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【6分】お嬢様探偵リコの事件簿【ハッピーエンド】



 ついに野球部が念願の甲子園初出場を決めた。


 夏休みの学校。

 甲子園初出場を決めた野球部の応援準備で夏休み中であるが、生徒会長の神楽坂莉子は学校に来ていた。


 生徒会室に、後輩である羽柴が血相を変えて飛び込んできた。


「リコ先輩! 大変です!」

「どうしたの?」

「ちょっと来てください!」


 羽柴が莉子を連れてやってきたのは、野球部の部室だった。

 そして部室の中はビールの空き缶が散乱していた。


「な、なによこれ!?」

「ヤバいです。部室のドアが開いてたから気になって中を見てみたら、部室がこんな事に!」


 こんな不祥事が公になったら、大問題になってしまう。


「リコ先輩、どうしましょう!? 先生を呼びますか!?」


 莉子は少し考えて言った。


「……ちょっとここで待ってて」


 数分後、莉子が戻ってくる。

 莉子は頭につばが広いベレー帽をかぶっていた。

 帽子とお揃いのケープを着て、口には玩具のパイプをくわえている。

 手にはステッキ。


「シャーロック・ホームズ……」


 その莉子の見た目から、羽柴が思わず呟く。

 莉子は笑顔で宣言した。


「ふっふっふ。捜査開始よ、ワトソン君!」




 野球部の部室で莉子の推理が始まる。


「最も考えられるのは、部員の不始末ね。甲子園出場を決めたお祝いとしてビールを飲んでしまったと」

「でも先輩、部室でビール飲んで、後片付けしないってのは変じゃないですかね?」

「良い所に気が付いたわねワトソン君! その通りよ。今のはワトソン君の推理力を試すために言ったのよ」


 莉子は余裕たっぷりの表情を浮かべ、部室のあちこちを調べた。


「有力なのはライバル校の罠説ね。ウチの学校を出場停止に追い込めば、自分たちが繰り上げ出場ができる。だからライバル校の仕業ってわけ」

「なるほど。それはありえそうですね」


 羽柴は納得の表情で頷いた。


「地元住民による妨害説もあるわね。野球部の掛け声やブラバン練習の騒音に悩んでる近隣住民が、出場停止に追い込もうとした説」

「うーん……。動機の闇深さが増しましたが、なくはないんですかね……」


 騒音に悩んだ末の犯行だとしたら、なんとも切ない話である。


「地元住民といえば、地元の商店街による寄付金逃れのための罠説。甲子園に行くと寄付金が大変だから、わざと出場停止に追い込もうとした線もあるわね」

「寄付金をケチって、そこまでしますかね……」


 地元の商店街が、そこまでケチな心根とは思いたくない。


「昔、野球部の部室をたまり場にしていた元ヤンキー部員の身勝手な動機説。彼は今の部員の甲子園出場に嫉妬して妨害しにきたと。元ヤンキー部員にとって、野球部は堕落の象徴であってほしいという身勝手な理由も考えられるわね」

「ダメな大人の見本みたいな犯人ですね……」


 更に推理を披露する莉子。


「高野連の影の監視官による、誠実さテスト説もあるわ。どんな逆境でも野球部が清廉潔白でいられるか試されていると」

「それは酷すぎません? 高野連がスパイ養成所みたいになってるんですけど……」


 莉子がステッキで床をコンコンと叩く。


「この床下も怪しいわね。部室の床下に徳川家の埋蔵金が眠っている可能性も否定できない。トレジャーハンターが発掘作業を隠すため、わざと不祥事を捏造した。つまり犯人は糸井重里なのよ!」

「……え?」


 部室の床に小さな木の実を見つける莉子。

 ステッキで木の実を指し示す。


「む!? ワトソン君、これを見たまえ! 床に落ちてるドングリのようなものを!」

「それが何か?」

「鈍いわね。野球部の掛け声やブラバンの音で、近くにある雑木林のドングリが振動で落下してしまう。それを嫌がった雑木林に住むリスたちが、部室にビール缶を置いたのですわ!」

