親父との別れ
「あ~、うぜぇー」
「いい加減そのため息をやめろ!」
次の日、例のごとく俺、神咲辰矢は嫌々ながらも無理やり叩き起こされて親があらかじめ俺が準備をしないと踏んで準備していた私物を持たされて車に押し込められる形で乗りそのままとある場所へ向かう。
それは例の軍事学校があるという場所に向かうための送迎用フェリー船の待つ海岸へ。
車の中では俺はずっとぶつくさ言いながら助手席でずっと溜息をつきっぱなしだった。
親父はさすがに憤慨しながらこちらを横眼で睨みつけつつ海岸へ向かい高速道路を走り続けている。
俺の住む町はこれでも都会の部類に入るので海岸までへの道のりは高速に乗って数時間はかかる。
つまり、車での移動が必須になるのであった。
「ちぇっ、21歳になってまた学校とか始めるとか最悪だぞ」
「心配するな。その学校の平均年齢はお前と変わらん奴が多いらしい。なにぶん軍事訓練の学校だ。20過ぎが多いと聞く」
「それってさぁ、どうせ若い奴は殉職してっからそうなんじゃねぇの。新米って死に安いだろ? どうせ、戦地に追いやられて殉職してんだっての」
「そうならそれでお前も英雄として死ねて私は親として光栄になるからいい」
「クソ親父」
「言ってればいいダメ息子が」
険悪な空気の中で俺は死を覚悟してでも親父の運手の邪魔をすべきだとか考えたがその考えは諦めた。
なにせ、車に押し込められた際に逃げないようにと親父は手錠を背もたれの金具にくくりつけ逃亡困難にしてくれやがったのだ。
あきらめざる得ないだろう。
「あーくっそ」
従うしかない状況の中でぼけーと考え事をする。
スマホやノートパソコンすら取り上げられ唯一ある私物は親が用意したと思われるキャリーバックの中にある。
それも今ではトランクの中。暇つぶしにその中を物色しようにもできる状況ではない。
すると、親父が車の進行先を突然とサービスエリアへ向かわせ駐車場へ駐車した。
「たつや、カーナビの設定をしてくれないか。道を間違えたみたいなんだ」
「はぁ? 何やってんだよクソ親父」
親父は機械音痴なためにこの手の設定が苦手でありカーナビも俺がいてやっと機能する。
俺は例の親父から貰っていた新棟総合軍事学校案内の資料を読み、海岸の住所の設定を行い、進行ルートが出てくる。
「ああ、そうか。もう一つ先でよかったのか。間違えたと思ったが安心だな」
「ケっ、おれはこのままここで寝て過ごすでいいんだけどな」
とか言いながらニヒルに笑う。
「寝て過ごす? 馬鹿を言うな。今のお前に主導権はない。それに車を運転してるのは私だ」
親父の冷めきった視線が現状を物語り強く威張ったところでどうしようもなかった。
「それより、辰矢、便所は平気か?」
「全然平気じゃない。めっちゃ漏れそう」
これはチャンス。この機を逃さず逃げようと考えた。
だったのだが――
親父の大仰な溜息が車内に充満するように響く。
「よし、平気だな。飲み物を少し買ってくるから待っててくれ」
「おい! クソ親父! 話聞いてたか? 漏れそうだって! この年になってションベンチビる!」
「じゃあ、待っておけよ!」
「クソ親父話を――くそがぁああああああああ!」
顔に出過ぎたようだ。
嘘を見破られていたのだろう。
親父は車から降りて一人で飲み物を買いに行ってしまった。
まさにこの状態ってただの囚人扱いだろう。
息子に行う行為か?
断じて違う。
これは暴行罪。
否、虐待だ!
