表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

俺は特異な学生だ

かなり長期休暇をとったので、文章の風潮が変わっているかもしれません。ご了承ください。

「穂希音!!!よかった……生きていてよかった……。」

生きていてよかった……。助かってよかった……。



あの交通事故から四日後。ずっと眠り続け、もう目を覚まさないかと思っていた。医師からはもしかしたら植物状態になるかもしれないという話まであった。体に一生残る傷はつかなかった。ちょうど力が分散するように地面にたたきつけられたから体に目立った損傷はなかったのだろう。ただ、脳の一部が損傷している恐れがあって、もしかしたら、とのことだ。


「……あなた……どなた……?」

なんだかんだで無事だったみたいだ。……。


「……。ゴメン……。」

「……どうしたの?」

その途端、まるで操り人形のひもが切れて膝をつき、ベッドに寄り掛かるように崩れた。




~~数分前(病室前)~~

コンコン……。

「……秀冶くん。」

「こんばんわ。穂希音の様子は……。」

「穂希音なら、今日の昼頃、目を覚ましたけど……。」

意識は戻ったようだ。その喜びは確かにあった。けれども、正直言って素直に喜べなかった。それは穂希音のお母さんの表情からも、言葉からもうかがえた。


「……記憶喪失……と、医師から聞いたわ……。」

「……記憶……喪失……。」

それと同時に、目の前にまた別の壁が立ちふさがった。自分自身でも、どうすればいいかわからない。いや、もしかしたらどうすることもできないのかもしれない。


「……ええ……。今までの人生で起こったことの一部の記憶を失ってしまったみたいなの。それも、最近のことのほうが顕著にみられるようで……。医師からは回復の見込みは薄いと……。」

「つまり……。俺のことを覚えていないかもしれない……と……。」

「……ええ。」




「ごめんよ……。」

よくドラマやアニメで知り合いなどが記憶喪失になるところは見たことがある。さらに、あれは演出でもある。あたかも、記憶喪失になったかのような演技をし、見ている人の感情を引き込もうとしているだけである。それは、理解したところで、結局は他人事であり、一時の悲しさに終わる。しかし、実際目の前で俺には関係ないことだと思って見過ごすようなことが起こっている。別に誰しもがこんなことを思っているなんて思ってはいない。


「俺のせいで……。」


穂希音の記憶を奪った。

穂希音の経験を奪った。

穂希音の今までの人生を奪った。



時間は誰でも平等に与えられる。それは、時間を失えば、その時間の分だけほかの人より少なくなってしまうということ。


「時間を奪ってしまって……。」

「……どなたかわかりませんが、私のために泣かないでください。私はちゃんと生きています。」

「……ごめんな……。」

蛇口から水がしたたり落ちるように一滴、また一滴と涙がこぼれだした。穂希音はそれをただ受け止め、「大丈夫。大丈夫だから。」と言いたげに頭を優しくなでた。俺は謝らずにはいられなかった。謝らないと耐えられなかった。自分に。自分という存在に。俺は穂希音の為に謝っているわけではないということも分かっていた。自分のために謝っていることも分かっていた。自分がした行いから逃げたいから謝っていた。誠心誠意の謝りではなかった。偽りに濁ったものであった。穂希音はそれをわかっているのかもしれない。私のために謝らなくていい。あなたがだれであろうと、わざわざ来てくれただけでも、他人のことを思いやることのできる優しい人なのだから。そんなことを言うであろうと予想ができた。いや、他人のことがわからない俺でも、この時ばかりは鮮明に分かった。



どれくらいたったであろうか。感情のコントロールもそれなりに落ち着かせ、今ではそばの椅子に座っている。穂希音には、穂希音の母親から俺がだれなのかということ、自分が高校生で、俺と同じ学校に行っていること、などを話した後、家事をするためにいったん家へ帰るといって行ってしまった。


