帰り道の待ち人は
ガタンゴトンと電車が揺れる。
ガタンゴトンと機体が弾めば、
ガタンゴトンと身体が揺れる。
人も疎らなこの時間。
一定間隔で訪れるこの音は終点を間近に人の眠気を誘ってくる。まるで死神の様に、鈍く重い音を響かせながら人の傍に忍びよる。この音に身を任さてしまえば寝首を欠かれ、目を覚ます頃には帰路を逃して終着駅。それはまずい、明日も仕事がある。何とか眠気に耐える為にも気を紛らわせようと辺りを見回す。目の端にチラりと物影が映り込む。隣の車両、ガラス戸を二枚挟んだ向こう側。人は居らず、ポツンとそれだけが置かれていた。何の変哲もない人の顔が描かれたチェーン店の紙袋。持ち主は忘れたのか、はたまた捨てたのか。ガタンゴトンとリズムに合わせて、意思があるかの様に揺れている。ガタンゴトン、ガタンゴトンと揺れても紙袋はその場から動くこと無く耐えていて、忘れた人を待っているのか、それともコレにも行き先があるのだろうか。微笑んでいるようにも、悲しんでいる様にも見えるその顔は一体何を思って電車に乗っているのだろうか。ガタンゴトンと電車は揺れる。ガタンゴトンと身体は揺れる。ガタンゴトンと……