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少女は現実に絶望す

神様による異世界転移から随分と経った。私はこの世界に来た当初、何をするでもなく部屋に籠って泣いていた。今までの生活をすべて奪われ、訳の分からない世界に飛ばされたのだから当然だと思う。それから二週間。なんとか心の整理をして統治者として国を運営し始めた。最初は何をどうすればいいか全く分からなかったが、貴族だと名乗る彼らに協力してもらい、何とかこなしていた。そのうち、段々と慣れて一人でこなせるようになったのは最近のことだ。最近の事といえば、1ヶ月ほど前に北部で戦争が起こったと聞いた。それは今でも続いており、長期化するだろうと貴族の誰かが報告して来たのを覚えている。

 私は戦争が嫌いだ。人はたくさん死ぬし、生き残った人もつらい思いをする。そんな憎むべきことを、元クラスメイト同士で起こすなんて信じられない。幸い、その戦争はここまで広がってきていない。私の国は今まで通り平和な時を過ごしている。

 私の国は海に面している。そのおかげか、経済状態については他の国より幾分か優勢だ。最近は、その経済力を使って軍隊を強化すべきなんてバカな意見も出ているが、そんな意見は無視した。軍隊なんてものを持つから戦争が起こるのだ。軍隊を持たず、話し合えば戦争なんて起こらない。

 王宮にヴィクトリア王国の大使が来たとの知らせがあった。ヴィクトリア王国は、異世界転移してからすぐに建国した大国だ。そんな国が近くにあるなんて普通は怖い。しかし、あの国は周りの国と争う気はないのか、不可侵条約を結んだり交易をしたりと、脅威に感じることは何もしてこない。北方で戦争してる国とは大違いだ。私は、今度はどんないい話かとワクワクしながら大使の待つ、玉座の間へとむかった。


「我が国は貴国との不可侵条約を破棄。宣戦いたします」


 大使の口から出た言葉は信じられないものだった。不可侵条約の破棄?宣戦布告?いったいどういうことだろうか。訳が分からない。私の混乱や、貴族たちのざわめきを無視するかのように、大使は言うことだけを言って玉座の間から出ていった。その後、茫然自失となった私は貴族たちにすべてを任せ、部屋へと戻った。

 ヴィクトリア王国の宣戦から三週間。彼らはすでに王都を包囲していた。王宮の窓から外を眺めれば、外壁を取り巻くように展開する軍隊と、それが掲げる蛇の旗が見えた。彼らを迎え撃つために出撃した軍隊は壊滅。王都の防衛を担う兵士は、もはや千人にもみたない。私は現実に絶望しながら、玉座に座り続けた。







 越境から既に一週間。敵の王都までの道のりは長い。ここまで来る道のりで小さな町や農村を占領したが、大体の町や農村は、我が軍が見えた瞬間に降伏した。抵抗したところも極僅かにあったが、防衛は治安維持用の警備兵だけで大した抵抗はまかった。侵攻は極めて順調に進んでいる。


「のどかですねぇ~」


軍団の最後尾で馬車に乗っていた時、リーナがそんなことを呟いた。


「確かにのどかですね。戦争をしていることを忘れそうです」


俺がそう言った瞬間、リーナの顔がわずかに曇った。俺はそれに気づかず言葉を続けた。


「戦争が終結して暇ができたら旅行でもしましょうか」


「旅行はよろしいですが、仕事を終わらせてからにしてください。この間にも片づけなければいけない仕事は溜まっているんですから」


 あえて考えない様にしていたことをアーニャが言ってきた。俺が王宮を離れている間の執務室には、着々と書類の山が築かれている事だろう。


「はぁ~~~~」


俺は帰ってからの事を考えて長い溜息をした。そんな時だった。リーナが俺の方を向いて問いかけてきた。


「どうして戦争を起こしたんですか?」


俺がアーニャから顔をずらしリーナを見ると、彼女は真剣な表情をしていた。


「私たちの国は豊かです。領土も広く民は多い。経済的にも豊かです。こんな状況で、隣国に侵攻する理由があったんですか?」


彼女の疑問に答えるべく、俺は口を開いた。


「開戦前、軍の指揮官達に言ったことを覚えてますか?」


「この戦争は、大陸統一に向けた偉大な一歩だと言っていました」


「そうです。私たちはこの大陸の、世界の統一を目指しています」


「何故統一する理由があるんですか?」


「争いをなくすため。そして、民を豊かにするためです。私たちの国は豊かです。しかし、他の国も豊かとは限らない。そんな国に住む民を救う為、私たちは世界を統一するのです」


