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第一章 第二話

女の子同士の恋の物語です。

去年の文化祭で起きた事件が切っ掛けで、廃部となった軽音部を碧は復活させようと頑張ります。

しかし、せっかく集まった一年生達は、碧に関する噂を聞いて……

碧と悠貴子のお話、第二話です。

Ride On!


第一章


第二話


 次の日の放課後。

「協力はするけど……」

「お願いします」

 職員室の片隅で、碧が若い女性に頭を下げていた。

 小柄で幼い顔立ちの女性は、碧の同級生だと言っても通りそうだった。

「でも、良いの?非常勤の音楽講師で……」

「良いかどうかは分からないけど、加藤先生しか頼めないもの」

「確かに、去年までは軽音部の副顧問だったけど……」

「だから、お願いします!」

 両手を合わせて頭を下げる碧を見て、

「分かった、サインするわ」と、溜息混じりに言った。

「ありがとう!」

 満面の笑みを浮かべて碧が書類を手渡すと、先生は自分の机へと向かい、碧はその後を追った。

 書類にサインして判子を押すと、

「これで良いかしら?」と、碧へと書類を返した。

「ありがとうございます、ほんと、恩に着ます!」

 緑は再び手を合わせて頭を下げた。

「良いわよ、去年の事だって貴方のせいじゃ無いし、私だって不満に思ってたんだから」

「うん」

「でもねぇ、周りの公務員達は、そうは思っていないのよ」

「そうだね……」

「私なんか、周りから見たら経験の浅い非常勤講師よ、あまり力にはなれないわよ」

「うん、でも、ありがとう」

 嬉しそうに礼を言う碧に、

「それより、メンバーはどうするの?順ちゃんや千佳ちゃん達も誘うの?」と、少し不安交じりに尋ねた。

「誘っては見たんだけど、二人は、家の人達からも反対されているみたいで……」

 顔を曇らせて答える碧を見て、

「そうね、しょうがないかもね……」と、先生も顔を曇らせた。

「だけど、一年生に入会してくれそうな子達がいるんです」

「えっ、一年生に?」

「ええ」

 大きな目を丸くして驚いている加藤先生に、碧は満面の笑みを浮かべて頷いた。

「脅したの……」

「してません!」

 拳を握って講義する碧に、

「じょ、冗談よ、はははは……」と、先生は笑って誤魔化した。

「でも、冗談抜きで、音楽準備室の鍵を貸せるのは今日までよ」

「うん、分かってる」

「片付けって名目で貸してるけど、それが私の限界」

「うん」

「後は同好会の公認取ってからで無いと貸せないわよ」

「非公認の同好会に部室なんて無いものねぇ……」

「頑張ってね」

「うん、ありがとうございました」

 碧は先生に深く頭を下げて礼を言うと、職員室を出て行った。

 音楽準備室へと向かう途中で、

「あっ、東郷先輩!」と、碧を呼び止める声がした。

