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全てを私(元聖女)のせいにしないで下さい。

作者: はにゃか

大陸一の大国が衰退している。

その噂はあっという間に大国内で広まった。

ある場所では干ばつがおき、ある場所では止まない雨が振り続け大洪水が起こり、天変地異があちこちで起こっている。

作物は育たず、人々は疲れ果て、国は疲労していった。

誰かが言った。

これは聖女の呪いであると。

異世界から呼び寄せられた聖女は恵みをもたらす者であった。

人々の心に寄り添い、豊富な知恵を駆使し、国を守ろうとした。

しかし、何処からかある話が囁かれた。

聖女が偽者であるのではないか、と。

聖女であれば神力が使えるはずなのに、誰もそれを使用した所を見た所が無い。

民がどれだけ願っても、首を横に振るだけだった。

ある時、聖女が偽者だと信じた一部のものが、聖女の暗殺を図った。

従者や侍女がいない隙を狙って、部屋になだれ込み偽聖女へ剣を突きつけて、可能な限り罵倒を繰り返した。

人の身でありながら聖女を語るなど、お前は神を冒涜している!

喚き散らし、聖女の身体を痛めつけながら、反逆者達は罵倒し続けた。

それを見た聖女は呪いを掛けたのだという。

「何故このような仕打ちを受けなければならないのでしょう。何故このような惨いことをされるのか。・・・私はこの国を怨みます」

聖女は瞳を怒りで燃やし、しかし、言葉は淡々としていてとても恐ろしかった。

呪詛をはいた聖女に怯えた男が聖女の身体を慌てて剣で突き刺すと、聞いたこともない音と共に聖女の身体から黒いもやが湧き上がった。

焦げ臭い匂いを撒き散らし、部屋を覆うほどの黒いもやが呪いの正体なのだと気づいたその場にいた全員が狂ったように叫びながら部屋を飛び出した。

聖女を殺した者達は国によって処刑されたが、それは罰というよりも褒美になっていた。

反逆者達は聖女を殺した後、偽者だと思っていた聖女が本物であるとわかり、自分達の行いと聖女の呪いに怯え、気をやられていたのだ。

処刑される時、反逆者達は皆どこか安堵したような顔で死んでいった。

聖女が殺されてから、国の天候は荒れていった。

聖女の呪いである、という噂を信じた人々は藁にも縋る思いで、神殿へ赴き祈り続けているのだという。




今日も神殿へと足を運ぶ多くの人たちを横目に私は自分の家へと帰宅している。

一言で言うと、とっても不愉快である。

誰もがこの天変地異を殺された聖女の呪いだという。

しかし、それは誤りである。

何故なら、聖女は生きているからだ。

何故そんなことがわかるのかというと、正しく私がその聖女だからである。

全く、勝手に人の呪いのせいにしないでほしい。

プンプンと怒りながら私は森の中にある自分の家とたどり着いた。

簡素な森小屋に流れ着いたのは、つい一月ほど前である。

まず、殺されかけるまでの私の人生を振り返ってみようと思う。

私はOLをしていた23歳の日本人である。

ある日、目の前を歩いている女子高生達の会話を聞きながら出勤していた時だった。

4人いる女子高生の中で一番頭がお花畑な感じの話をしていた女の子が足元にあるマンホールに落ちそうになっているのを見て、助けようとして私が代わりに落ちてしまった。

「いやん、危なかったぁ。どうしてマンホールがあいてるのぉ?」

自分を助けた人がマンホールに落ちていくのを見ながら、慌てるでもなくそうのんびり言い放った彼女は人間としてどうかと思う。

最悪死ぬかもしれない、と何処か冷静に考えながら衝撃に備えていたが、突然真っ暗だった視界に光りが溢れた。

光りが治まり、思わず閉じていた目を開けるとそこは異世界だった。

私を召喚した人にざっくりと説明されたことをまとめるとここは異世界で、私は聖女なのだという。

この国で健やかに過ごすだけで、世界に恵みをもたらすのだと言われて、全然納得出来ないけれど帰れないと言われれば私はそれに従うしか出来なかった。

最初は緊張と日本へ帰れない事実に打ちひしがれていたが、それでも生きていくには役目を果すしかないと決意してあれこれと行動した。

恐らく私がこちらに呼ばれたのは間違いなのだと思う。

何故なら聖女であれば神力が使えると言われたが、全くその気配が無いし、私は落ちそうになった女子高生を助けた代わりにこちらに来ただけだ。

予想が正しければあの女子高生が本当の聖女であったのだろう。

何も力がないと知られれば、右も左もわからないこの世界に放り出されてしまう。

せめてこちらの知識を身につけるまでは聖女の振りをしなければいけないと必死で頑張っていた。

ある時、珍しく従者や侍女もおらず一人で神殿を歩いている時、ある部屋から声が聞こえてきた。

立ち聞きする趣味はないが、聖女という単語が聞こえて思わず聞き耳を立てる。

その話を聞いた私は酷く動揺し、そして怒りが湧き上がってきた。

