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子供は国の宝です

 会議の翌日、俺は何時もの如く執務を行っていた。書類を確認し、裁可のサインをしては次の書類を確認する。ひたすらな作業と化した仕事に嫌気がさした俺はリーナにお茶を入れるように言った。


「ハァ~。疲れました。リーナ、お茶を入れてくれませんか?」


 リーナは笑顔で頷くとお茶を入れるべく、部屋を出て厨房へと向かった。部屋には俺とアーニャだけとなった。


「アーニャ少し手伝いませんか?一人でやっても終わる気がしないんです」


俺は冗談半分でアーニャに問いかけた。しかし、アーニャはこちらに目を向けるとため息をついた。


「しっかりしてください。貴方がやらないと国の軍務と外務が一向に進まないんですよ」


返す言葉もなく、俺は渋々と書類の仕事を再開した。暫くするとリーナが戻てきた。


「お茶入れてきました~」


「こら!語尾は伸ばさない様にと言ったでしょ」


リーナが扉を開けて入ってくると同時にアーニャの叱責が飛んだ。


「す、すみません」


 リーナはしょんぼりとしながら謝っていた。その姿は、俺やアーニャよりも年上な見た目ながら、とても庇護欲を誘うものだった。


「そこまで起こることもないでしょう。まだ侍女になってから日も浅いのですから。それに語尾を伸ばした喋り方はゆっくりしていて、個人的に好きですよ」


俺がそう言うと、リーナは元気になった。


「そうですか~。ありがとうございます」


「ただし、場をわきまえて使ってくださいね」


俺が笑顔で言うと、リーナは居住まいを正し、畏まりましたとお辞儀をして了承したことを示した。


「それでは、お昼までに頑張って終わらせてしまいましょうか」


 奮起し頑張ったおかげで書類は、大半が片付き、残りはアルマンとルーデンドルフを交えて検討する必要があるものとなった。

 

 昼食を食べた俺はやる事もなくなったのでどうしようかと考えていた。そんな時、散歩に行くことを思いついた俺は、早速フード付きのローブを準備し、アーニャとリーナを連れて街へと繰り出した。街はやはりにぎわっていたが、式典の時より落ち着いているようだった。


「それで、どちらに行かれるの出すか?」


アーニャが行き先を尋ねてきたので俺は答えた。


「未定です。とりあえず気の向くまま進んでみましょう」


 俺の答えにアーニャは不満そうな顔をしたが、俺が止まらず歩くと、黙ってついてきた。反対に、一緒に連れてきたリーナは周りを見渡しては顔を輝かせていた。


「そんなに楽しいですか?」


俺がリーナに問いかけると、リーナはとても楽しそうに答えてきた。


「はい、とっても楽しいです。エルフは基本、森から出ませんから。なので人間の街で見る物はどれも新鮮です」


俺はリーナの答えに、エルフの村がどんな所かを聞いた。


「エルフの村は大体が森の深いところにあります。そして、村人たちは全員で狩りや野草の採取などをして生活をしているんですよ」


エルフたちのイメージ通りの生活に、俺はすこし笑ってしまった。しかし、リーナの次の言葉に驚いた。


「でも、一部のエルフたちは国を作って人間と遜色ない社会を構築してるって聞いたことがありますよ」


「それは、森を切り開いて、生活の範囲を拡大しているということですか?」


「いえ、逆ですよ。森を拡大してるんです」


「森を拡大・・・・」


 エルフたちは生活の場である森を広げ、生活圏を拡大しているらしい。今後、我が国の人口が増えれば森を切り開かなければならなくなる。その時、エルフたちと衝突する可能性が出てきたのだ。俺は、その時どうするかを歩きながら考えた。しかし、どうやっても対立する結末しか浮かばなかったので考えるのを止め、質問を続けた。


