裏工作
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
「へへへ……ホントに来たんだな?」
放課後――第三学園の校舎裏。
多湖は物陰から姿を現すと、薄く笑みを浮かべながらそう言った。
「はぁ? 呼び出しといて、何それー?」
ヤミ子は背中越しに声だけで返し、ちらりと一瞥した。
「……ちっ」
多湖はちいさく舌打ちする。
ヤミ子の顔に、いつもの笑顔がなかったからだ。
だが、それは当然だった。
ヤミ子と多湖の関係は、あくまでも地下アイドルとファン。
ライブの終わりにある握手会。CDやグッズの購入によって得られる、形式上の特典。
実質的には、有料での一方的な接触。
同じ学校の、同じ学年でありながら、ふたりの間にあったのは、それだけだった。
「なんだぁ? その不機嫌な表情?」
「はぁ?」
多湖は、ほんの数日前に自分が仕掛けた襲撃と、その後のスキャンダルのリーク。
それらの記憶を棚に上げたまま、なおも過去の“余韻”に浸っていた。
「……」
「……」
言葉は交わされていても、視線は交わらない。
互いに立ち止まり、正面から向き合っているはずなのに、そこに対話はない。
気持ちはすれ違い――いや、一度たりとも交わったことはないが。
放課後の校舎裏、青春の踊り場であるはずのその場所には、ただ冷たい空気だけが流れていた。
「何もしゃべらねーのかよ?」
苛立ちをにじませる多湖の声に、ヤミ子は露骨に眉をひそめた。
「ん? 用事があるのは、そっちじゃね~?」
淡々と返すその声に、刺すような温度はなく、ただ無関心が滲んでいた。
彼女には、言葉を交わす理由がなかった。
襲撃されたことも、スキャンダルを流されたことも、話題としては存在している。
だが、語り合う意味がない。
それ以前に、口をききたい相手ですらなかった。
多湖のほうは、困惑していた。
これまでヤミ子と接したのは、握手券を介した短い時間だけ。
会話の糸口すら、いつも彼女任せ。
アイドルとファンという、接待される側の立場しか経験がなかった。
この場でも、なおその構図が通じると錯覚していたのだ。
「クソが……」
言葉が出ないまま、ただ吐き捨てる。けれど、それすらもヤミ子には届かない。
彼女は無反応だった。どこまでも、無関心だった。
「クソったれがっ! なんで世羅なんだよっ! あんな女みてーな奴のドコがいいんだっ! なんで俺じゃねーんだよっ!」
多湖は頭を掻きむしりながら叫んだ。
ヤミ子がすこしでも反応を見せていれば、罵倒の形は違っていたかもしれない。
けれど、彼女の態度は変わらなかった。
沈黙が続き、無関心が突き刺さる。
「理由、聞きたいの?」
その一言に、多湖の顔が引きつる。
「おまっ……! ふざけんな……!!」
怒りで顔を真っ赤に染め、鬼のような形相になる。
「アイツと付き合ってるのか!? ふざけるなっ! オマエはアイドルだろーがっ! 常識ねーのかよっ!」
ヤミ子はふっ、と口角を上げた。
嘲るような笑みを浮かべながら、肩をすくめる。
「おかげさまで炎上中だけどねー? あんたでしょ? リークしたの?」
「悪いのはオマエだっ! ファンを裏切るなよっ! 俺を裏切るなよっ!!」
「裏切り……? 付き合うのが? ……てか、付き合ってねーし」
「……えっ? そうなのか?」
その一言に、多湖の怒鳴り声が止まる。
ふたりで"情事”に及ぼうとしたシーンを目撃したあとですら、もし、ヤミ子の口から“否定”の言葉が出れば信じられる。
彼はそう思っていた。そう思うしか、なかったのかもしれない。
「でも、世羅はあーしのマスターなの」
変異島における“クラン”とは、個を超えた拠り所だ。
決闘という制度を通じ、MONOLITHが認可し、強制的に成立させる集団――それがクラン。
その頂点に立つマスターは、そのクランにおいて国家元首に等しい権力を持つ。
「あっ……? 何?」
多湖が理解しきれぬ声を漏らすなか、ヤミ子は言葉を続けた。
「あーしはマスターの“モノ”ってこと」
世羅が絶対命令を発すれば、ヤミ子は逆らえない。
すくなくとも彼氏彼女程度の関係なぞ、容易に飛び越える。
次の瞬間、多湖の手がヤミ子の襟元をつかむ。
「ふざけんなっ! ふざけんなっ! 助けてやるっ! 俺がたすけてやるっ!」
感情の波に飲まれ、ぐちゃぐちゃに乱れる多湖。
叫びながら、自分が何を言っているのかすら理解できていない。
「いまから世羅と決闘するんだ! そしたらオマエを取り戻せる!」
「取り戻すぅ? 多湖ぉ……あーしはアンタの“モノ”だったことは一瞬もないから」
「……えっ?」
「なんでアンタじゃないのか、聞きたがってたけど。もう答え出てるっしょ?」
ヤミ子は、首元を締め上げる多湖の腕を外そうとしながらも、表情を崩さなかった。
単純な話なのだ。首を絞めてくるような相手を選ぶはずがない。あまりにも当然の話だった。
だが、それだけではない。世羅は決闘で彼女に勝った。
変異体には、強者に惹かれるという性質があり、それが、何よりも決定的だった。
加えて世羅は、決闘の際も、必要以上にヤミ子を傷つけなかった。
ヤミ子を支配下に置いたあとも、恐怖や力づくでの抑圧はしなかった。