「龍之介?」

 碧が振り向くと、洋子と優子を連れた龍之介がいた。

「これから準備室に行こうと思って」

 龍之介が碧の前まで来ると、

「でも、こいつら酷いですよ」と、碧に報告した。

「どうかしたの?」

「準備室には行きたくないって、だから、断るにしてもちゃんと言わなきゃ失礼だぞって、それで連れて行く所だったんですよ」

「お前ねぇ……」

 碧は苦笑いを浮かべながら、消え入る様に小さくなって、気不味い雰囲気の中で立っている二人を見た。

「ごめんね、嫌な思いさせたみたいで」

 碧は二人の前まで進んで、

「今日、色々と聞いたんでしょ?」と、微笑みながら言った。

 黙って頷く二人を見て、碧は龍之介の方へと振り向き、

「龍之介、君の言っている事は正論だが、そんな事では女の子にはもてないぞ」と、嫌味っぽく言った。

「えっ、なんの事ですか」

 訳が分からずに聞き返す龍之介に、

「女の子とは、そう言う者だと理解しなさい」と、少し困った様な笑みを浮かべて答えた。

「はぁ?訳分かなんいっすよ」

「だから、女の子とは訳が分からない者なの」

「はぁ?」

 龍之介が眉間にしわを寄せて考えていると、

「あ、あの、先輩、私、あの、行きたくないなんて、言ってません……」と、小柄な洋子が俯きながら言った。

「うん」

 優しく微笑んで頷く碧に、

「あの、ちょっと……その……」と、洋子が言い難そうに口篭った。

「ちょっと私の事、怖くなった、かな?」

「えっ……」

 微笑んでいる碧へと顔を上げて、洋子は碧と目が合って再び顔を俯けた。

「色々と噂が立っている事は私も知ってるよ、気にしないで」

 黙って俯いている洋子に、碧が慰める様に言うと、

「すみません……」と、洋子は小声で言った。

「それ、その噂の事なんですけど、先輩、詳しく教えてくれませんか?」

 碧の後ろから龍之介が言うと、

「そうね、ちゃんと説明しないとね……」と、今度は碧が俯いてしまった。

「正直、俺、バンドやりたいです、でも、あんな噂聞いたら、先輩とは組みたくないです」

「ふっ、率直だね、龍之介は……」

 暫く黙っていた碧が顔を上げて、

「貴方達も来る?」と、洋子と優子へと声を掛けた。

「せっかく出会えた貴方達には、ちゃんと説明したいの」

 二人は顔を見合わせてから、碧の方へと向いて頷いた。

 音楽準備室へ入った碧達は、各自パイプ椅子に座った。

「で、どんな噂を聞いたの?」

 碧が穏やかな声で一年生達に問い掛けると、優子と洋子は俯いてしまった。

 黙ってしまった二人をちらりと見てから、

「俺が、聞いたのは……」と、龍之介が遠慮気味に話し出した。

「去年、三年生のせいで文化祭が中止に成った事を先輩が、恨んで、三年生十人が、先輩と大乱闘になって、先輩が、ナイフで刺されて、先輩は三年生全員を、ギターで殴り倒したって感じ、でしたけど……」

