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1.記



 例えそれが間違いだと分かっていても、〝間違いだと気が付いた私の方が悪い〟という。


 いつもそう。

 何を言っても、私の方が悪いと咎め、私が物理的に傷つくと、腹を抱えて大笑いをする。


『……いつも、加害者側の味方をしますよね』

『別に。敵とか味方とかないよ。ただ、どちらにつけば穏便に済むか。僕は常にそれしか考えていないから』



 ――僕の計算では、君の味方につくと不利なんだ。



 冷たい最低な言葉は、ナイフへと形を変えて私の心に深く突き刺さる。そのナイフはあまりにも深く刺さり、一度刺さるとなかなか抜けない。


 だけど私は強いから、その心が傷つき痛むことはなかった。

 どれだけナイフで刺されても、壊れることのない強靭なメンタル。


 ただ、許せなかった。どうしても、許したくなかった。


 最低で、私のことなんて一切考えてくれなくて、〝自分さえよければいい〟としか考えていない、ゴミ屑のようなあいつのこと。



 あまりにも目障りで、大嫌いで、今すぐにでも消えて欲しくて。



 だから私は、あいつを絶対に殺してやる。

 そのようなことを、心に誓った。高校に入学して数か月経った、あの日のこと。




 これは、天才で賢いと評判が良い私の、短い高校生活の記録である。







 私は『青春をしよう』、という言葉が死ぬほど大嫌い。

 何が青春だ。学生がみな青春に憧れていると思ったら大間違いである。


 とはいえ、真新しい制服に身を包み、桜が舞う高校の正門をくぐった時、私も少なからずはこれからの高校生活に期待をしていた。

 青春とまでは言わずとも、小中学校では辛い思いをしてきた分、誰も私を知らない環境ならば苦もなく過ごせるだろう――。

 私にしては珍しく、そのような生温いことを思っていた時期もあった。


 だけどその気持ちも、夏を迎える前に消え去った。

 私が何かをした、というわけでもない。気が付けばクラスで孤立し、頭の悪そうな陽キャたちに目を付けられていたのだ。

 その原因はきっと、私があまりにも賢すぎるからだ。どのテストでも満点を取るから、私は望まずとも、先生から絶大な信頼を得てしまう。

 小中学校でもそうだった。先生から信頼され、テストでは〝満点しか取れない〟私のことが、同級生たちは気に入らなかったらしい。だからきっと、高校でもそうなのだろう。


 みんな、賢い私を妬んでいるのだろう。


「……賢くて、ごめんね」


 雨が強く降り注ぐ季節。床を強く打ち付ける雫を眺めながら、軒の下でお弁当を開く。生徒は通常立ち入り禁止の屋上だが、私だけは特別に使用許可が出た。

 これも、先生からの信頼を得た副産物とでも言うのか。

 誰もいない屋上は、ひとりぼっちの私が落ち着いて過ごせる、唯一の場所になっていた。


 ひとりぼっちなことに関して、別に辛い感情などは一切なかった。

 ひとりで過ごすことには慣れている。



 もう何年も前から、ずっと私の人生は――ヒトリ、コドク。


 ワタシノコトナンテ、ダレモキニカケテハ、クレナイ――。





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