「それで、その国は何処にあるのですか?」


「詳しい場所は知りませんが・・・この大陸のどこかにあるのは間違いないらしいです」


それを聞いた俺は少し安心した。ぶつかるとしても当分先の事になるなが分かったからだ。


「そうですか。ところでアーニャ」


「はい、何でしょうか?」


「先程から喋っていませんけど、体調でも悪いのですか?」


「いえ、体調が悪いわけではあちません。ただ、会話に興味がなかっただけです」


「そうですか。なら、大丈夫ですね」


 その後、話は何気ない雑談へと移った。雑談をしながらも歩みを止めなかった俺達は、いつの間にか街を囲む壁の近くまで来てしまった。


「いつの間にか街の端の方へ来てしまいましたね」


「ここら辺は特に何もありませんので引き返しましょう」


アーニャの言う通り、城壁近くは家もまばらで人の通りも少なく、閑散としていた。


「寂しいところですね」


リーナが静かに言葉をこぼした。


「そうですね・・・」


俺はその言葉に同意した。しかし、いずれはここも人の賑わう地区にしたいとも思った。


「さて、それでは戻りましょうか」


そう言って歩き出そうとした時だった。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ」


どこからともなく悲鳴が聞こえた。


「リーナ!」


 アーニャがリーナへと呼びかけた。リーナはフードをとるとエルフの特徴的な耳を露出させ、悲鳴の出所を探っていた。そして、出所が分かったのか、その方向に向かって走り始めアーニャもそれに続いた。俺は慌てて後を追った。

 少し走ったところで、一軒の大きな建物が見えてきた。そして、扉の前には倒れ伏す女性と、男が数人いた。俺は女性をかばうように男の前へと立ち、その俺を守るようにアーニャは長剣を、リーナは短剣を構え俺の前えへと立った。男たちは、突然現れた俺たちに驚き、剣を構えているのを見ると剣の範囲から逃れるようにに距離をとった。


「おい!なんだてめぇら!?俺たちの邪魔しようってんなら痛い目にあわすぞ」


最前列にいる厳つい男が叫んだ。俺は、倒れた女性を抱き起こしながら答えた。どうやら女性は気絶しているようだ。


「通りすがりの者ですが、尋常ではない様子に思わず割って入ってしまいました」


俺がそう答えると最前列の男が俺に向けて叫んだ。


「ならさっさと消えろ!こちとら、てめぇらに構ってるほど暇じゃねぇんだ」


 確かに、何もないならこのまま帰ってもいいが、女性が倒れるまでに発展したこの事が、このまま穏便に済むとは思えない。それに先ほどから扉が少し開き、隙間から子供たちが、不安げにこちらを覗いていた。


「お断りします。女性が倒れている場面を目撃して、そのまま立ち去るほど私は人でなしではないので」


 男性は声を荒げながらさらに叫んだ。


「いいからさっさと消えろ!さもないと死体になてもらうぞ!」


男の言葉とともに、一緒にいた数人の男たちが剣を抜いた。それを見たアーニャとリーナが警戒を強めた。


「この人数だ。てめぇらに勝ち目はねえぞ」


男はニヤリと顔をゆがめながらそういった。


「そこから一歩でもこちらに近づいてみなさい。大声で警備隊を呼びます!」


 俺の言葉に男がひるんだ。小松が組織した警備隊は発足してからまだ間もないが、その存在は街中に知られている。それに、彼らの巡回経路は外壁近くのこの場所まで及んでいる。俺は、これで少しは時間を稼げると思った。しかし、男の後ろから身なりの良い男が進み出た。どうやら、こちらが主格のようだ。男はこちらを見ながら静かに言った。


「貴方が抱き起している女性は私たちに借金があるんですよ。私たちはそれを返してもらおうと尋ねたのです」


俺はどうしようかと悩みながら答えた。


「確かに、それなら正当な理由となりますね。ですが、この女性は気絶しています。彼女の確認が取れない今、あなたたちの言葉を信じるわけにはいきません」


そういうと、男は素直に引き下がった。


「それなら後日、改めて伺うとしましょう。借金は何としても返していただきますので、女性が起きたら、そうお伝えください」


 そう言って、男たちは去って行った。それを見届けた俺は、緊張から脱力しながらアーニャとリーナに武器をしまうように言った。そうして二人が武器をしまうと、俺は女性をアーニャに預け、扉のほうに声をかけた。


「この女性を介抱したいので入れてくれませんか?」


 少しするとドアが開き数人の子供が姿を見せた。子供たちは何も言わずにただ女性の方を心配そうに見つめていた。


「とりあえず、ベットのある部屋に案内してください。彼女は私たちが運びますから」


俺がそう言うと、ようやく子供たちが動き始めた。一人の子供が俺を先導し、部屋へと通してくれた。


 俺は、アーニャに女性をベットに寝かせる様に指示すると、部屋にあった椅子に座り、女性が起きるのを待った。

 