「………」


 少しずつ羽柴の表情は固まり始めた。


「真実は意外なところにある。学校の地下には伝説のUMA『ツチノコ・ドランカー』が生息していて、彼らは甲子園出場の吉報を祝して部室で宴会を開いたのよ!」

「………」


 羽柴は完全に無言になり、冷ややかな目で莉子を見ていた。


「………」

「………」

「……ワトソン君」

「………」

「無言のまま冷たい視線を向けられると、先輩辛いわ……」


 二人がそんなやり取りをしてると教師が部室に入ってきた。


「お前ら何やってたんだ?」

「えっと……犯人を見つけようと推理をですね……」


 小声で莉子がモゴモゴと答える。


「犯人? 犯人はもう分かってるぞ、防犯カメラで。これ見てみ」


 教師は二人にスマホを見せてきた。

 そこにはビール缶を持って野球部の部室へ入っていく、自分の学校の生徒の姿があった。

 名前は佐藤といい、野球部ではなく、帰宅部の生徒である。




 佐藤は教師によって部室まで来るようにと呼び出されていた。

 そして教師が防犯カメラの映像を見せると、佐藤は自分が犯人だとあっさり認めた。


「佐藤君、あなた何考えてるの!? なぜこんな事を!?」


 莉子が問いただすと佐藤は言った。


「なぜってそりゃ、応援に駆り出されたくないからに決まってるじゃないですか。不祥事が起きれば出場辞退になって、応援に行かなくて済むんで」

「そんなくだらないことで野球部の邪魔をするなんてあり得ない! 酷すぎる!」

「ボクにとっては野球の応援のほうが、よほどくだらないです。貴重な休みを潰されることのほうが、よほどひどいことだと思うのですが?」

「だからってこんな事が許されると思ってんの!?」

「甲子園のスタンドを埋める為、学校が見栄を張りたい気持ちはわかります。でもだからって、貴重な休みを潰すことが許されると思ってんですか?」


 話は平行線。

 佐藤は悪びれた様子を微塵も見せず、淡々と答えた。

 助手の羽柴が言う。


「ボクは佐藤君の気持ちもわかります。応援を拒否したら欠席扱いとか交通費やチケット代は自腹とか、事実上の応援強制で駆り出される生徒の負担や不利益が大きすぎるのは問題のような気もするんで。問題はまだあります。他にも頑張ってる部活はあるのに、野球だけ特別扱いするのも不公平感ありますよね」

「!?」


 有能な助手であるワトソン君の指摘を受けた莉子は衝撃を受けた。

 知らなかった事実がたくさんあるのだ。


 甲子園初出場を決めて生徒は皆、喜んでると思った。

 だが、実はそうではないらしい。

 それを苦痛に感じる生徒もいるのだ。




 後日、莉子は羽柴を伴って、祖父である理事長にある事をお願いした。




 そして更に数日後、いよいよ夏の甲子園が始まった。

 野球部は無事、甲子園出場。


 だが応援は強制ではなく、自由参加。

 理事長の方針で、学校の見栄よりも、生徒の自由意志を尊重する方向に舵を切ったのである。


 スタンドは空席が出来たが、これは仕方ない。

 空席を埋める工夫は運営がすべきことであり、学校が責任を負うことではないのだ。


 ただ自由参加だからといって応援したい人を、ないがしろにするわけではない。

 代わりに体育館でパブリックビューイングを開催した。


 こっちも自由参加で、生徒のみならず地元の人間にも解放し、パブリックビューイングは大いに盛り上がり、みな楽しく応援した。

 オリンピックやワールドカップなどの応援方式。

 これでも十分、応援は盛り上がるのだ。


 応援に来ていた羽柴が莉子に言う。


「リコ先輩、理事長に応援の自由参加とパブリックビューイングの開催を提案してくれてありがとうございます。『学校のブランド価値は強制動員されたスタンドではなく、生徒の幸福度で決まる』と言ってくれたことは感動しました」

「ふふ、ワトソン君、これこそが私が導き出した最高の解決編なのだよ」


 笑顔で言った莉子に対し、羽柴も笑顔を返す。

 迷推理したり、ふざけることも多いが、こういう芯の強さがある先輩だからついていきたくなるのだ。


 それぞれが選んだ、それぞれの夏休み。

 その一分一秒が、誰にも奪われない最高の思い出になること。


 それが、お嬢様探偵リコが最後に解き明かした、一番大切な『真実』だった。

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