病・災い
災害描写があります。不快感を覚える方は閲覧を控えてください。
・・・どん・・・どんどん・・・
深い眠りから徐々に意識が戻っていった。
ノックの音が聞こえてくるたびに目が覚めてゆく。
誰だ?
まさかもう帰ってきたのか?
自衛官は大あくびをしながら、ドアを開けた。
「魔理沙~あの茸の研究は・・・。」
「・・・。」
自衛官は帰ってきたと思って開けたところ、誰だかわからない少女が、少女にとっては魔理沙が明けてくれたと思いきや、全身緑のおっちゃんが・・・。
あまりにも意外すぎる相手にお互い唖然とし、言葉すら出ない空白の時間がしばらく続いた。
「あ・・・」
「え・・・と、どちら様でしょうか・・・?」
自衛官の声で、ハッと我に返った少女はすぐさま身を構えた。
「魔理沙は・・・・!!あなたは誰!?魔理沙をどうしたの!?」
ものすごく気まずい雰囲気になった。
この少女は魔理沙に何かしたと勘違いしているようである。
敵対される前に説得しなくては。
「落ち着いてください!魔理沙は・・・。」
「よくも・・・よくも魔理沙を!!!
許さない・・・許さないわ!!!」
うわわ・・・まずい!
ただでさえ胞子がなんちゃらで動けないのに!!
少女は激しい憎悪を持って、たっているだけで意識が朦朧とし軽く痙攣しかかっているほど衰弱している自衛官に襲いかかった。
「魔理沙の敵ぃぃぃいいいいい!!!!!」
「わああああああああ・・・・・・・!!!」
「そう、あの茸にやられてここにいるのね。」
なんとか彼女落ち着かせ、部屋を片付けた二人はとりあえず机の椅子に座った。
しかし・・・
「もう二度と 勘違い しないでくれよ・・・。一応他人の家なんだから。」
自衛官はソファーに置いといた 等身大魔理沙人形 に視線を移す。
彼女も焦っていたとはいえ、転がっていたこの人形を本人と間違えるとは・・・。
「あ、紹介が遅れたわね。私は、アリス・マーガトロイド。
魔法使いよ。」
ふむ、魔法使いまでいるのか・・・。
「で、人形使いをやってるわ。」
「?魔法使いなのでは?兼任?」
アリスは一瞬この質問を飲み込めていないかのような顔をしたが、やがて理解したのか ああー と言って、答えた。
「ううん、魔法使いは 種族名、確かに職業名であるけど、魔法使いっていう種族もいるの。先天的なものと後天的なものに分かれていて、私みたいに修行して捨虫・捨食の身体になったり、生まれつきだったり・・・。」
種族で魔法使いは初耳だった。
なるほどとばかりに、頷いた。
「で、あなたは?」
「あ、陸上自衛隊 22・・・」
「そんなことは聞いていないわ。名前よ名前。フルネームでどうぞ。」
癖で所属名から言ってしまうところだった。
そういったものにはよほど興味がないのだろうか?
まぁ、気を取り直して・・・・。
「・・・ちょっと待って、なんか、揺れてない?」
突然アリスは全方向を見て言った。
なるほど、言われてみれば。でもこの規模だと震度1程度・・・。
と思いきや、さらに揺れが加速する。
徐々に揺れがひどくなる。
やばいぞ・・・、こりゃでかいな・・・。
自衛官は数十秒間続く揺れに、嫌な予感を覚える。
その瞬間・・・。
「きゃ!!」
アリスは無意識にしゃがんで悲鳴を上げる。
予想通りとてつもない揺れがあたりを襲った。
「早く机の下に隠れて!!」
自衛官は激しい揺れに耐えながらアリスを机の下に押し込む、自分も潜る。
あらゆる家具が舞うように倒れていき、家そのものがめきめきと唸る。
ガラスが割れた。
「きゃあああああ!!!!」
窓ガラスが割れた音で、アリスはいよいよパニックを起こす。
外に逃げようとする彼女を必死に抑えた。
「危ない!!危ないから!!」
「このままだと家が崩れるわ!!早く逃げないと!」
「崩れる危険性があるが!降ってくる落下物に頭に当たってしまうほうが危険だ!!」
机から出口まで相当の距離がある|(10メートルほど)。
ここは耐え忍ぶしかない・・・。
・・・治まった?
