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星の支配人  作者: しまもん
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巨大なミサイルが搭載されたミサイル艇がJH星に近づく。

前回の戦いで、ある程度ではあるが敵の索敵範囲は判明している。

ミサイル艇は敵に察知されることが無い距離で停止し、次の命令を待つ。


最早、回収等と言う生優しい事で済む事態ではなかった。

研究機関も戦闘記録だけで満足し、データを今後の開発に役立てる事になった。



JH基地から人員の退避は既に完了している。

憔悴しきった少尉を回収部隊が回収し、彼女は現在、軍病院に入院している。


ミサイル艇が準備を整えると、発射命令が下された。

そしてミサイルが次々にJH星に撃ち込まれる。


そのうちの何発かはJH星から撃たれたビームで撃破されたが、それでも構わない。


一発でも当たればそれで作戦は成功なのだから。


そして終に、一発のミサイルが地上に命中した。

ミサイルは星の中心部目指して前進し、星の核に到着すると同時に大爆発を起こした。


星の上にあった巨大な都市も吹き飛んだ。

そこで生きる人々も吹き飛んだ。

美しい自然も、そこに生きる動物達も吹き飛んだ。


そして、たった一人で地球軍に刃向かい、最期まで抵抗を続けた一人の戦士も、同じく吹き飛んだのだった。

その日、一つの有人惑星が宇宙から消え去ったのだった。


作戦が終了し、地球軍は勝利を祝った。

司令官や参謀達はゲラゲラ笑い、地球に逆らう愚か者の最期を肴に祝宴の準備を始めた。









病院で目が覚めたとき、既にJH星は宇宙から消え去っていた。


ここはJH星から一番近い場所にある軍病院の精神科だ。

柔らかいベッド、綺麗なシーツ、そして心配そうに覗き込む看護婦。


「先生、少尉さんが起きました」


看護婦は医者を呼びに部屋を出て行った。


少しして一人の医者と一人の地球軍大佐が病室に入ってくる。

医者は私に少しの質問をし、体調を確認すると直ぐに退室した。

病室には私と大佐が残った。


大佐は私に伝える事があって来た様だ。

大佐が言うには今回の事は最重要機密扱いなので、決して口外してはならないそうだ。

もし口外した場合、私の身の保障は出来ない、と厳つい顔で脅してきた。

その後、退院後の新しい配属先等事務的な事を言うだけ言うと、大佐は病室を出て行った。


JH星は宇宙から消えた。

あの敵機も恐らく星と運命を共にしたのだろう。


これで良かったのだろうか?

確かに、あの死神に脅える日々からは解放された。

でもこれからは社会に震える日々がまた始まる。

結局、私は何に対しても恐怖する人生に変化が無い。



こうして「平和」な状況になって初めて、あの敵機について考えてみる事が出来た


あの敵機はたった一機で地球軍と戦っていた。

確かに強力な戦力だったかもしれないが、それでも敵はたった一機だったのだ。

あいつも恐怖していたのだろうか?

あそこまで必死に戦いながら、あいつは何を思っていたのだろうか?

もし、逆の立場だったら、私に同じことが出来ただろうか?

いつも何かに恐怖して震え、縮こまっている私に同じことが出来ただろうか?


・・・・いや・・・・、私は戦わないだろう。

下手に賢い私のことだ、色々と理由をつけて戦う事は決して無いだろう。


補給をどうするのか?

星の環境を破壊するのではないのか?

私の行動は人々から支持されるだろうか?

負けたらどうすればいいのだろうか?

本当に地球に勝利出来るのだろうか?

もし勝てたとしても、その後どうすればいいのか?


いや違うな。

多分私のことだ、地球の支配を何とか正当化して己を無理矢理にも納得させるかもしれない。


・・・・・でもあいつは戦った。

たった一機で、強大な敵と戦ったのだ。


確かに単純な戦力として見れば「強敵」だったが、それだけではない。

あいつは心が強い奴だった気がする。

ひょっとしたら、あいつは強力な戦力が無くとも地球軍と戦っていたかもしれない。


私は思い出していた。

地下水脈に落ちた歩兵の事を。


あんな旧式の銃を使い、必死になって奴は戦っていた。

地球と戦い、現実と戦い、己と戦っていた。


もしあの歩兵が生きていたなら、そして地球軍人とJH軍人という関係で無かったなら。

ひょっとしたら私は彼に憧れを抱いていたかもしれない。


私には無い「強さ」が彼にはあった。

巨大な敵に立ち向かう勇気があった。


私には出来ない。

さっき大佐に言われた脅し文句に震え、もう口外する等という事は一生出来ない。


小賢しい脳みそが私に語りかけるのだ。


これからの人生はどうする?

家族の生活はどうなる?

このまま黙っていれば、平穏な人生を送れるぞ?

例えお前が何か行動したところで、地球が本当に変わると思っているのか?

辺境の小さい戦いだ、証拠も無いし、あったとして何が出来る?


私には無理だ。

彼の様に、敵機のように、たった一人、たった一機で強大な敵に戦いを挑む勇気は無い。

これからも地球軍の言いなり、地球社会の言いなりで「平穏」な人生を送るしかない。


たった一人で戦うなんて・・・・私には・・・・出来ないよ・・・・。

人は一人では生きていけないし、一人では戦えないんだ。

もう・・・無理なんだよ・・・私は・・・戦えないんだよ・・・・。


目からは涙が零れ落ちる。

その涙を止める術を私は知っているが、実行できない。


小賢しい私の頭が、実行させない。

弱い私の心が、許容しない。


無理矢理、枕に頭を押し付けて私は眠った。



・・・・もう・・・・、・・・・何も考えたくなかった・・・・。





その後、ジュリエット少尉は軍で数年勤務した後に満期除隊した。

当初の目的通り、大学に行くための奨学金を貰おうとしたが、膨大な契約書に小さな文字で書かれた「奨学金支給の条件」を満たしていなかったため、全額を支給されることは無く、結局大学にはいけなかった。

翌年、家族が次々と病に倒れる。

家計を支えるため売春婦として数年勤務するも、体調を崩し引退。


その後の足取りは不明。



一方、地球軍は解析した敵の技術を元に、ロボットの能力を大幅に向上することに成功した。

完成した新型機の外見はJHに居た敵機と殆ど変わらず、全体的に青色で塗装され、丸みを帯びたボディをした機体であった。


地球軍はこの機体を無人機に改造し、量産を開始する。

一部エース専用機として大幅に出力を増したモンスターマシーンも作られ、それ以外にも様々な派生機を生み出した。

その後、この機体は「標準機」として地球軍が解体されるまで使われる事になるのだった。


地球軍はこの強力な機体の力をもって、宇宙での支配範囲を大幅に拡大する。

その結果、更なる人員を必要とした。



段々暖かくなり、高校に軍のリクルーターが現れる時期になった。

彼ら彼女らはスクールカースト上位の生徒にニコニコと話しかける。


「軍に入れば将来の選択肢は格段に増えるよ!」

「奨学金も出るから大学にも通える!」

「命令は良心を持って拒否出来るし、簡単に除隊も出来るよ!」


「地球を!そして宇宙に住む全ての人々を愛する気持ちがあるなら!!」

「さあ!名誉ある地球軍で共に宇宙の平和の為に戦おう!」


今日も、一人の少女が契約書にサインをする。

明日を生き抜く為に。


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