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星の支配人  作者: しまもん
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そんな生活が数日続いていた。

私は毎日毎日同じ生活をし、今日が何日の何曜日なのか?いやそもそも今は何月なのか?

それすらも段々とあいまいになって来てくる。

ある意味で順調、ある意味で退屈な時間が過ぎていく。

誰も居ない基地、何も起こらない時間、それは人間の心を殺すのには十分な物だった。


時々、突然涙が溢れてくる。

トレーニングルームで走っているとき、食事をしているとき、シャワーを浴びているとき・・・・。


時間も場所も関係ない、いきなり涙がポロポロと流れ出る。

そんな時は急いで部屋にある金庫を開き、先任の残した手紙を読むのだ。

もう何度も読んだ手紙は既にボロボロになりつつある。

別にラブレターというわけではない。

先任とは通信回線で少しだけ会話した程度の関係しかない。

それでもこの手紙に何度も救われている。

今日も手紙を読むのは2回目だ。

今もシャワーの途中で涙が流れ続けたので、もはや全裸に近い格好で手紙を読んでいる。


基地に来て何日過ぎたか分からない。

毎日毎日代わり映えの無い生活を送る人間に、カレンダーというのがどれほどの価値があるというのだろうか?

今日もいつも通りにオペレーションルームで仕事を行い、トレーニングをしていると、いきなり基地にサイレンが響き渡った。


私はサイレンを聞き、呆然とした。


それは戦闘が始まった事を知らせるサイレンだった。



深夜といっていい時間だろう。

地下に広がる広大な格納庫の中には様々な軍服に身を包んだ軍人達がいる。

全員が武装しており、格納庫には戦車や戦闘機がメンテナンスを終えていつでも出撃出来る様になっている。

噂では海岸線や海底にも隠し基地が存在し、そこに連合軍の残存艦隊が温存されているという。

大勢の人間が居るのに、格納庫は静まり返っている。

全員が整列して、指揮官の登場を待っているのだ。

少しして指揮官が現れ、壇上にあがった。

指揮官は整列している軍人達を見回してから、演説を始めた。


「みな、良くぞ集まってくれた」


髭を蓄えた司令官は、元は連合軍の参謀だった人だ。


「たった一年でこの星は変わってしまった。一年前、我々は自由に生活出来ていた。独立した誰にも指図されない生活をしていたのだ」


俺の隣にいた古参兵が司令官の言葉に頷いている。


「しかしやつらが来てから我々の自由は奪われた。政治も教育も、そして国家も全てやつらに奪われたのだ」

「やつらは連合軍を壊滅させ、この星を完全に占領したと考えている」

「しかし!それは違う!!連合軍は未だ健在だ!!」


健在か・・・。

全盛期に比べて数も質も落ちてしまった我々連合軍の残党を見て、あの司令官は「健在」だと言えるのか。


「この屈辱の支配も!今日で終わる!!もはやこの地上に地球の戦力はほとんど残っていない!!!やつらは完全に油断しているのだ!!」

「各地に展開している同志も同じ時間に作戦を開始する!諸君!今日こそが決戦なのだ!!今日こそがこの星の真の独立を勝ち取る日なのだ!!」


わーー!!!!

と兵士達は喜んでいる。

俺も銃を掲げたが、本心から喜ぶことがどうしても出来なかった。


連合軍残党に武器を持たない人々が期待しているのは理解出来る。

実際、解体された国家や軍から武器や資金、人材、技術を地球に勘付かれない様に提供してもらった事も多々ある。

それだけでなく、民間の大企業からも様々な提供を受けた。

それは全て我々に期待している証なのだ。

地球を追い払い、元のような生活を取り戻したいという人々の願い。

子供達に自分達の文化を学ばせ、そして星の未来を託していく。

そんな本来であれば「当たり前の世界」を取り戻したいと考えているのだ。


しかし一方で地球を歓迎する連中もいるのも事実だ。

地球に支配され、国家も軍も解体されたが、地球が導入した人工知能による政治は極めて公平であり、今まで戦争に苦しめられた地域や貧困者達にとっては地球は救世主の様な存在だ。

