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リトシア王国の選択

「国王陛下。ヴィクトリア王国の大使が謁見を求めておりますが、いかがいたしましょう?」


北方にある王国、リトシア王国。その国王である俺は現在、多忙の中にあった。


「後にしろ。今は会っている余裕などない」


 俺の国は今、滅ぶか生き残るかの瀬戸際に立っている。隣国、アンゼルム王国との間に起こった戦争は、今や周辺国を巻き込んだ大戦争に発展していた。最初は、密かに同盟を結んでいたニ国家と力を合わせ、早期に勝利を収める予定だった。しかし、バイエル王国、シュレビヒト王国、トスカナ王国の三ヶ国が彼の国に協力したせいで計画は破綻。現在では各地の戦線で軍が敗北し、戦線は押し込まれているといった状況になっている。


「ですが陛下。大使は、この戦争にかかわるお話だと申しております」


「なに?」


 俺は知らせを伝えに来た執事に聞き返した。この戦争にかかわる話。それが何かは分からないが、今すぐ知る必要がある。


「よし、今すぐ大使に会おう」


「承知いたしました。直ぐにお伝えします」


そう言うと、執事は部屋から出て行った。


暫くすると、執事が大使を連れて戻ってきた。大使は部屋に入って来るなり恭しくお辞儀推した。


「この度は急な謁見を受けて下さり――」


俺は大使の口上を手を挙げて制すると、本題を話すように言った。


「前置きは結構。さっそく本題に入って頂きたい。此方は時間に追われている身なのでな」


 俺がそう言うと、大使は少し顔をしかめた。前置きを省いたことを気にしているのだろうが、あいにく此方には時間がないのだ。この瞬間にも、敵軍はこの王都へと進軍を続けている。省けるところは省かねばならないのだ。


「今回伺ったのは、本国から届いた提案を伝える為です」


「提案?」


「はい。我が国は貴国が行っている戦争への介入を決定いたしました」


「それは本当か!?」


 俺は大使の言葉を聞いた瞬間に、椅子から立ち上がってしまった。ヴィクトリア王国、彼の国がこの戦争に介入する。こちら側で参加するのであれば問題はない。この行き詰った状況を打開し、戦争に勝利することも可能だろう。だが、もし敵側に参加されでもしたら、わが国は直ぐに滅んでしまう。


「それで、どちら側で参戦されるのだろうか?」


 俺は期待と不安が入り乱れた感情で、大使に質問をした。しかし、大使は俺の言葉を聞いて、困惑した表情を浮かべた。


「参戦?何を言っておられるのですか?」


その言葉お聞き、今度は俺が困惑した。


「介入するのであろう?」


「はい。ですが参戦は致しません」


「どういう事だ?」


大使の言葉に、俺の頭は混乱した。そんな俺に対して、大使は何かに思い至ったのか、口を開いた。


「言葉が足りませんでした。我が国は、貴国に武器と食料を提供いたします。無償ではありませんので、そこの所はお間違えなく」


その言葉で、俺の混乱は解けた。


「武器と食料の提供ですか。ありがたいですが、見返りは何でしょうか?」


 敵についての参戦では無かったことに安堵したが、この状況を劇的に変える事でもなかったことで、若干失望もした。


「支払いは通貨で行う様にと、本国は言っております。そうでないならば、換金しても価値の高いものをとのことです」


大使の言葉はなかなかに厳しい内容だった。


「支払いは通貨か・・・・・」


「はい。失礼ですが貴国の状況を鑑みるに、戦後に支払うと約束されても信用できませんので」


「はっきりと言ってくれるな」


 俺は大使を睨め付けながらそう言った。しかし、大使の言葉には俺も納得していた。敗戦確実と思われる国が戦後に支払うと言っても、信用されないのは当然である。なぜなら、その国が戦後存在しない可能性もあるのだから。あったとしても、敗戦してボロボロにいなった国が借金を返済するのは長い年月がかかる。


