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再びの邂逅は隣の家で

 あれから一週間がたった。尊は本を手放すことをせず、常に読んでいるような男だった。そこに若干の変化があった。

 ある日、その時の異常のあまりつい声を掛けてきたクラスメイトに尊はそのことを聞かれて唖然とした。


『お前、今日は本読まないのか?』


 そのクラスメイトとしては当然の疑問でまたクラス全員同じ気持ちだったに違いない。尊はその日、本を一度も取り出していなかった。宙の一点を見つめているだけだったのだ。

 それは本好きな尊とっては大きな衝撃だった。それと同時にその原因も分かっていた。彼女だ。元町真奈との邂逅が尊に何かをもたらしたのだ。

 そして、自分の口から出た言葉にも尊は内心びっくりした。


「ああ。今日は読まないよ」


 クラスメイトのびっくりした様子も目に入っていたが尊は自分の中に走った衝撃を冷静に捉えていた。そして、解決方法を求めていた。いや、正しくは掴みかけている何かを知りたかった。尊はその一週間、真奈との再会を望んだ。けれど、自分からは行かなかった。相手に迷惑を掛けるのはいけないと思ったから。逸る気持ちは抑えきれそうになかったがそれでも我慢した。それは男としての維持だったか。結局偶然を頼りにしても再会は叶わなかった。そして、意外な所でそれが叶うことになった。


 休日。本来なら起きてからすぐにでも読む本も手にとってすぐに集中力がキレて読む気がうせる。これは尊にとって初めてのことであり、自身戸惑ってもいた。


「やはり、あいつか」


 原因はやはりあの女だと尊は前よりも確信に近い思いを抱いていた。流石にどうしても本が読みたいわけではない。今までの情熱がどこに行ったのかを知りたい。尊はただそれだけだ。確かめようにも確かめることもできず、本を好きになってから初めて暇を持て余す。そんな中インターホンが鳴った。


「……そういえば、いなかったな」


 尊は両親がいないことを思い出してベッドから立ち上がった。両親がいないのはよくあることで今もなおアツアツな尊の両親は新婚旅行のように時々土日で旅行に行くのだ。そのせいで旅行時のみ、机の上の千円で物を食べる羽目になる。まぁほとんどが本代で今までは食べていない日がほとんどだが。小さい金すら本に回す執念は流石としか言いようがない。

 そんなわけで玄関のドアを開けると予想外の人が現れた。まさに今会いたいと思っていた少女。


「元町真奈」


「……久しぶり」


 果たしてこの表情は何か。尊にはぶっきらぼうに見えてとても喜んでいるような気がしてならない。尻尾があったなら振り切っている等という表現はこのためにあるのだと初めてライトノベルの知識に感心する。だが何故?


「隣に引っ越してきた」


 そう言って渡されたのは祝とかかれたものだ。お隣挨拶とかいう奴かと尊は驚いていると今度もまたびっくりする言葉を投げかけてきた。


「お邪魔してもいい?」




 あの言葉にYesと答えたのは早計だったか。尊は早くも後悔していた。

 目の前で尊のことをじっと見つめる少女。正直、混乱しかできない状況だった。それでも何とか気を保ち、少女に話しかけることにした。


「それで、なにをしにきた」


「好きになった」


 なにを? そう返そうとしたが先に言われてしまった。


「あなたを」


 ああと尊は思わず内心で苦笑してしまった。まさか恋愛に興味のない俺を好きになる奴がよもや学校一の美少女だとは。

 これは予想外にもほどがあるし、ある意味で気になっていた理由が分かった。尊はその糸口を掴んだ。惚れている等とは言わないが尊も少女には好意を持っていたのだ。完璧少女が実は自分に似ているからだ。たったそれだけ。そして、出会うことすらなかったはずの出会いが目の前の光景を作り出している。

 真奈はそこで初めて笑顔を見せた。図らずもその笑顔には惚れてしまったと言わざるを得ない尊は何とも微妙な気持ちになった。昔の自分が戻ってくるようでそんな気持ちになったのだ。

 だが、それは捨てたもの。だから、いらない。尊はそう思い直した。


「それは、本物か?」


 尊は真意を問うた。その気持ちは本物なのか。そしてまた別の意味、取り返しはつかないぞ、と。その質問でも真奈は首を振った。

 そして、言った。


「この気持ちは本物。あなたはごく普通の人。それはとてもいいこと」


 何だか言葉切れが悪くなっているがこちらが本物の真奈ということなのだろうか。

 尊はその言葉を飲み込んだ上で答えを返した。


「俺は……分からない。俺はその気持ちを味わうことは、ない。だから断る」


 真奈は少し残念そうな顔をした。けれど、すぐに元に戻り、ジッと見つめてくる。


「見つめても変わらないぞ」


「知ってる。私は好きな人を見てるだけ」


 それだけ言ってまた笑顔を浮かべた。学校では絶対見れないものだった。

 尊はため息をついた。もうどうにでもなれ。その日は尊は目を瞑って過ごした。凄く退屈する過ごし方だが考え事をしているうちにあっという間に時間が過ぎ夜になっていた。

 また、来るというような声を聞いた気がするが気のせいだ。尊はやっぱりため息を吐いて明日も来るだろう彼女に向けての苦笑を浮かべた。


「いくら勉強ができても馬鹿は馬鹿か」


 尊はそう呟いて笑った。ならば、自分の意見を貫けばいいだけだ。過去に通った苦しみを二度と味あわないように。

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