 一時間程経った頃、ようやく女性が目を覚ました。俺は彼女の意識をしっかりさせる意味も込めて、まだぼーっとしている女性に話しかけた。


「気が付きましたか。お加減はいかがですか?」


彼女は俺に気付くと肩をビクッと震わせ警戒したが、俺の姿が女性であることと、物腰が柔らかであることから、警戒を解き返事をしてくれた。


「はい、大丈夫なようです。ところで、貴女が私を助けてくれたんですか?」


「ええ、そうですよ。正確に言うなら私たちが、ですけどね」


 俺がそう言うと、壁際に立っているアーニャとリーナにも気付いたのか、お辞儀をしていた。俺は彼女に何があったのか詳しい事情を聴くことにした。


「彼等が突然押し入ってきて、私は抵抗したのですがかなう訳もなく気絶させられてしまって・・・・・」


「彼等は借金の取り立てだと言っていましたが?」


「それは・・・・・」


 俺が訪ねると、彼女は何か言おうとしたが、結局何も言わず、あきらめたように俯いた。


「何か事情があるのですね?」


彼女は頷き、迷いながら説明してくれた。


「此処はもともと、付近の住民や商人たちの寄付や援助で成り立っていた孤児院でした。しかし、先代の院長が死んでからは商人たちからの援助が無くなり、寄付はありますが、到底足りる額ではなく・・・・・子供たちが次第に飢え、どうしようかと悩んでいた時、彼等が援助を申し出てくれたんです。私はこれで助かると思い、援助の話を受け入れました。しかし、援助が始まってから一年後、突然、彼等が借金を返せと言って来たのです。私は何のことかわかりませんでした。彼等が言うには、一年間孤児院に貸し続けた金を返せとのことでした。私は、あれは無返済の援助だと言ったじゃないかと彼等に訴えました。しかし、彼等はそんなことは言っていない、いいから今すぐ金を返せと言ってきたんです。そこで私は騙されたと気付いたんです」


「そのような事情があったのですね。それで、どうするのですか?」


彼女は弱々しく首を横に振り言った。


「どうもできません。彼等は、返せなければ土地と建物を差し押さえると言っていました。ここに住めなくなれば私達は生きていけません」


彼女はそのまま、顔を押さえ泣いてしまった。


「それなら私たちが何とかしてあげましょう」


 俺は彼女をどうにか救ってあげたいと思った。それに、子供たちの未来をこのような事で潰すのはしのびない。俺は、驚いている彼女に、明日の同じ時間にまた来る事を伝え、一先ず王宮へと戻ることにした。部屋を出ると子供たちが心配そうな顔をして、出てきた俺を見ていた。俺は微笑むと、子供たちの頭を優しく撫で、孤児院を後にした。

 道中、アーニャがどうするのか聞いてきた。


「別に特別な事はしませんよ。ただ少し、芝居をするだけです」


俺はそう言うと王宮への歩みを速めた。


(俺は、救世主でもなければ勇者でもない。しかし、彼等にはないものを持っている。それを有効に使おうじゃないか)


 そう思いながら俺は王宮へ到着すると、小松の部屋へと向かった。小松は、俺の説明を聞くと頷き、「話は通しておく」と言った。俺は満足して自室へと戻った。


 後日、俺は約束通り孤児院へとやって来た。孤児院の前には、昨日の男たちがおり、昨日倒れていた女性が、子供たちを庇う様にして、それに対峙していた。

 

「そこまでですよ」


 俺が声を発すると、両者が此方を向いた。女性と子供たちは何処か安心したような表情になり、男性たちは邪魔者に対する嫌悪を抱いた表情になっていた。最初に口を開いたのは昨日の身なりの良い男性だった。


「なんの用でしょうか?あなたには関係ない事だと思いますが?」


俺は、女性の近くに庇う様に立つと答えた。


「そうでも無いですよ。昨日、彼女から事情を聴きましたが、悪いのはあなたたちの様に思えます。悪事を働く者を見逃す事は出来ません」


俺が答えると、男性は脅す様にこちらへ一歩踏み出し言った。


「こちらには正当な契約書があります。それでも引きませんか?」


「ええ、騙して作った契約書に正当性など無いと思いますので」


「そうですか。どうやら、力ずくで退いてもらうしか無いようですね」


 男性がそう言って交代すると、男たちが剣を抜き此方に襲いかかろうと身構えた。それを見たアーニャとリーナが俺の前に出てそれぞれの武器を構えようとした。その時であった。警笛が鳴り、大勢の警備隊が此方に走ってきた。


