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愛華薔薇学園恋事情  作者: 月宮明理/月宮あかり
第四章 ドア×ドアパニック
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宇宙王子の隠し事

 悪魔の空間干渉の魔法が解けて、のばらも家に帰した後、玲音は自室に戻って着替え、同時に優に貸す服を持って再度真愛の部屋を訪れた。下着は近くのコンビニまで行って買ってきたものだ。


「じゃあ、優を駅まで送ってくるな」


 外に出ても通報されない姿になった優を連れた玲音はそう言って田崎家を後にした。

 住宅街を歩きながら、優の横顔を見つめる。


「なに?」

「……いいや、真愛は優には悪魔のこと話してたんだな、って思ってさ」

「やっぱり気に入らない?」


 からかうような言い方ではない。芹香ならこの手の話題を嬉々として話すだろうな、と考え、目の前にいるのが優で良かったと密かに思った。


「そうだな。幼馴染で、俺が一番真愛を理解してるって思ってたからな。正直驚いたよ」

「幼馴染、か。それ、本心から言ってる?」

「当たり前だ、ろ」


 スッと細められた目で優に射抜かれ、言葉に詰まる。透きとおった灰色の瞳が玲音の心を責め立ててくるようだ。心の奥を暴かれまいと、フイと顔を逸らして優の視線から逃げた。

 しかし優はそれを許すようなぬるい人間ではなかった。


「じゃあもし、僕が真愛と付き合ってもなにも思わない?」

「……っ!」


 予想だにしていなかった優の問いに、さすがに動揺を隠せなかった。完全に言葉を失い、瞠目して逸らしたばかりの優の顔を見つめる。

 駅へ向かっていた足を止め、優は小さく鼻で笑った。


「そんな顔しておいて、よく幼馴染とか言ってられるね。僕は玲音のことが好きだけど、真愛のことに関する態度だけは気に食わないな」

「……試したな」


 奥歯を噛みしめて吐き出した声には、恨めしさが露骨に聞き取れた。謀った優にも苛立ちはあるが、なによりも真愛への気持ちを抑えきれなかった自分の情けなさに腹が立つ。

 ――真愛を好きにならないと決めていたのに。

 真愛を好きだという気持ちに蓋をして、異常なほど冷静に気持ちを落ちつかせた玲音は細く長く息を吐いた。真愛のことを考えないように努め、成すべきことだけを頭に浮かべる。

 己の言動を訂正する気のない玲音に対して優は盛大に溜息を吐いたが、玲音は無視を決め込んだ。

 歩みを再開してしばらく、駅が見えてきた。人がごった返す中、優を見送り、そのまま来た道を引き返す。

 跡をつけられていると気が付いたのは、近道のために大通りから住宅街に入った時だった。休日の住宅街ではあるが、この辺は空家が多く、人気は少ない。距離をとってつけてくる気配を感じるのも、そう難しいことではなかった。


「気付いている。姿を見せたらどうだ?」


 振り返ってそう言うと、相手は案外素直に顔を見せた。


「さっきぶりねぇ。玲音くん」


 紫色の髪をなびかせた異形の者。最後に見た姿とは違っていたが、話し方で誰なのか分かった。


「千葉さんに付いてた悪魔か。俺になにか用か?」

「つれないわねぇ」


 悪魔は妖しく腰を揺らしながら歩み寄ってくる。見慣れていなければその姿に心酔してしまいそうなほど、危険な美しさを孕んでいた。

 血のように真っ赤な唇を歪めて、彼女は笑う。


「私は貴方が欲しいの。貴方の精気、とってもいい匂いがするのよ」

「人間だけでなく悪魔をも虜にするのか。俺の魅力は本当に桁違いだな」


 臆せずに余裕を見せる玲音がかんに障ったらしく、悪魔は笑顔を引っ込めた。細腕を伸ばし、玲音の首を鷲掴みにする。ぴったりと玲音に合わせてくるその視線には、憤りが浮かんでいた。