それだけではなく、様々な科学技術も格段に進歩した。

例えば医療技術の向上には目を見張るものがあり、今まで助からなかった人々も救われている。

経済的にも世界を覆っていた大不況も段々と改善し、人々の生活レベルも1年前に比べて向上している。

そういった地球の恩恵を受ける人々にとって、俺達残党は目障りな存在であり、「いっそ地球と戦って皆殺しにでもされてしまえばいい」と考えている連中までいる。

一般人の中には地球軍に志願し、何とか地球の名誉市民になろうと努力する裏切り者まで居るくらいだ。

しかもそういった裏切り者というのは意外と高学歴だったり、社会的なステータスの高い連中が多い。

彼らの中には必死になって地球語を学び、地球への留学の許可を貰おうとしている輩も少なくない。


盛り上がる地下基地の中、俺も銃を振り上げたが、果たしてこれが正しいのかどうかすらも、わからなくなっていた。

俺の本心としては地球から独立したいと思っているし、それは絶対に必要なことだと思う。

そのためならば、俺の命を投げ出してもいいと思っているのだ。

しかし、現状では地球と戦えるだけの戦力が無い。

参謀達は地球と対立している星から支援を受けて戦えばいいと考えているようだ。

戦後に改良された通信機で遥か彼方の星と連絡を取り合い、何とか支援を受ける協定が結ばれた。

敵の敵は味方という考えのようだが、そんな綱渡りな作戦で本当に地球に勝てるのだろうか?


今回の作戦では地球軍の地上基地を一斉に攻撃する事になっている。

一年前の侵略時に比べて地球軍の戦力は格段に少なくなっているから今がチャンスなのだそうだ。

地球軍としてもこんな戦略的価値の少ない星に戦力をとどめておくつもりも無いのだろう。

数が少なくなった地上基地を攻略し、彼らの施設を確保する。

その後、地球と敵対しているという惑星連盟軍から援軍が来るまで星を維持し、援軍が到着したら惑星系に残っている地球軍を攻撃し、これを撃破する。

再度地球軍が侵略してこないように援軍と共に再軍備を行い、地球軍の侵略に備える。


こんな一つでも失敗したら敗北してしまう、綱渡りな作戦しか連合軍には残っていないのだった。

もしも地上基地の攻略に失敗したら?

地球軍の戦力が予想以上だったら?

援軍が来なかったら?

様々な疑問がいくつも頭に浮かぶが、もはや誰も止める事が出来ない。

あと数時間で作戦は開始され、この星の将来が決定する。


司令官の演説が終わり、各部隊が集合を始めた。

俺も所属する部隊目指して駆け出す。

広い格納庫では戦車兵や砲兵、パイロット等も準備を進めている。

走っている最中に目線があった戦車兵がガッツポーズをしてきたが、正直期待出来ない。

ここにならんでいる兵器は連合軍の残した兵器ばかりだ。

地球の兵器の前には無力だった兵器しかない。

一応提供された技術を使い改良してはあるが、果たして効果があるのかどうかは未だ未知数だ。

俺の持っている銃も様々な改良が施されたが、地球の武器を貫けるかどうかは実験すらしていない。

部隊で集まり、整列して格納庫の扉が開くのを待つ間、俺はずっと不安な気持ちを拭う事が出来なかった。


それから数時間が経った。

朝日が昇り、地球軍の地上基地が太陽に照らされる。


少し離れた場所に見えるのは数ある地球軍の基地のひとつだ。

基地の近くの山には大砲が据えられ、戦車や装甲車が偽装を施して待機している。

この日の為に基地の近くまで掘られたトンネルの中で俺達歩兵は攻撃開始を待っている。

トンネルの中は土ぼこりが舞い、視界が狭い。

息が詰まりそうだ。

誰も一言も発することも無く、ただじっと俯いている。

息の音だけがトンネルを支配していた。


「ビーーー」


トンネルに設置されたスピーカーからサイレンが鳴り響く。

ついに作戦が開始された。


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