12:完璧令嬢ルーティン
ぶっちゃけさあ……断罪って、たぶん――15歳とか、もうちょっと後だよね?
6歳の今からそんなに焦っても仕方ない……という気も、ほんのちょっとだけする。けれど。
(でも芽は今、摘んでおかないと……!)
そう決意して、私は今日も「完璧令嬢ルーティン」をこなすのだ。
まずは朝。目覚めと同時に唱えるのは――
「今日も断罪されませんように……!」
枕に向かって合掌しつつベッドから起き上がる。そこから洗面所までは“すっぴんでも姿勢を崩さない”練習。内股にならず、背筋を伸ばし、あくびは飲み込む!
洗顔中、うっかり鼻に泡が入って「ぐぼっ」となったが、それは内緒。
ドレッサーの前では鏡に向かって笑顔チェック。
「にこっ。にこっ。歯、見せすぎない。口角45度……いける!」
そこからドレスを着せてもらって、髪を結ってもらうあいだも気は抜かない。メイドのロゼさんとおしゃべりしながらも、テンションはあくまで上品系で。
「おはようございます、ロゼ。いつも本当にありがとうございますわ」
(“ありがとうございますわ”!?わたし、ついに語尾に貴族フィルターが……!)
その後の朝食では、ナイフとフォークの角度を15度に保ち、パンは絶対ちぎってから食べること! バターは塗りすぎ注意。ジャムは“控えめ”が令嬢の嗜み。
朝の家庭教師の授業では、アメリア先生の目を見て、返事は「はい、先生」。間違えても顔色をうかがわず、焦らず落ち着く練習も兼ねる。
(でもたまに間違えると心の中で地獄絵図)
午後のお茶の時間には義母と同席になる可能性もあるため、事前に今日の話題候補を3つ用意。
•今朝読んだ小説の感想(絶対!ネタバレしない!)
•季節の花について
•お気に入りのティーカップの色合い考察
(こういうので評価が変わるって、小説で……どの小説でだっけ?)
再三いうけど私は、あまりにもたくさんの令嬢小説を読みすぎていた。
どのヒロインも素晴らしかったけど――ぼんやり思い返すと方法論が違いすぎる。
"清楚系でいくべき”とか"いや強くあれ"とか“正論ぶつけて勝て”とか、“全員に優しく”とか、“主人公にだけ刺されなければOK”とか――
(……うん、どれが正解か全然わからない!!)
けれど、だからこそ。
(全部やればいいじゃない!というかそれしかない!)
お裁縫練習、書き取り練習、歩き方練習、そして「見られてなくてもサボらない系メニュー」だって抜かりなく。
“誰も見てない場所でこそ、完璧であれ”
それがどの本に載っていたのか、もう記憶も定かじゃない。でも、多分こう。全部やってる。これでもかというほど、毎日。
夕食は「いただきます」と「ごちそうさま」を丁寧に。お皿を音を立てずに重ね、椅子を引くときも音を立てないように気をつける。
食後の読書では、小説に夢中になって“にやにや笑い”してしまうことのないように! あくまで“優雅に読む”。(たまに笑いそうになるけど)
そして夜――
お風呂で今日の振り返りを行う。
「今日の笑顔は自然だったか。言葉づかいは乱れてなかったか。歩き方に雑さはなかったか。義妹の言葉をちゃんと褒められたか……」
風呂の湯気の中、反省会が止まらない。
そしてベッドに戻って、もう一度合掌。
「今日も断罪されませんでした。ありがとうございます……」
そして――
(えっ!? これあと8年は続けるの!?)
我ながら愕然とする。でも同時に思う。
(……でも、1年は続けてきた)
それは少しだけ、自分への誇りだった。
完璧にはほど遠いけど、それでも、私は毎日を必死に生きてる。
完璧令嬢なんて言葉、私にはまだ遠いけれど――
(……少なくとも、“断罪されない子”にはなれている、はず)
そんなふうに自分に言い聞かせて、目を閉じた。
まあやっぱり完璧令嬢が断罪されるみたいな展開になったらこれも無駄なのだけどね──!
明日は誕生日。
「まさか断罪イベントとか起きないよね……?」
そんな不安を胸に、セシリア・ロズベルク6歳最後の日、夜の帳へ。
次回予告:ep.13「誕生日、それは主役という名の地雷原」