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愛華薔薇学園恋事情  作者: 月宮明理/月宮あかり
第三章 学園に潜む危機
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悪魔探索、優の協力

 一番有力だった屋上に手掛かりを見つけられず、仕方なくしらみつぶしに校内を上から順番に回ることにした。手掛かりがないことに加え、放課後になるまでは生徒が多くフィードとの会話が実質不可能になるため、探索時間は放課後に絞られる。

 今日は音楽室や視聴覚室といった特別教室のある棟を探ることになっている。鍵がかかっていて中には入れないが、フィードが集中して探知をすることによって中に魔力の反応があれば分かるとのことだ。


「どう?」

「……ここも違う」


 本日四つ目のハズレに、真愛とフィードは同時にため息を吐いた。茶色い毛むくじゃらの横顔には疲れが見える。


「今日はもう止めて帰ろうか」


 窓の外に目をやると、ちょうど生徒たちが部活の片付けを終えてちらほら解散しているところだ。カバンからスマホを取り出して見てみると、最終下校時刻である六時半まであと三十分ほどだった。


「もうこんな時間だったんだ」


 六月の空は青く澄み渡り、夜の訪れを感じさせない。窓の向こうから微かに聞こえる声が、部活動が活発に行われている時間のそれとは違うことで真実味があるくらいで、空だけ見ていたらスマホの方が狂ったのではないかと疑ってしまう。


「もう一ヶ所くらいならいけるぞ」


 真愛が抱える紙袋から頭だけを出したフィードは、振り返ってそう言った。真愛は首を横に振って答えた。


「多分もうすぐ放送も入るし、それに」


 柔らかな冠クマちゃんの頬をつつく。最初だけ丸く見開かれた目は、すぐにくすぐっそうに細められる。


「なんだ」

「フィード、疲れてるでしょ」


 人間の真愛には、フィードがしている魔力の探知がどれほど体力や精神力を使うのかは知ることができない。しかし、彼の調子をうかがい知ることはもうできる。

 体調を見抜かれたフィードはむっつりと口をへの字に引き結んで顔をそらした。拗ねた子どものように見えて、なんだか可愛らしい。


「帰ろう」


 クスリとひとつ笑みをこぼして真愛は言った。


「じゃあ駅まで一緒に行こうか」


 その声と同時に今まで調べていた教室のドアが開き、鞄を肩に掛けて帰る準備万端な優が姿を現した。驚き、声にならない声を上げた真愛は身体をこわばらせた。その際に握りしめた紙袋がくしゃりと音を立てる。


「ね、ぎし、くん」

「やぁ」

「やぁじゃない。なんでお前がここにいるんだ」


 すでにぬいぐるみでないと知られているのでフィードも堂々と話すことができる。優に対する悪印象が強く、どうしても攻撃的な口調になってしまう。

 ひしゃげた紙袋から身を乗り出すフィードを笑みを浮かべて見下ろした優は、そのまま教室から出て来てカードキーで施錠した。


「なんでって聞かれても、偶然としか言えないな。今日はこの教室に隠れていた。それだけだからね。カギを返しに職員室寄りたいんだけど、いいかな?」


 呆気にとられて棒立ちする真愛の横に並び、歩き出すのを促すようにひねった半身を真愛に向ける。どうやら本気で駅まで一緒に帰るつもりらしい。


「なんでオレたちがオマエと一緒に帰らないといけないんだ! 一人で帰れ!」

「僕と真愛は友人だ。ちょうど二人とも下校しようとしているのだから、一緒に帰るのはいたって普通のコミュニケーションだろう」

「マナはオレと一緒に帰る。部外者には遠慮してもらおう」

「一緒に帰るといっても、君たちは人のいる場所で話すことはできないじゃないか。しゃべるぬいぐるみ……いや、悪魔であることを隠そうとしているんだろう?」


 真愛とフィードの背中に緊張が走る。誤魔化すべきなのか、なぜ知っているのかを問うべきなのか、どちらにすべきなのかの判断がつかず、真愛はうろたえてフィードへと視線を落とした。


「……いつどこでそれを知った?」


 フィードは優がなぜ自分を悪魔だと知っているのかを追求することに決めたようだ。声のトーンが一層低くなり剣呑さを帯びる。


「ついさっき、この教室で」


 手の平でカギを掛けたばかりの教室を指し示した優は素直にそう答えた。そしてポカンとしている真愛に向かって言葉を続ける。


「電気も点けてなかったし、中に誰もいないと思っていたんだろうね。随分と不用心に話してたのが、僕にはずっと聞こえていたよ。……悪魔の魔力が残っている場所を探しているんだろう?」