「ん? そうだ。考えればいいことだった。にしし、親父がいねぇなら車のロックを外すことなんざ簡単」
車のロックを外しどうにか外の空気が車内に入り込む。
腕が背もたれの金具に固定されては外への入り口を確保したとしても脱出は不可能だ。
では、どうするか。
決まってる。
車のドアだけを開け、駐車場のサービスエリア全体に聞こえるように声高に張り上げた。
あくまで、駐車場だけの範囲内の声量と言うのは難しくもあった。
「だれかー! だれかたすけてくれぇー!」
すると、この俺と親父が乗ってきていたベンツに数人の人垣がやってきて、近づいてきたのは二人。一人は若い中年の男性。
やせ細った顔立ちにいかにも職場に絶対いる優しい感じの雰囲気のあるサラリーマン風男性。
そんで、もう一人は息をのむほどの絶世の美女だった。
腰まで届くであろう黒髪を髪止めのスウィンキーで後頭部でハーフアップに結いあげている艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スっと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
でも、そんな美貌に負けず劣らずスタイルも抜群に良かった。
状況が状況でなければだれもが彼女の姿を見てしまうほどだっただろうがこの場にいる者たちの注目の的は助けを請いた俺にあった。
「どうしたのだい、君!」
「手錠をされてる」
「本当だ、お姉さんは警察に電話を頼めますかな?」
「ええ」
などと話がひと騒動起きそうな雰囲気。
やばっ。
(警察の問題のことは考えてはいなかったぞ)
おれは、電話に手をかけた彼女を見て声を上げる。
「ちょっと待った」
「え」
中年の男性も俺の待ったの声に疑心暗鬼な目で見てきた。
思考を急速旋回させた騒動回避を考える。
もし、警察の問題に発展すれば俺はただの犯罪者だ。迷惑をかけただけの罪人になる。
「どうしたんだい?」
「警察の問題になると俺を捕まえた犯人が何をしでかすかわからないですから。もしかしたらここにいる人たちを皆殺しにするかもしれないですし、このことはどうか内密に処理してください。一先ずは俺を救出した後にしてくれないですか?」
今考えたシナリオを適当に言い、相手をそれで理解させ信じ込ませようとする作戦に出る。
二人とも理解したように頷き電話をしまってくれた。周りの野次馬も大変という雰囲気でまずは俺を出させてあげようという策案にある。
つか、こいつら普通に考えてこんなにヤジ集まってたら犯人も来るだろうとか考えないのだろうか。
いや、車の陰が邪魔をしてわずか、この場に集まった5,6人程度では注目の的にもならないのだろう。
「そうか、わかった。お兄さんの言うとおりにしようか。でも、この手錠をどうやって」
「あの、それでしたら私外せます」
「はい?」
唐突に挙手をし、外せると言ったのは意外にも美女だった。
彼女は車の助手席に座った状態の俺の前に来て胸を押し付ける形で「失礼しますね」と言いながら花の香りが鼻孔をくすぐり、大きなその胸が顔全体を心地よい柔らかさで包みこんだ。彼女は必死で金具個所を見てポケットをまさぐり金属ピンのようなものを取り出した。
手錠のカギ穴にそのピンを差し込む。
(おいおい、まさか)
そんな行為はテレビなどでしか見たことがない技。
彼女はピッキングを容易に行い手錠を解錠した。
おかげで解錠された腕首をさすりながら俺は彼女が車ら出た後にお礼を述べた。
マジでいろんな意味でお礼を言わざる得ない。やばい、胸ってあんなに気持ち良かったのか。
「おい、辰矢! なんだこれは!」
「ゲッ」
そこには缶コーヒーを二つ手にした親父の姿があり、野次馬のごとき人の群れが親父を中心にモーゼのごとく道を開いていた。
中年の男性と美女は対応に困惑し親父を見据えてる。
状況を見守ってると見るべきか。
「どうして手錠を外されてる?」
「それは私が外したからよ。彼が助けを求めてたから。あなたこそ、警察はもうすぐ来るわよ。無駄な抵抗はやめなさい」
彼女は相手が危険な男だという認知のもとでそのような発言をした。
俺もまた中年の男性や他の人も彼女を驚愕に見ていた。
彼女のそのメンタル性の強さにだ。
「なに? 助け? 警察?」
