応急処置
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案・執筆の体部分などすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
廃工場に緩やかに吹き付ける風が、周囲の木々を揺らしていた。
普段は人の立ちいる気配などなく、朽ち果てた人工物と、それに覆いかぶさる木々が軋む音だけが満ちる、静かな場所だ。
だが、いまはその静寂が完全に失われていた。
鉄と鉄がぶつかり合い、壁が砕けるような激しい音が、廃工場一帯に絶え間なく響いている。
建物と茂みに遮られ、正確な距離こそ掴めないが、すぐ近くで戦いが起きていることは明白だった。
「こいっ……ヤミ子……」
耐えがたい痛みに耐えながら、世羅はかすれた声を絞り出した。
その声量はあまりに弱く、鳴り響く戦闘音に、すぐさま掻き消されていった。
《承認します。転送開始》
MONOLITHが静かに応答した。
その機械音声は、世羅が左腕に嵌めるR.I.N.Gから低く響いた。
「……なんだ? 承認? ……なぜオマエの許しが必要なんだ? 召喚は私の異能だろう?」
世羅にとって、MONOLITHの反応はまったくの想定外だった。
これまで何度となく使用した異能だが、このような反応ははじめてだ。
《そうです。あなたの異能です。あなた“だけ”のものであるかは明言しません。その保証もしません》
「公平性のためにか……? 他がどうとか聞いてはいない……単にオマエが気に入らなければ却下もあり得るのか? それは教えろ」
《あり得ません。“よほど”のことがない限りは》
「その“よほど”の基準が知りたいんだがな……」
《……》
問いかけに、MONOLITHは沈黙した。
そして、世羅もその無反応に腹を立てる様子はない。
異能への介入があり得るという事実、そして、その能力をMONOLITHがもつという点は、世羅にとって驚くべき内容ではなかった。
世羅悠希――彼は変異学のスペシャリストだ。ただしそれは外界における肩書であり、いまの彼は第三学園の学生という立場に過ぎない。
その詳細はのちに語るとして、ここで重要なのは一点だ。
外界の科学力をもってしてもMONOLITHの全容はまだ掴めていない。それでも、変異島の人間たちよりは遥かに理解が進んでいる、という事実である。
ゆえに、この先に述べる仕組みについても、世羅にとってはすでに把握済みの内容である。
変異体の驚異的な身体能力や異能は、体内に宿る変異種によってもたらされる。
変異種とはナノマシン群の総称であり、同時に高密度なバッテリーでもある。
体内でエネルギーを蓄え、変換し、放出することで異能が成立する。
単純な異能であれば個体内の処理で完結するのだが、召喚のように処理が複雑で、個人の処理能力を超える異能には、MONOLITHの介入が必要不可欠だ。
MONOLITHは異能の起動を監視し、リソースを割り当て、ときに制限する。
つまり、与えることも奪うこともできる、神に等しい存在。変異島という舞台を支配する、まさしくゲームマスターそのものなのだ。
《転送中です。まもなく完了します》
怒ったところで仕方がない。それでも、皮肉のひとつでもぶつけてやりたいと、世羅は思った。
「見ればわかる」
しかし、実際に口をついて出たのは、ウィットの欠片もない、不機嫌な言葉だけだった。
その直後、目のまえの空間が“滲む”ように揺らいだ。
それを合図に風景が折りたたまれ、幾何学的なノイズへと変換されていく。
まず、ローファーが現れた。モザイクがかった色の羅列から輪郭が浮かび、黒革のつま先が現実に形を成す。
続いて健康的な脚線美が編まれていく。ヤミ子を名指している以上、その脚が誰のものかは明白だったが、小麦色の肌は、その確信をより強固なものにしていた。
淡い粒子の光が膝から太ももへと走り、肉体そのものが再構築されていくようだった。
光のスキャンラインが上へ進むたび、粒子が弾け、無数の残光が空中に漂い、やがて空間へと溶け込む。
次にスカートの影が生まれる。折り返して短くした制服のスカートが粒子の流れに乗ってはためき、その内側の黒い下着までも露わになった。
しかし、彼女がそれを隠そうとするそぶりはひとつもない。