「調子に乗るなよ。人間風情……が」


 見開いた目は焦点があっていなかった。声も出せず、動きも取れず、ただただ苦しげに唇を震わせていた。悪魔の動きが鈍り、玲音は悠々と声を掛ける。


「大丈夫かい?」

「……ック」


 口を開け閉めするだけで、言葉どころか声にすらならない。

 形勢はあっさりと逆転し、崩れ落ちた悪魔に玲音の影が掛かった。ぶざまに倒れこむ悪魔をさして興味なさげに見下ろした後、玲音は彼女の首を掴んで持ち上げた。


「俺の周りに手を出さなければ、こんなことにならずに済んだのにな」


 悪魔の身体から青白い霧のようなものが溢れだし、道に沿うようにすべて玲音の身体へ吸い込まれていく。


「う……うぅ」


 うめき声に眉一つ動かすことなく、玲音は悪魔が逃げないように首に力を込め続けた。数十秒後には、悪魔の顔から血の気が失せていた。


「魔力を奪っただけだ。死にはしないさ」


 ゴミを捨てるように悪魔を地面に落とした後、玲音は踵を返して鼻歌まじりで帰路に就いた。

 魔力を補充し、これでいつでも魔法を使えると意気揚々としていた玲音は、しかし、自室に戻って魔力の量を確かめた時に眉をひそめた。

 ――増えていない?

 青白い光を手に灯すが、それはすぐに消えてしまう。魔力を奪う前と変わっていなかった。なぜなのかと理由を考え、ひとつの答えにたどり着く。


「そうか……そういうことか……」


 玲音は穏やかに、少し悲しげに、ひとり微笑んだ。



 ☆ ☆ ☆



 室内の片づけを終えて、真愛はようやく腰を下ろした。背もたれに身体を預け、うんと伸びをする。

 ちょこちょこと器用に机に上って来たフィードが真愛の目の前に座る。


「大変な一日だったな」

「……そうだね。けど――」


 コンコンと窓が打たれた。通りに面している方ではない。


「過去形にするにはまだ早いみたい」


 重い身体を動かしてカーテンを開けると、そこにはいつも通り玲音の姿があった。


「今、いいか?」

「……うん。どうぞ」


 自室の窓に足を掛けて、真愛の部屋へと乗り込んでくる。軽々と着地した玲音は、他の物には目もくれずまっすぐ冠クマちゃんだけを射抜いた。それだけでなんの用件なのかが真愛には分かった。


「まさか俺があげたぬいぐるみに悪魔がつくだなんてな」

「ごめんね」

「真愛が謝る必要ないだろ。悪いのはこいつだ」


 自分に向けられたわけではないのだが、厳しい目つきに気圧され間に入ることができなかった。優との時よりももっと険悪な雰囲気が漂い、肌を刺すような不快感が部屋を支配する。


「なにもしていない悪魔に対して、随分な言い様だな。礼儀を知らないのか、小僧」

「誰が小僧だ。真愛に近づいただけで充分悪いに決まっている。とにかく、真愛の家から出ていけ」

「断る。こっちにも事情があるんだ」


 緩慢な動きでフィードに歩み寄る玲音。いつ掴み掛かってもおかしくない緊迫感を纏っていた。


「待って」


 玲音の腕を掴んだ真愛は、首を振った。黒と黒の瞳が真剣さを伴ってぶつかる。


「フィードと約束したの。私と玲音くんを守ってくれる代わりに、部屋を貸すって」

「は?」


 机の横にあった椅子を玲音にすすめ、真愛はフィードを抱っこしてベッドへと腰掛けた。

 玲音の眉間からは力が抜けている。輝く漆黒の瞳に警戒心が見て取れるものの、先程よりは冷静になったらしい。


「フィードは私に掛かっていた魔法を解いてくれたの。ほら、三王子に告白が増えたって話あったじゃない。実はあれ、恋する魔法のせいだったんだ。それに気付いたフィードが解いてくれたの」

「……そうか。それは助かった。だが、もうそれは解決しただろう。これ以上そいつを置く理由はないはずだ」

「そんなことない! 助けてもらいっぱなしで追いだせないよ。それに、今日ものばらを助けてくれたし……私はフィードの力になりたいから」


 優しくフィードを抱きしめると、「マナ」と小さな声が返ってきた。人間と悪魔ではあるが、そこには確実に絆が構築されていた。

 二人のやりとりを眺めていた玲音は大きく舌打ちをした。真愛たちを映す瞳は冷たい。


「そうか。なら勝手にするがいい。俺はもうなにも言わない」


 椅子から立ち上がると、真愛に一瞥もくれず窓枠に上った。


「待って、玲音くん!」

「俺の言葉よりもそいつとの約束を優先するんだろう」


 平坦な調子の声が、真愛の胸に突き刺さった。思わず玲音の言う通りにすると言いたくなったが、それでも本心からフィードに助力したい気持ちを翻すには至らなかった。

 遠くなる背中を、真愛はただただ見ていた。

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