「それで、返答は何時まですればいい?」


「そうですな。こちらとしては何時でも良いですが・・・」


「わかった。出来るだけ早く返答する。今日の所は帰られよ」


「それでは失礼します」


 大使は恭しくお辞儀すると、すたすたと部屋から出て行った。俺は大使が出て行ったのを確認すると大きくため息を吐いた。


「武器と食料は欲しい。だが、金がない」


 我が国の貯えは既に、底をつきかけていた。金になるものは既に売却し、出来た金は武器、食料、医薬品を買うのに使ってしまった。もはや我が国に金になるようなものはない。


「いったいどうしたものか・・・・・」


俺は窓の外を見ながら思案に暮れた。そして閃いた。


「しかし、これは道徳に反するのではないだろうか?」


俺はやるべきか悩んだ。しかし、これをやらねば国が亡ぶ、そう思った俺は決断を下した。


「今すぐ貴族たちを呼べ。それと、大使に明日の午前に来るように伝えろ」


 侍従はお辞儀をすると、貴族たちに俺の言葉を伝えるべく部屋を出て行った。俺は席に向かいやりかけの仕事に手を付けた。もはや時間を無駄にする余裕はないのだ。







ヴィクトリア王国の王都、その中心部に聳える王宮の中庭では二回目の茶会が開かれていた。


「それじゃあ、お茶会を始めようか」


月島の言葉で、茶会が始まる。


「お茶会はいいですね」


俺がそう言うと、小松が口を開いた。


「お茶もいいが、正直俺はコーヒーの方がいい」


「俺も同じかな」


月島も小松の言葉に賛同を示した。


「コーヒーですか。こう言っては何ですが、コーヒーの何が良いのか、私にはわかりません」


 元の世界ではコーヒーを美味そうに飲む同級生をよく見かけたが、俺にはコーヒーの良さがまったくわからなかった。あの苦さ、あの香り、全てが俺には合わなかった。唯一呑めたのは、ほとんどの人が甘すぎて飲めないと言った缶コーヒーだけだった。


「それを言ったら、お茶の何が良いのかという話になるぞ」


「そうだな。それぞれ良さがあるという事でいいだろ」


「それもそうですね」


話は前回と同じように雑談から入り、和やかな雰囲気で進んでいく。


「ところで、戦勝おめでとう」


そんな中で、突然月島が祝いの言葉を送ってきた。


「ありがとうございます。ですが、今回の勝利は国の勝利です」


「謙遜するな。今回の勝利は国軍の、ひいてはお前の手柄だ」


「そうだぜ。謙遜することは無いな」


小松と芳賀がそう言って、俺の事を祝ってくれた。俺は素直にその言葉を受け取った。


「それで、それぞれこれからどうします?」


俺は三人の行動予定を確認すべく口を開いた。


「そうだね。内務省は依然言った通りインフラの強化、街の整備を行う予定だよ」


「警察省は警備隊を併合地の各地に配置する。法務省では、併合地に我が国の法を適用する準備を進めている」


「農務省は併合地の農業を我が国と同じ水準まで引き上げるべく動いてる。研究開発局は人材集めと技術研究を進めていく」


月島、小松、芳賀がそれぞれの行動を示した。


「外務省は大使館を通じて、各国の情報を収集します。また、海路が手に入ったので他大陸の国家にも大使館を設立する予定です。軍務省は各方面に配置している部隊を増強します」


