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【2分】聖なる欠落【寓話】



 宗教心が厚く、清廉潔白を理想とするエテシア王国。

 人々は愛と慈悲を説き、穏やかな人々が暮らしていた。


 ニコライはそんな国に生まれた怪物だった。

 生まれつき体が大きく、また暴力的であった為、周囲の人間は彼を恐れた。


 宗教はよくわからない。

 愛と慈悲と言われても、意味不明の空虚な言葉に響いてしまう。


 ニコライは本能のまま他者に暴力を振るい、傷つけ、奪い、犯し、時には命を奪うことすらあった。

 そしてニコライはそういった行為を心から楽しんでいた。

 愛や慈悲よりも、暴力や強奪のほうがよほど心を満たしてくれる。


 だが、そんな無法も続かない。

 軍隊が出動し、数十人がかりでニコライを押さえつけ、捕縛した。


 国はニコライを呪われた血、人の形をした悪魔として、地下牢に幽閉した。




 数年後。

 隣国の軍勢が国境を越えた。


 エテシア王国に攻め入ってきたのである。

 慈悲深い騎士たちは、敵の首を撥ねる瞬間に聖典の教えが頭をよぎり、剣筋が鈍ることが多かった。

 その一瞬の隙を突かれ、王国軍は連戦連敗、壊滅寸前に追い込まれた。


 窮地に追い込まれた国王は地下牢の扉を開け、ニコライに重い斧を渡した。


「これは聖戦だ。神はお前の力を欲してる。異教徒を全て片付ければ、お前を自由の身にしてやろう」


 ニコライはただ頷き、戦場へ向かった。

 彼は正義のためではなく単なる快楽のため、嬉しそうに斧を振り回した。


 返り血で真っ赤に染まりながら、死体の山を築いていく。

 それは何にも代えがたい愉悦だった。


 不気味な笑みを浮かべながら斧を振り回す大男に、隣国の兵士たちは震えあがった。

 とても人間とは思えない怪物に見えたのだ。

 ニコライの姿を見ただけで、隣国の兵士たちは我先にと逃げ出すようになった。


 やがて戦況は逆転し、エテシア王国の勝利となった。




 勝利の宴。

 ニコライは王宮の最上席に座らされていた。


 かつて彼を汚物を見るような目で見ていた貴婦人たちが、今は競うように彼の逞しい腕に触れている。

 吟遊詩人たちはこぞってニコライの勇猛さを讃える詩を奏でている。


 黄金の杯に注がれた酒を飲み干しながら、ニコライは冷めた目で周囲を眺めていた。


 彼らは言う。

 あなたのその『容赦のなさ』こそが、神が遣わした奇跡なのだと。


 彼らは言う。

 あなたのその『残酷な一撃』こそが、我らの平和の守護なのだと。


 数ヶ月前まで、ニコライを人の形をした悪魔と呼んで地下に閉じ込めていた者たちが、今はその同じ特徴を『神聖な才能』と呼び変えて、崇めている。


(結局、こいつらが愛しているのは俺じゃない。俺がもたらす『安全』という利益だ)


 ニコライは全てを理解していた。

 だが、憤りはない。

 地下牢の冷たい床に比べれば、この豪華な椅子と上質な肉は、あまりに心地よい。


「英雄に乾杯を!」


 沸き立つ大広間で、ニコライは静かに微笑んだ。


 いったい愛や慈悲はどこへいったのか?


 答えは明白である。

 愛も慈悲も、必要な時だけ取り出される飾り棚の言葉だったのだ。


 誰もが善悪を語りながら、結局は”自分の利益になるかどうか”で全てを決める。


 この滑稽で現金な世界こそが、自分のような欠陥品には一番似合いの居場所なのだと笑った。

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