表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

17話 第4試合 白崎ユイ

――貴賓席。


 試合終了の余韻が、まだ場内に残っている。


「いい試合だったな」


 アルブァ公爵家の関係者の一人が、率直に言った。


「派手さはないが、実に分かりやすい」

「制度を理解している戦い方だ」


 隣の男が頷く。


「力で押さず、相手に選ばせて詰める」


 少し間を置いて、別の来賓が言う。


「神代レイほど完成されてはいないが……」

「だからこそ、伸び代がある」


 視線が、演習場を去る伊吹の背中へ向けられる。


「名前は?」


「伊吹ソーマです」


「覚えておこう」


 だが、その声には確かな興味があった。


「学院を出た後の進路次第では、

 一度、声をかけてもいい」


「前線型としても、部隊運用でも使える。学院に通しておけ」


「分かりました」


 誰かが、軽く笑う。


「悪くない拾い物だな」


ーーーー



第3試合

白崎ユイ vs Dクラス山本ユウト


『第3試合!Aクラス白崎ユイVS山本ユウト選手』


白崎は、最初から魔法を使わない。


『おっと? 白崎、詠唱しません!』


山本が戸惑う。


「……来ないの?」


 白崎は首を振る。


「先に動いてください」


「……優しいね、だけど」


 山本が魔法を展開。


「何か企んでるのが丸わかりだよ!」


 白崎は、一歩だけ下がる。

 わざと、届かせる距離。


『当たる――いや、外した!?』


白崎は、相手の魔力の流れを見ていた。


「……癖、分かりやすいです」


「は?」


 二つ目の魔法。

 白崎は、まだ使わない。


 三つ目。

 ようやく、魔法陣が一つ。


『こ、これは白崎凄いことをしているぞ』


 拘束。

 だが、完全ではない。


「……まだ動けますよ?」


 山本の腕が震える。


「なんだよ……それ……」


 白崎は、少しだけ困った顔で言う。


「全部止めると、怖いでしょう?」


 次の瞬間。


 二つ目、三つ目。


 視界遮断。

 魔力干渉。

 完全停止。


「……ごめんなさい」


結界。


『試合終了!制圧完了!!』


 一拍遅れて、会場が爆ぜた。


――うおおおおおお!!


 拍手ではない。

 歓声とも違う。

 ざわめきが、塊になって押し寄せる。


 白崎は、観客に笑顔を向ける。


「今の見たか……?」

「魔法、三つだけだぞ」

「攻撃ゼロで、あそこまで詰めた?」


 実況が、遅れて息を吸う。


『……改めて言いましょう』


『白崎ユイ選手――これは、相手を壊さずに勝つ戦いです!』


 スクリーンに、スロー映像が流れる。


 山本の魔法。

 白崎の一歩。

 距離。  

 視線。

 魔力の“流れ”。


『一つ目は見せる』


『二つ目は待たせる』


『三つ目で、逃げ道を消す』


『そして――止めない』


『これが、白崎ユイの制圧です』


 観客席の空気が、変わる。


 灰谷は、腕を組んだまま、黙っていた。

(――分かってる)


 白崎は、わざと“反撃できる余地”を残している。

 完全に縛ればいい。

 一瞬で終わらせればいい。

 それでも、そうしない。

(あれは――)


「なあ灰谷」


 伊吹が、小声で言う。


「白崎さんさ

 相手が折れる“直前”で、止めてない?」


 灰谷は、視線を切らずに答える。


「……折れたら、戻れないからな」


「は?」


「折れなきゃ、次の試合に立てる。白崎さんの優しさだよ」


 伊吹は、言葉を失う。

 白崎ユイが、選手通路へ消える。


 その背中を、

 Aクラスだけでなく、B・C・Dの視線が追っていた。



「あの白崎という女、戦場ではすぐ死にますね。今までよほど甘い世界で生きてきたのでしょう」


 リゼルが冷たい目で言う。

 神代レイは、頷かない。

 視線は、まだ試合跡に残っている。

 評価を求めている目。


「レイ様、評価する必要はありません。基準に達していませんので」


 リゼルは、淡々と続ける。


「相手を折らない」

「勝ち切らない」

「未来を残す」


 一つずつ、落とす。


「あなたが前に出る戦場では」


 声が、さらに低くなる。


「折らなかった相手は、必ず牙を持ち帰る」

「壊さなかった敵は、必ず次に現れる」


 神代は、否定しない。


「白崎ユイは戦場では足を引っ張る存在になるでしょう」


「つまり、不要です」



 神代は、伊吹ソーマに視線を動かす。


「伊吹ソーマは素材です」


 リゼルの冷たい断定。


「磨けば使える、削れば前に出せる、ですが…」


 言葉を切る。


「現段階では、レイ様の隣に置く人間ではありません」


 少し、間が空く。


「……他は?」


 リゼルは、ようやく一瞬だけ考えた。

 そして。


「見ていません」


 それが答えだった。


「Aクラスの特級以外は、評価以前の存在です」


 神代は、視線を会場に戻した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