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19話 試合後

 試合から三日。


 演習場の痕跡は消え、話題も移り変わった。

 評価は更新され、

 結果だけが、淡々と残る。

 伊吹ソーマと白崎ユイは特級へ。

 伊吹はさらに、アルブァ公爵家の進路枠を得た。

 世界は、正しい者を選ぶ。

 

「終わったぁ……」


 伊吹ソーマが椅子にもたれ、天井を仰ぐ。


「今日、座学多くね?」


「多い。頭よりケツが死ぬ」


 灰谷ユウは机に突っ伏したまま答える。


「帰り、どっか寄る?」


「寄る」


 即答だった。


「特級なのに居残りいいのかよ?」


「いいんだよ。俺はあのアルブァ公爵家に才能を認められた天才だからな。少しくらい息抜きしたっていいんだ」


「はぁ…お前はいつも息抜きしてんだろ。白崎さんはどうする?」


「行く」


 白崎も鞄を持って立ち上がる。


「どこ行く?」


「じゃあゲーセン」


「金ない」


「ネットカフェ」


「お前、昨日も行ってなかった?」


 くだらない会話。

 内容は何でもいい。


 こういう話をしている時だけ、時間は普通に流れる。


「……あ」


 伊吹がふと足を止めた。

 廊下の向こう。


 特級組が神代を囲んでいる。



 神代は短く答えている。

 いつも通り。特別でもない顔で。


「……」


 伊吹は一瞬、そちらを見るが、すぐ視線を戻した。


「で、ネットカフェ行くなら駅前だよな」


「シャワーあるとこがいい」


「お前、何しに行く気だよ」


 白崎が笑う。


「漫画でしょ?」


「漫画」


「寝る」


「ダメ人間トリオだね」


「よし行こう」


 背後で、誰かが声をかける。


「おい、白崎と伊吹。練習をサボって何処に遊びに行くつもりだ?まさか、あの程度の実力で遊びに行く余裕があると言わないよな?」


「リゼルさん…」

「いやぁ、あの…はは、」


 白崎と伊吹は気まずそうにする。


「そして灰谷。お前はAクラスで唯一無様に敗北したのにネカフェか?その向上心は頭が下がるな」


「だろ?リゼルさんも一緒にネカフェ行くか?」


「……、これは冗談では済まないな」


 リゼルは目を細める。


「敗北そのものは問題ではない。問題は、その敗北が示したものだ」


「お前は弱い。それ以上でも、それ以下でもない。戦場では、弱者は足手まといとなり、必ず誰かの判断を遅らせ死に直結する」


「つまり――、お前という存在がそこにいるだけで犠牲が生まれる」


「努力するかどうかは関係ない。向上心があるかどうかも無意味だ」

 

「お前には適性がない」


 白崎も、伊吹も、言葉を失う。


「英雄は敗北を許されないのではない。最初から、敗北する人間を英雄として想定しない」


 視線を白崎と伊吹に移す。


「敗者は理解できなくていい、理解できる者だけが戦場に立てばいい」


「それを聞いた上で、白崎と伊吹。放課後練習は参加しないのか?」


「……あぁ、行くよ。行けばいいんだろ。すまん灰谷」


「ごめんね、灰谷くん…」


「気にしなくていいよ」


 リゼルは灰谷に背を向ける。


「灰谷ユウ、ちなみにお前は弱いから敗北したのではない」


「戦場は、人を育てる場所でも可能性を待つ場所でもない。勝てる者が前に出て使える者が残る」


 声は冷たく感情もない。


「お前を切り捨てているわけじゃない。最初から選んでいないだけだ」


「結論、ここがお前を必要としていないだけだ」


「………そっか」


 灰谷は小さく返事をした。

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