「安田……くん……?」

「……なんだ?何か欲しいものでもあるか?」

「いえ。……ところで、私はどうなったのでしょうか……。」

ああ、詳しい話を聞きたいっていうわけか……。聞き込みで聞くよりも、事故現場にいた俺に聞けばより詳しくわかるってことか。


「いや、聞いた通りだと思うんだ……。……簡単に言えばだな……その……穂希音は……交通事故にあったんだ。」

いや、本当は「俺が合わせた」というべきであった。それは、俺自身が逃げたいという感情を持っているのと同時に自分の心のどこかに悪いと思っているからかもしれない。いや、そんなことは思っていない……と、思う。自分でも自分のことがわからない。今まで考えたことがなかったけれど、今思えば、自分のことも、他人のことも、何を考えているかわからなかった。何もわかっていなかった。全てが分かっていなかった。


「……そうなの……。」

もちろん他人の気持ちが完全に読み取れるなんて思っていない。そんなことが分かったら、それこそ宇宙人か何かである。


「……ごめんな。」

もともとそんなに太っていないので、ここ数日で痩せているのは一目でわかる。穂希音自体はもともとそこまで太っている訳でもなく、痩せている訳でもない。それと比べると、確実に腕にある力は弱くなっており、自力で行動することが厳しそうに見える。


「……ところで……さ……。私とあなたとの関係ってどうなっているの?」

どう?って、どう?


「どうってどういうことだ?」

「そ、それは……そ、そう。何だか私と安田くんが付き合っているとか小耳にはさんで……ね?」

ね?って、言われてもなぁ……。

「別に、普通の幼馴染だが?というか、よく一緒に帰ることが多かったから、勘違いされただけだと思うが。」

「い、一緒に!?」

そ……そんなに大げさな反応をしなくてもいいのに。それに母親から俺がだれだか教わる前までは、俺がだれだか覚えていないって言っていたのに。そんなことを思いつつも、穂希音が目を覚ましたこと元気をもらいながら、ここ数日より少しだけ元気を取り戻した。



~~自宅~~

「……大丈夫ですか……?」

「ああ、大丈夫だ。」

帰宅をしたら、すぐさま自室に引きこもる。ここ最近の決まりきった行動だ。今日もまた懲りずに自室の机に座って肘をつきながら宿題もせずただただボーっとしている。別にどうってことはない。そもそも、宿題なんてできる気分じゃない。


「って、どうせ俺が考えていることなんか、お見通しなんだよな。」

「もちろんです。」

「はぁ……。」

ため息が出てしまう。それは、自分だけのプライベート空間がないということだ。いい加減、一人にしてほしいとは思っている。


「はぁ……。」

「ため息ばかりしていると、幸せが逃げてしまいますよ。ここのところ、ずっとため息ばかりしておりますし。」

ため息つかないと、人生やっていけないよ。正直言って辛い。いくら考えても永遠に続く迷宮をさまようだけ。考えずに立ち止まれば、苦しみを受け入れるだけ。苦しみ続けることを認めてしまったということだ。人生なんてそんなもんだと思う。どうせ苦しさばかりあるんだ。それでも、ただ受け入れるのは辛い。ただあがいているだけ。


「ただ言い訳をし続けているだけで、現状は何も変わっていませんよ。」

「……痛いところをつくな……。」

現状、頭を抱えて考えることしかできない。


「人間は、現実逃避が得意なんですか?」

「いちいち人の思考に口を挟まないでくれよ!!!」

「秀冶が独り言を話している……。そのうち、お人形はお友達って言い出すに違いないわ……。これはスクープだ……。ふふ……。」

「お前は自分の部屋に帰れ!!!」

どいつもこいつも……。


「それでも、今日はここ最近より少しは明るくなったんじゃない?」

「戻ってくるな!!!」

「へーい。」

あいつは妹として兄への尊敬の意思はないのか?……って、そんなこと分かりきったことか。俺は俺だ。……。


「俺は俺……だよな……。」

自分が分からない……。どうしてこんなに違和感があるのか……。


「遠藤穂希音さんのことですか?」

「違うわ。それと、いい加減勝手に人の心を読まないでくれ。」

とは、反射的に言ってしまったものの、物事の核心をついているのは確か。……自分が分からない。何を望んでいるのかわからない。これが世にいう自分探しという人の心情か、結果が見えない恐怖というか、初めて見た何かを見つめている複雑さというか、言葉に表せない感情。これは、いったい何なのか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