俺は本心ではないが、思ったことを言った。


「それに・・・・・」


「それに何ですか?」


「いえ、何でもありませんよ」


 それに神様がそれを望んでいるなど誰が信じるだろうか。あの神様は世界を統一しろと言っていた。しかし、合併などの規制を設けたという事はそれ以外、つまりは侵略して統一しろという事だ。この状況は神の望んだことなのだが、彼女たちにそれを知られる訳にはいかないと思った俺は言葉を濁した。


「それでリーナ。貴女はどうしますか?」


「どうするとは?」


「どんな理由があっても戦争なんてやめるべきだと私を止めますか?」


「止めません。私は貴女に命を救ってもらいました。だから、私はどんな理由があっても貴女についていきます。それに、貴女が私利私欲で戦争を起こす人じゃないと、さっきの理由を聞いて確信しました」


「そうですか」


「はい。それと、数々の不躾な質問と非礼、伏してお詫び申し上げます。お許しください」


そう言って、リーナは頭を下げた。そんなリーナに、俺は言葉を発した。


「許しません」


瞬間、リーナの身体が固まった。


「罰として美味しいお茶を淹れてください。それまでは絶対に許しません」


俺は微笑みを浮かべながらリーナに言った。


「承りました。許していただけるよう全力を尽くします」


 リーナは頭を上げると、笑いながらそう言った。馬車の中は和やかな雰囲気に包まれ、その後も和やかな雰囲気のままで走った。







 更に数日。朝食の準備をしていた本体に、先行していた軽騎兵の偵察隊から敵軍発見の報告があった。本隊はにわかに騒がしくなった。敵軍発見の報を聞いた俺は将軍のいる天幕へと向かった。


「敵軍発見の報告は間違いありませんか?」


「はい、間違いございません。第一報に続き続々と情報が入ってきております」


俺の質問に指揮官の一人が答えた。


「規模は?」


「敵軍の規模は約9000。殆どが歩兵です」


「敵は籠城すると思っていましたが、野戦を選びましたか」


「敵に増援は見込めません。籠城を選んでも死ぬまでの時を長引かせるだけだと分かっているのでしょう」


「此方としても被害は抑えられるので好都合ですね。会敵はいつになりますか?」


「このままいけば昼には会敵します」


俺はそれだけ聞くと自分の天幕へと戻り、出発の準備をさせた。


 指揮官の予想は見事に的中した。太陽が真上に昇る昼時、我が軍と敵軍は広い平原にて向かい合った。両軍は既に陣形を整え、いつでも戦闘が出来る状態となった。


「此処より先に進むこと許さぬ。即刻立ち去れ」


敵軍から単騎で駆けてきた男が両軍の中間で声を張り上げた。


「あれは何をやっているのですか?」


俺はアーニャに質問した。


「恐らく警告です。まぁ、形式上の物です」


俺は返答を聞いて呆れた。そして、将軍に伝令を出すように言った。


「弓隊に下命。あそこで喚いている男を射殺しなさい」


「了解いたしました」


将軍は俺の言ったことを伝令兵へと伝えた。伝令兵は弓隊へ命令を伝えるべく走っていった。


「さもなくば我等が剣にて貴様らを―」


 男はまだ喚いていたが、直ぐに黙ることになった。我が軍の弓隊から男に向けて大量の矢が飛んだのだ。哀れな男はハリネズミになって地面に倒れた。それをきっかけに会戦は始まった。


「弓隊は射撃を開始しろ!」


「歩兵は盾を構えろ。敵からの矢が飛んでくるぞ!」


 各指揮官が部隊へと命令を飛ばしていく。両軍の間には大量の矢が飛び交い、戦場は悲鳴と怒号に包まれた。


「弓隊は打ち負けるな。打ち返せ!」


「前進させろ。射程を伸ばすんだ!」


 暫くの打ち合いの後、弓隊が後退して敵の歩兵が突撃を開始した。弓隊の総数の違いから、このまま打ち合えばそれだけで負けることを理解したのだろ。こちらの軍も弓隊を後方に下げ、歩兵を前進させた。


「歩兵は盾をおけ。長槍(パイク)を構えろ!」


 歩兵が盾を地面に置き、新しく配備した長槍を構えた。我が軍の前線に一瞬で槍衾が形成される。それを見た敵歩兵は怯み、突撃の速度を落とした。そこに歩兵の後ろに下がった弓隊が斉射を開始する。


