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Bitter Sweet 令嬢

作者: 早瀬優希

パフィ・クレーム公爵令嬢。

乙女ゲーム、「Bitter Sweet ボンボン」に登場する、ライバルキャラである。

豪華な金の縦ロールに勝気な空色の瞳、そして出るべきところはとことん出て引っ込むべきところは見事なくびれを見せるという見事な体をした、これぞ昭和の漫画に出てくる貴族令嬢!という外見をしており、内面は、主人公に対してきつい言葉を浴びせ続け、時には手に持った扇子で一撃を加えてくる、典型的な悪役キャラである。


しかし、一度ゲームをクリアしたのち、勉強、ダンス、料理、マナー、身だしなみなどステータスを引き継いでもう一度最初からプレイできる二週目で、彼女は驚くべき変貌を遂げる。


なんと、「貴女にはかないませんわね。貴女にこそ、あの方のお相手にふさわしいですわ」と、それはそれは綺麗な微笑みを浮かべ、自分が恋に恋していた王子と主人公の仲を応援し始めるのだ。


当初、二週目以降限定のボーナスイベントだとプレイヤーが湧きたったが、すぐに、おかしなことが起こる。

二週目に入っても、一週目と同じようにいびり続けられる人が続出したのだ。


すぐさま検証が行われ、その結果、悪役令嬢が味方になるイベントは、ステータスが一定以上の値になっているときのみ起こるということが判明した。


こうなると、一週目のいびりイベントも、「もしや主人公を鍛えようとしていたのではないか」という説が出回り、その結果、王子と悪役令嬢との恋愛、実は悪役令嬢には幼馴染がいた説、びっちなヒロインと心酔して周りが見えなくなった王子が悪役令嬢を無実の罪で糾弾しようとして颯爽と現れた隣国王子によりすべてが露見してヒロインその他が断罪される、いわゆる「ざまぁ」物など、さまざまな二次小説が世に出回ることとなった。





***


「敵情視察しようと思って調理室前に来てみたら扉前で転生者な自国王子が黄昏てた件について。わーおこういうのも愁いのある表情がイイ!とかいう子がいるんだろうね滅べイケメン何してんのこんにちはー?」

「人が人だと即行で不敬罪が適用されそうな言葉だな。

見ればわかるだろう。パフィを待っているんだ」


「婚約者さんかー。リア充爆ぜろただし男に限る。確か“あの”パフィ・クレーム様だよね俺本物一度も見たことないんだけど今度会わせうんごめん今のなし睨まないでっていうか独占欲強すぎるでしょ束縛男は嫌われるよ?なまじ綺麗な顔してるから睨み殺されそうで怖いね!で、パフィ様は中にいるんだよね何してんの?」

「……」

「え?扉指差してるけど入って良いの?…なわけないですよねーすみません。っていうか盗み聞きするぐらいなら堂々と入っていきなよしょうがないなー隣り失礼しまーす」



『ほんっとうに不細工ね!貴女、筋はいいのだからもっとシャキッとしなさい!ほら!手の動きが遅くなりましてよ!』

『はいっ!おねえさま!』


「……」

「……」


「えーと、一週目でステータス高めの時に起こる「どきどき♪二人っきりのマナー授業補習編」?王子ルートのイベントの終盤じゃん何それお前攻略されかけてんの?あれだけ周りの男威嚇してパフィ様の出会いを潰しておいて?さすがに怒るよ?」

「違う。あれは、お菓子を作っているんだ」

「は…?」


「7歳くらいの頃、彼女がたまたま彼女の家のパティシエを指導したところ、たちまち腕が上がって、今では我が国が世界に誇るパティシエの一人になっている。

それがきっかけで、彼女は知る人ぞ知るパティシエール兼指導者となって、彼女へ教えを乞う者が後を絶たない。クレーム公爵領が、菓子職人の聖地となっているのは知っているだろう?」

「あー…うちの領一番の職人がクレーム領に視察に行って自信喪失して帰ってきたことがあったなー。ごく普通の平民家庭の奥様に負けたって。っていうかええっ?!あれ指導してたの、パフィ様?!」


「……なんだかすまない」

「いやー?あれのおかげで職人が燃えて出てくるスイーツのグレードがあがったからオールオッケー。シュークリームとかマジ最高。大好物」

「そうか」




「でもさ、尋ねてくる人全部指導してあげてるの?子爵息子の俺に情報来てないってことは限られた人しかパフィ様の事知らないんだとは思うけど、それでも結構な数になるんじゃない?パフィ様、大変じゃない?」

「いや。彼女に直接聞いてみたが、どうやら、指導前の完成物を見て筋のありそうだと思った者しか指導はしないそうだ。

前に一度、リコリス嬢とキャラメリゼ・ジンギスカン嬢が指導を乞いに来たが、黒い……お菓子、を見て、こぶしを握り締めてふるふる震えながら、笑顔で指導を断っていたよ」


「途中の空白に王子の優しさを見た。そうなんだー。なるほど。つまり、今指導受けてるヒロインは筋がイイってことかー。っていうか、『料理なんて庶民のするものでしてよ!はしたない!』って言ってたパフィ様はいずこ…」


「……ゲームのパフィと比べられるのは、あまりいい気がしない」

「あー…ごめん。そうだよなー。ここは現実だもんなー…」

「ゲームの時の威厳はそのままに、それ以上に彼女は可愛い。……それにしても、遅いな。今日はいつも以上に指導に熱が入っている気がするな…」

「あーはいはいご馳走様でしたー。いつもの知らないけどそんなもんなんだ。あ、今オーブン温めてるみたいだけど、ところでなに作ってるか知ってる?」



「……いや。ところで、先ほど敵情視察と言っていたが…」

「え、なんで目逸らした今。まあいいや。だって俺ほら、モブじゃん?騎士団長息子ルートの時に別の悪役令嬢の指示に従ってヒロインいじめてプチって潰される生徒その5くらいの。今は誰の取り巻きにもなってないけど、ゲーム補正とか働いちゃったら困るし、誰のルートに行きそうかなー?って知りたいじゃん」

