梅雨明け
私が住まう生家は標高の高い山腹に建つ。
家の左斜め上へ回ると、山肌から突き出た空き地があり、一帯を広く見下ろせる。
毎年、梅雨明けのこの時期に、薄曇りの朝焼けの空が際立って濃く赤い日和がある。
その日は早く目が覚めて、自然に赤い空を見る。
朝の身支度もそこそこに、空き地へ登り、立っていると、間も無く赤い雲間から、つるつる人影が垂れてくる。
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木々が湧き立つ山裾に、麓の原から田畑や家に。建物が増え出す道沿いに、聳えて込み入る市街地に。
見える限り四方八方に、疎らにつるつる垂れてくる。
手足をぎゅっと内へ畳み、身を守るように背を屈めた、黒くか細い影である。
家5、6軒分はありそうな、大人と見える人影が、丸まり、俯せで垂れ下がる。
恐らく“揃う”のを待っている、静かな停滞の時間の後、徐に低い音が立つ。
年により、遠く近くから、多分、人影のそれぞれから、1人1人に点るように、密やかに、ぽつぽつ、鳴り始める。
稼働させた電子レンジの、マグネトロンの振動めいた、低い、ぶうん、と言う音である。
赤い、薄曇りの空の下、澄んだ赤い陽に照らされて、無数に垂れた黒い人影が、低い、ぶうん、を響かせる。
あちらこちらで鳴り出すと、聞き留めてかどうか知れないが、そこらで鳥が飛び立って、犬が激しく吠え立てて、何かしら、音の影響を、受けているように感じられる。
微かな、ぶうん、と言う重奏が、一頻り、継ぎ目なく行き渡ると、軈て人影はつるつる昇り、何気ない朝が訪れる。
私は、空き地から家へ下り、何気ない朝を再開する。
*
1度、近くに1人が垂れ、まじまじ見上げた事があった。
朝焼けの、眩い陽の中でも、ほぼ真っ黒としか見て取れない、硬そうに、縮み上がった形だった。
この朝を越すと梅雨が明ける。
真夏の訪れを告げられる。
終.




