美女との再会
フェリーに乗ったのは初めてだった俺はその新鮮味あふれる好奇心が駆り立てられ興奮状態だった。
どこもかしこも見たことのないようなものばかりで目が泳ぐ。
部屋に向かい通路を歩いてるだけだというのにこうも興奮させられたのは人生初だった。
道中何人もの人物がこっちを訝しげに窺う様などあったがそんなことはどうでも良い。
「めっちゃすげぇ、マジで感無量。これは島流しにされて良かったかもな」
なぁ―んて感慨にふけりながらたどりついた自室の扉前。
親父から渡された紙に記載された部屋の割り当て番号どおりの部屋だ。
「さてさて、なかはどうなってるのかな」
中に入ってみれば高級ホテルのような部屋の内装が広がっていた。
フェリーの部屋と言うだけあってかそれほど広くはないが聞いた話であるとこのフェリーはそれなりの高級フェリーであるために部屋の内装も一般よりはかなりの広さを誇ってるという。
二つのベットが壁際に配置されているのを見て紙に記載してあった内容をもう一度確認した。
「そういえば、二人一組とか言ってたな。じゃあ、ルームメイトがいるのか。と言ってもつくまでの間のってやつだな」
どっかりとベットに腰をおろした。トランクは預けはせずにそのまま部屋の中に持ち込むことにしているので部屋の片隅に置いておく。
ベットの上であおむけになり倒れこんで手で何かを掴んだ。
「ん?」
恐る恐るそれを前に掲げあげて広げてみる。
▽型の布地をした黒の――
「女物の下着じゃないか!」
だらだらと冷や汗が流れ出してベットから退いてもう一つのベットに座る。
すると、部屋の内部には今時珍しくシャワー室完備なようでシャワー室からバスタオル一枚の姿で腰まで届くほどの艶やかな黒髪、少し垂れ気味な瞳をした絶世の美女が現れた。
その美女には見覚えがあったために思わず声をかけてしまう。
「き、君はあの時の……」
「あなたはサービスエリアのって……ココで何を……」
彼女は自らの格好に恥じらうよりも俺の手に持っているものに視線が集中していた。
俺は恐る恐る自らの手を確認して理解した。
しまったぁああああああああああああ!
例の黒のパンツを握ったままだった。
もちろんこの部屋にいるであろう彼女の物なのであるのは明白。
彼女の顔が険しくなり始める。
胸元の谷間から銃を取り出した。
どんな手品だよ!
「つか、銃っ!?」
容赦なく引き金が引かれ俺の頬を何かがかすめた。
熱く鈍い痛みが走った頬を触れば掌にべっとりとこべり付いた赤い付着物。
それが何かは理解した。自分の血だ。彼女の手の銃が本物である証であった。
「今ここで何をしていたのかは来なさい下着泥棒さん?」
「ちょちょちょ、待て! 俺は下着泥棒じゃないここのルームメイトだ!」
「なら、その手に持ってる私の下着は何!」
「これはさっきたまたま見つけてついうっかり握ってしまったままだというかなんというか……」
「やっぱり下着泥棒ね。親を犯罪者に仕立て上げるだけじゃなく私に目をつけてストーキングし下着泥棒までするなんてとんだ、犯罪者ね」
「なんか、誤解してるぞ! さっきから言ってるだろう! 俺はルーム――」
銃の引き金が引かれて反射的にしゃがみこんだ。
頭上すれすれに銃弾が掠める。
奇跡的に近く避けられた。
「次は当てるわよ」
こうなったらしゃべらず証明するしかないとあきらめの境地に入る。
俺が手に握ってるのは下着だけではなくもう一つあるのだ。マジでこれを持っていなければ死んでいたかもしれないだろう。
堂々と前につきだすと彼女は銃口の引き金に指を駆けて行くより素早く声を張り上げる。
「これは証拠だ!」
「は?」
女は、紙に目を通しおとなしくなっていった。
銃をおろしてから、俺のもとに歩み寄って俺の左手に握られた下着をひったくる。
「神咲辰矢っていうのね、あなた。まったくあなたみたいな人がルームメイトなんて最低ね」
「…………」
何にも言えずに彼女の後姿を眺める。
彼女が俺の名前を知ったのはこの入学案内図の紙に記載されていたからだ。
ふと、彼女に名前を聞こうとしたとき、彼女が背を向けたまま硬直していたことに気づいた。
「えっと、どうした?」
「……なさい……」
「え」
「今すぐ部屋から出て行きなさいよ! 私これから着替えるんだから!」
「あ、ああっ!」
彼女が銃口を射し向け俺は急いで部屋を飛び出す。すると、部屋の中から喚き声のようなものが聞こえてきた。
そうとう、今になって羞恥と怒りのないまぜになった発狂の雄叫びをあげてるようだった。
「こりゃぁ、しばらく帰るのは無理か。となると――」
俺は左右を見渡して決断をする。
「船内探索と行きますか」
そのままエントランスホールに向けて歩きだすのだった。