下着を見られること自体を気にしていないのか、あるいは世羅に見られる分には慣れているのか――いずれにせよ、いま考えるべき話ではない。
上半身が遅れて形を取り始める。
胸元、肩、背中の羽根、そして銀髪が流れるように構築され、最後に瞳へと色が差し込んだ。
輪郭が完全に現実化する直前まで、空間には幾何学的な紋様(魔法陣と呼んでもいいだろう)が浮かび続け、“転送”というより巨大な演算処理の途中経過のようだった。
やがて光が収束し、風景が形を取り戻すと、ヤミ子が完全に姿を現した。
「マスターっ! 言われた通り多胡の足止めしといたからねぇ! 偉いっしょ!? んで、こっちの調子は……」
ヤミ子は軽くジャンプしたような高さに転送されていた。
やや浅い中腰で着地の衝撃を逃しながら、一息にまくし立てる。
「って……! なにそれぇ!! 腕がハムみたいなってる!! 気色わるくねぇ!?」
召喚の勢いそのままに、ヤミ子は世羅の青ざめて膨れ上がった腕を見た。そして、すぐに素っ頓狂な声を上げた。
驚きと不安と心配が全部混ざった、彼女らしい反応だ。
「……騒ぐな……痛む……」
世羅は顔をゆがめ、短く息を吐く。声を張られるだけで振動が腕に響いた。
「あっ……ごめっ! 痛いっ? てか、痛いに決まってるか……マスター大丈夫ぅ!?」
ヤミ子は慌てて世羅のそばにしゃがみ込むと、ただ心配を始めた。
「とりあえず……応急処置を頼む……」
「あーしに任せてっ! でも、応急処置って何をすればいいん?」
自信満々に言い放つが、同時に迷ってもいる。
「固定してくれ……棒でも何でもいい……折れてるんだ……」
「わかったっ!」
ヤミ子はきょろきょろと周囲を見回し、草むらに足を踏み入れた。
この廃工場の敷地には、使えそうな木の枝はいくらでも落ちている。
何本かを試しに握り、強度を確かめると、適当な太さの枝をばきんと折って戻ってきた。
「そこに座ってっ! ゆっくりでいいからっ!」
世羅の体を支えながら、半ば抱きかかえるように地面へ座らせる。
乱暴に見えるが、力加減だけは妙に丁寧だった。
「……いっつぅ!」
「痛いよね? でも、あーしがついてるから! 大丈夫だから!」
励ましながら、ヤミ子はためらいなく自分の制服をつまむと、そのまま脱ぎ始める。
「何をしてるんだ?」
世羅が息を切らせたまま、困惑の声を漏らす。
ヤミ子は制服を脱ぎ捨て、下に着ていたタンクトップにも手を伸ばした。
それを頭上でひょいと脱ぎ去った瞬間、呆れるほどに大きな胸が強く揺れた。
続いて黒いブラが露わになるが、それすらも気にする様子は一切なかった。
「見たままっしょ!」
「着替えか……?」
「バカっ! 黙って大人しくしてな!」
脱いだ拍子に乱れた髪も、汗も、お構いなしに、ヤミ子はすぐに動き始めた。
顔のまえに掌を掲げる。その靭やかな五指の先で、銀のラメでデコられたネイルがギラついていた。
シュッ! シャッ! シャッ!!
次の瞬間、ネイルが閃き、制服とタンクトップの布地が見事に切り裂かれ、細長い布紐がいくつも生まれていた。
「ほぉ……その爪……ただの飾りかと思っていたが……武器だったか……」
「そーだよ! ギャルのファッションなめんなよ〜? 全部武器だしっ! ほら腕っ! 痛むだろーけど、いまだけガマンしとけって!」
口ぶりは荒いが、ヤミ子の動きは驚くほど優しく、柔らかい。
世羅の折れた腕をそっと持ち上げ、自分の胸の上に乗せる。
手慣れているとは言えないが、拾った棒を世羅の腕に添え、即席の紐で、丁寧に固定していく。
その動きは淀みなく的確だった。世羅が痛みに顔を歪めても、ヤミ子は迷わず続けた。
すでに欲望強化は効果を失っていたが、その余韻が治療因子をわずかに刺激していた。
壊れた筋肉と骨は、ゆっくりと回復に向かっているが、放置して数分や数時間で再生する状態ではない。
粉砕した骨がようやく癒着をはじめ、二つに分かれていた上腕が、かろうじて一つの形を保っているだけだった。
衝撃が加われば、また折れる。何より、絶え間なく押し寄せる痛みが容赦なく意識を削っていく。
「……くそっ! 痛ぇっ……!」
彼の腕を支えるため、ヤミ子の胸はぺしゃんとひしゃげていた。
本来なら心地よいはずの柔らかさが、いまは腹立たしいほどの痛みとなって世羅を襲っている。