「だから、ここはゲームではなく現実だと。…そろそろ名前で呼んでやったらどうだ。いい加減かわいそうだ」


「いやー。わかってるんだけどさー。ほら、学校とか身分制とか人の名前とか見た目とか実は男爵の隠し子ってことが判明して中途半端な時期に転入してきたヒロインとか、完全にゲームと同じじゃん?俺ら「前世の知識」?あるから性格とかいろいろ違うけど、っていうかあれっ?じゃあ、職人なパフィ様ももしかして、転生者?」

「……いや。違う、と思う。

一度、占いにハマったパフィにせがまれて、高名な占い師の元で前世占いと言うものをしたのだが、…結果がバグった」


「え、なにそれ。っていうか、単なる占いじゃんそれで前世がわかるなんて」

「俺の結果は、死んだ年齢から通っていた大学名、家族構成や家族それぞれの年齢や職業、果てはペットまで当てられた。父親の会社名を言う時には、この世界にないものだったので盛大に首をかしげていた」

「何それ怖い。で、バグったって、パフィ様の前世、なんて出たの?」







「……シュークリーム、だ」

「……なるほど」






「…いや、聞き返されるか流されるか遠い目をされるかのどれかだと思っていたのだが、納得しないでくれないか?」


「いや、だってさ、指導してもらったことのある子が、指導者に、お菓子の外見を「不細工」って言われた。とか、味に対して「性格が悪い」って言われたって言ってたの聞いたことあるんだけど、その時には「お菓子を擬人化するなんて面白いなー」って、パフィ様だと知らなかったから思ってたんだけど、精度の高い占い師にそういわれたって知ったら、ねえ」


「……」

「……」

「……前世など、関係ない。もし彼女が気にするようなら、前世も含め、彼女を愛すればいい」

「わあお、かっこいい。このセリフ彼女に直接、あとで言うんですねわかります。

ところで、そんなかっこいい王子が前世、なんで乙女ゲーを?前世の話聞く限りフツウにリア充男子だったんだよね?」


「……妹が、乙女ゲームが好きだったんだ。それで、「王子のセリフを言ってみて」と何度かせがまれて…」

「……わあお」

「ところで、お前はどうなんだ?やけに詳しい気がするし、ゲームから抜け切れていない気がするのだが、相当やりこんだのか?いや、男性が乙女ゲームをするのがおかしいとかそういう意味ではなく、」








「……自分、女でしたから」

「……は?」




「ふふ、ふふふ…車にはねられたと思って意識が一旦遠のいて戻ってきて目を開けたら赤ん坊になってた上あるはずのない突起物に気づいた瞬間の俺の気持ちを100文字以内で答えよ。」


「……なんというか、苦労したんだな…」

「その状況で悪役令嬢に心酔しろとかなんて無理ゲー。自分、女でしたから!いきなり「彼女のためには犯罪もいとわない」って域まで女性に恋愛感情持つとか無理ですから!あ、今じゃ恋愛対象に男は含まれていないから王子、安心していいよ?女のまんまだったら惚れてたかもしれないけど」


「……そうか…」

「うん。そうだぜ親友!」

「……」

「……」




ガラッ

「本当にありがとうございます!パフィ様!とっても、とってもおいしそう!これで、あの人も喜んでくれ、えっ!」

「あら。待っていてくださっていたのですね。シュトゥルーデル様。大変お待たせしてしまって申し訳ございませんわ」

「いや。好きで待っていたんだ。君のためなら1年でも待つよ」

「…まあ(ぽっ)。…あら?そちらの方は、リロイ様?えっと、その、何故、こちらに?」

「こいつのことはどうでもいいだろう。さて、彼女が、お前が直接姿を見たがっていた、私の婚約者、パフィ・クレームだ。一目見たしもういいよな。私たちはこれで失礼しよう。さあ、行くぞ。パフィ。あとで、今日君が作ったものを食べさせてくれ」

「え、あの、あ、あわただしくて申し訳ございませんわ。失礼いたします」



「はいはーい。いきなりごちそーさんここまでラブラブで彼女は俺のものだしてるの見せつけられて彼女に惚れるような無理ゲーはしませんよー王子はまた明日ー。パフィ様はご縁がございましたらまたお会いしましょうねーっと。さて、俺もいこっかな」

「あの!」

「うん?どーしたの?マカロンさん?あ、スパルタ受講お疲れ様ー。君の手作りお菓子もらえる人は幸せ者だねー」

「これ!頑張って作ったの!食べて!」

「えっ?えーと?」

「あの、シュークリーム、好きだったよ、ね?」

「え、うん。ありがと」





「わ、私、パフィ様みたいにはなれないけど、頑張るから!ね!」

「え?うんがんばrあ、行っちゃった」



「えーと……

……うん。そっかー、うん」



さくり。自室に帰ってから一口食べたシュークリームは、今まで食べたどれよりも、甘くておいしい気がした。


田井 ノエル様の【シュークリームバトン】という面白そうな企画があったので書いてみました。

結果。惨敗。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったですよ?
[良い点] 面白軽やかでした。 読みやすい。 ポンポン会話が弾んでいる。 会話でストーリーが、背景や前提までちゃんと説明され 伝わってくる。 オチもちゃんとある。 くるくる展開するいくつかのオチ、 …
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