「くそ、これじゃあ何もできずに死じまう」


「味方の弓隊は何してんだ!?」


「誰か手を貸してくれ。足に矢が刺さって――ぎゃー!!」


敵の歩兵は前進することも交代することもできずに矢の雨に倒れていった。


「圧倒的優勢ですね」


俺は将軍へ話しかけた。


「もともと数の有利がございました。最初から彼等に勝てる見込みなど残されてはいませんでした」


「それもそうですね。それでは、そろそろ終わらせましょうか」


「ハッ。おい、騎兵を突撃させろ」


 俺の言葉を聞いた将軍が部下を動かした。暫くすると、軍の両脇に控えていた騎兵が怒涛の勢いで突撃を開始した。敵軍に僅かにいた騎兵が対応するように出てきたが、数の差から時間稼ぎにもならなかった。


「矢の雨が止んだと思ったら騎兵が突っ込んで来たぞ!」


「もうだめだ。逃げろ!」


「こんなところで死ねるか!」


 敵軍は騎兵が突っ込んでくるのを見た途端、散り散りになって逃げ始めた。しかし、当然逃げ切れるはずもなく、崩れた隊列に騎兵が突っ込み敵兵を惨殺していった。


「これで終了ですか。あっけないものですね」


俺がそう言って、将軍に質問をした。


「進軍再開は何時になりますか?」


「この後、死体をかたずけ休養を取らねばなりませんので、出発は明日の朝になります」


「分かりました。兵士達にしっかりと休養を取らせなさい」


俺はそう言うと戦場へと視線を戻した。敵軍は敗走し、戦場には死体と負傷者が残されていた。


「アーニャ、リーナ馬車に戻りますよ」


俺は二人を連れて馬車へと戻った。馬車に戻った俺はリーナに休む様に言った。


「戦闘開始から顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」


リーナは俺の問いかけに頷くと口を開いた。


「すみません。人が大勢死ぬところを見たら、村の出来事を思い出してしまって」


「そうでしたか。落ち着くまで暫く休んでいてください」


「ありがとうございます」


リーナの返事を聞いた俺は、馬車の外へと出た。外に出ると微かにだが血の鉄くさい香りがした。


「そのうち、この匂いにも慣れる日が来るのでしょうか?」


「どうでしょうか。貴女がこの先も戦争を起こすなら、そんな日も来るでしょうね」


俺の後ろから声がした。


「リーナの傍に付いていなくていいのですか?」


俺は振り向きもせずに言った。


「彼女は、私がいなくても大丈夫です。それよりも、陛下の方が心配です」


アーニャはそう言って、俺の隣に並んだ。


「人が殺されるところなんて初めてご覧になったのではないですか?」


俺は静かに答えた。


「そうでもありませんよ。以前に一度だけ、見た事があります」


「何処でですか?」


俺は顔を俯かせて答えた。


「王都の中央広場です」


「っ!」


俺がそう言うと同時に、アーニャが息をのむ音が聞こえた。


「質問して申し訳ありません」


「貴女が謝る必要はないのですよ。アーニャ、全ては私が悪いのです」


二人の間に気まずい空気が流れた。俺はそんな空気をなくすべく話を変えた。


「そろそろ夕食の時間です。明日に備えてしっかり食べて休みましょう」


(かしこ)まりました。すぐに用意いたします」


「お願いします」


アーニャはお辞儀をして夕食の準備しに行った。彼女が立ち去った後も、俺は先程の事を考えながら暫くその場に居た。


「此処に居たんですか。夕食の準備が整ったので呼びに来ましたよ」


突然リーナの声が聞こえた。


「アーニャさんも席について待ってますよ」


「リーナ?・・・・・もう体調は良いのですか?」


「はい。もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」


「そうですか。それで、どうしたんですか?」


「夕食の準備が出来たので呼びに来たんです。聞いてなかったんですか?」


「ええ、少し考え事をしていたので」


「そうですか。それじゃあ夕食を食べに行きますよ」


「そうですね。私もお腹がすきましたし」


そう言って俺達は歩き始めた。


「約束は守りますよ。アーニャ。為すべきことをなしたら貴女の手で・・・・・」


俺は歩きながら静かに呟いた。


「何か言いましたか?」


「いえ、何でもありませんよ」


「そうですか」


俺達はその後、楽しく夕食を取り就寝した。




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