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モンスター退治

 ヴィクトリア王国とカルディナ王国の戦争は、ヴィクトリア王国の勝利という形で幕を閉じた。これにより、王国は海洋進出の拠点と、海洋貿易により生み出される、莫大な利益を手に入れることになった。この二国間の戦争は、開戦から一ヶ月で決着がついた。しかし、北方での戦争は、未だに集結していなかった。


「それで、どんな感じなんだい?」


カルディナ王国王宮から帰国した俺は、月島から出迎えを受けた後、彼の私室で話をしていた。


「どんな感じとは?」


俺は、あえて質問をした。


「とぼける気かい?大陸北方で起きた戦争の事だよ」


「もう少しゆっくりしませんか?こちらは帰国したばかりなのですが」


俺は、侍女に入れてもらったお茶を口に運びながら言った。柑橘系の物だろうか。とてもいい香りがする。


「あちらの王宮や帰りの馬車の中で散々休んでたろ?」


「王宮では休めましたよ。ですが、帰りの馬車の中では全く休めませんでしたよ」


 馬車は快適とは程遠い乗り物だ。クッションになるものを敷かなければ尻が痛くなるし、荒れ地ではかなり揺れて気分が悪くなるし、室内の気温は、季節やその日の天候に左右される。元の世界の自動車を恋しくさせる乗り物だ。


「それは大変だったね」


月島はニヤニヤしながらこちらを見ている。彼も一度、馬車での長旅をするべきである。


「それに、希さんが一緒の馬車に乗っていたのです。これ以上ない位、気まずい雰囲気でした」


 帰りの馬車には、敗戦国の元女王、未来 希が一緒に乗っていた。なぜ、彼女が乗っているかというと、貴族たちの嫌がらせに合わせないためである。当初は、貴族たちと同じ馬車に乗るはずだったが、貴族の中に敗戦の責任は彼女にあるとして、彼女を憎んでいる者が半数ほどいたのだ。そのため、急遽彼女を貴族たちとは別の馬車に乗せることになったのだが、彼女を乗せる馬車が無かったのだ。いや、あったにはあったのだが、最下級でぼろぼろな代物で、元とは言え女王を乗せるには相応しくない代物だった。それに、国を滅ぼされた上にぼろい馬車に乗せられる元クラスメイトに、流石に心が痛んだ。


「なんで、国を滅ぼすことに心が痛まず、ぼろい馬車に乗せる事に心が痛むんだい?」


「だって、仕方ないじゃないですか。彼女が馬車を見た時の顔!もの凄く悲壮な顔してたんですよ」


「口調乱れてるよ」


「ッ!」


月島の呆れた顔に、つい口調を乱してしまった。俺は、心を落ち着かせるために、お茶を一口飲んだ。


「それで、話の続きだが・・・・・」


「北方戦争の事ですね」


「その通りだよ・・・・・北方戦争とは呼びやすいね。今後はそう呼ぼうか」


「あの戦争は未だに集結してません。若干アンゼルム王国優位で、一進一退の攻防を繰り返しています」


「今後はどうなると思う?」


「そうですね、時間はかかるでしょうが、アンゼルム王国側が最終的に勝つでしょう」


 今も昔も、戦争というのは兵士の数がものを言う。剣や槍、弓を使う形態の戦争では特にそれが重要になる。四対三の状況になった時点で、勝負は決まったのだ。


「兵士の数なんて直ぐに増やせるだろ。民に武器を持たせればそれで兵士だろう?」


「昨日まで畑を耕していた人達に、今日から剣をもって敵を斃せと言っても無理でしょう。民を兵士にするには、それなりの訓練期間が必要ですよ」


「確かにそうだね」


月島は納得すると、カップからお茶を飲んだ。


「ところで、この後はどうするんだい?」


「当分は旧カルディナ王国領の統治に力を入れていきましょうか。彼の地はこれから重要になるでしょうから」


 まずは、あの国のインフラや農業を我が国と同じ水準まで強化しなくてはならない。政府などの行政機関にとって、戦後の方がやる事が多いのだ。


「という事は、北方戦争には介入しないんだね?」


「軍事介入はやるべきではないでしょう。第一、戦場まで遠征するのに、第三国の領土を通らなくてはいけません。兵站にも問題がでます」


俺の意見に月島が頷いた。彼もそこ等辺は理解しているのだろう。


「しかし、何かできないかな。経済的な介入はどうだろう?」


「どの様なものですか?」


月島の言葉に興味を持った俺は質問をした。


「戦争を継続するには戦う為の武器と、兵士を養う為の食料が大量に必要になる。この二つを両陣営の国に売るんだよ」


「それならいいでしょう。幸いわが国はそのどちらも余裕がありますからね」


 俺は、その意見に賛成した。第一次大戦のアメリカは当事国に対して、武器や弾薬の販売で巨大な利益を上げた。朝鮮戦争が起こった時、日本には大量の戦争物資の依頼が来た。結果、戦後復興を速めるほど経済状況は潤った。これらの例の通り、戦争は当事国以外には大きなチャンスとなる。


