09:義母とのお茶会
「……座って、セシリア。お茶を淹れたわ」
義母・リディアの声は穏やかだったが、ほんのわずかな“間”がある。私にはそれが、尋問の合図に聞こえた。
サロンには陽光が差し、紅茶と焼き菓子の香りが漂っている。家具の配置も、絵の飾り方も完璧に整った室内。なのに私は、ただ一人、処刑台に立たされている気分だった。
(やっぱりきた……断罪前の、優しい顔してからの、「あなたには出て行ってもらいますわ」的なやつ!!)
ぎくしゃくと椅子に腰かけると、リディアが淡々と告げる。
「アイザック殿下とのお顔合わせ、無事に済んだと聞いているわ」
「は、はいっ……!」
「“無事に”とは、どういう意味かしら。あなたの主観だけではなく、殿下のご様子も伺いたいのだけれど」
(ひいっ!? 今の、ただの確認じゃない! 明らかに詰問のテンポ!!)
震える指でカップを持ち上げ、お茶をすする。
「……あの、殿下は、おそらく、ご不満は……なかったかと……」
「そう。なら良かったわ」
リディアの手が、カップを受け皿に戻す音がやけに静かに響く。
「あなたは言葉の選び方が慎重で、それ自体は悪くない。でも、周囲には“本心が見えない”と取られることもある。お気をつけなさい」
「…………!」
(はい出たー! “あなたは間違ってはいないけれど好きになれない”系の指摘!! 地味に効くやつ!!)
義母は、責めるような口調ではない。表情も柔らかい。
それなのに、言葉の一つ一つが、針のように心に突き刺さる。
「貴女はマリーベルとは違う。向いている場面も、求められる振る舞いも違うわ。私は、どちらかに期待して、どちらかを見限るような真似はしない。でも——」
リディアはふと視線を外し、窓の外の庭を一瞥してから、静かに続けた。
「努力しない子に、与えられる未来などないのよ。貴族であろうと、それは同じこと」
カップを置く手が震えた。わかってる。わかってるんだけど、それを、こんなにも淡々と告げるなんて……!
(これ絶対、あとで「あなたはこの家の娘ではないのよ」とか言ってくる流れじゃない!?)
「……お母様、私は……っ」
「セシリア」
名前を呼ばれて、びくりと体が跳ねた。目を見開いた私に、義母は静かに言う。
「私は、貴女が生まれたときにはいなかった。でも、今はこの家の者として、貴女を導くつもりでいる。――それだけは、勘違いしないで」
(うわああああ逆に怖いィィィ!! やっぱり断罪されるやつだこれぇぇ!!)
私が“いい子”でいられなかった瞬間、この手の優しさは、きっと容赦なく消える。
そう思い込んでいる私の中で、さらに深く“断罪警報”が鳴り響く。
でも――そんな私の妄想など知らない義母は、最後に一言だけこう言った。
「あなたは、私の誇りになれると思っているわ。だから、よく見て。よく考えて、行動しなさい」
それはきっと、本当にただの“導き”の言葉だった。
けれど私には、それが“条件付きの愛情”に聞こえてしまって……
私は、静かに首を縦に振るしかなかった。