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14話 第1試合 神代レイ

第1試合


神代レイ vs Dクラス代表


 演習場に、静寂が落ちた。


『さっそく、今大会注目の試合、神代レイの登場』


『第1試合――  Aクラス代表、神代レイVS影山エージ』


『期待通りの実力を見せてくれるのでしょうか。この試合はおそらく全世界の企業が中継越しに注目しているでしょう』


 歓声が上がる。  

 だが、神代は一切反応しない。

 視線は、すでに対戦相手へ向いている。


 Dクラス代表の影山。

 構えは整っている。

 魔力も、決して低くはない。


『対するは、Dクラス上位影山! 堅実な中距離魔法を得意とする選手です!ここで勝利を納めれば一気に世界に名を轟かせるチャンス!』


 開始の合図。


 ――一瞬。


 神代が、動いた。

 詠唱はない。

 魔力の収束すら、視認できない。


 次の瞬間、相手の足元に魔力陣が“完成していた”。


「――っ!?」


 回避行動に移る前に、空間が“折れる”。


 第四位階位・局所干渉。

 衝撃ではない。

 破壊でもない。


 立っていられない世界を作っただけだ。

 Dクラス代表は、抵抗する間もなく膝をついた。


 神代は、ただ一歩距離を詰める。


 剣をゆっくり首元に当てる。


「まだやるか?」


「参りました…」


 次の瞬間、防御結界が強制展開され、試合終了。


『か、完封!!』


『影山に一切の攻撃機会を与えませんでした!』


 観客席がどよめく。


『まさに教科書通り!いや、それ以上の完成度です!』


「練習にもならんな」


 神代は、すでに踵を返していた。


 勝利は、最初から結果として確定していたかのように。


ーーーー


貴賓席。


 試合終了の余韻が、まだ場内に残っている。数名の来賓が、低い声で言葉を交わしていた。


「今の見えたか?」


 最初に口を開いたのは、灰色の外套を纏った男だった。


 声は落ち着いているが、視線は演習場から離れていない。


「ええ。詠唱なし。それでいて、空間そのものを制御していた」


 隣の男が、眼鏡の位置を直す。


「局所干渉……しかも、第四位階位相当。  いや、“相当”ではありませんね」


「完全に、四階位です」


 別の来賓が、小さく息を吐いた。


「この年齢で、制御まで含めて、ですか。  王立学院……相変わらず、常識外れだ」


 誰も、声を荒げない。

 賞賛とも、警戒ともつかない、淡々とした調子。


「しかし――」


 眼鏡の男が続ける。


「興味深いのは、威力ではありません」


 周囲の視線が、わずかに集まる。


「“出力”を、あそこまで抑えていた点です」


「確かに」


 灰色の外套の男が頷く。


「相手を無力化するだけ。破壊も、余波もない」


「見せる必要のないものは、見せない。あれは……戦闘というより、制御の実演ですね」


 別の来賓が、軽く笑う。


「英雄教育、というより――  もはや、運用訓練ですな」


 誰かが、冗談めかして言った。


「学院は、いつから“兵器の展示場”になったのでしょう」


 笑いが起きる。


 だが、すぐに静まった。


「……仮に、ですが」


 眼鏡の男が、何気ない調子で言葉を継ぐ。


「仮に、あの出力を“前提”として――  干渉を弱める条件が揃った場合」


「条件、ですか?」


「ええ。例えば、出力が一定以下に落ちる環境。あるいは、媒介が不安定な個体」


 曖昧な言い方。

 だが、全員が理解している。


「理論上は、影響範囲は限定されるでしょう」


 灰色の外套の男が、あっさりと言った。


「あくまで、理論上ですが」


「もちろん」


 眼鏡の男も、即座に頷く。


「現実には、あの完成度です。想定通りにいくとは、考えにくい」


 少し間が空く。

 演習場では、次の試合の準備が進んでいる。


「……とはいえ」


 誰かが、締めくくるように言った。


「“完成している”からこそ、研究対象としては、非常に美しい」


「同感です」


 灰色の外套の男が穏やかに微笑む。


「不確定要素が少ない。それは――」


「扱いやすい、ということでもありますから」


 その言葉は、

 賞賛として受け取ることもできた。


 誰も否定しない。

 誰も深掘りしない。


 ただ、視線だけが、再び演習場へ戻る。

 次の“英雄”が、現れる場所へ。

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