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18話 第20試合  灰谷ユウ

「灰谷、いよいよだな」


 伊吹が話しかける。


「……正直、吐きそう」


「それでいい」


「よくねぇだろ」


「安心しろ」


「何を?」


「お前が負けても、俺が一生ネタにするだけだ」


「最悪だろ」


「だから勝て、俺の人生に、その黒歴史を刻むな」


「……重すぎだろ」


「伊吹くん、バカなこと言ってないでちゃんと応援してよ」


「白崎さん、こいつはこれでいいよ。余計な緊張が取れたよ。伊吹ありがとう」


「おうよ」


 灰谷は、演習場の白線を見つめた。

 一度だけ、息を整え立ち上がる。




『本日ADクラス最後の試合第20試合、

Aクラス灰谷ユウとDクラス1位中村コータ』


『今大会――

 Aクラス最弱と呼ばれながら、

 魔人討伐で、その名を聞いた者も多いはず!

 果たしてそれは偶然か、それとも――

 ここで“本物”を見せるのか!』』


「灰谷くん大丈夫だよね?」


「あいつは強い。接近戦で初見で勝てる奴はそうはいないだろうな」


「…うん」


「だが、核印が無いことは学院に広まってしまっている。逆に言えば――」


 伊吹は、演習場から視線を外さずに続けた。


「接近戦で勝てなければ、勝ち目は無い」


 白崎は、唇を噛む。


「……でも灰谷くん、分かってるよね」


「ああ」


 短く答える。


「だから灰谷は、前に出る、下がった瞬間終わりだ。魔法戦になったら……不利どころじゃない」

 

 白崎は、灰谷の背中を見る。

 伊吹は、笑わない。


「でも、あいつが一番怖いのは――」


「勝てないことじゃない

  ーーーー 何も出来ずに終わることだ」


 白崎は静かに息を吸った。


「じゃあ、」


「だから大丈夫だ」


 伊吹は、確信を込めて言う。


「灰谷は逃げない。逃げない限り、あいつは必ず、相手の懐に入る」


 演習場に響く開始の合図が切り裂いた。




『さぁ、試合開始!!』


 合図と同時だった。


 Dクラス中村が、間を置かず魔法陣を展開する。


 詠唱短縮。

 初動から全力。


『来た! 開幕から高出力魔法!Aクラスの必勝法をDクラス中村が使う!』


 轟音。

 火球が一直線に灰谷を呑み込む。


 ――だが。


『おーっと?灰谷被弾したか!?』


 紙一重。

 爆炎の縁を、灰谷は走り抜けていた。


『灰谷避けています!普通なら被弾する所、よほど目が良いのでしょう!』


 熱が制服を焦がす。

 それでも止まらない。


 距離を詰める。

 一気に踏み込み、剣を振り下ろす。


 だが――

 中村は下がりながら、即座に反撃。


 詠唱はない。

 近距離用の即応魔法。


 直撃。


「ぐ――っ!!」


 灰谷の身体が弾き飛ばされ、地面を転がる。


『直撃!中村、冷静な迎撃!当たりどころによっては試合が終わる可能性もあります』


 砂煙。

 観客席がざわつく。


 その瞬間。

 爆炎の奥から、影が動いた。


「……っ!?」


『ん?灰谷、防御魔法は展開されていない?まさか受けていたのか!?であれば、かなり打たれ強いということになる』


 灰谷が、再び距離を詰めてくる。


「お前が打たれ強いことは噂で知ってるよ」


 中村の低い声。

 次の瞬間、中村の視界が歪む。


――!?


 灰谷の手から砂が投げられ、追撃の一撃が振り下ろされる。


『っっ!』


 反射的に、中村は防御魔法を展開する。

 ギリギリ。


『これは!!?』


『すぐさま飛び膝ぃぃっ!』


 これも中村ギリギリ躱す。


『防いだ! 今の3連撃は危険だった!これは高度な駆け引き。しかし、このパターンは伊吹ソーマの戦いで見られている。このレベルでは通用しない!』


 灰谷は、前に出る。


 魔法は使わない。

 詠唱もない。

 ただ、剣。


 間合いに入った瞬間、刃が走る。

 横薙ぎ。

 返し。

 踏み込みざまの突き。


『速い!速いぞ!灰谷、魔法を使わわず剣だけで中村を詰めていく!』


 中村は、咄嗟に魔法陣を展開する。

 だが――遅い。


 灰谷の刃が、魔法陣の外縁を叩いた。


「……っ!」


 陣が歪む。

 完全な破壊ではない。


 だが、展開が一拍遅れる。

 その隙に、灰谷は踏み込む。


 斬る。

 斬らせない。

 下がらせる。


『中村、防戦一方!剣術では分が悪い。灰谷、このまま押し切れるか?!』


 中村が、後退しながら下位魔法を撃つ。


 刃で弾き、

 地を蹴り、

 距離を殺す。

 派手さはない。


 確実に“逃げ場”を削っていく動き。


『これは力技ではない、位置取りと間合いの戦いだ!』


 中村の額に、汗が滲む。

 魔法を撃つたび、

 一歩ずつ――詰められている。


 灰谷は、止まらない。


 相手は即座に後方へ跳ぶ。

 距離を取る。


「確信したよ」


 空中で魔法陣が連続展開された。


「まずいな」


 伊吹が言う。


「噂通りお前は核印が使えない!だからーーーー」


 魔弾。

 風刃。

 衝撃波。


「近づかなければ怖くない!」


 逃げ場を塞ぐ、連続詠唱。

 灰谷は、前に出られない。

 被弾。


 一発。

 二発。

 三発。


 威力の弱い全体魔法が、ステージに叩きつけられる。


「これなら得意の脚も使えれないだろ」


 身体が跳ね、地面に叩きつけられる。


『これは……Dクラス中村! 完全にペースを掴みました!』


「ヤバいぞ!灰谷の弱点が完全にバレた。しかも相手は浮いて近づけねぇ」


 伊吹が言う。


『灰谷ユウ、近づけない!なすすべなしか!?』


 観客席。

 灰谷を見つめる視線が二つ。


 リゼルが、冷たく言い放つ。


「これが灰谷の実力ですか。クラスD相手にこんな無様な戦いをするとは」


 視線を逸らす。


「魔人の話もただの噂でしたか」


 神代は、黙って演習場を見ていた。


 倒れた灰谷。

 それでも、まだ立とうとしている姿を。


「リゼルは魔人との戦いを見てなかったな」


「はい」


 静かな声。

 だが、続けて言う。


「あいつは強い、ここの誰よりも」


「レイ様よりもですか?」


「あぁ」


 即答。

 リゼルが、わずかに眉を動かす。


「にわかに信じがたいですが、今の戦いに、実力を隠しているような余裕も余地も見えません」


 神代は灰谷を見る。


「核印がない、魔法で押し切れない、準備された演習ーーーー全部、戦場では意味を持たない」


 神代は、静かに言い切る。


「あいつは、この場所に、尺度に、戦い方に、不適合だ」


「あいつの強さが発揮されるのは

    ーーーー   戦場だけだ」



 その時。


『――ここでガードで動けない灰谷に審判が止めに入った!試合終了! 勝者、Dクラス中村コータ!!』


『ADクラス最終戦で起きた、最大の番狂わせ!!Aクラス灰谷ユウ、ここで敗北!!』


 結界が展開される。

 演習場が、静まり返った。


 灰谷は空を見ていた。



 

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