表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

【4分】ラプラスの悪魔【ハッピーエンド】


 女子大生の真央のもとに、ある日一通のメールが届いた。


『明日、心理学の講義をサボれ。さもなくば必ず後悔する』


 差出人不明。

 件名はない。

 あまりに不気味で、真央はすぐに削除しようとした。


 だが、なぜか気になる。


 結局、好奇心に負けて講義を休んだ。

 その結果、重要なレポートの説明を聞き逃し、単位を落としかけた。


 数週間後、またメールが届く。


『居酒屋のバイトを続けろ。辞めたら不幸になる』


(はあ? なに言ってんのよコイツ!)


 真央は腹が立った。

 辞めようと考えていたブラックバイトを続けろだなんて、どうかしてる。


 メールの指示を無視してバイトを辞める。

 すると、条件の良いバイトがすぐに見つかった。


 なんなんだろうかこれは?


 不思議なメールは以降も続いた。


『告白するな』

『引っ越すな』

『新しくできた友達とは縁を切れ』


 指示に従えば悪いことが起こり、指示に逆らえば良いことが起こった。


 真央はこの不可解なメールの差出人を『ラプラスの悪魔』と名付けた。

 すべてを予測できるが、必ず最悪の未来だけを告げる悪魔。


 検証の結果、真央は1つの答えにたどり着く。


(……つまり、逆をやればいいんだ)


 それからの人生は、驚くほど順調になった。

 進路も、人間関係も、金銭面も。


 人生がイージーモードになったかのような感覚。

 悪魔の予言を反転させるだけで、いつも最適解が得られる。




 社会人になった真央は、職場のイケメン社員に恋をした。


 誠実そうで、優しくて、仕事もできる。

 誰が見ても理想的な男性で、多くの女性社員の憧れの的。


 だが、久しぶりに届いたラプラスの悪魔からのメールには、こう書かれていた。


『人気のイケメン社員と付き合え。結婚しろ』


(!?)


 真央は震えた。


 憧れのイケメン社員と付き合いたいという気持ちと、ラプラスの悪魔の指示がシンクロしてしまったのだ。


 ということは───


(逆が正解ってことは……そんなぁ……)


 とても好きだった。

 もし交際を申し込まれたら、二つ返事で即答してしまいそうな程に。

 でも、ラプラスの悪魔を信じるなら、この恋は破滅の道である。


 ある日、憧れのイケメン社員から食事に誘われた。


(辛い……辛いわこれ……)


 断腸の思いで、彼からの誘いを断る。


 その後、彼は同僚の女性社員と結婚した。


 二年後、離婚したと噂で聞いた。

 理由は酷いモラハラだったという。

 心を病んだ同僚は、病院に通うほど壊れてしまったらしい。


(あっぶなあ!)


 背筋が凍る。

 本当に危なかった。

 まさかあんなモラハラ男だったとは……。


 もしあの時、誘いを受けていたら、自分が同僚の立場だったかもしれない。




 ある日、またメールが届く。


『明日の合コンには行くな。行ったら破滅する』


 翌日、真央は迷わず、友人に誘われていた合コンに参加した。


 そこで出会ったのが、今の夫である和磨だった。

 不器用で、少し変わっていて、優しい人。


 真央と和磨は結婚し、穏やかな日々を送った。

 メールはいつしか、二度と来なくなっていた。




 ある夜、和磨が風呂に入っている時、真央のスマホが鳴る。

 着信名は───


《ラプラスの悪魔》


「!?」


 ドクンと心臓が跳ねた。


 迷いながらも通話ボタンを押すと、聞き覚えのある声が。


「驚いた?」

「……あなた、誰なの?」

「君の夫だよ。ただし、未来の」

「!?」


 その声でわかる。

 スマホの向こうに居るのが、和磨だということに。


 即座に充電スタンドに目を向けると、そこには和磨のスマホがあった。

 つまり電話の向こうにいるのは”今の”和磨ではないが、和磨なのだ。

 言葉がおかしいが、そうとしか言えない。


「信じられないかもだけどボクはいま、数年後の未来から、かけてるんだよ」


 突拍子もない説明だが、真央は自分でも驚くほどすんなり受け入れた。


 彼は淡々と語った。

 元々の未来では、真央はあのモラハラ男と結婚し、心を酷く病んだ。

 のちに和磨と再婚したものの、今も通院中の身だとか。


 そしてその頃、和磨は偶然、過去の妻へメールを送れる不思議なスマホを骨董品屋で手に入れたと。


「変な指示ばかり送ってゴメン。でも君を助けたかったんだ」

「なんで変な指示を? 普通に言ってくれれば良かったのに」

「ヒトは指示ばかりされると、反発したくなる欲求が出てくるでしょ」


 彼は笑って言った。


「だから全部、最悪の予言にしたんだ。逆を選べば正解になるようにね」


「そうか……リアクタンス」

「その通り。君が大学で学んでた心理学だよ。心理学が好きだったというのは今の妻、つまり君から聞いてる」


 的中率100%と0%は、構造的には同じ。

 反転させれば未来は変えられる。


「この仕組みを逆用すれば人生が有利になる。君なら気付くと思ってたよ」

「そりゃ、あれだけ完璧に外れたらね」


 真央も笑った。


「この不思議なスマホの電池はもうすぐ切れる。だから最後に、君に謝りたくて思い切って電話をかけたんだ。変な指示ばかりしてゴメン、とね」


 そこで突然、通話は途切れた。


「………」




 その夜、真央はリビングでくつろいでる和磨の横顔を見つめた。


 言いたいことは山ほどある。


 ───でも、言葉が出てこない。


 視線に気付いた和磨が、不思議そうにたずねる。


「なんでそんなじっと見てんの……どうかした?」


 真央は照れくさそうに微笑んだ。


「……ううん、なんでもない」


 もしかしたら、和磨のスマホにも何かしらの指示が来ていたのかもしれない。

 ……が、それを確認する気にはならなかった。


 隣に愛する人がいる、今の生活は幸せだ。

 それでいいのではないかと。


 ラプラスの悪魔の予言は全て終わった。

 今はもう未来を測る必要はない。


 自分の選んだこの人生が、何よりの答えなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