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敗戦国の玉座

「攻撃を開始しなさい」


 俺の発言と共に攻撃が始まった。先の会戦で勝利した俺達は、翌日から侵攻を再開。その結果、予定通りに敵の王都にたどり着いた。現在は敵王都を包囲し、攻撃を加えていた。


「放てー!」


指揮官の号令の元、弓隊が矢を放った。


「敵の反撃は薄いぞ。歩兵を前進させろ」


「破城槌を出せ。敵の門を打ち破れ!」


 歩兵は盾を掲げ、破城槌と共に前進していく。全ては順調に進んでいた。この調子で行けば、直ぐに街を攻略できるだろう。俺は用意された椅子に座り、お茶を飲みながら戦闘を見ていた。


「ここまで一方的だと、映画を見ているようですね」


「は?映画とは何でしょうか?」


俺の相手をしていた将軍が質問してきた。


「演劇のようなものですよ」


俺は似たようなものを探して答えた。


「そうでしたか。しかし、ここまでの規模の演劇はないと思います。我が軍の規模は二万です。これを再現するのは、どんな劇団でも無理でしょう」


 将軍は自慢げに言っていた。確かに、二万の役者を抱える劇団など存在するはずがない。エキストラを動員しても無理だ。


「確かに、そんな劇団は無いでしょうね。つまりは、この演劇を見れるのは此処だけで、私たちだけの喜劇ですね」


「私たちにとっては喜劇ですが、敵にしてみれば悲劇です」


俺はその言葉を聞いて、思わず笑った。そして、戦場へと視線を戻した。


「そんな喜劇悲劇もそろそろ終幕です。門が破れて兵がなだれ込みましたよ」


俺は破れた門を指さしながら言った。


「街を攻略しろ。抵抗する奴は殺して構わん!」


 兵士たちが街の中へとなだれ込んでいく。これで王都攻略も終了となるだろう。俺は席を立ち、アーニャとリーナに付いてくるように言った。


「どちらへ?」


将軍が聞いてきた。


「王宮ですよ。会いたい人がいるんです」


この国にも、元クラスメイトが居るのだ。それを、万が一にも殺させるわけにはいかない。


「危険です。もうすぐ制圧できるとはいえ、討ち漏らした敵兵がいないとも限りません!」


将軍が進言してくる。


「それなら重騎兵を護衛に着けて下さい。彼等ならうってつけでしょう」


 俺は微笑みを浮かべながら言った。その態度に、将軍は俺が譲らないことを悟ったのだろう。しぶしぶと言った様子で護衛の手配をするように部下に指示を出した。


「行きましょうか」


 護衛の重騎兵に囲まれた俺は、アーニャと一緒の馬に乗った。俺は勿論後ろだ。乗馬の技術なんて現代に生きる学生には無用なものだ。


「落ちないようにしてください」


「分かりました」


アーニャの忠告に、俺は頷いた。そして、体を安定させるために、アーニャの腰に手を回そうとした。


「触ったら切り落とします」


しかし、その言葉で手をひっこめた。


「それではどうやって落ちない様にしろと?」


「何とか頑張ってください」


俺は仕方なく、鞍の後ろ側を掴んだ。


「出来るだけゆっくりお願いしますね」


「当然そうします。敵が出たら走りますが」


「敵が出ないことを祈ります」


俺はアーニャとの問答にため息を吐きながら出発した。


 王都の中に入った俺達が、最初に見た物は、多数の死体だった。矢が突き刺さった物。腕や足、首などを失った物。中には、体が半分しかない物もあった。


「降伏していれば、死なずに済んだだろうに・・・・・」


「この者達にも、命を懸けて守るものがあったのでしょう」


重騎兵の誰かが呟いた言葉に、俺はそう言った。


「進みますよ。まだ、門をくぐったばかりです。王宮までは遠いですよ」


 俺の言葉に、アーニャが馬を進める。護衛もそれに合わせ進んでいった。街中では、未だに戦闘が続いているのだろう。あちらこちらから、悲鳴や叫び声が聞こえた。暫く進むと王宮へとたどり着いた。王宮の門には、我が軍の歩兵が多数攻め寄せていた。俺の姿を捉えたのか、一人の指揮官が駆けてきた。


「陛下。このような血なまぐさい前線までお越しになられるとは、どのようなご用件でしょうか?」


 俺は何事かと聞いてきた指揮官に用件を伝えた。


「王宮に居ると思われる敵国の王に会いに来ました」


俺の用件を聞いた指揮官は、申し訳なさそうな顔になって、俺に言ってきた。


「申し訳ございません。未だ、王宮は攻略できておりません。敵の精鋭と思われる騎士団が頑強に抵抗しておりまして・・・・・」


「敵の数は?」


「倒した者を抜かして、およそ50人です」


俺は指揮官の言葉に頷き、指示を出した。


「重騎兵は下馬して私に続きなさい。敵騎士団の撃破に向かいます」


そう言うと、俺は馬を降りた。


「お待ちください。危険すぎます」


指揮官が慌てて、俺を止めにかかった。


「大丈夫ですよ。私は後ろで見ているだけですから」


「しかし、万が一という事がございます」


指揮官は何としても俺を思いとどまらせようとした。しかし、俺の考えは変わらなかった。


「それなら、貴方が私を守ってください」


 俺はそう言うと、まだ何かを言おうとする指揮官を無視するように進み始めた。指揮官は渋々と言った様子で、指揮する部隊ごと俺に付いてきた。


「それで、騎士団が抵抗しているのは何処ですか?」


俺は後ろから付いてくる指揮官に聞いた。


「この先です。もうすぐだと思われます」


指揮官がそう言うのと同時に、前方の方から剣を打ち合う音や叫び声が聞こえてきた。


「重騎兵は前方に出なさい」


 俺の命令で、重騎兵たちが前方に隊列を作って進んでいく。そうこうしている内に、敵の騎士団が見えてきた。味方の兵士たちは全員が斃されたようで、敵の足元に死体が転がっていた。