クランというシステムで縛ってはいたが、それでも彼はヤミ子を尊重し、変えようとせず――彼女のありのままを“独占”した。
だからこそ、彼のもとにあることを、ヤミ子は受け入れられた。
世羅も多胡も、どちらも“暴力”という点では同じだ。
けれど、その使い方が違った。
世羅のそれは、あくまで“手段”であり、制御された力だった。
多湖のは、ただの衝動。感情のままにぶつけられた拳なのだ。
暴力の“質”が違えば、結果も当然違う。
歪んでいるが、“変異島”とはそういう場所なのだ。
多湖が、世羅のようにまっすぐに決闘という勝負に出ていれば、結果は違ったかもしれない。
そうでなくとも、ヤミ子をアイドルとしてではなく、同級生として。ただの学生として――友達になろうと、声をかけていれば。あるいは、何かが違ったかもしれない。
だが、そうはしなかったし、たとえそうしていたとしても――結果は変わらなかっただろう。
多湖は、ヤミ子を見下しているからだ。
「だったら勝てばいい! 俺も勝てばいいんだろっ!? アイツとオマエにっ……!」
多湖の顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
怒りか、悲しみか、自分でもわからぬまま、悲鳴のような声をあげる。
「勝つ? アンタじゃマスターには勝てないよ?」
ヤミ子の返しはやはり淡々としていて、嘲りとも憐れみとも違った。
ただ事実を伝える、それだけ。
「やってみなけりゃわからねーだろっ! 俺はギャングだっ! しかも、サブリーダーなんだぞ!」
多胡は叫びながら胸を張るが、その肩書きに重みはなかった。
あくまでも代理。ボスの気まぐれで差し替えられる、お飾りのポスト。
「てか、そもそも……決闘とか言ってさ。アンタ、なんでここにいんの?」
静かに、突きつけるようなヤミ子の問いだった。
自分はこれから勝つ、と声高に叫びながら、現場にいないという、あまりにも滑稽な構図。
「いまごろアイツは! 俺の仲間にボコボコにされてるよ! ここにオマエを呼び出したのは、アイツからオマエを引き離すためだよ!」
してやったりと自慢げだが、“仲間”というには距離のある存在たちだった。
利害と、クランというシステムでの繋がり、共にいるだけの関係。その実、多湖自身が周囲から軽んじられていることにも気づいていない。
「知ってるよ? アンタらの作戦に乗ったフリをするって、マスターが言ってたんだよね~」
ヤミ子は笑うでもなく、静かに告げた。
「だから、アンタの相手してこいって言われたの。ホントにキショいけど、マスターに言われたから仕方ないよねぇ?」
従順という言葉では足りない。
ヤミ子の行動基準は、すでに完全に“アイツ”にあるのだ。
「なっ……!? う……」
言葉が詰まる。作戦が読まれていたことも衝撃だった。
だが、それ以上にヤミ子が、世羅の言葉を疑いなく受け入れ、行動しているという事実に、何よりも多湖は打ちのめされた。
……。
…………。
ヤミ子にとっては一瞬、多胡にとっては永遠にも感じられる、沈黙。
「ばーか」
ヤミ子の表情は無だった。
怒りも、焦りも――哀れみの一欠片すらない、虚無。
そして、それ以上、なにも言わなかった。
慰めるでも、責めるでもない。
彼に向ける感情すら、もう持っていなかった。
理由を教える義理も、答えを与える意味もない。
説教すら、不要だった。
その“無関心”こそが、多湖にとって最大の拒絶だった。
「~~おっ! おまえっ!」
多湖が右手を振り上げる。
拒絶を“拒絶”するには、もはや殴るしかない。
殴って、傷つけて、振り向かせる。
ゴッ!
サッカーのヘディングのように、前傾のまま振りぬかれた頭突きが、多湖の顔面を正面から捉えた。
涙と鼻水、鼻血をまき散らしながら、彼は弾け飛び、そのまま尻もちをついた。
「いった~……」
ヤミ子は額をさすりながら、ちいさくぼやいた。
「……お……お……おま、おまえ……」
地面に這いつくばった多湖が、壊れたラジオのように言葉を繰り返す。
「“おまえ”って言うなし。彼氏か、ボケ……」
ヤミ子は淡々と口にした。表情は変わらず、“無”だった。
この島では、戦えない女などいない。
実力主義の変異島において、振り上げられた拳を、ただ待つわけがなかった。
ピコンッ――
ヤミ子の右腕に嵌められたR.I.N.Gが、ほのかに明滅する。
世羅からの呼び出しを告げる通知だった。
「もういい? マスターに呼ばれたから、行くわ」
「まてっ!」
四つん這いでにじり寄ってくる多湖を、ヤミ子は見ようともしなかった。
バックステップで器用にかわして、ひと触れもさせない。
「まってくれよぉ! 俺は! 俺はっ! おまえがっ!」
叫びが届くより早く、空間に幾何学模様が浮かび上がる。
ヤミ子の足元を中心に、青い粒子が舞い、静かに彼女の輪郭を包み込んでいく。
世羅の“召喚”――支配下のメンバーを瞬時に呼び寄せる、彼だけの“異能”。
多湖の言葉には、なにも答えず。
なにも残さず。
ヤミ子は、消えた。
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