そんなアホな!
あらすじのところである島に行く経緯にあたるプロローグとなります。
一応本作品はヒロインいないように思われますがちゃんと後に出てきます。
では、プロローグをどうぞお楽しみいただければと思います。
「ぐへへっ、ましろたん萌え―」
最近発売された美少女ゲーム、通称エロゲーをやりながら2画面のデスクトップのうちの電源を落とした方には死んだ魚の目をした、長髪気味のやせ細った顔の男が映り込んでいる。その男、神咲辰也たる俺はよだれを垂らしながらイヤホンをつけ右手に握ったマイクをカチカチとクリックし続ける。
この耳元に流れるゲームのヒロインボイスを聞くだけでゲームの中に入れる感覚と現実逃避ができる思考のオアシス。
まさにこれこそ俺の日課だ。
『私、あなたのことが好き!』
画面上からかわいらしいヒロインボイスが耳に流れ込む。
それだけで至福の時間を肌身に感じられる。
趣味の時間を盛大に費やす人生とはやめるにやめられないというものだ。
誰がどう言おうともこの時間は絶対に死守する。
クリックを続けてくと徐々に桃色展開の画面になってく映像。
それは俗に言う告白のシーン。
「キタァー! 告白キタァー!」
無駄に一人自室で奇声を上げテンションあがりMAX。
絶好調でチョーしいいぜ!
そこからさらにヒートアップしていくシナリオに俺のムードは浮足立っていく。
いや、いいね。エロゲー。
マジでエロゲーやってない奴は人生損してるわ。
思考回路が人と少しずれたものをもってると思われようとも俺は絶対にそう断言して言える。
「この作品はやっぱ神だ。うん」
デスクトップ画面に映り込むヒロインをじっくりと眺めまわしながらいると突然の電源が落ちた。
その名の通り画面が真っ暗である。部屋の電気は常につけていないので何もかもが見えなくなり暗がりにたたずむ亡霊のごとくたたずむような姿になる。出た言葉は混乱し言語になってはいない。
「ふぁあああああああああああああああああああ!」
数瞬、硬直からの発狂を行って立ち上がる。
「どどどどどうなっとんじゃぁあああああああ!」
急いでイヤホンを外して椅子から立ってパソコンのコンセントを確認し電源の差し込み口を確認する。
刺し込み口異常なし。
原因理解不能。
「もしや?」
自室の唯一の出入り口の扉を開き廊下を除いた。
案の定、廊下の電気も落ちていた。
ブレーカーダウン。
家族との暮らしてる2LDKの一軒家だからブレーカーが落ちることはごくまれに起こることだろう。
特に今の季節は夏場なので親がエアコンを使ったりキッチンやリビングなどの電気もつけたりなど他にも多くのところで電力を使ってれば落ちるのも必然だ。
なによりも、俺の部屋も絶賛冷房ガンガンつけてますし。
「くっそたれぇえええええええ!」
「うっさいわよ―たつや―!」
「うっせぇなクソ婆! さっさとブレーカー戻せ!」
俺は怒鳴り散らしながら部屋に戻る。
いつも部屋の電気は付けずにパソコンでエロゲーをしているためにすぐさまブレーカーダウンしたことなど気付かなかった。
エアコンの電源落ちた音などもイヤホン付けながらエロゲーしてれば気づくこともできない。
暗がりに目が慣れてしまってるのもあり電気を付ける行為もめんどくさい。今ではこの暗がりの中でも何がどこにあるのかさえわかりパソコンの電源の差し込み口だって見えるのである。
「畜生、俺のすべての功績がぁ。ましろたぁん」
マジで男泣きしながら電源復旧を待った。
次第にブレーカーが戻ったのだろう廊下の方から明かりが窓のわずかな隙間を伝い差し込んできていた。部屋の明かりはもともと点けていないので点灯することはない。代わりにエアコンが再起動した。
パソコンも無事再起動。
「よし、再開っと」
再開する直前だった乱雑に扉が開かれた。
現れたのは俺の人相に近い中年のおばさん。
血のつながりのある俺の母親。
神咲瑞穂である。
「辰矢! あんたまたパソコンなんかして」
「文句あんのかよ? オフ会のダチと連絡これからとるんだ。邪魔すんなよ」
実際はエロゲーをしようとしていましたがそう母親に言えるわけもなく嘘をつく。
でも、実際パソコンを使ってそう言った連絡のやり取りを行うこともしばしばあったりする。
エロゲーマーであっても交友関係は必要でありネットを通じ趣味のダチを作ったりもして時折オフ会なんかするために出かけることもある。
「家に引きこもってなんかいないで出かけたらどうなの? もしくはバイト――」
「っざけんじゃねぇ! もう仕事はしねぇッつってんだろ!」
辛らつな過去がよみがえる。
高校卒業と同時に働いた仕事先であったひどいいじめ。
すべての仕事を俺に押し付ける同僚や先輩の存在が脳裏に焼き付いて離れない。
