02:義家族、それは流石にありがち
改めて、状況を確認してみよう。
私はセシリア・ロズベルク。ロズベルク公爵――父、ハロルドの一人娘で、亡き母エレノアの忘れ形見。年齢は6歳。誕生日に浮かれて階段からダイブして頭を打ち、前世の記憶を思い出した、転生系悪役令嬢である。
前世は日本のどこかで働く会社員だった。趣味は読書、特に悪役令嬢とざまぁ系の小説が主食。日々、断罪を回避するための行動パターンを摂取し続けていたおかげで、転生先がヤバそうだということくらいはすぐ察せた。
そして、今。目下、最も警戒すべき存在が二人いる。
ひとりは義母のリディア。見るからにいかにもベタな継母系の外見で、口調もゆっくり上品。まだ「意地悪」をされた覚えはないけれど、それはそれで怖い。
もうひとりは義妹のマリーベル。4歳。利口で素直、外面も良く、愛される要素の塊。正直かわいい。だがこっちも怖い。
いまのところ、義母にいじめられてる記憶もなければ、義妹をいじめている覚えもない。
だけど――義家族とのいざこざって、悪役令嬢もののド定番じゃない?
義妹と比べられて嫉妬したことにされたり、継母に冷遇されて捻くれたとか言われたり、義父(こっちは実父だが)との確執を生んだ火種にされたり――その手のストーリー、何本読んだと思ってるんだ。
ひっぱれ、記憶! 父と母と義母の関係性を思い出すんだ私! ……くそっ、6歳の記憶じゃ「仲が良い」かどうかなんてわからん!!
故人である実の母、エレノアは、私が3歳の時に流行病で亡くなっている。
「ピンクブロンドのお揃いね」と言われていた髪を撫でられた記憶だけは、うっすら残っている。
遺品として残された銀の髪飾りは、いまも私の机の引き出しにある。使っていいのかわからず、ずっと触れられずにいたけれど、鏡を見るたびになんとなく思い出す。
義母のリディアは、父が後に迎えた人で、マリーベルの母。
話し方は穏やか、服装は地味すぎず派手すぎず、笑う時は決して歯を見せない。
いつも私の名前を丁寧に呼び、礼儀を教え、怒ることもなく、完璧な“公爵夫人”として振る舞っている。
だからこそ、怖い。完璧すぎるのは、逆に信用ならない。
悪役令嬢ものでは、序盤にやたら優しかった義母が後半豹変して「実は陰で全て仕組んでました~」って言い出すこと、あるあるなんだよ!
あれは怖い。何が怖いって、「裏切られた感情」まで計算されてるのが一番怖い。
そして、義妹のマリーベル。彼女とは、少しだけ会話をしたことがある。
図書室で、たまたま読み聞かせの絵本を手に取った私に、彼女は瞳をきらきらさせて言ったのだ。
「おねえさま、それ……『魔法使いと三つの羽』ですの? リリィ、すきですの」
「……あ、うん。一緒に読む?」
「いいんですの?」
かわいかった。素直だった。そして、こわかった。
(この子が、いつか泣きながら「お姉さまには昔から冷たくされてました」って言ったら……信じる人、山ほど出てくるよな……!)
よって、私としては、こちらからは一切敵意を見せず、誠心誠意、仲良くする。
特に義妹とは「私が絶対に虐めていない」証拠を、今のうちから地道に積み上げておく所存。
そして、もし今後虐められるようなことがあれば――その時はちゃんと、証拠を残しておくこと。いい? 未来の私。絶対に忘れるなよ。