この国は王政でなりたっているが、近年の王族の横暴ぶりに民の反感を買っているのだという。

贅沢三昧をし、自分達を崇めるものだけを重要職につけた王政はもはや疲弊し、民の犠牲の上に成り立っていた。

このままでは内乱が起きそうだと気づいたもの達が、聖女という偶像を立てることによって民の関心や不安を取り除こうと考えた。

この世界では都合の良い人物が見つからなかった為、異世界から自分たちの言うことを聞くものを召喚した。

確かにあの助けた女子高生ならば良いように操れただろうが、言うことを聞かない私が召喚されてしまった。

民の声を良く聞き、不安を取り除こうとする姿勢は良かったが、貴族の不正や王政の財政状況など突かれたくない所に気づかれ、もはや邪魔者でしかない。

ひそひそと私の暗殺計画を立てていた神官長と国王に対しては怒りしか湧いてこない。

来たくて来たわけじゃない場所で、必死に生きていこうとした私を馬鹿にしているとしか思えなかった。

それからの私は今までと変わらないように勤めながら、誰にも気づかれないように身代わりを作り始めた。

恐らく昼間に殺されることはないだろうから、気づかれないだろうと自分を納得させながら身代わり人形を作った。

身代わり人形が出来てからは、私は人形をベッドに寝かせ、自分がクローゼットの中で寝るようにした。

そんな生活をし始めて3日目の夜中。

どたどたと大きな音を立てながら男たちはやってきた。

あれだけ大きな音を立て、大きな声で人形に向かって罵倒しているのに衛兵も侍女もやってこないのは、恐らく神殿自体がこの暗殺を黙認しているのだろう。

散々罵倒と暴力を繰り返している男たちは、それが人形であるということに気がついていない。

私はクローゼットの奥にある隠し扉を再度確認してから、手に握っていたボタンを押す。

すると上手い具合に人形に仕掛けた機械が再生を始め、怨みつらみを呟いたのを聞いて、次の作戦に移ろうかと思った時、恐れをなした男の一人がちょうど機械がある場所に剣をつきさしてしまった。

あっ、と思った時には機械からジジジッという音が聞こえ、終いにはもくもくと黒い煙があがってきた。

私の大事なパソコンが!と思って心の中で慌てていると思いのほか煙が部屋に充満してしまった為、当初の計画を変更して私は隠し扉から逃げ出した。

計画と言っても、しょうもない計画しか立ててなかったので別に支障はない。

城下の外れの水路から外に出た私はその後、日替わりの仕事と安い宿を転々としながら現在の無人の小屋へと流れついた。

危ない目にも合いそうになったりしたが、こちらに来てから運が上がったようで運よく物事を運べていると思う。

けれど気になることもある。

この国というか、大陸を襲っている災害は実は約百年に一度必ず来る災害の前触れであった。

それがわかったのは私がこちらに来る数ヶ月前の事で、歴史学者達が過去の歴史書から発見し、すぐに王へと報告した。

けれど人間の「うちに限ってそんなものはこない」という精神なのか、それともただただ腐敗していただけなのか誰もその叫びをまともに取り合おうとしなかった。

そんな中、聖女としてこちらの世界に来た私の存在を耳にはさみ、藁にもすがる思いで災害の危険性について涙を流しながら語った。

私もすぐには信じられなかったが、歴史書を読み進めると確かにおよそ百年単位でその災害は必ず起こっていた。

こうして歴史書にも注意を促しているにも関わらず、ここ何百年かは誰も信じなかったのか災害が訪れるたびに甚大な被害を出し、国がいくつも滅んでいった。

私はすぐに災害の対策へと乗り出し、歴史学者達も西へ東へと走り回り始めた時、私は暗殺未遂をされてしまい、いわばほっぽり出した形で逃げてしまったのだ。

噂によるとどうやら聖女と一緒に奔走していた歴史学者達は次々と王宮や城下を追い出され、散り散りになってしまったらしい。

災害が来ると知っていて、指をくわえているだけなんて私には出来ないくらい、その規模は大きかった。

だから私は今、それぞれ災害の要所となる地方を巡る旅に出る為の支度をしていた所だった。

大分お金を稼いた為、旅支度をすることが出来た。

本格的な災害が来るのは実は1年後で、その1年のうちにどれだけのことが出来るかはわからないが、それでも人や動植物を守る為、私は明日旅に出ることにした。

どうせもう家には戻れず、1年後の災害の対策をしなければ私を含めほとんどの人が命を落としてしまうのだ。

それならばやれることをしよう。

人生で初めてといえるほどの使命感を持って、私は明日からの旅に備えて眠ることにした。



その後、大陸を襲った未曾有の災害を最小限に抑えた英雄として、後に語り継がれるものの中に歴史学者達と並んで彼女の名前が載っていたとかそうでないとか。

それはまた未来の話。

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