【3分】あつまれ羊の森【寓話】
羊が暮らす、いくつかの村がありました。
村のひとつは森にあり、その学校では毎日こう教えられていました。
「嘘をついてはいけません。正直に話すことが、いちばん偉いのです」
子羊たちは、教えられたことに従います。
「ぼくたちは誰も騙さない良い森の民だ」
「ここは他の村よりも良いところだ」
ある日、オオカミが村にやって来ました。
「逃げた羊を見なかったか? どちらへ行った?」
子羊は震えました。
だが、学校の言葉を思い出します。
───嘘は悪。
子羊は正直に答えることにしました。
「川のほうです」
オオカミはうなずき、川へ向かいました。
子羊には手を出さなかったのです。
それを見て村の羊たちは安心しました。
「正直に答えれば襲われないんだ」
次の日もオオカミはやって来ました。
他の村の羊は、森へ逃げ込むことが多かったのです。
「仲間から、はぐれた羊を知らないか?」
羊たちは、また正直に答えました。
「大木のほうです」
オオカミが笑います。
「この森は助かる。騙される心配がない」
オオカミは正直に答えた羊を食べませんでした。
なぜなら道を教えてくれる羊を食べてしまえば、また森を探し回らなければならないからです。
正直な羊は、食べるより生かしておくほうが狩りがラクだったのです。
森の羊が食べられることもありましたが、それでも他の村よりは比較的安全でした。
やがて森にはオオカミが頻繁に来るようになりました。
オオカミたちが言います。
「正直な森はラクだ」
「疑わなくていい」
「間違えない」
「狩りが早く終わる」
正直な羊が増えるほど、オオカミは狩りを失敗しません。
ある夜、子羊は年老いたフクロウに聞きました。
「どうしてオオカミは、ぼくたちの森が好きなんですか?」
フクロウが答えます。
「正直な者が多いと強い者は疑わなくてよくなる。失敗しなくてよくなる」
「それは、いいことじゃないの?」
フクロウは首をかしげました。
「誰にとっての“いいこと”だろうね?」
その夜、子羊は学校の前を通りかかりました。
教室に明かりがついていたからです。
教師の羊がいつもの教えを黒板に書いていました。
───正直は善である、と。
子羊は思いきって聞きました。
「先生……正直って、本当にいいことなんですか?」
教師がにこやかに答えます。
「もちろんだよ。みんなが正直なら騙したり騙されたりの争いはなくなる。森は平和になる。だから嘘をついてはいけないんだよ」
子羊は安心しました。
しかし教師は、黒板の文字を見つめながら、
心の中で別のことを考えていました。
正直な羊が増えればオオカミは狩りを失敗しない。
羊の教師がこのシステムの維持に努めていることをオオカミは知っている。
だからシステム維持に必要な自分をオオカミは襲わない。
つまりスケープゴートを用意すれば、次に食べられるのは私ではない……。
でも、教師はそれを口には出しません。
翌朝も、学校では同じ言葉が教えられていました。
「嘘をついてはいけません。正直に話すことが、いちばん偉いのです」
教師は子羊たちに何度も復唱させます。
森は今日も、とても道徳的でした。
そしてオオカミたちは、今日もラクに狩りをしました。
この森で、いちばん上手に嘘をついているのは『嘘をつくな』と教える羊でした。
フクロウは森を見下ろして、つぶやきます。
「オオカミより恐ろしいのは、わが身を守るため、他者に善を押し付ける羊なのかもしれないな」