「貴様ら!何をやっている!?」


 警備隊の隊長が此方に事情を聴いてきた。しかし、俺が事情を説明する前に身なりの良い男が口を開いた。


「我々は貸していた金を返してもらおうと此処に来たのですが、女性が返済を拒否しまして。それならばと契約書通りに建物を差し押さえようとしたところ、あの三人が武器をちらつかせ脅してきたのです。それで、身の安全を守るため、仕方なく剣を抜きました」


隊長が男の事情を聞き、此方に視線を向けた。そして隊員に確保するよう命令を出した。


「奴等を確保しろ。抵抗する者は多少痛めつけても構―」


しかし、隊長が言い切る前にアーニャが声を上げた。


「控えなさい。貴方達は誰を拘束しようとしているのか分かっているのですか」


俺は、被っていたフードを取り素顔をさらした。警備隊の隊長は俺を見て驚きの声を上げ跪いた。


「じょ、女王陛下!?」


隊長の声が上がるとともに警備隊も動きを止め、驚愕の表情で此方を見て、慌てて跪いた。


「聞きます。貴方達は何の権限があって女王である私を拘束するのですか?」


俺は質問しながら隊長の元まで歩いていき、彼を見下ろした。


「そ、それは・・・・・」


隊長が何かを言おうとしていたが、俺はそれを許さず、再び問いただした。


「答えなさい。何の権限があって私を拘束するのですか?」


隊長は答えられず、地面に頭をつけ謝ってきた。


「申し訳ございません。こ、此度の事は何卒お許しを・・・・・」


俺はそれを見ながら、体調に言った。


「まずは、そこにいる不埒な男どもを拘束しなさい」


「しかし、彼等の言い分は正しく拘束する理由は―」


俺は隊長の言葉を黙らせた。


「黙りなさい。女王である私に刃を向けたのです。これ以上の理由が必要ですか?」


隊長は冷や汗を流しながらなんとか答えた。


「ハハッ、直ちに拘束し連行いたします」


隊長は立ち上がり、隊員に指示して暴れる男たちを拘束した。


「よろしい。貴方が職務を全うし、彼等が持つ契約書の不正を暴いたならば、先程の無礼は不問とします」


 俺は全員が拘束されたのを確認すると隊長にそう言った。そうすると隊長は顔を輝かせ、綺麗な敬礼をしてから、男たちを連行していった。俺は、それを見届けると、未だに呆然としている女性と子供たちの方に振り返った。


「これで解決ですね。もう安心していいですよ」


俺がそう言うと、女性は突然頭を地面に擦りつけるほど平伏して叫んだ。


「女王陛下とは露知らず。ご無礼をどうかお許しください!!」


俺は慌てて女性の元に近づき頭を上げるように言った。


「どうか頭を上げて下さい。無礼だなんて思っていませんから」


彼女は平伏した姿で頭を上げ、恐る恐る聞いてきた。


「本当でしょうか?本当に罰しませんか?」


「ええ、罰しませんよ。折角助けたのに、貴女を罰したら本末転倒じゃないですか」


俺が笑いながら言ったことで、彼女もようやく立ち上がりお礼を言った。


「女王陛下に助けていただけるなんて、なんてお礼を言ったらいいか。本当にありがとうございました」


「今後、孤児院には国からの補助金が出るでしょう。これからも挫けず、子供たちを救ってあげて下さい」


 俺がそう言うと彼女は驚き目を見張ったが、何も言わずに静かに頭を下げお辞儀をした。その時、小さな少女が俺の足元へ歩いてきた。俺はしゃがんで少女に目線を合わせた。


「どうしたの?」


「お姉さんが、私たちを助けてくれたの?」


「ええ、そうよ。貴方達はこれから、何も心配せずに過ごせるのよ」


俺がそう言うと、少女は満面の笑みを浮かべながら俺へと感謝の言葉を言った。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 俺も少女に微笑み、返事をした。その後、俺達は王宮へと帰り、警備隊を動かしてくれたことを小松に感謝し、月島へ補助金の話をした。月島はもろ手を挙げて賛成し、すぐに始めると約束してくれた。


数日後、孤児院の子供たちから届いた感謝の手紙を見ていた俺にアーニャが質問をしてきた。


「なぜ、孤児院の女性と子供たちを助けたのですか?他部署に頭まで下げて」


俺は椅子に座ったままアーニャの方に振り返り、微笑みながらその質問に答えた。


「だって、子供は国の宝じゃないですか」




読み返すと展開がベタだなと思ってしまう今日この頃。

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