完全にシーン・・・とした中、二人はしばらく固まるように机の中にいた。
アリスが震えているのがはっきりとわかる、これほどの規模の地震は経験したことないのか?
「揺れはなし・・・。崩れる危険性があるなら外に出よう。立てるか?」
「うう・・・うん。」
震えながら無理に頷き、起き上がる。
「あぅ!・・・。立て・・・ない?」
「おい、大丈夫か?」
どうやらあまりの恐怖に腰が抜けてしまったらしい。
自衛官はアリスを背負い、戸を開けて外に出た。
「立てるか?」
「・・・うん。」
半信半疑になりながらも、アリスを下ろす。
今度は難なく立てた。
「ふぅ・・・。」
自衛官は汗を拭い、大きくため息をついた。
体が相当だるい。
「あなたはどうするの?」
「・・・里が心配だ。木造建築だと火種一つで大火事になる。」
里の方を見ると、やはり心配で気がならなかった。
そうとくると、もうだめだ・・・。
「アリス、済まない。今から里に行ってくる、何か紙ないか?」
ないと頭を振る。
自衛官は意を決して、魔理沙の家に 紙とペンを借りていきます・・・と呟いて入ろうとすると
小さな人形が2体、ペンと紙を持って自衛官の足元まで歩いてきた。
「言ったでしょ?私は人形遣いよ。」
なるほど、平時に見たらギョッとするだろうが、今見るとものすごく助かる。
済まない、自分勝手かもしれないが、先ほどの大地震で里がどうしても心配だ。様子を見てくる。この家から出るとき、中が相当ダメージを被ってた。倒壊が心配されるから入ることはおすすめできない。
自分の名前を記し、置き書きを書いた。
「ふぅーん。あなたそういう名前なのね。」
アリスは自衛官の本名を見ると、裏側を指でさすった。
「これで張り付くわ。」
壁にペったと張り付いた。
「すげぇ・・・。」
「何見とれてるの?早く行くわよ。」
「え・・・?」
「邪魔?」
「あ・・・いえ、助かります!」
実はというと、ここ居て欲しかった。
しかし、よくよく考えると倒壊の危険があるし、外にずっと立たせる訳にはいかない。
自衛官は彼女に無理させない程度の手伝いはさせようと思った。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
里が見える頃には、アリスは息を切らしてよろよろと歩いていた。
持久力がなさそうだ。
ちょっと急ぎすぎたかな?
「ありがとう。俺は急ぐけど、ここからなら里が見える。マイペースで行ってくれ。」
自衛官はお礼に水筒を出したが、アリスは大丈夫と首を振って断った。
水筒をポーチに戻すと、里に向かってさらに加速して走っていく。
アリスも後を追おうと少し足を進めると。
・・・・ガッ
「痛!!」
何かを踏み、転んでしまった。
踏んだものを見ると
「スコップ・・・?」
にしては短い。よく目を凝らさなくて見えないほど分かりにくい緑色をしている。
まさかあいつが持っているヤツじゃ・・・。
ふとシャベルの部分だけ、形が一致する空っぽのポーチを自衛官が見につけていたことを思い出す。
だよね。
アリスは確信を持って、自衛官の行った方向へ向かった。
「あ〜・・・やっぱ崩れてるぜ。」
魔理沙は頭を掻いて言った。
呑気に言ってる場合じゃないわよ・・・。ととなりで霊夢が突っ込む。
「どうしよ・・・、あいつこの中だぜ?」
冷や汗をかきながら、魔理沙は困った顔で言う。
「助けるしかないでしょ・・・。死なれちゃ困るわ。」
霊夢はとりあえず、ガレキを素手でどかす。
しかし
「痛ァ!!」
指を振って叫ぶ。
「あー・・・木片にから出てるトゲが刺さったのね。いまピンセットで外すわ。」
魔理沙が連れてきた永琳は、救急箱から取り出して、霊夢から刺さったトゲを抜いた。
「はうっ!」
「これで大丈夫よ。」
「う~ん・・・どうしよ。」
霊夢の状況を見て、既による救助はなおさら困難な事があきらかになった、かと言って吹き飛ばすわけにもいかないし・・・。
しかし、永琳は右下にメモ用紙ぐらいの紙を見つけた。
これを拾うと
「・・・置き書き?」
「へ?」
魔理沙と霊夢も永琳の拾った置き書きを見た。