「賛成してくれるなら外務部の方から、大使館を通じて各国に連絡してくれ」


「分かりました。北方戦争の話はこれ位にして、次は併合地域の話をしましょう」


俺の言葉に月島が頷き、話が移った。


「インフラの強化は既に手配済み。芳賀の方も動いてるはずだよ」


「そうですか。相変わらず仕事が早いですね」


俺は微笑みながら言った。


「それと、当分は税を低くする予定だよ。彼等にとって、僕たちは侵略者だからね。いきなり来て、重税を課したらいい感情は持たないだろ。反対に、税を軽くしてあげれば、彼等の僕たちに対する心証は良くなる」


「安直な手ですが、効果はあるでしょう」


「今のところはこれくらいかな?」


「そうですね。今できることはそれくらいでしょう」


俺達の話がひと段落した頃、部屋に置かれた時計が昼時を告げた。


「もうこんな時間か。一緒に昼食でも行かないかい?」


「そうですね。お腹も空きましたし、お供しますよ」


そう言って、俺達は食堂へと移動した。食堂では、小松が資料を読みつつ昼食をとっていた。


「貴方が食堂でお昼とは珍しいですね」


「やぁ小松。奇遇だね」


俺と月島が声を掛けたことで、小松が資料から顔を上げた。


「おかえり。長旅で疲れたんじゃないか?」


「確かに疲れましたが、その分の成果はありましたよ」


俺は昼食が運ばれてくるのを待ちつつ、小松の質問へ返答した。


「相も変らず忙しそうだね。手元のは何に関する資料?」


「併合地域に警備隊を配置する計画書だ。そっちは二人で何をしていたんだ?」


「部屋で話をしていたんだ。いろいろと有意義な話が出来たよ」


 三人で話しているうちに、俺と月島の元へ昼食が運ばれてくる。今日の昼食はサンドイッチのようなものだ。


「話しながら食べるにはピッタリですね」


俺はそう言うと、早速口に運んだ。小松は、資料をめくって、目を通していたが、ある一枚を見た瞬間表情が変わった。


「はぁ~~~」


そして、盛大なため息を吐いた。


「どうしたのですか?そのように盛大なため息など吐いて。」


「最近、警備隊に甚大な被害が出てるんだ」


小松は、書類の一枚を見ながら、そう言った。


「それがどうしたんだ。治安維持の過程で殺傷沙汰になることもあるだろう?」


その言葉に、月島が疑問をぶつけた。


「お前らは詳しく知らんだろうが、警備隊が治安を維持するのは町や村の中だけじゃないんだ。その周辺や街道なんかも、担当が決められているんだ。それで最近、この王都周辺を担当する部隊に甚大な被害が出たんだ」


「野盗などにやられたのかい?」


 街の周辺の治安維持を担当していた警備隊が大規模な野盗に遭遇。奮闘の結果、甚大な被害をだした。可能性としてはある話だ。しかし、小松は首を横に振った。


「野党じゃない」


「それでは、どうして被害が出たのですか?」


「部隊の生き残りの話では、モンスターにやられたらしい」


「モンスターですか?」


俺は、サンドイッチ(仮)の食べ終えると、小松に聞き返した。


「ああ、それもゴブリンなんかじゃなく、トロールらしい」


「転移前の神様の説明で、居ることは聞いていたが、まさかこんな形で耳にするとはね」


月島が何でもない様に言った。


「装備が不十分だった為に、被害が大きくなったのですか?」


「いや、街の外を担当する警備隊には、通常装備の剣と短槍ではなく。剣と盾、弓まで持たせてる」


 警備隊の生き残りの話では、トロールは突如として襲ってきたらしい。不意を打たれた警備隊も直に立て直し、剣で切り付け、矢を放ったが、剣を持った兵士は容易に近づけず、矢も効果は薄かったらしい。