「まぁ、酷い事件ね」

「いや、先輩でしょ、当事者」

「ははは、でもまぁ、粗筋は合ってるわ」

「えっ!」

「ふっ、随分と尾鰭は付いてはいるけどね……」

 目を剥き驚いている龍之介に、碧は苦笑いを返した。

「二人も、似た様な噂、聞いたんでしょ?」

 問い掛けても黙ったままの二人を見て、碧は苦笑いから悲しい顔に変わった。

「あと、その、先輩が……」

 言い難そうにしている龍之介を見て、

「同性愛者、だって事?」と、にっこり笑った。

「えっ、ええ、そうです……」

「否定はしないよ」

「えっ!」

 あっさりと認めた碧を見て、一年生達は顔色を変えた。 

「何処から話そうかな……」

 碧が天井を見詰めながら暫く考えてから、

「去年までの軽音部はね、此処が部室で音楽室で練習していたの、メンバーもね三年生が三人で二年生が四人、私達一年生は三人いたの」と、話し出した。

「二年の先輩達は優しくてね、特に鈴木先輩が皆の面倒見が良くてね、私達一年生も結構楽しく部活をやっていたのよ」

「えっと、三年生は?」

 龍之介の質問に、碧は少し顔を曇らせた。

「私が入部した頃は、全然来なくて、まあ、三年生は受験もあるし忙しいのかなって思ってたの」

「はあ」

「ところが、そいつらってチンピラみたいな屑だったのよ」

「……」

 碧の話を聞いて、洋子と優子は少し怯える様に顔を曇らせた。

「まぁ、話に聞くとね、一年生の時は真面目だったんだけど、希望の大学には行けないぞって成績表に教えてもらった二年生の後半あたりから狂って来たみたいね」

 碧の話を一年生達は黙って聞いている。

「あいつ等と初めて会ったのは何時頃だったかなぁ……」

 碧は苦々しい記憶の中に戻って行った。

ーーー◇ーーー

「おぉ、上出来、上出来」

「ありがとう御座います」

 二年生達の拍手を中、碧達一年生三人が先輩達に頭を下げた。

「ははは、本当、凄くまとまって来たね」

「ああ、このままじゃ、俺達より上手くなるぞ」

「そんな……」

 先輩に褒められた碧は、前髪を眉毛あたりで綺麗に切りそろえ、肩より少し長く伸ばした髪を、くるくると指でいじって恥ずかしそうに俯いた。

「では、負けないように練習しますか」

「ははは、そうだな」

「あと、何曲か文化祭までに完成させないとね」

「はい、頑張ります!」

 和気藹々とした雰囲気の中、皆が笑っていた。

 練習に一段落付いた碧達一年生が、文化祭に向けて三人集まって楽しそうに話し始めた。

「だから、順ちゃんがボーカルなんだから、順ちゃんが何曲か選んでその中から決めようよ」

「碧ちゃん、それで良いの?」

 眼鏡を掛けた優等生風の順子が、遠慮気味に尋ねると、

「いいよ、いいよ、順ちゃんが歌えない曲は選べないでしょ」と、碧は笑顔で答えた。

「まぁ、ギターの方は任せておいて」

「碧ちゃん上手だものね、頼りにしてます」

 少しふっくらとした体形の千佳が、期待を込めて碧の肩を叩いた。

「私ね、文化祭すっごく、楽しみにしてるの」

「どうして?碧ちゃん」

「小学校の時からギターやってたんだけど、ずっと一人でやってたから、こうしてグループでやるのって凄く楽しいの」

「私も中学の時にギター始めたけど、一人でやってた、うん、私も文化祭楽しみだわ」

「私は、ピアノの発表会とか有ったけど、皆で演奏するなんて事は無かったわね、そうね、皆でやる文化祭って楽しみね」

「順ちゃんって、ピアノとっても上手だけど、何時からやってるの?」

「幼稚園の頃からよ」

 まだ出合って三ヶ月も経っていないのに、同じ思いで好きな事を目指し、三人は特別な友情を感じていた。

「うん、では、文化祭に向けて、がんばろう!」

「おーー!」 

 和やかな空気が流れている音楽室で、二年生達が練習を始めようとした時、音楽室の扉が乱暴に開けられ大きな音を上げた。

「えっ?」

 何事かと碧が扉の方を見ると、それまでの雰囲気には馴染まない連中が目に入った。

 制服のズボンを尻までずらしてシャツを出し、靴紐は結ばすに解けたまま踵を踏んでいる。

 まるで、自分達は「馬鹿です」と、宣伝して歩いている様な連中が、今までの雰囲気をぶち壊しながら入って来た。

「な、なに、あれ……」

 日頃見慣れない物を見て、碧は戸惑っていた。