「新手か?」


一人の騎士が俺達に気付いたのか、そう呟いた。全員が此方を向く。


「そこを通していただけますか?」


俺は一応聞いてみることにした。


「それは無理だ。我らは貴様らを通さぬように命令されている。ここを通りたいならば我らを倒すほかない」


団長らしき先頭の騎士がそう言った。


「そうですか。一応聞きますが、降伏しませんか」


俺がそう言うと、騎士は笑いを含んだ声で言った。


「すると思うか?」


「いいえ」


俺がそう言うと同時に騎士たちが切りかかってきた。


其方(そなた)達の強さを敵騎士団に思い知らせなさい」


 俺の言葉に重騎兵たちが気勢を上げて敵を迎え撃った。俺の目の前で、激しい白兵戦が繰り広げられた。剣が打ち交わされ、火花が散る。盾同士がぶつかり、やかましい音が鳴る。敵に切られた者の悲鳴が響きわたる。俺はそんな惨状を眺めながら、リーナに声を掛けた。以前、人が死ぬところを見て気分を害したリーナに、この惨状は厳しいのではと思ったからだ。


「大丈夫ですか?」


「はい、以前よりはましです。なんか、慣れちゃったみたいです」


「そうですか」


 人とは不思議なものだ。どんなにつらい事や抵抗感のある物でも時間が過ぎれば慣れてしまう。新兵が殺すことをためらう話はよく聞くが、一度殺してしまえば後はためらいが消えるという話もよく聞く。殺人という抵抗感をこの上なく感じる事でさえ、人は慣れてしまう。もっとも、リーナはエルフだが、心は人と変わらないだろう。俺がそんな事を考えているとアーニャの声がした。


「そろそろ決着ですね」


 その言葉につられて戦闘へ視線を戻すと、騎士の数が残り数人という所まで減っていた。重騎兵も減ってはいたが、彼らほどではなかった。


「騎士団の方はずっと戦闘を続けて疲弊していました。一方、重騎士の方は今まで戦闘を行わずに、気力体力共に十分です。この結果になるのも当然です」


 アーニャが頼んでもいない説明をしてくれる。そんな説明を聞いている中にも騎士の数は減っていき、ついに最後の一人が倒れた。


「負傷者はすぐに手当てをして王宮の門で待機、それ以外の者は進みます」


 俺はそう言って、再び進み始めた。騎士団を斃した俺達にその後の障害は無く、すんなりと玉座の間に着いた。再び、重騎兵を先頭にし玉座の間の扉を開いた。

 玉座の間には、この国の貴族たちと思われる人たちが集まっていた。そして、最奥の玉座はに一人の少女が座っていた。


「初めまして。敵国の皆様。私は、アナスタシア・オルド・ナイア。ヴィクトリア王国の女王です」


俺は言葉を切り、少女へと視線を向けた。


「カルディナ王国女王、未来 希(みらい のぞみ)


「それでは、希陛下。降伏していただけますか。決着は既に着きました。これ以上、無用に命を散らすことは無いと思いますが?」


俺の言葉に、彼女は悲しげな表情のまま口を開いた。


「分かりました。降伏します」


こうしてカルディナ王国は降伏した。彼女の一言で戦争はあっけなく終わった。降伏の言葉を確認した俺は、兵たちに指示を出した。


「全員を捕縛しなさい。その後は王宮の各部屋に監禁しなさい」


「了解しました!」


 王宮に入ってから護衛を頼んだ指揮官の部隊が迅速に動いていく。少女と貴族たちは悲痛な面持ちで連れていかれた。


「将軍に伝令。全部隊に攻撃停止命令を出すように。敵は降伏したと」


「直ちに伝えます」


 俺は兵士たちに指示を出していった。この戦争が始まってから一番働いたと思う。そうして、全ての指示を出し終えると、俺の周りにはアーニャとリーナ以外に誰もいなくなった。


「これで終戦ですね」


俺は感慨深げに言った。


「戦争を起こした張本人が、何を感慨深く言っているんですか?」


アーニャが聞いてきた。


「私だって起こしたくて起こした訳ではないですよ。すべては国の利益のために仕方なくです」


俺がそう言って、悲しげな表情を作った。しかし、アーニャは胡散臭いものを見るような顔で言った。


「騙されませんよ。戦争を始める時の貴方の顔をはっきりと覚えていますよ」


「どんな顔をしていましたか?」


「私が見た中で、一番の笑顔でした」


俺は表情を作るのを止めた。自然と口角が吊り上がる。


「あぁ、その顔です。まるで悪魔のような笑顔です。怖気がしますね」


アーニャはそう言って玉座の間を出て行った。俺はリーナに、彼女についているように言った。


「彼女の気がおさまったら連れ戻してください」


「分かりました」


玉座の間には、俺一人が居る状態となった。俺は、少し考えてから誰も座らなくなった玉座に歩み寄り、腰を下ろした。


「意外と座り心地のいい椅子ですね」


征服した国の玉座は、座り心地のいいものだった。



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