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【2分】試練の塔【寓話】



 昔、ある国に王が建てた高い塔があった。

 王はそれを『試練の塔』と呼び、強き者の心と技を試すために作ったものだった。


 塔を制覇した者は王に称えられ、金貨と名誉を与えられる。

 塔の制覇者は国中から尊敬を集めた。


 塔は攻略方法が分析され、制覇者が多く出るようになった。


 あるとき数人の若者が塔を登りきった。

 彼らは町に戻ると声高に語った。


「俺は頂に立った」

「お前たちには無理だ」

「弱い者は塔に近づくな」


 これを聞いた多くの人々は不快な気持ちになった。

 そして次第に空気が変わり始めた。


 塔が作られた最初の頃は、塔の制覇者の話を誰もが聞きたがったが、いつしか制覇者の話は聞きたくないという人間が増えていったのだ。

 ある酒場では、制覇者を出入り禁止にする程のありさま。


 最初の頃は、塔の制覇者は尊敬されていたのだが、いつしか尊敬半分、軽蔑半分という風潮に変わっていた。


 王が静かにつぶやく。


「塔があることで、国中に無駄な争いが増えるのは良くない」


 そして王は布告を出した。


 試練の塔は残す。

 しかし、その掟を変える。


・王は評価しない

・勲章も賞金もない

・逆に、塔に入る際は挑戦料として、金貨を国へ支払う

・制覇者の名前を刻んだ石版は破壊し、名を残すこともやめる


 人々はざわめいた。


「なぜ栄誉を奪うのですか」

「苦行に金を払う者などいるものか」


 王が答える。


「栄誉は奪っていない。奪ったのは、くだらない争いのタネだ」


 名誉も賞金もなく、誰も塔に登らなくなった。




 だがある日、一人の旅の冒険者が塔を制覇した。

 戻ってきた旅の冒険者に、人々がたずねる。


「栄誉も賞金もないのに、なぜ塔に挑んだんだ?」


 旅の冒険者が答える。


「なぜって……そこに塔があるからさ」


 意味のわからない答えに、人々は困惑した。

 その様子を見て、旅の冒険者がこう付け加える。


「塔のモンスターは強く、罠も難しかった。途中で何度もくじけそうになった。けれど、登ってよかったと思う」

「……それだけか?」

「ああ、それだけだ」


 これまでの制覇者の言葉は人々の心に不快な棘を残したが、この冒険者の言葉はどこまでも穏やかだ。

 そこには傲慢も尊大もない。


 やがて人々は気づいた。

 旅の冒険者から嫌な感じがしなかったのは、自慢もマウントもなかったからなんだと。


 塔を制覇したことを語ることは許されている。

 問われていたのは、その語り方だったのだ。


 王は塔の案内文の最後に、こう記した。


「本当の試練とは塔を制覇することではない。制覇したことをどう語るかである」


 そして国には二つの強さが残った。


 ひとつは塔を登る強さ。

 もうひとつは、無駄に優劣をつけない強さ。


 人々は後者の試練のほうが、はるかに難しいことを知った。

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