「トロールは兵士たちを虐殺すると立ち去ったらしい。立ち去った方向から推測して、王都近郊の森に潜んでいると俺は睨んでいる」


「それで、どう対応するんだい。このままじゃ近隣の村や行商人に被害が出ると思うけど?」


「分かっている。今度は人数を集めて、装備も強化する」


「それで大丈夫かな?」


 月島は不安そうにしていた。俺も、それで倒せるとは思っていない。このまま行っても被害が増えるとしか思えない。そこで俺は小松に、思いついた意見を提案することにした。


「それでしたら、私がやりましょうか?」


二人が此方に顔を向けた。


「国軍を動かすのか?」


「いいえ。私一人で討伐します」


「なっ!」


小松の顔が驚愕に歪む。


「でもどうやるんだい。君は戦えないだろう?」


 月島が不思議そうに聞いてくる。確かに、俺が剣や槍をもったところで戦えないだろう。弓矢でも同様だ。だが、俺には神がくれたスキルがあるのだ。


「スキルか。それなら何とかなるか?」


「危険すぎないかい?」


二人は懐疑的だった。


「無理そうならすぐに帰ってきますよ」


俺はそう言うと、食後にだされたお茶を口に運んだ。







後日、俺はアーニャとリーナを連れて、トロールが潜んでいると思われる森を訪れた。


「それにしても、トロールですか」


アーニャが強張った顔で言った。


「陛下。危険だと感じたら直ぐに逃げますからね」


リーナも同じ表情で言った。


「分かっています」


俺は二人にそう告げると、戦闘を切って森に入った。


「陛下。森の中は何が起こるか分かりません。ご用心を」


森に入ると、リーナがそう言いながら先頭に立った。


「毒蛇や毒虫もおります。気分を害された時はすぐに仰ってください」


アーニャが俺の後ろを守るように移動する。俺達は一列になり、ゆっくりと森の探索していった。


 小一時間ほど歩いた時、突然先頭に立っていたリーナが止まった。そして、仕草で俺達にしゃがむ様に指示した。


「見つけました」


 リーナは前方を睨みながら言った。俺とアーニャは、トロールを確認するため、リーナの隣に移動した。確認した先には洞窟があり、その入り口付近にトロールが座っていた。体長は巨大で、座った態勢でもおよそ3メートルほどあり、立ち上がれば6メートルを超えるだろう。トロールは何かを食べているのか、口の周りを赤く染めていた。


「私が切り込みます。リーナは弓で牽制をお願いします。陛下はここで隠れていてください」


トロールを確認したアーニャがそれぞれの行動に指示を出していた。


「その必要はありませんよ」


俺は、2人にそう言うと離れる様に指示を出した。


「陛下。何をなさるおつもり――」


 アーニャが何かを言っている間に、俺は指を鳴らした。直後、俺の身体が変化し始める。身体が段々と膨張し、全身が白銀の鱗に包まれる。手足は人間の物から、爬虫類の様な鋭い爪が付いたものに変わり、瞳も爬虫類の様なものになった。背中からは翼が飛び出し、首が伸び始める。


「陛下!」


 リーナが悲鳴じみた声で俺を呼んだ。しかし、俺はそれに応えることが出来なかった。既に変身は終わり、俺は一体のドラゴンに変身していた。体長はおよそ20メートルと言ったところか。あれだけ大きく見えたトロールが小さく見えた。


(それでは、やりましょうか)


 俺は、視線をトロールに向けた。トロールも変身の途中から気付いていたようで、既に臨戦態勢となっていた。しばしのにらみ合いの後、状況は動いた。


 最初に攻撃を繰り出したのはトロールだった。奴は叫び声をあげながらこちらに向かってきた。手にはそこ等の木を引っこ抜いたような棍棒が握られていた。


俺は、奴が此方に向かってくるのを待ちかまえながら、体の調子を確認していた。


(やっぱり、羽と尻尾は動かないか)


 羽や尻尾は人間に無い部分だ。ドラゴンに変身したはいいが、これらの部分の動かし方が全く分から無かった。


(そうなると、武器になるのは爪と牙か・・・・・大きさの違いもあるし、何とかなるかな?)