里がどうしても心配って・・・。
「おい!あの馬鹿!あの重症で里に行ったのかよ!?」
「そうみたいね。」
「・・・っ!」
霊夢は顔を歪め空を飛ぶと、高速で里まで飛んでいった。
「はぁ・・・、もう!霊夢は怒りに任せることばっかりなんだから。」
「呆れても仕方がないぜ、行こう。」
魔理沙も追いかける。
永琳も魔理沙に続いた。
「うぅぅうう・・・助けてぇ!!」
「豊助ぇ!!」
やはり何件か倒壊していた。
特にひどく倒壊し、中にいた村人の子供が下敷きになってしまった。
急遽駆けつけた自衛官は必死になって木片を退かし、少しずつ中に入っていった。
この里にコンクリ住宅がなくて助かった。
油圧カッターやエンピがなくても何とかなる。
「うぉぉぉおおおお・・・!!」
うめき声を上げ、ようやく柱を持ち上げた。
「はや・・・くぅ!!」
幸い、咄嗟に潜った机のおかげで、どこも損傷のない村人の子供は自力で脱出できた。
「うう!・・・クッソぉ」
もはや立っているだけでやっとなのに・・・。
フゥ・・・と深くため息をついて、柱を下ろす。
これを見た子供は
「あ!おじさん!!けーね先生がっ」
嘘だろ!?
けーねって、慧音さんのことか!
一度下ろしてしまった柱は、どうしても上がらない。
「んぎぎぎぎぎぎぎぎ・・・・!!!」
ダメだ!完全に力をコントロールできない。
どうしよう・・・
柱は自衛官の意思に反して、さらに下がる。
そんな・・・そんあぁ!
いつもなら持ち上げられるような物が、どうしても持ち上がらない。
でも、だからといって見捨てることもできない。
うまくいかないこと、人を助けることができないという考えと使命感が葛藤し、やがて怒りが溜まってきた。
ただ怒りだけではない、絶望感と悔しさも同時に襲って来る。
力が・・・せめて!持ち上げられるくらいの!!
心の奥底で、情けないような声を出す。
口にこそ出さなかったが、搾り出したように必死に叫ぶ。
だが・・・上がらない。
ちっくしょ・・・・・
―力が・・・欲しいの?―
突然、少女の声が、誘惑するように頭の中から聞こえて来る。
いよいよ来たか・・・。
もうダメかもしれん。でも・・・
―欲しいの?―
ああ。
この人が、助かるなら・・・いくらでも!!!
あの時、全部乗っ取られるしかないかも|(まだ助かる手立てはあるかもしれないにしろ)と・・・言われて、証明までされて・・・無気力になったが。
もう、どうでもいい!!やけくそになったわけでもない!見殺しにするくらいなら!!!!
心の声が聞こえているなら、聞けとばかりに怒鳴る。
そして
―いいよ。これで、きまりだね。―
「う・・・うお・・・うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
この時、一気に解放されたというより、注がれたように力が溢れ出てきた。
爆発したように大声で叫ぶと、持ち上げられなかった柱が簡単に上がった。
大人一人がくぐって出れるまでのスペースが出来上がる。
「くっそぉぉぉぉぉおおおおおお!!!なんてこった!!」
確かに慧音は居た。だが、さらに瓦礫の下敷きになっていた。
本当にどうしようもなくなった。
しかし、
「どけぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!!!!!!」
アリスが何かを持って突っ込んできた。
それは瓦礫を簡単に粉砕し、慧音が完全に出れるようになった。
「早く!!!」
自衛官が怒鳴ったとき、慧音は目覚め
「え・・・は?」
「はやくでろぉおお!!いいからぁ!!」
「あ・・ああ!!」
混乱していた慧音に一喝すると、すぐに我に返って外に出た。
安心した自衛官は柱を落とし、その場に倒れてしまった。
よかったぁ・・・、見た感じでは助かったようだ。
見殺しにすることはなかった・・・。あの時のように。
―うん、よかったね。でも、私はそれ以上によかったぁって・・・オモッテルノ!!!!―
ここがどこだかわからないような闇の中で、安堵する自衛官の後ろに現れた少女は、魔物のような形相になり近づいてくる。