「おら、どけ!」

 練習を始め様としていた二年生達を追いやって、入って来た連中が床に座った。

 有無を言わさずに追い遣られた二年生達は、無言のまま自分達のギターを持って、その場を明け渡した。

 それを見ていた順子と千佳は、怯えながら碧の後ろに隠れた。

「何なんなの、あの連中……」

 初めは戸惑っていた碧も、連中の無礼で大柄な態度に腹が立って来た。

 アコースティックギターを持った二年生の鈴木が碧達に近付いて、

「外に行こうか……」と、促した。

「鈴木先輩!なんなんですか、あの連中!」

 沸き上がって来た怒りで、鈴木に怒鳴る様に碧が尋ねると、

「軽音部の三年生だ……」と、鈴木が申し訳なさそうに答えた。

「えっ?」

 驚いている碧に、

「あの五人の内、三人が先輩だよ」と、もう一人の先輩が付け加えた。

「それじゃ……それじゃ、川崎先輩!二人は部外者なんですか!」

「そうだ……」

 川崎は、ばつが悪そうに碧から目線を逸らした。

「そんなの、良いんですか!ほっといても!」

「……」

 碧が二年生の先輩に怒りをぶつけている後ろで、一年生の順子と千佳は少し怯える様に身を縮めていた。

 そんな碧に気付いて、三年生の一人が碧に近付いて来た。

「なんだ、お前……」

 シャツのボタンを全てはずして、ズボンのポケットに手を入れながら、

「文句でもあるのかよ!」と、自分より背の高い碧に、下から睨み上げて凄んだ。

「……」

 碧が、怒りを露にした目で黙って睨み返していると、

「あの、先輩、この子は新入部員の一年生で……」と、鈴木が三年生との間に割って入った。

「やかましぃ!どけ!」

 鈴木を乱暴に押し退けると、

「なんか、文句があるのかよ、デカ女」と、碧の直ぐ前で再び凄んで見せた。

「……」

「何だよ、その目は、貴様ぁ、一年生の分際で、先輩様に挨拶も出来んのかぁ!ごらあぁ!」

「……」

 無言で睨んでいる碧に、

「東郷、あ、謝れ……」と、鈴木が小声で言った。

「はぁ?」

 鈴木の言葉は納得出来なかったが、自分の後ろで怯えている順子と千佳を思い出し、

「すみませんでした……」と、碧は頭を下げて唇を噛み締めた。

 下げた碧の頭を、更に乱暴に押し下げて、

「くそ一年が、三年生様に挨拶する時はな、此処まで頭を下げんだよ、なめんじゃねぇぞ!」と、三年生が息巻いた。

「ぐっ……」

「分かったか……」

「……」

「返事はどうした!」

 三年生は駄目出しに、黙ったままの碧の頭を更に押し下げた。

 歯を食い縛りながら碧が鈴木へと目をやると、鈴木は申し訳無さそうに頭を縦に振った。

 そんな鈴木を碧は情けなく思いながら、

「はい……分かりました……」と、屈辱に耐えて返事をした。

「けっ、おい鈴木!」

「はい」

 碧の頭から手を離して

「新入りの教育が成って無いぞ!」と、捨て台詞を残して仲間の方へと帰って行った。

「すみません……」

 三年生に頭を下げてから、

「さ、皆、外に……」と、鈴木が碧達を再び音楽室から出る様に促した。

「先輩……」

「……」

 理不尽な屈辱に、悔しさを隠しきれない碧が鈴木を睨み付けると、鈴木は申し訳なさそうに碧から顔を逸らした。

「碧ちゃん、行こう……」

 早くこの場から離れたい順子に袖を引っ張られて、

「……うん」と、碧は渋々、順子達と一緒に音楽室の外へ出た。

「何でなんですか、何で、放っておくんです!」

「あ、いや、その……」

 旧校舎の裏庭で、自分より少し背の高い碧の迫力に押されて、鈴木は後退る。

「東郷、よせ……」

 碧の気持ちも分かる川崎が、遠慮がちに碧の肩を掴んで止めに入った。

「川崎先輩も、悔しくないんですか!」

 川崎の手を振り払い、今度は川崎に食って掛かる碧に、

「東郷、お前の気持ちは分かるよ、だけど……」と、鈴木が弱々しい声で言った。

「何が分かるんです!」

 睨み付ける碧に、

「俺達だって悔しいよ!」と、今度は碧を見据えてはっきりと言った。

「だけど、逆らったりしたら、火に油を注ぐ様なもんだぞ」

「でもっ!」

「誰か怪我でもしたらどうする!」

「!……」

 鈴木の言葉に碧は言葉を詰まらせた。

 下手に逆らって、逆上した連中が、大人しい順子や千佳に危害を及ぼさないとは限らない。