「ええ、あなたでしょ? 彼をどうするの? 殺すの? そうよ。もうすぐ警察が来るわ。さっき呼んだの」
「おいおい、待ってくれ。なんの話だ。息子を手錠してたのは確かにやりすぎだったかもしれないがなんでそうことが大きく――」
「息子?」
「息子さんだと‥‥」
美女も中年男性も数瞬、黙りこんでからこちらをうかがう。
やっべぇー。
*****
――数時間後、親父が自分の運転免許証と俺のキャリーバックの中に入ってる俺の保険証を提示し親子関係を証明し、事の事情を説明したことで騒ぎは沈静化したはいいが周りの凄く冷たい目が俺をさらに居心地悪くさせ逃亡するのと反省を込めそそくさとサービスエリアを退散した次第である。
素直に反省する。
そのまま車で移動を再開してから現在はもう数時間経過中でありつつも未だに親父は憤慨しきった様子で缶コーヒーをあおる。
「やっぱり、お前は大人として軍事学校で成長しろ」
「……」
もはやなんも言えない。
だが、あの騒動を起こしたことで俺にはいいことがあった。
あの絶世の美女を近くで拝んだだけではなく胸の感触まで楽しんでしまった。
あれはマジでいい経験だったぜ。
「ぐへへ」
「なんだ、突然笑いやがってキモイ息子だ」
「うるせぇ! 息子にキモイとかいうか普通!」
「お前はダメ息子だからな。何を言ってもやっても許される」
「へいへい、そうですかそうですか。こっちも島流しにされればあんたと晴れて縁が切れるからラッキーだと思うさ。つか、一つ聞くけど、その軍事学校ってのは学費とかはどうしたんだ? 金がないうちとしては辛いんだろう」
「金はお前の通帳から分割支払いで払ってく形にした。お前の通帳なら払えるだろう」
「は、はぁ!? っざけんじゃねぇ! 行きたくもねぇ場所に無理やり行かされるだけじゃなくそこの金もか!」
「大丈夫だ。金はあっちでも働き口はあるから収入は得られる。そうして払えばいい。それに当たり前のことを言うな。一人前の大人が親にたかるなバカ息子」
「そんな心配してねぇ! 今すぐ取りやめろ! だいたい月にいくら払うんだよ!」
「15,6万だったな」
「な、なんだと?」
俺の月々の稼ぎ10万だ。
貯金額はいつもだいたい5万前後。
払えるわけがない。
確かに通帳にはかなりの貯金額がある。
今月分は払えたとしても今後の先は払えなくなるだろう。
「おい、親父ちなみに払えなくなったら俺はどうなる?」
「どうなるとは?」
「学校から追い出されるのか? それならそれで助かるんだが」
「ああ、追い出されるな。だが、学校からだ。島からは追い出されンだろうさ」
「ん?」
言ってる意味がわからないぞ。
「バカ息子が。今日からお前が行く学校と言うのはある所有する島にあると聞く。その場所にフェリーで向かうわけだ」
「ああ、だから今送迎船がある海岸に向けて車を走らせてるんだろう」
「そうだ。この島に行くためのフェリーの代金も学費の一つとなっている。つまりだ、学校への金が払えなくなれば島からここに帰る手段はなくなる」
「‥‥うぉおおおおおい! いますぐここから降ろせクソ親父ィいいい!」
「誰が降ろすかダメ息子! いいか、お前は今日から島流しだ。これは絶対だ」
俺が扉を開けようにも施錠がされてるので容易に下りられん。
だから、あばれてみたが親父に拳骨を落とされ俺はもんどりうって気絶した。
数分後に目を覚ませば目的の海岸に到着していた。
港工場のすぐ近くの海岸に多くの人があつまり、海岸沿いに止まったフェリーの橋に誰もが足をつけ乗りん込んでいく。
「すごい、船だな」
親父が感慨深げにいが俺はそんな感傷に浸れる心の余裕は持ち合わせてはいない。
なぜなら、俺はこのフェリーで島流しにされるのだ。
余裕なんてあるわけがない。
「さあ、降りろ」
「い・や・だ」
「……金をやろう。降りろ」
「ちっ、しょうがない」
俺は1万円で買収された。
下りて早々親父キャリーバックを手渡し二人してフェリー橋前までくる。
「じゃあな、達者でな」
そう言いながら背を押し橋に乗り込ませた。
くそ、後ろからどんどん人が着たせいで追いやられフェリーに乗り込んだ。
船内に入って行った。
ふと、最後に親父の顔がどこか泣きそうな顔だったように見えたのは気のせいだろう。