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05:千一度目のお茶会戦線(前半)

──この手のマウントお茶合戦、何度読んだと思ってんじゃあ!!


 ひらひらドレスに隠された火花、三段オードブルの下に敷かれた地雷、紅茶の香りに紛れた言外のマウント……。


 知っている。何百と読んできた。ソースは私が前世で読み漁った“令嬢小説”!!


(うわ~これ本当にあるんだ!? こんなの本当に起きるんだ!?)


 目の前の光景に、私は目を細める。


「おねえさま、あれは……“おしゃべり”の時間?」


 マリーベルがひそひそと私の袖を引っ張る。柔らかな日差しが降り注ぐ庭園のテラス。真っ白なパラソルの下、絹のドレスに身を包んだ令嬢たちが円卓を囲み、笑顔で紅茶を傾けていた。


「ええ、たぶん、そうね……“おしゃべり”だけど、“洗礼”でもあるわ」


 こっそり私は息をのむ。この場には、あきらかに“人を試す”空気がある。軽やかに見えて、全員が誰かを観察してる。まるで、赤く熟れたフルーツの山の中に、一つだけ毒入りが紛れているみたいな、そんな空気。


 今日は義妹マリーベルの“お披露目”を兼ねた、貴族令嬢たちの昼下がりの茶会だ。


 主催は、王都でも指折りの老舗侯爵家。庭園には贅を尽くしたテーブルと椅子、銀器と薔薇の香り。ドレスコードもばっちりで、使用人が小まめに給仕に動き、舞踏会さながらの仕上がり。


 でも、戦場だ。絶対に、ここは戦場だ。


「セシリア様、お噂はかねがね──まあ、なんてお美しいピンクブロンドかしら」


 現れたのは、レティシア=フィンレー嬢。黄金色の髪に深紅のドレス。口元には品のある笑み。そして瞳には、獲物を探す鳥のような鋭さ。


「ありがとうございます。私など、まだまだ子どもですわ。お茶の作法すら、ようやく覚えてきたところですの」


 私はぎこちなく笑って応じる。相手の瞳がすっと細くなるのが見えた。


(やばい……これ、謙遜のしすぎで“卑屈すぎる”って思われたか!?)


「まあ、可愛らしい。年相応の謙虚さもまた、育ちの良さの証ですものね」


 危なかった……今の、どっちに転ぶか分からなかったぞ……!


 その後も、質問は続く。


「ご趣味は?」

「お勉強に励んでおります」

「将来の夢は?」

「領地経営を学びたいと……」

「魔術は?」

「まだ初歩ですが、基礎魔力は平均以上と診断されました」


 一つひとつ、慎重に応える。嘘はつかず、でも自慢にならぬよう。聞かれてないことは話さず、でも印象は悪くせず。


 まさに“悪役令嬢”テンプレで読んできたあの空気だ。


(ああ、分かるわ……これが“お茶会戦争”というやつね……!)


 その時。


「ところで、マリーベル様は義妹なのですって?」


 唐突に話題が変わる。しかも、来た。妹。地雷原。


「ええ、マリーベルは父の再婚相手との子ですわ。年は少し離れておりますけれど、可愛らしい子ですのよ」


「まあ、素敵。姉妹で仲良しなんて、素敵ですわね。仲良くなれない方も、よく聞きますけれど……」


(あーッ!! 地雷を押してきたッ!!)


 ここで「ええ、正直、私も最初は戸惑って……」なんて言ったらアウトだ。


「私、彼女のこと、大好きですわ」


 私は言い切る。きっぱりと。


「血の繋がりがあるかないかなんて、きっと関係ありません。彼女が笑ってくれると、私も嬉しいのです」


 言葉に嘘はない。マリーベルは本当に、笑うとかわいい。義母の存在が引っかかるけれど、それはまた別の話。


 ……しばらく沈黙が流れ、そして。


「まあ……セシリア様って、本当に可愛らしい方なのね」


 言葉が弾け、場の空気がふっとやわらぐ。ホッとした。マリーベルが、小さく手を握ってくる。


「おねえさま、すごい……」


「しーっ。これから“お菓子タイム”に入るのよ」


 正念場はこれからだ。だって、“お茶会の本番”は、むしろここからだもの。

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