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星の支配人  作者: しまもん
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深夜。

私は緊急事態発生を知らせるサイレンに叩き起される事になる。


・・・それは地上を偵察していた偵察機が撃墜された事を知らせるサイレンだった。




サイレンに叩き起こされ、オペレーションに駆け込んだ私はディスプレイを見て体が凍りついた。

ディスプレイには人工衛星が撮影した偵察機の残骸が映し出されていた。

残骸は綺麗に真っ二つになっている。

私は驚愕した、鳥肌が立った。


この偵察機は元々旧式の戦闘用ロボットだったのを偵察機として改修した物だ。

そのため攻撃能力こそ無きに等しいものの、偵察能力と防御力は最新の戦闘ロボットに引けを取らない性能がある。

そんな偵察機が何者かに撃墜された。

それも何か刃物で斬られたように両断されたのだ。

驚愕しないわけが無い。


「これは・・・一体どういう事なの?」


震える声で人工知能に尋ねると


<原因は不明です>


とだけ返ってきた。


「可能性が高い順番に答えなさい」

<偵察機の故障による自壊、惑星連盟軍による攻撃、自然現象による破壊・・・>


いくつかの可能性が提示されたが、その全てが可能性が低すぎた。


「連合軍残党の攻撃という可能性は無いの?」

<JHに偵察機を撃墜出来る科学技術は存在しません>


確かに、もしそんな力があるなら反抗時に使っているはずだ。

では一体何が起こったのだ?

偵察機が最後に送ってきた映像を調べたが、結局何も分からなかった。

レーダーにもカメラにも何も写っていない。

いきなり偵察機は破壊されたのだ。


どうやって?


「この場合、どのように対処すればいいの?」

<上層部に報告し、指示を仰ぎます。許可をいただけますか?>

「許可します。速やかに報告をしなさい」


人工知能が処理を始め、私は食堂に紅茶を取りに行った。

紅茶を取ってくると、報告は終わっていて上層部からの指示が来ていた。

指示書には「JHを準戦時体制とする」とだけ書かれていた。


その文章を見て、私は卒倒するかと思った。

準戦時体制・・・、つまりは、本当の戦争が始まったのだ。



そのままオペレーションルームで私は朝を迎えた。

人工知能は準戦時体制になったとはいえ、人間には休息が必要であり、直ぐに就寝したほうが良いと言ってきたが、そんな事出来ない。

地上にはまだまだ偵察機が存在している。

ひょっとしたら、また偵察機が撃墜されるかもしれない。

いや・・・・、もしかしたらその謎の敵が、この基地を攻撃してくるかもしれない。

就寝前と打って変わって私はガクガクと震えながら椅子に座っている。


これが戦争・・・。


私は勘違いしていた。

見えない敵に対する恐怖、死ぬかもしれないという恐怖、死んだら地球には死体すらも戻らないかもしれない恐怖・・・。

様々な恐怖が私にのしかかる。

もしこの基地にもう一人、誰かが居てくれたならここまで震える事も無かっただろう。

でもここには私しかいない。

人工知能が万全の警戒をしているし、いきなり敵がドアを蹴破って雪崩れ込んでくる事は有り得ないが、小さな音にすらビクついてしまう。


自然と涙がポロポロと流れ出てくる。

私は産まれてこの方、何も悪いことをしていない。

両親と弟と私の4人家族で必死に生活していただけだ。

家計を支えるべく、学校が終わったらファーストフードでバイトもしていた。

高校も今時珍しい給付型の奨学金を受給することで学費も抑えた。

予備役の訓練でも好成績を出して、リクルーターの女性軍人からお小遣いを貰らうと、その全てを家の食費にした。

必死になってお金を稼ぎ、必死になって家計を支え、必死になって生きて来た。

その結果がこれなのだろうか?


この孤独な基地で、恐怖に震えながら椅子の上で縮こまる。

涙がポロポロと流れズボンにシミを作り出し、口からは嗚咽にも似た音が止まる事無く出続ける。


これが私の人生なのだろうか?

こうして何かに怯え、恐怖して震える人生が一生続くのだろうか?

貧しさに震え、弱さに震え、未来に震える。

こんな生活が死ぬまで続くのだろうか?



今、地上には謎の敵が居る。

謎の敵の正体が何なのか、規模は?目的は?達成するための計画や手段は?


全てが分からない。

まるで目隠しをした状態で白兵戦をしている様な気分だ。

私は堪りかねて自室に駆け込み金庫を開けた。

先任の残した手紙がこの基地で人のぬくもりを感じる事が出来る唯一の物だ。

私はボロボロと泣きながら、とっくにヨレヨレになってしまった手紙に顔をうずめ、泣きじゃくった。


なぜ?どうしてこうなってしまったのか?


誰も答えてくれない基地の中、私は孤独を存分に味わった。




翌日、撃破された偵察機が回収されJH基地の格納庫に運ばれてきた。

これは研究機関に運ばれ、原因究明と今後の改良の為のデータ取りに使われる事になっている。


格納庫には半分になった偵察機が置いてある。


分厚い装甲は、まるで鏡のような断面を晒している。

精密な機械をむき出しにし、偵察機は死んでいた。


私は恐る恐る断面を触ってみた。


冷え切った断面は、まるで人間の死体の様な感覚だった。

そして、私もその死体の仲間入りをするかもしれないのだ。


未だ撃破された原因は不明。

明らかに敵がJHに居るだろうが、上層部はそれを認めない。


有り得ないのだ。

地球が誇る最新の装甲がここまで簡単に切り裂かれる等という事実は決して有り得ない。

そんな過信が上層部にはあるようだ。


私としてはとんでもない話だ。

今すぐにJH基地から脱出し、地球に帰りたい。

そして母親の胸に飛び込み、頭を撫でられたい。

父親に自分の無事を伝えたい。

病弱な弟に「ただいま」と言いたい。


しかし出来ない。

もしここで除隊してしまっては、お金がもらえない。

奨学金がもらえない。

私の未来が無い。

地球に帰っても碌な仕事が無い、碌な収入が無い。


私は帰れない。

地球には帰れない。

ここで、見えない敵がいる星の目と鼻の先で、生き抜かなくてはならない。


基地の中は空調が効いている筈なのに、足元から冷たい何かが登ってくる。

その「何か」が内臓に入り込み、少しずつ心臓を凍らせていく。

そしてゆっくりと首を絞めるのだった。


私はその「何か」から逃げるように格納庫を飛び出した。


あれは、あの「何か」は「死への恐怖」だった。

見えない敵が死神となって、私の首を絞めていた。

そっと首に触れると、温かい筈の肌が冷え切っている。


私は歯を食いしばり、オペレーションルームへ駆け込んだ。


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