「我慢しなってっ! 男の子だろっ!」
「だから泣くのは我慢しているっ……!」
いまは、かろうじて、だ。
頬を伝い流れた涙の跡に土埃が張りつき、うっすらと線を描いている。
ヤミ子は当然それに気づいていたが、そのことを指摘するほど無神経なギャルではなかった。
「強い子だねぇ~! 帰ったらご褒美ねっ! ……んっ! よしっ! 応急処置終わりっ!」
ヤミ子は膝立ちのまま世羅のまえに身を寄せた。そして、彼の頭をそっと撫でると、ニッと笑った。
「……まったく酷い目にあった……」
痛みが消えたわけではない。冷や汗も止まらない。
だが、しっかり固定されたことで、気を失うほどの鋭い痛みはなくなっていた。
「そだねっ! マスター、立てる……? 支えるから、一緒に行こ? 病院」
ヤミ子はひょいと立ち上がり、きょろきょろと周囲を見渡す。
この場所がどこかは解らない、それは道すがら世羅に聞けばいい。
まずは開けた場所へ出て、最寄りの病院を探す。
そんな段取りを頭のなかで一気に組み立てると、ヤミ子は振り返り、世羅へまっすぐ手を差し伸べた。
「……ヤミ子……」
差し出された手には触れず、世羅はヤミ子の目を見据えた。
「ん? なに?」
「その辺に第八学園の連中がいるはずだ……適当に見つけて、そいつ等を呼んでこい」
その言葉を聞いた瞬間、ヤミ子は目を大きく見開いた。
病院へ向かうつもりだと思っていた分、理解が追いつかない。
「はぁ? 何いってんのぉ!?」
「決闘の相手だ……呼んでこい」
「知ってるしっ! なんで、そんなことする必要があるん!? マスター怪我してんじゃん!? まずは病院だろ!?」
世羅が冗談で言っているようには到底見えなかった。
だからこそヤミ子は両手をバタつかせ、半ば泣き声に近い調子で叫んだ。
「わかっている! 同感だっ! だが、呼んでこいっ!」
痛みによる焦りが、彼から“理由をつたえる”という最低限の手順を奪っていた。
「だから何でなんよぉ!?」
《再度、警告します。ただちに敵勢力と交戦してください。これ以上の遅延は戦意喪失と判断します》
割り込むようにして、MONOLITHの機械音声が響く。
「はぁ!? なにそれ?? こいつマヂで言ってんのぉ!? 怪我してるんだよっ!?」
《世羅悠希の状態は評価項目に含まれません。判断基準は戦意の有無のみで――》
「ふざけんなっ! マスターはほっといたら死ぬまで戦うに決まってるっしょ!?」
《根拠が必要です。そして、その根拠は実際に戦うことでしか――》
「この男、嫉妬モンスターなんだよ!? 素直に負けて、あーしら手放すわけないって! だから逆に病院連れてくんだよっ!」
月乃ほど真面目でもなく、ソフィアほど深読みもしない。
だからこそ、ヤミ子は世羅悠希の核心――彼が抱える“執着”そのものを素直に理解していた。
「……おい、ヤミ子……」
本人がそんな本質を素直に認められるはずがない。
例え事実だとしても、あまりに恥ずかしいではないか、そのような性根は、あまりにも“男くさい”。
「……オマエは私をそんな風に――」
――ドンッ! ドンッ! ドンッ!!
言葉の途切れ際を断ち切るように、間際の工場棟で何かが爆ぜた。
「ぎゃあっ! ちょ、なに!? いまの音なに? ムリなんだけどぉ!」
急な爆音に肩を跳ね上げ、ヤミ子が悲鳴を上げた。
その直後、地面が震え、古い壁が崩れ落ちて瓦礫が舞う。
振動の余韻を残したまま、二つの影が崩壊しかけた屋根を破って跳び出し、世羅たちの近くへと着地した。
『なかなかやるじゃないか“ドチビ”がぁ! すぐに捻り潰すけどなぁ!!』
着地した巨体――ボスが吼えた。
「図体ばかり大きくても……中身がそれでは、なんと残念なことでしょう……」
その挑発に応じたのは月乃だった。
静かな口調には怒気がはらまれ、抑えきれない“憤怒”がその瞳に宿っていた。
『中身がないのはオメーだろっ! クソビッチっ!』
ボスは胸のまえで腕を打ち合わせた。
胴体の半分ほどもある腕がぶつかり合い、ゴォン、ゴォンと鈍い音が響いた。
最後までお付き合いいただき、感謝です!
「いいね!」と思っていただけたら、高評価をいただけると嬉しいです!
今後の励みになりますので、もしよろしければ……!