「……ッチ」


 悔しさをにじませたフィードの舌打ちが廊下に反響した。


「お願い! このことは黙ってて!」


 真愛がそう言うと、優は深い笑みを浮かべた。嫌な予感が真愛の頭をかすめる。確か優が笑う時はその直後にサディスティックな言動が待っていたはずだ。


「いいよ」

「本当っ?」

「ただし、条件がある」

「条件……?」


 警戒を浮かべた真愛の黒い瞳が、優の細められたグレーの瞳を捕らえる。


(やっぱり来た!)


 笑顔の優がタダでお願いを聞いてくれるとは真愛も思っていなかった。問題はその条件の内容だ。あまり無茶な内容でないことを祈り、固唾を飲んで優の言葉を待つ。

 フッと優が笑い声を漏らす。


「そんなに脅えなくてもいいのに。ただ僕にもその魔力探しを手伝わせて欲しいだけさ」

「えっ?」


 そんなこと? と、心の中で付け加える。もっと想像を絶するようなハードな条件を提示されると覚悟していたのだが。


「簡単すぎるっていうならもっと色々上乗せするけど?」

「いえいえいえいえいえ! それで! 根岸くんにも手伝ってもらうということで手を打ちましょう!」

「そう。残念」


 言いつつもそれほど残念そうでもない様子の優。本当に手伝いだけが条件ということらしい。

 真愛の腕の中で複雑そうな顔をしているフィードに目を向け一応確認を取る。


「こうなっちゃったから根岸くんにも事情を話して手伝ってもらうけど、いいよね」

「……仕方ないな。他の人間にバラされるよりははるかにマシだ」


 若干のためらいも感じられたが、諦めたのかフィードは優と手を組むことを承知した。その返答に満足そうに頷く優。


「決まりだね」

「じゃあ早速だが、ネギシの意見を聞かせて欲しい。この学園に魔法が掛けられているのは確かなんだが、悪魔がどこから魔法を掛けたのかが分からなくて困っているんだ。ネギシはどこから悪魔が魔法を掛けたと思う?」


 あまり乗り気でなかったはずのフィードだが、簡単に説明を済ませるとすぐに優に意見を求めた。唐突さを意外に思い、真愛は首をひねる。


「ふぅん。随分僕のことを気に入ってくれているんだね」

「……?」


 にこにこと普段見せることのない笑みを顔に乗せた優に、真愛の中の違和感は膨れ上がるばかりだ。言葉と顔は友好的なのだが、どうも裏になにかある気がしてしょうがないのだ。


「まぁ、してやられて……こうして僕に事情を話さざるを得なくなって、腹が立つのも分かるけどね。でも自分達が時間を掛けても分からないものを、加わったばかりの人間に意見を言わせ、それを扱き下ろそうなんて考えはみっともないんじゃないかい」

「……そんなつもりはないが、そう感じたのなら謝ろう。ネギシに意見を聞くのはまたの機会にしてもいいぞ」


 バチバチとはじけ飛ぶ火花が二人の間に見えた気がした。笑顔のままのこう着状態は、優がゆっくり首を横に振ったことで、真愛が考えていたよりも早く解けることとなった。


「いいや、構わない。二人が話していたことを総合すると、つまりその悪魔は不特定多数の人間に同時に魔法を掛けた。それを根拠に広範囲に魔法を掛けられる場所をさがしている、と。こういう場合、一か所に人が集まった時に掛けると考えるのが常識的だ。朝会や特別集会といったものがあげられる……けど」

「愛華って朝会ないよね?」


 不特定多数に掛ける魔法と聞いて、一度は真愛も場所ではなくイベント単位で考えたのだ。しかしこの愛華薔薇学園に集会はない。生徒数が多すぎて時間が掛かるためだ。


「そうだね、うちの学校は集会を行わない。でも代わりに放送で月に一度学園長先生のお話を聞くだろう」

「……っ! まさか!」


 無意識のうちに真愛の声は大きくなり、それを優が自らの唇に指を当ててたしなめた。少ないとはいえまだ校舎に生徒は残っているのだ。

 冷静な顔をした優は長い脚をゆっくりと動かして歩き始めた。


「さぁ行こうじゃないか。僕の仮説が正しいか確かめに」

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