4.意
その日を境に、毎日帰りのショートホームルームにて、公開裁判のようなことが行われた。担任は私の根も葉もない噂を取り上げ、それについて議論をする。
当然私は、噂は嘘だと抗議をしている。だけど、その言葉は誰ひとりとして届かない。
今日だってそうだ。
――松村は、援助交際を行っている。
日頃勉強を頑張っている私が、援交などしているわけがない。
それを誰も理解しようとはせず、ただひたすら、私に向かって暴言を吐く。
そして最後に、今話した事柄は事実であると担任が言い放つ。
すると重本は、カッターナイフを手に私の元へ歩み寄り、盛大に私の制服を切り裂いた。
「ビッチは、ビリビリの制服から下着が見えているくらいが丁度いいね。援交とか、キッモ」
「……」
やることが、日に日にエスカレートしていく。
教室中に響き渡るクラスメイトの笑い声を聞きながら、担任は軽く口角を上げて頷いていた。
「……バカみたい。ねぇ、先生。このことが他の先生にバレたらどうするのですか? この事実がバレる方が、先生の言う評価とやらに影響が出るんじゃないのですか?」
「別に。だって〝いじめではない〟から」
「……」
「これは〝クラスでの交流〟だろう。クラスメイト同士の仲が良くて、僕は嬉しいよ」
――イジメ〝ハ〟、ヒョウカガ、サガルカラネ。
また気持ち悪い笑顔を浮かべた担任は、出席簿を閉じる。そして何事もなかったかのように、教室から出て行った。
「松村先生、サイコー。いじめが許されるなんて」
重本の吐き捨てるような言葉が聞こえると同時に、陽キャの男子たちが数人近付いてくる。
「男たち、やったら? 援交ビッチ野郎だし、何しても許されるくね?」
「……」
私は男子たちが近付いて来る前に、教室を飛び出した。背後から「あ、コラ逃げんな!!」と叫び声が聞こえたが、それすらも無視して、宛もなく廊下を走り抜けた。
◇
「青井先生、こんにちは」
「あぁ、1年生の松村さん、こんにちは……って、どうしたの!?」
「転んで破れました」
あまりにも酷い惨状の制服をどうにかするため、私は保健室にやってきた。顔見知りである保健医の青井比奈先生は、私の破れた制服を見て怪訝そうな表情を浮かべる。そして上から下へ視線を落とし、「えぇ……」と声を上げた。
「どう見ても転んで破れた様子ではないわよ。何があったの?」
「だから、転んだのです」
青井先生は、あまりにも信じてくれなかった。
小さく溜息をついて椅子に座り、先ほどの出来事を思い出す。
別に、傷ついてはいない。
ここまでされても心が折れない強靭なメンタルに、我ながら感服する。
普通なら、その場で泣き出して不登校になるだろう。
心が折れて、立ち直れなくなるだろう。
だけど、私は違う。
私の中で燃え上がる、担任に対する気持ち。
同じ苗字の担任を――、
大嫌いな、松村結貴を――、
今すぐにでも、殺してやろうと思った。
「……ねぇ、松村さん、とりあえず貸出用の制服に着替えてよ。松村さんが転んだと言い張るなら、私はそれを信じるけれど、何か別の事情があるのなら、遠慮なく話しなさいね?」
「分かりました。青井先生、ありがとうございます」
制服を受け取り、ベッドを囲うカーテンの中で着替える。
「……絶対に、許さない」
口から想いが漏れ出ると同時に、両手を強く握る。
湧き上がってきた殺意は、私を強く鼓舞した――。