だからこそ、俺は現実から逃げ道を探しエロゲーに出会った。
「つか、仕事なんかしなくたって出かけてるつぅーの。わかる? 俺はしっかりと外出はしてますー」
「それって例のネットの知りあったお友達と会うのに?」
「そう」
「お金はどうしてるの?」
「今時家にいても小遣い稼ぐ方法なんていくらでもあるんだよ。ネットビジネスってやつでどうにかしてんだから口出しすんなよ」
「そんなのいくらの足しにもならないでしょ」
「は? 月10万は稼いでるっての」
「つき10万って……あなたねぇ」
母親があきれながら額を抑えた。
クソ婆の言いたいことはわかる。
俺がいくらオフ会で出かけていたとしても1週間の半分以上は家にいる。世の中ではこれを引きこもりと言うが俺はそうは思わない。1日さえ出ていれば引きこもりじゃないじゃないか。
それにニートという解釈はろくに資金稼ぎをしない奴だ。
俺はしっかりと稼げてるし何も文句は言わせない。
「なんか文句あるのかよ? 年金だってしっかり払えてる。あんたに何か言われるすじあいはない。さっさと出てけっ」
俺は手短にあったペン立てを投げつけ母親を追い払う。
母親はおびえ切った表情で部屋から出ていき自分の空間がまた戻ってくる。
そう、もう信用できない奴とはかかわりたくないんだ。
親も結局は俺が会社を辞めたことすら精神の弱さだとか決めつけている。
そんな両親を信じろという方が無理なんだ。
「そうさ、もう親は信用しない。信用する奴はネットのダチ程度でいい」
なぜなら、ネットのダチはダチという括りにはならない。ただのうわべの付き合い程度。
形さえ取り繕うだけでいいのだ。しゃべり仲間ってだけ。こいつらと関わりあうことに抵抗がないのも相手もそういう感じにとらえており対等な立場にあるという印象があるからだろう。
落ち着いた気分を持ってエロゲーアイコンをクリックした。
けれど、またしても邪魔が入るように大仰に扉がノックされ「バン」と音を立て開いた。
今度は中年の白髪頭の男性が厳格な顔つきをしてにじり寄り俺の首を締めあげ体を持ち上げる。
父親の神咲源であった。
運送業者に務める父はいつも帰りが遅く先ほど帰ってきたのだろうスーツ姿でいた。
「あなた、ちょっと!」
「お前と言うやつはいい加減にしろ!」
俺を床に思い切りたたきつける様に投げ飛ばした。
「自分だけが会社でいびられていたからなんて理由で会社を辞めてひきこもり生活を送り続けて親として世間様にどう顔向けをすればいいんだ!」
「ちっ、結局は世間体かよ」
毒を吐き捨て父親を睨みあげながら挑発的態度をとる。
「どうした? 殴れよ。さぁ、殴れよ! 障害沙汰を起こしてあんたなんか刑務所はいりゃぁいい」
「たつやぁ!」
拳が思い切り振りおろされ口の中が裂ける。
血反吐を散らし、親父の眼光をものともしない平然とした対応をする。
「ケッ」
ふらつく足で立ち上がりパソコンの電源を落とす。
今日が削がれ携帯を手に電源を付けワンセグを立ち上げた。
この親父が怒ってる状況だというのに俺範囲食わぬ顔でテレビ画面を見つめた。そこにはカップルの行きたい夜のデート特集とかいう深夜近い時間帯にあう番組がやっている。
「リア充死ね」
「おい、たつや! きいてるのか! 今私は話をしてるのだぞ!」
「話? いったいいつした? 殴っただけだろ?」
「いいから聞け! もう、お前をうちにおいてやることはできん! 私はお前を更生するためにあるところに願書を出した」
「あ?」
「クライアントの伝手で軍事学校の入学ができる。お前は明日からそこへ行け」
「なっ! ふざけんじゃねぇよ! なんだよそれ! 勝手に決めやがって! 学校だぁ? この年で今更学校とか行きたくねぇよ!」
「行きたくないとかいうお前の意志は聞いていない。これは強制だ。明日の支度をしておけ。今すぐにな。そこで鍛えてもらえばまともな大人になるだろ。家に引きこもって毎度毎度少しくらいは家のためになるようなことをしろ! もっとまともな大人になれ!」
「親父は俺を殺す気か! 軍事学校なんか行ったらこんな生っちろい体じゃあ到着早々殺される!」
「死んだらこっちはせいせいする」
「なっ、てめぇそれでも親か」
「瑞穂、この馬鹿は放っておいて食事の準備を頼む」
「ちょっと、あなた本気なんですか?」
「ああ、もう願書は出してある」
などと父親は母親とともに部屋を出て言った。
俺は抵抗する気力もなく腰が砕けその場に座り込んだ。
んだよ、それ、そんなアホなことあるのか。
「ふっざけんじゃねぇえ!」
近くにあったゲーム機を蹴飛ばし次第にはあたりに散らばった本や機材を乱雑に振り回すという横暴に出るのだった。
次回の掲載は未定ですが日曜掲載で行ければと思います。
あくまで掲載日時は未定です。