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4.意



 その日を境に、毎日帰りのショートホームルームにて、公開裁判のようなことが行われた。担任は私の根も葉もない噂を取り上げ、それについて議論をする。

 当然私は、噂は嘘だと抗議をしている。だけど、その言葉は誰ひとりとして届かない。


 今日だってそうだ。


 ――松村は、援助交際を行っている。


 日頃勉強を頑張っている私が、援交などしているわけがない。

 それを誰も理解しようとはせず、ただひたすら、私に向かって暴言を吐く。


 そして最後に、今話した事柄は事実であると担任が言い放つ。

 すると重本は、カッターナイフを手に私の元へ歩み寄り、盛大に私の制服を切り裂いた。


「ビッチは、ビリビリの制服から下着が見えているくらいが丁度いいね。援交とか、キッモ」

「……」


 やることが、日に日にエスカレートしていく。

 教室中に響き渡るクラスメイトの笑い声を聞きながら、担任は軽く口角を上げて頷いていた。


「……バカみたい。ねぇ、先生。このことが他の先生にバレたらどうするのですか? この事実がバレる方が、先生の言う評価とやらに影響が出るんじゃないのですか?」

「別に。だって〝いじめではない〟から」

「……」

「これは〝クラスでの交流〟だろう。クラスメイト同士の仲が良くて、僕は嬉しいよ」


 ――イジメ〝ハ〟、ヒョウカガ、サガルカラネ。


 また気持ち悪い笑顔を浮かべた担任は、出席簿を閉じる。そして何事もなかったかのように、教室から出て行った。


「松村先生、サイコー。いじめが許されるなんて」


 重本の吐き捨てるような言葉が聞こえると同時に、陽キャの男子たちが数人近付いてくる。


「男たち、やったら? 援交ビッチ野郎だし、何しても許されるくね?」


「……」


 私は男子たちが近付いて来る前に、教室を飛び出した。背後から「あ、コラ逃げんな!!」と叫び声が聞こえたが、それすらも無視して、宛もなく廊下を走り抜けた。





青井(あおい)先生、こんにちは」

「あぁ、1年生の松村さん、こんにちは……って、どうしたの!?」

「転んで破れました」


 あまりにも酷い惨状の制服をどうにかするため、私は保健室にやってきた。顔見知りである保健医の青井比奈(ひな)先生は、私の破れた制服を見て怪訝そうな表情を浮かべる。そして上から下へ視線を落とし、「えぇ……」と声を上げた。


「どう見ても転んで破れた様子ではないわよ。何があったの?」

「だから、転んだのです」


 青井先生は、あまりにも信じてくれなかった。

 小さく溜息をついて椅子に座り、先ほどの出来事を思い出す。


 別に、傷ついてはいない。

 ここまでされても心が折れない強靭なメンタルに、我ながら感服する。


 普通なら、その場で泣き出して不登校になるだろう。

 心が折れて、立ち直れなくなるだろう。


 だけど、私は違う。

 私の中で燃え上がる、担任に対する気持ち。



 同じ苗字の担任を――、

 大嫌いな、松村結貴(ゆうき)を――、




 今すぐにでも、殺してやろうと思った。




「……ねぇ、松村さん、とりあえず貸出用の制服に着替えてよ。松村さんが転んだと言い張るなら、私はそれを信じるけれど、何か別の事情があるのなら、遠慮なく話しなさいね?」

「分かりました。青井先生、ありがとうございます」


 制服を受け取り、ベッドを囲うカーテンの中で着替える。



「……絶対に、許さない」


 口から想いが漏れ出ると同時に、両手を強く握る。

 湧き上がってきた殺意は、私を強く鼓舞した――。




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