 二年生も他の二人は女子生徒だ。

 怒りに任せて冷静さを失っていた事を鈴木に教えられて、碧は黙ってしまった。

「すまん、今は大人しくしていてくれ……」

「……はい」

「どうせ、この一年で、いや、文化祭が終わったら三年生は引退だ、それまで我慢してくれ」

 鈴木の指示は、碧にとって承服出来るものではなかったが、千佳や順子の事を考えて、

「……はい」と、碧は渋々し受け入れた。

ーーー◇ーーー

 下校時刻になり、部活帰りの生徒達が駅へと続く道を歩いて行く。

 人波に少し遅れて、碧と悠貴子も駅へ向かって歩いていた。

「それから、順ちゃんと千佳ちゃんが怖がっちゃって、慰めるのに必死だったのよ」

「まぁ、大変だったわね」

 碧の苦労を知らない悠貴子が、微笑みながら碧の話を聞いている。

「もおぉ、本当に大変だったんだからね!千佳ちゃんが、もう辞めたいなんて言い出して」

「はいはい」

「……もう……」

 あくまでも部外者の態度を取る悠貴子に、碧は諦めて黙ってしまった。

「だけど、その鈴木先輩って、偉いわね」

 悠貴子の第三者としての意見に、

「どこが!そりゃ、あの時は先輩の方が正しかったかも知れないけど、でも、あんなの、ただの事なかれ主義のへたれよ!」と、碧は当事者としての意見を言った。

「そんな言い方したら失礼よ」

「ふんっ!」

「ふふふふ……」

「何がおかしいのよ!」

 意味不明な笑いを浮かべる悠貴子に腹を立てて、碧が怒鳴ると、

「まずは、頭に上った血を下げなさい」と、悠貴子が微笑みながら言った。

「碧ったら、瞬間湯沸かし器ね」

「なによそれ……」

「ぱっと火が着いて、湯気が、ぽっぽっぽっ」

 悠貴子が呆れた顔で、

「ほんと、短気なんだからぁ、中学の時も、何度も男子と殴り合いの喧嘩したでしょ」と、碧に言った。

「何度もって……さ、三回だけよ……」

 碧が、ばつが悪そうにそっぽ向くと、

「その内の二回は、私の為だったわね……」と、悠貴子は過去を思い出し顔を曇らせた。

「勘違いしないで」

「えっ?」

 怒った様な碧に悠貴子が戸惑っていると、

「“私達の為”だから」と、微笑んでウインクした。

「……くすっ、碧ったら」

 思わず笑ってしまった悠貴子が、

「でもね、碧、もう高校生なのよ」と、今度は真剣な顔で言った。

「それが何よ」

「いくら碧が強くても、もう、男子には勝てないわ」

「……」

「その内大怪我するわよ、貴方は女なの、自覚しなさい」

「分かってるわよ……」

 悠貴子の言葉に、重い物を感じて、

「女だって事は、よく分かってる……」と、遠くの方を見た。

 悠貴子はそんな碧を見て、

「そうね、私達は女……」と、立ち止まって辛そうに俯いた。

「あっ、ごめんお雪、そんな積りじゃ……」

 慌てて謝る碧に、

「……うん、分かってはいるんだけど……」と、悠貴子が悲しそうに微笑んだ。

「……」

 分かってはいる。

 二人は女。

 だけど、理性や理屈では抑え切れない想いがある。

 沈んでいる悠貴子を見て、気の利いた台詞が思いつかない碧が、駅への方へと向いて、

「行こ……」と、背中を向けて、悠貴子に手を差し出した。

「堂々としたい……」

「えっ?」

「堂々と、お雪と手を繋いだり、腕を組んだりして歩きたい……」

「碧……」

「だって、お雪の事、好きなんだもの」

「……」

「悪い事なんかしてない、悪い事だなんて思いたくない……ううん、悪い事だなんてこれぽっちも思ってなんか居ないわ」

「……」

「愛するって悪い事なの?そんな事絶対無い、絶対に……だから、堂々と歩きたい……」

 碧の差し出す手を暫く見ていた悠貴子が、

「ええ、そうね」と、碧の手を強く握った。 

 握った手から伝わって来る、お互いの想いと温もり。

 そして二人は手を繋いだまま、少しの恥ずかしさと共に安らぎに包まれて、駅へと歩いて行った。

 手を繋いだまま、これからもずっと、二人で堂々と歩いて行きたい。

 だけどそれは、茨の中を傷付きながら進む事だと、二人には分かっていた。


最後まで読んで下さってありがとうございました。m(__)m

感想等いたたけましたら幸いです。

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