 そんな事を考えている間に、トロールは目の前に迫っていた。奴は棍棒を振りかぶると、俺の頭めがけて思い切り振り降ろした。俺は長い首を少し動かすことで、それを回避した。昆布はそのまま地面に叩きつけられ、土煙が舞った。


(この威力は、当たったら不味いか)


 俺は、そんな事を思いながら右手を振り上げ、手の先についている鉤爪で奴を攻撃した。鉤爪は、奴の肩をかすり、僅かな血をにじませた。


(眼の配置が変わったからか、距離感が取りずらいな)


 トロールは、俺に付けられた傷に怒り、巨大な叫び声をあげた。そして、今度は棍棒を振り回しながら襲いかかってきた。


(巨体のせいか動きずらい)


慣れない巨体で上手く動けなかった俺の身体に、奴の棍棒が直撃する。


(我慢できない痛みではないが、続けられるとヤバい)


 満足に回避行動が出来ない俺の身体に、立て続けに棍棒が振り下ろされる。硬い鱗のおかげでダメージはあまりないが、鈍い痛みが発生する。


(さて、そろそろ反撃するかな)


そう思った直後だった。今まで感じたことのない激痛が俺を襲った。


(!?)


 驚いた俺はトロールを見た。奴は、棍棒を尻尾の先端に思いっきり叩きつけていた。再び襲った激痛に、俺はたまらず叫び声をあげた。


「キシャアアアアアアアアア」


 叫び声を上げた俺に、トロールがニヤリと笑った。しかし、その直後にトロールが吹っ飛んだ。痛みによって反射的に尻尾が動き、奴を吹き飛ばしたのだ。


(反射ってのは便利だな。それに、今の痛みで尻尾の動かし方は大分分かった)


俺は、吹き飛んだトロールの元にゆっくりと移動すると、倒れていた奴に尻尾を叩きつけた。


(先端以外はそんなに痛くはないな)


 俺は、そんな事を考えながら尻尾を叩きつけていた。連続した攻撃に、トロールは起き上がることも出来ず、奴は尻尾攻撃のサンドバックと化した。俺は、暫く無心で尻尾を動かした。段々を動かすのが楽しくなってきたころ、奴が完全に動かなくなった。


(死んだかな?)


俺は、念のために爪を奴の喉に突き刺した。奴は動くことなく、喉から血を溢れさせていた。


 俺は、それを見てから、変身を解いた。全裸である。変身時の膨張で破れたのだ。しかし、俺はそんなことに構わず体を確認した。


「はぁ~。後で薬をつけないといけませんね」


 俺の脇腹には、打ち身をしたような紫色の跡が所々に出ていた。俺が身体を確かめていると、アーニャとリーナが駆けてきた。


「陛下。お疲れ様です。ですが、次からは事前に説明をしてください」


アーニャはそう言いながら、荷物から変えの服を取り出し、渡してきた。


「分かりました。次からはそうします」


俺は、服を受け取りながらそう答えた。


「あの・・・・・さっきのは一体なんですか?」


 リーナが怯えたような目つきで俺に聞いてきた。俺は、どう答えるか迷ったが、丁度いい答えを思いついた。


「先程のは魔法です。魔法を使ってドラゴンに変身したのです」


そう言うと、リーナから怯えが消えた。代わりに驚きと尊敬が混じった声が上がった。


「えーーーー!それは凄いです。魔法を使えるなんて」


「そんなに凄い事ですか?」


俺がそう聞くと、アーニャが小声で伝えてきた。


「魔法が使える力を持った人間が生まれる確率は、一万人に一人居るかどうかです。さらにそこから、魔法を使えるように専用の学習が必要になりますが、その学習方法も殆どが失われています。今では、魔法が使える人間は大陸に数えるくらいしかいません」


「だからですか」


リーナは、世紀の大発見をしたようにはしゃいでいた。


「ひとまず、これでトロールも倒しましたし、王宮に帰りますよ」


「畏まりました」


俺は、爪に着いたトロールの血をふき取りながら、帰路に付いた。


王宮に付いた俺は、小松に感謝された。


「お前のおかげで助かった。何か俺に出来る事があれば何でも言ってくれ。力になる。」


小松はそう言いながら、大量の茶菓子と秘蔵の茶葉を渡してきた。


「お茶と甘いものは好きだったよな。これは感謝の気持ちだ。受け取ってくれ」


「遠慮なくいただきます」


俺はそう言って、彼からの贈り物を受け取った。


「俺は仕事があるから失礼する。今回の事は本当に助かった」


小松はそう言うと、執務室に向かって歩き去っていった。


「さて、どのお菓子から食べましょうか?」


俺は、今日のお茶と一緒に食べるお菓子を選びながら、自室へと歩き始めた。



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