俺も三人に対しこれからの行動を宣言した。それぞれが伝えるべきことを伝えたので、話は再び雑談になった。


「そう言えば、北方戦争には介入するのか?」


小松がお茶を飲みつつ質問をしてきた。


「帰国した日に月島と話しましたが、軍事介入はしない事にしました。その代わり、各国に武器や食料を売りつけて稼がせて頂くことにしました」


俺は小松の質問に、にこやかに答えた。


「既に各国から返答が来ています」


「それで、どんな返答が来てるんだ?」


芳賀は興味を惹かれたようであった。


「戦況が苦しい三ヶ国からは快諾する旨と感謝の言葉が、有利な四ヶ国からは丁重な断りの言葉が来ています」


「ふ〜ん。意外だね。四ヶ国側も快諾すると思っていたんだけど・・・・・」


 月島は不思議そうに、首をかしげていた。俺も最初は意外であった。しかし、断る理由を考えた時、納得した。


「おそらくですが、戦後の利権争いから我が国を除くためでしょう」


彼らは武器と食料提供の代金の代わりに、我が国が戦後の各種利権を要求すると考えたのだろう。


「そうなると、あまり儲けは出ないか?」


「まぁ、三ヶ国側から搾り取れるだけ搾り取ることで良しとしようよ」


「そうですね」


 俺達はそう言って、乾いた口をお茶で潤した。予定していたよりも収入は少なくなりそうだが、もともと臨時収入程度に考えていたことだ。そう気落ちすることもない。


「ところで、研究開発局にお願いしたい事があるのですが・・・・・」


俺は話題を変え、芳賀に話しかけた。


「何だ?」


「大砲開発の進み具合を教えて下さい。それと、新しく研究してほしいことが出来ました」


 今回の戦争ではそれらしい攻城戦は無かったが、これからも無いとは言い切れない。むしろ、世界統一の過程で起こる争いで、数えきれないくらい起こるだろう。それを考えると、大砲は早めに手に入れておきたい。


「大砲については試作品がようやく完成したぜ。ただ、強度に問題があるようで、十発以上撃つと壊れちまう」


 芳賀はため息を吐きながらそう言った。彼の様子から開発は思わしくないと伺える。


「ついでに聞きますが、素材は青銅ですよね?」


俺は何気なくそう言った。しかし、芳賀の表情はキョトンとしたものに変わった。


「いや、鉄だけど」


それを聞いていた俺は、大切な事を伝えていなかった事に気付いた。


「次に作る時は青銅で造ってください。恐らく成功するでしょう」


「なぜそう思う」


「元の世界に居た時に、大砲関連の事を調べたのですが、その時に見かけたのです」

 

 俺は砲の歴史について調べたことを思い返した。あの時は、大砲の素材に青銅が使われていたことを知って、驚いた。青銅なんてものは、鉄製の武器が出来たことで使われなくなったと思っていたからだ。


「そうか。それなら次は青銅を使う事にする。それで、新しく研究してほしい事は何だ?」


「大型の帆船の研究をお願いします」


「必要なのか?趣味ですなんて言ったら殴るぞ」


「今後、遠洋に出る為に必要です。それに、大砲が実戦配備されたときに、最初に配備されるのは海軍ですから」


 我が国はついに海を手に入れた。その海を使い、他大陸に進出するには強力な海軍力が必要だ。そん第一歩は大砲を搭載した大型帆船の実装である。


「どれくらいの大きさのものを造れるようになればいい?」


芳賀の質問に、俺はお茶を口に運びつつ答えた。


「最初は片舷六門、最終的にはその十倍の数を乗せられる船を造れるようにしてください」


俺の言葉を聞いた芳賀が驚いたような顔をした。


「その規模になるとかなり時間がかかるぞ」


「構いません。海を越えての侵攻はこの大陸を制覇してからです。時間は沢山ありますよ」


「了解した」


俺と芳賀の会話が終わったその時、リーナが中庭に現れた。そして、迷うことなく俺の所に歩いてきた。


「どうしました?」


俺は一回目と重なる光景に嫌な予感を覚えつつ、リーナに問いかけた。


「お茶会の最中に申し訳ございません。リトシア王国から武器と食料の代金が送られてまいりました」


俺はリーナの言葉に安堵を感じた。どうやら、嫌な予感は本当に、ただの予感だったようだ。


「そうですか。ですが今すぐ報告しなければならない事ですか?」


俺がそう言うと、彼女は口を開いたり閉じたりし始めた。どうやら何かを伝えよか悩んでいるようだ。


「どうしたのですか。何か問題でもありましたか?」


俺がそう言うと、彼女は躊躇いながら、話を切り出した。


「それが・・・送られてきたのは通貨や宝物ではなかったのです」


「リトシア王国が我々を騙したという事ですか?」


俺の発言に場の空気が変わった。


「いえ、そう言う訳ではないようです」


場の空気が元に戻る。しかし、俺は先程から要領を得ないリーナの話に、僅かな苛立ちを覚えた。


「ではどうしたと言うのですか?はっきりと言ってください」


俺が言葉に多少の怒気をにじませて言うと、彼女は慌てて答えた。


「そらが、送られてきたのは女性でして・・・・・」


「女性ですか?」


「はい。それも貴族のご令嬢です」


 俺は静かに席を立った。どうやら、先程の悪い予感は外れていなかったようだ。俺は問題の現場へと向かうべく、リーナを引き連れて歩き始めた。



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