軍は指揮棒を手に、机に置かれた地図をさした。


「我が軍はトスカナ王国国境に存在する街を陥落させました。今後は此処を拠点とし、後方攪乱(こうほうかくらん)及び、補給路の遮断を行います」


「ここ以外の街はどうするのですか?」


「無視いたします。占領したとしても、維持することが困難になりますので」


「分かりました。それで、第二軍の方はどうなっていますか」


作戦概要を聞いた俺は、もう一方の遠征軍の事を尋ねた。


「ハッ!第二軍は一週間ほど前にリトシア王国へ到着。現在、三ヶ国軍と共同で前線の維持に努めているとのことです」


 今回の戦争では、二つの軍がそれぞれ動いていた。後方に進出し、攪乱と補給路の遮断を行う第一軍、リトシアが降伏しない様に前線の維持と押し上げを行う第二軍の二つである。


「編成はどのようになっていますか?」


「第二軍は、歩兵15,000、弓兵8,000、軽騎兵3,000、重騎兵1,500、となっております。そして、我が第一軍は、歩兵1,000、弓兵500、軽騎兵4,500となっております」


「ありがとうございます。味方と敵の数は分かりますか?」


「おおよそですが、敵軍は約30,000。味方が約5,000。兵種ごとの細かい事は分かっておりません」


「本当に、ギリギリのところで間に合ったようですね」


思わずため息が出てしまうような状況だった。


「それでは、明日より作戦を開始しなさい。前線で戦う第二軍の負担を軽くせねばなりません」


「「「了解いたしました」」」


 天幕に居た全員が俺に対して敬礼をする。俺はそれに頷きで返すと、天幕を後にした。風に運ばれたのか、街から離れたここにも、血の香りが漂っていた。


「嗅がなくても良い香りだったのですが、残念です」


俺は顔を顰めながら、自分の天幕へと戻った。



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