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戦争は小さな諍いから

 北方で始まった戦争。始まった理由はちっぽけなものだった。

 大陸に突如として現れた大国、ヴィクトリア王国。その国の出現は、大陸に存在する国家郡を不安にさせるには充分であった。各国家はこれに対処するために同盟を結び、統合を行った。そして、統合に関する打ち合わせのために二ヶ国の王が会談を行った。他国の王であっても元クラスメイトである。話はこじれることもなく穏便に終了した。しかし、その後の夕食の席で問題は起こった。最初は単なる冗談から始まった。しかし、冗談は次第に過激なものに変わり、ついには聞き逃せないものとなった。そして、互いが互いを罵る喧嘩となったのだ。夕食の席で起こったこの出来事は互いの臣下によってすぐに収められたが、両者の間には禍根となって残った。

 それから両者は事あるごとに嫌がらせを行った。輸出品の制限から、輸入品への法外な関税。水利の争いから嫌味を書き連ねた手紙と、大きさは様々であった。

 国のトップどうしの中が悪ければ、自然と国同士の中も悪くなる。互いの国民が相手国を次第に憎む様になるのに時間はかからなかった。そして、その感情が軍にまで及んだ時、悲劇が起きた。国境警備を行っていた部隊が偶然出会い、隊長同士の罵りあいから剣を抜く事態へと発展。最後には部隊同士が殺しあう物に発展した。両国は先に手を出したのは相手だと国民に訴え、国民は怒りに燃えた。両国民は相手国への報復を叫んだ。そして、国王はそれに答えるべく宣戦を布告した。ただの喧嘩が戦争に発展した瞬間であった。







 茶会の席で開戦を知った俺達はそのまま対策を話し合うことにした。


「アーニャ。開戦した国の位置を確認したいので地図を持ってきてください」


 俺がそう言うとリーナが地図を手にしながら現れた。俺は二人を労ってから、皆に見えるよう地図を広げた。


「開戦した国は此処と此処。アンゼルム王国とリトシア王国です」


俺は両国の位置を指さしながら話した。


「先程、月島に言いましたが、確認の為もう一度言います。この戦争は周辺国へ、そして大陸中へ波及します」


俺がそう言うと小松が質問してきた。


「早期に終戦する可能性は?」


「無くはありませんが、可能性は低いでしょう」


「何故?」


「この戦争が始まった理由が、互いに対する報復だからです。この理由で戦争が始まると、どちらかの国が亡ぶか、戦争継続が不可能なほどに両国が疲弊するかのどちらかしかありません。それに、互いに謝って終戦など、国民が許さないでしょう」


小松は理解したのか、一度頷いて口を閉じた。


「話を戻しますが、今回の戦争は我々が動くのに絶好の機会です。戦火が広がれば広がるほど、他に干渉する余裕がなくなるからです。この機会を逃さず、かつてから狙っていた海を手に入れるべきだと思います」


「行動を起こすのはいいが、理由はどうするんだ?侵攻するにももっともな理由は必要だろ」


 俺の意見に対し、芳賀は理由が必要だと言ってきた。確かに、大義名分は必要だ。これがなければ、後で周辺国からいちゃもんをつけられかねない。


「確かに理由は必要ですね」


「そうだろう。だから、侵攻するに足る理由ができるまでは計画を延―」


「ですが、理由などいくらでも作れますよ」


「え!?」


俺の言った言葉に芳賀の表情が呆然としたものになった。


「例えば、我が国の商人がそちらの国の住人に襲われ殺害された。例えば、我が国の要人が暗殺され、その犯人を捕縛したので問い詰めたところ、そちらの国に雇われたと自白した。など、いろいろと理由はできますね」


「それは、本当にあった出来事なのか?」


「あるわけないじゃないですか。そんなことが起きていたらもっと早くに開戦していました」


「なっ!!」


「そんな驚かないでください。歴史を見てもしっかりとした理由で開戦した戦争のほうが少ないですよ。あとから調べたら、そんな話はなかったとか。あってもかなり誇張されていたとか」


「そうそう、理由なんてどうでもいいんだよ。要は戦争を起こすことが目的なんだからさ」


月島が俺の意見に賛同しながら話に入ってきた。


「開戦の理由はそれらしいものを内務部の方で用意しておくよ。出来次第連絡するから、後は外務部の方でよろしく」


「助かります。できれば我々が正義の味方に見えるような理由を考えておいてください」


「期待して待っていてくれていいよ」


 芳賀は俺たちの会話が進むにつれて黙ってしまった。やはり彼は優しい。彼には変わってもらわなくては困るが、このまま優しいままでいてほしいとも思った。


「それで、全ての準備が整うまでどれだけかかる?」


「そうですね。軍団の再配置や編成の確認など、他にもやることはありますが、一ヶ月もあれば準備が整うでしょう」


「物資や食料の調達は内務部のほうに任せてくれていいよ」


「一ヶ月もあれば、戦争がどうなるかの大まかな予想もできるだろうし、丁度いいか」


「それでしたら、侵攻は一ヶ月後に決行ということでいいですか?」


「問題ない」


「こちらも異論はないよ」


二人が賛同した。俺は先程から黙っている芳賀に問いかけた。


「芳賀はどうしますか?」


「みんながやるなら俺も賛同する」


芳賀は暗い声で答えた。


「それでは、一ヶ月後に侵攻を開始します」


こうして、初の侵略戦争の開始が一ヶ月後に決まった。





 戦争開始直後に起こった会戦で戦力の殆どを消費した両国は、その後に小規模な戦闘を繰り返し、やがては膠着状態となった。これを打破するため、リトシア王国は、密かに同盟を結んでいたセルブラント王国、ダリア王国へと援軍を要請し、二ヶ国はこれを受諾した。これに対し、アンゼルム王国は単独で迎え撃つ用意を始めたが、アンゼルム王国と仲の良かったバイエル王国とシュレビヒト王国、トスカナ王国が支援を表明し、援軍を送ったことで戦争はさらに激化。長期化は避けられないものとなった。