しかし、自衛官は決して恐怖することなく、絶叫することもなく。
むしろ安心したような顔をしていた。
「ああ、あんたに力を貸してもらった仮はあるからさ。でも、乗っ取るなら悪さだけは決してすんなよ。」
さらに気をに抜いて笑う。
「へー。キミ、メズラシイネ。ワタシヲミテモ、キョウフシナイナンテ・・・。」
「ふ・・・いまさらお化けなんて見ても、怖くないな。むしろ・・・。」
「ムシロ?」
「こういった1秒の遅れやミスが許されないのが当たり前の状況・・・責任つーやつ?こっちの方がはるかに恐ろしく、怖い。」
「フーン・・・ガイライジンッテ、セキニンッテイウ、ヨウカイノホウガコワイノカ?」
「んー・・・、妖怪じゃねぇよ・・・ま、わかんねーだろうけど、妖怪なんかよりはるかに恐ろしいやつ?っと思ってくれりゃーいい。」
さっきの演出の割には、俺の話に食いつきやがって。
まぁいい。結局死ぬなら少しの会話くらい・・・。
「ヨクワカンナイ・・・。モウ、イイヨ。キミヲ・・・。ニクタイハスベテワタシノモノニナッタカラ、アトハタマシイダケネ。」
少女はありえないほど口を広げ、自衛官を飲み込もうとする。唾液が顔にかかった。
「おいおい、きたねー食い方してるとお嫁に行けんぞ?」
「イイモン、イカナイシ。」
「そうか。」
相手が怪物とはいえ、こんな穏やかな死に方も悪くはない。
人も助けられて・・・ああ、でもやっぱ、家族がいるからなぁ。
・・・・・・これだけは、まだ心残りかもしれない・・・。
「そうよ。今のあなたにはまだ、生きる意志となる 未練 は必要よ。」
さっきの声とは違う、別の少女の声が聞こえた。
え・・・と思い、目を開けると
「さすがに何も未練がないと手出しができませんからね。遅れました、私は白玉楼から逃げてきた幽霊の回収に来た、魂魄妖夢という者です。」
「え・・・。」
意外な事態に自衛官は困惑する。
さっきの魔物がいつの間にか、向こうでもがいていた。
「悪と欲望と・・・、とにかくマイナスなものを断ち、あなたのような悪霊を成仏させる・・・白楼剣。
私に斬れぬものはあんまりない!!!」
なんか聞いてるほうが不安になりそうな決め台詞だが、相当な気迫を放ってるので実力はあると思う。
よく見ると、妖夢の周りに幽霊みたいのが纏ってる。アレは彼女にとり憑いてるのか、それとも彼女そのものなのか。
「ジャマ・・・スンナァァァァァ!!!!」
悪霊となった少女は妖夢に襲い掛かる。
しかし、さらりとかわした。
「・・・ぁぁぁああああああ!?」
悪霊は突然慌てるように喚く。
なにがあったんだ?
「さっき避けるついでに斬りました。」
「ナ・・・ナンダトォォォォォオオオオオオ!???」
悪霊はあっさりとあっけなく、妖夢にまとわりついている幽霊と同じサイズの姿に変わった。
「・・・ふぅ、ひとつ、悪霊を元の姿に戻しました。」
妖夢はそう呟くなり、自衛官の方を振り向き、深く頭を下げた。
「申し訳ありませんっ!肉体に染み付いてしまったとはいえ、こうなるのを防ぐことができませんでした!
元の体に戻す術を行いますので、どうか、白玉楼に来てください!お願いしますっ!お詫びは致しますので。」
え・・・・どういうこと?
自衛官は困惑していると、一瞬であたりが見えなくなった。
ここでまた、もう一度意識が途絶える・・・。
―・・・!・・・!!―
―大丈夫よ、・・・は順調に回復しているわ。ただ、変化した体はどうしようもないけど・・・。―
?変化?
この言葉を聞いて、ぼやけていた意識がはっきりした。
あの痛みやだるさがない!
やった、治ったのか?
「大丈夫?」
珍しく、霊夢が心配している。
よかったぁ・・・。生きてる・・・あれ?
安堵のため息をついて、胸をさすったとき 胸に信じられない違和感 を覚えた。
「嘘だろ・・・?」
声も変わってる。どういうことだ!?
「どう?私は魔理沙が呼んだ 永琳よ。
病そのものはなんとかなったけど、変化したのよ。手鏡を渡すわ。」
嘘だろぉ!?
手鏡に映ったのは40過ぎたおっさんではなく、16半ばの少女だった。