 1ヶ月後の今日、各国の大使館から報告を受けた俺は月島の部屋を訪れていた。


「ものの見事に予想が当たりましたね」


俺は出されたお茶を口に運びながら、月島に告げた。


「そうだね。しかし、何らかの介入があるとは思っていたけど、まさか援軍を出すとは予想外だったね」


「ええ、そうですね。しかし、こちらの方が都合がいいと思います」


「確かに、軍を動かした今なら、対応は遅れるだろうね。それで、準備は出来たのかい?」


「万事怠りなく、全ての準備が完了しました。そちらが制作した侵攻理由も既に大使館に通達済み。侵攻作戦開始前夜に通達する予定になっています」


月島は俺の言葉を聞くと薄く笑った。


「楽しそうですね?」


俺が声を掛けると、さらに笑みを濃くしながら言った。


「楽しいよ。こちらの世界に来てから退屈しないよ」


「そうですか。それは良かったですね」


「何を他人事のように言ってるんだい。君も同じだろう?」


俺は、月島に言われると同時に満面の笑みを浮かべた。


「そうですね。確かに楽しんでますよ。貴方以上に」


俺はそう言って、最後の一口を飲み干すと席を立った。


「今日は、この辺で失礼します。今日中には侵攻軍の駐屯地に向けて出発しなくてはならないので」


「最高責任者の君が行く必要は無いと思うけど?」


「指揮官の方たちを激励しなくてはいけないのですよ。それに、自国の軍がどれほどのものか見ておかなくてはいけませんから」


俺は、やれやれと首を振りながら答えた。


「そういう事ならこれを持っていきなよ」


月島は、侍従に言いつけ何物かを持ってきてもらうと、俺へと手渡した。


「これは、旗ですか?」


「そうだよ。その旗は今後、我々の国旗になるんだよ」


 その旗は四つの頭を持つ巨大な黒蛇であった。それぞれの蛇の頭には王冠が乗っており、巨大な胴体はこの世界にある大陸すべてを囲む様にとぐろを巻いていた。


「素晴らしいものですね」


俺がそう言うと、月島は誇らしげに答えた。


「そうだろう。この国一番の絵師に描いてもらったんだよ」


「この旗を掲げて、わが軍は進行するのですね」


「気持ちが昂るような光景だね」


俺はその光景を思い浮かべると身震いした。


「それでは、失礼します。良い知らせを期待しておいてください」


 こうして俺は、アーニャとリーナを引き連れ国境付近に駐屯する侵攻軍の元へ向かった。


駐屯地では俺の来訪を知った軍の者達が整列して待っていた。


「アナスタシア女王陛下に敬礼!!」


 ザッという子気味のいい音を立て、兵士たちは俺へと敬礼をした。俺は、兵たちを労う様に笑みを浮かべながら手を振った。


「陛下、司令部へとご案内します」


若手の軍務貴族が、俺の傍に来てそう言うと歩き出した。


「よろしくお願いします」


俺は、素直にその後へと付いていった。暫くすると、司令部用の立派な天幕が見えてきた。


「こちらです」


 俺を案内した貴族がそう言って、小屋の扉を開けた。俺は、小屋の中へと入った。中では将軍らしき男と、数人の指揮官らしき男たちが、椅子に座り机に広げた地図を見ていた。男たちは、小屋に入ってきたのが俺だと分かると急いで立ち上がり、敬礼をした。俺は、用意された椅子に座ると、男たちにも座るように指示した。


「説明を聞きましょう」


俺は、全員が席に座るのを確認してから言った。


「それではご説明いたします」


将軍のらしき男の隣に控えている男が説明を始めた。


「既にわが軍は、準備を全て完了いたしました。陛下のご命令あれば、今すぐにでも進軍できます」


「よろしい。軍の編成状況を聞かせてください」


「我が侵攻軍は、第一群、第四軍を合わせ再編成を行いました。兵科ごとの数は、歩兵14,400、弓兵7,200、軽騎兵1,440 重騎兵960、全て合わせて、総数24,000になります」


「よろしい」


俺は説明をすべて聞くと、室内にいる全員を見渡してから口を開いた。


「この戦争は、大陸統一に向けた偉大な一歩です。失敗は許しません」


「了解いたしました。陛下」


将軍の返事をした。


「ならば、明日の朝、日の出とともに攻撃を開始しなさい。彼の国を我らの物とするのです」


俺はそういうと、月島に渡された国旗を将軍へと渡した。


「この国旗をすべての部隊に渡し、掲げさせなさい」


将軍は俺が渡した国旗を恭しく両手で受け取ると部下に手渡し、直ぐに手配するように伝えていた。


「長旅で疲れたので、私は失礼します」


俺は、役目を終えたので司令部から出ることにした。


「それならすぐに用意をさせます。明日までごゆるりとお休みください」


 俺はその言葉を聞くと、先程案内してくれた貴族に連れられ、用意された天幕へと入った。暫くすると、旅の疲れで眠くなった俺は、用意されたベットに倒れ眠った。


 そして翌日、日の出とともに行動を開始したわが軍は、何の抵抗もなく国境を越え、隣国へと侵攻した。




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